竜
そこは凄惨な光景だった。
ゴールドラッシュ号はバラバラになって海に沈んでいた。
残骸だけが辛うじて海の上から確認できる。
「この状況じゃあ……」
助かった人はいるのだろうか?
そもそも、近づくことができない。
無線で源次が呼びかける。
「ゴールドラッシュ、聞こえるか?」
「……いる……」
その声を拾い、まだ少なくとも操作部には人がいる。
「救助へりを呼ぶ、なんとか持ちこたえてくれ!」
と源次が呼びかけた。
遠目で見ていた竜は妙なものに気が付いた。
「ん?」
一瞬わが目を疑う。
「漁太、なんか見えないか?」
漁太も目を凝らす。
すると、
「ハサミだ!すごいでかい!」
と声を出した。
「マジかよ……」
竜が見たのは直径10メーターはあると思われる巨大なオレンジの塊、それはカニのハサミだった。
「ありえないだろ!あれが船をバラバラにしたのか?」
ドオオオオンという轟音がし、船の残りの残骸を砕いた。
ハサミが船を破壊する瞬間を見て漁太は、
「この船も襲われるよ!」
と言った。
もし、カニ漁船を襲うカニだとしたら、この船もまずい。
すぐに竜が報告を入れる。
「マズいです、逃げないと!」
「なんだとおっ」
源次がすぐに引き返そうとする。
そして、
ドオオオオン、と海上からハサミが出現し、海を切り裂いた。
狙いは外れたが、ものすごい振動と波が船を襲った。
「うわああああっ」
みな投げ出される。
「このままじゃ、カニ漁師がカニに殺されちまうっ」
竜がそう言い、何とか立ち上がる。
次の振動で、船のどこかにハサミが直撃したのが分かった。
「この船も沈没するぞっ」
源次は看板の上に出ていた。
「このやろおおおおっ」
とクレーンを操作し、ハサミに攻撃を仕掛けようとしたが、届かない。
次の攻撃を仕掛けるべく、ハサミが更に空中に伸びた。
巨大な影が船に迫る。
「もう……ダメか……」
源次がそう思った瞬間、海から何かが現れた。
その少し前、竜は漁太にこう言った。
「……この状況を救うには、一つしかない」
決意を決めたような顔である。
「どうするの?竜さん」
漁太が心細い声でそう言う。
「今まで、楽しかったぜ」
竜は看板に駆け出していた。
漁太はその後を追う。
看板に出た時には竜の姿はなく、源次がクレーンで応戦しようとしているところだった。
漁太も、ハサミが振り上げられるのを見て、もうダメだ、と思った。
そして、目をつぶった。
ドゴオオオオンという振動音がした。
しかし、まだ船は形をとどめている。
漁太が目を開けると……
なんと巨大な蛇のような生物がそれを受け止めていた。
細長い胴体を持ち、10メーターのハサミを体で支えている。
「り、リヴァイアサン!?」
源次がクレーンから降りてきて、そう言った。
リヴァイアサンとは、神話に出てくる海のドラゴンである。
リヴァイアサンはハサミに巻き付き、そのまま海の中へと沈んでいった。
ハサミによる攻撃を受けて、船は浸水している。
「救援が来るはずだ、それまで持ちこたえてくれ……」
源次がそう言った。
しばらくすると、ヘリのプロペラ音がする。
「救援だ!」
そして、ヘリからロープが下され、2人は助かった。
へりの中で、漁太はこう言った。
「あれは……竜さんだったんだ。竜さんはドラゴンだったんだ……」
源次には、そう思いたいな、と言われたが、漁太は最後の竜の意味深な言葉を聞いていた。
「守ってくれたんだ」
港に着いた。
そして、車で空港まで源次に送ってもらった。
空港で、
「お世話になりました」
と源次に挨拶した。
「ああ、こっちもな。カニ漁は廃業だ、また就職先を探してくれ」
「はいっ」
そして、飛行機に乗り込んだ。
とてつもなく長く感じたこの10日間であったが、漁太にとっては忘れられない日々だった。
終わり
疲れた~