プロローグ【2019/3/18 修正】
本編1話も本日中に投稿します。
目を覚ますと、そこは何も無い空間であった。
自分がさっきまで何をしていたかが思い出せない。
すると、頭の中へ直接声が聞こえてきた。
「私は神です」
突然聞こえてきたその声に驚きながらも僕は問いかける。
「え、神って……というかここはどこ? 僕はどうしてここにいるの?」
「貴方は死んだのです」
「僕が……死んだ……」
しかしその言葉を聞くと、僕の頭へうっすらとこれまでの記憶が蘇ってくる。
「そうか、僕は……」
「はい。貴方は残念ながら十七歳という若さで亡くなってしまいました」
病気について完全に思い出すことは出来なかったが、病室のベッドにいた自分がぼんやりと脳裏に浮かぶ。
「それで、自分はどうしてここに呼び出されたの?」
死んだのならすぐにでも天国か地獄に行くんだろうなと勝手に思っていたので、今、自分がおかれている状況を理解することは出来なかった。
「それは……この後に生まれる世界について話し合うためです」
この後に生まれる世界、ってことは自分の来世のことなのだろうか。
神は続ける。
「ここは転生の間。亡くなった者が新たな道を歩み始めるための場所です」
「転生の間……」
犯罪などを犯すことなくってことは、そういったことをした人はここに来ることなく次の世界が決められたり、地獄に行くことになったりするのだろうか。
まぁ今の自分には関係ないことだけど。
「はい。ここでは、貴方が次の来世でどのような世界に生まれたいか、ある程度の希望を聞きます。そしてその希望に比較的合致した世界が次に貴方の生きる世界に選ばれるということです」
「僕の希望する世界か……」
僕は少し悩む。しかしどういう訳か、案外早くある結論に至った。
「退屈しない世界、かな」
僕が前世では退屈な人生を歩んでいた……のかは正直よく分からない。一度死んでしまったからなのか若干記憶が曖昧だった。
けれど次に行きたい世界を考えた時、最初に浮かんできた答えはこれだったのだ。
「退屈しない世界、でよろしいですか?」
「うん、それでいいよ」
少しの間をおいて、思い出したように神は僕に尋ねた。
「そう言えばまだ名前を聞いていませんでしたね」
「僕は、秋風 見留だよ」
「ミル様ですね。ミル様は退屈しない世界を希望と……」
神がそう言うと、先ほどまでの柔らかな口調から少し真剣にな声色に変わった神の声が響く。
「さて、ここからが本題ですが」
「本題?」
唐突に今までの話は前座だと告白し、神は話を続ける。
「貴方には蘇った先の世界で為さねばならない目的があります」
「役目って……どういうこと? 僕は転生するんだから赤ん坊からやり直しになるんじゃないの?」
「ええ、本来であれば転生者たちは自らが転生する先の世界がどのようなものかを決めた後に全ての記憶を失って一からやり直しです。転生先を聞くのはあくまでも当人が幸せになれそうだという目安でしかないのです。悲しいことを言えば転生した先で必ず幸せになれるとは限らないのです。ですが、貴方の場合は違う。貴方は記憶を失うことはなく、そのままの姿で異世界に転生していただきます」
それはつまり転生というよりも転移に近いということなのだろうか。
「けど、どうして僕なの? その目的を果たさないといけない人間が。他にも転生者がいるんでしょ?」
「いいえ、これは貴方でなくてはならないことなのです」
「それじゃあその目的っていうのは?」
「……残念ながらそれはお伝えすることは出来ません。それは貴方自身が見つけなくてはならないことなのですから」
「待ってよ。僕にしかできない目的なのに、その目的を伝えてくれないってどういうこと? それじゃあどうすればいいのか分からないよ」
転生した先の世界でやらなくてはいけないあるのは分かったけど、神の話を聞いても具体的な内容が全く見えてこない。
「目的を見つけ出すことにそう焦る必要はありません。転生先の世界で過ごせば自ずとその答えは見えてくるでしょう」
「……分かったよ」
僕は渋々納得する。
とはいっても、内心では困惑と共に期待を膨らませてもいた。これから僕はこれまでとは異なる世界に生まれ変わるのだから。
「それではさっそく転生……といきたいところですが、あと二つ貴方にお渡ししておくものがあります」
「僕に渡しておくもの?」
「まずは転生先の世界で必要となるもの。会話や読み書きに必要な言語能力。そして通貨です。前者は自動的に取得させておき、後者は転生と共に貴方の下へ送ります。貴方は一から始めるわけではないのでこれらは用意しておかなくてはなりませんからね」
「了解。ありがとう」
「そしてもう一つですが……」
ふと身体が暖かな光に包まれる。
「それは貴方が生き抜くための力です。これから貴方が生きる世界には『魔法』の概念があります。しかしその力は魔法ではありません。貴方が目的を持ってこの世界に転生してきたことの証明であり、その目的を見つけ出すための力でもあります」
「これが……。それでこれはいったいどういう力なの?」
「その力は――」
だが、神が何か話すよりも先にこの空間を凄まじい轟音が襲った。
「なんだ!?」
「どうやら神の力を渡したことで『アレ』に感づかれたようですね。ゆっくり話している暇はなさそうです」
「『アレ』って……」
その質問に神が返答することはなく、代わりに僕の背後に巨大な扉が出現した。
「秋風見留。これより転生するのは魔法に溢れた世界【ディヴェルモンド】。望み通り退屈することはない世界でしょう。貴方がこの世界で自らの目的を見つけられるように祈っていますよ」
「待って、まだ話が……!!」
しかし、有無を言わせず大きく口を開けた扉に僕の身体は吸い込まれてしまう。
「貴方に神の御加護があらんことを」
最後に聞こえてきたのはそう告げる神の声だった。
初投稿でしたが、ここまで読んでいただきありがとうございます。
これからもこの物語にお付き合いいただければ幸いです。