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Emotion

女性の生殖機能を奪ってしまう謎の奇病――iウイルス。

2016年に最初の感染者が見つかり、世界中で爆発的に広がった。

感染源不明。何一つ対抗策も見つからないまま、時間だけが過ぎ去り、世界の人工は瞬く間に減少していった。

同時期に、『人の営みを後世に残す』という名目で、人口知能"AI"への関心が高まり、2021年、EmotionAI社が、人類史上で初めて、環境認識、行動予測、言語理解、知識理解、自律的な行動計画、そして感情の理解、これらのことができる、つまるところ、人となんら代わりのないAIの開発に成功。


「そして2033年現在、各種商業用、医療用、軍事用等、様々な分野で、EAI社のAIが使われている。」


「はい、良くできました。座っていいわよ。流石ね~!」


「いえ、授業でやったことですし。」


「謙遜しない! アナタはこうみえて優秀なんだから、胸を張ってればいいのよ!AIのことを知っていても、その成り立ちを知ろうとする子ってなかなかいないわよ。それじゃ、ここテストで出すからね! 今日の授業はここまで。残り時間、好きに使っていいわよ~」


 先生の授業は、いつもチャイムの10分前には終わる。

 俺はため息をつきながら、席に座った。大したことはしていない上に、それをみんなの前で褒められたことが、なんとなくイヤだった。


 「さっすが、知己! 相変わらずすごいね~」


 俺の前に座る少女が、振り向いて言った。


 「お前、俺がこんなことで褒められるのがイヤなのを知ってて言ってるだろ?」


 「もちろん!」


 そう満点の笑顔で答える彼女は、2020年に作られた、例のAI――心美のプロトタイプだ。アンドロイドでもあり、見た目はまんま人間。容姿は整っていて、悔しいけど非常に可愛い。……わざわざ不細工に作る理由もないだろうが。

 周りはそんなことには気がつかずに接しているのだが、とどのつまり、俺はこいつの正体知っているからすらすら答えられたのだ。

こいつとは12年も一緒にいる。どういうわけか、肉体も共に成長していっている。感情表現が豊かで、たまにどちらが人間なのかわからなくなる、幼馴染みのような存在だ。


 「また考え事? 仏頂面して~。これじゃあ、どっちが機械なのかわからないわね!」


 それにしても、皮肉まで言うように設計しなくてもよかったんじゃないか、親父。



心美は親父が開発したAIだ。

親父は開発から1ヶ月後に、交通事故に巻き込まれて亡くなった。


――プルル、プルル

電話の受話器をとると、知らない大人の声が「知己くんかい?」と言った。


「そうです。」


と、少しだけ警戒してと答えると、大人の声が少し慌ただしく、


「落ち着いて聞いて欲しい……。お父さんが亡くなった。」


このとき既に、母親を失っていたから、大人の声の言っている意味がすぐにわかった。

亡くなったその日の晩に、沢山の大人たちが家に来た。心美の権利関係が、すべて俺に移ったからだ。

大人たちは口々に、「そのAIの技術を提供してくれれば、君の将来を保証するよ」と言っていた。

心美を友達として見ていた俺には、心美が物扱いされていることが感覚的にわかった。

心美も怪訝そうな顔をして、こっちをジッと見て黙っている。

今になって思うが、5歳の子供に決断できるようなことではない。

どうすればいいのか迷っていると、知っている顔を見つけた。父親の研究室に良く来ていたから覚えていたのだ。


「あの……」と言いかけて、その人の方から、


「心美ちゃんを悪いようには絶対にしないから、おじさんに協力してくれないかい?」


俺はその人――タケイさんの会社――EAI社に、条件付きで技術提供することに決めた。


タケイさんとは今では、家族同然の付き合いをさせてもらっている。

奥さんはとても綺麗な人で、料理が上手だ。少し抜けた感じのあるタケイさんに、なんとなく合っている。

毎週金曜の夜に、タケイさんの家に泊まりに行き、奥さんの手料理を堪能する。

というのも、心美に使われている技術は、未だに全て解明されておらず、週末はEAI社に出向しているからだ。

そして、俺がEAI社に提示した条件というのは、研究には必ず俺が付き添うこと、心美の嫌がることをしないこと、だ。

タケイさんは、これに同意してくれて、今もちゃんと守ってくれているし、実際に心美の技術がもたらす恩恵は大きく、この12年で、EAI社はOrangeやMacrosoft等のIT企業と方を並べるまでに至った。


そして今日は、そのタケイさんの奥さんの手料理を堪能できる日だ。


「ねえねえ、ユミちゃんの手料理ってどのくらい美味しいの?」


「そっか~、お前は食事ができないもんな~! 食事の良さがわからないなんてかわいそうだな~!」


そう言って心美をからかうと、「もう!」と頬を膨らませてそっぽを向いた。

本当に人間みたいな奴だな。と思った。


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