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海上で予行練習

海上に出た。

颯爽と走る船。

眼前には地平線が広がり、どこまでも海が続く。

その感動を味わう間もなく、早速漁太は竜からこれからの仕事の手順を教わることになった。

「まずカゴを投げ入れるんだけど、あそこにたくさん積んであるだろ?」

竜がカゴの山を指さす。

うずたかく積まれたカゴを見て、コクリ、と漁太はうなずく。

「俺があのカゴに上ってひもをほどく、そしたら水沼さんがクレーンでそれを下すから、下にいる林治さんとお前の2人でそれを受け止める、いいか?」

「はい」

「カゴを2つ並べて置いて、2人とも事前に準備してあるエサを取ってきてカゴにくくりつける。エサの段取りは事前にしておくから、それをつければいい。最後に2人がかりでカゴを海に投げ入れて仕上げ。ブイも忘れんなよ?」

「分かりました!」

ほんとかよ、と竜が笑って言った。


一通り説明を終えた後、竜が船の横に移動し、

「カゴはここら辺に並べる。カゴのふたを持ち上げて、仰向けでこんな風にカゴの中に入るんだ」

と手本を見せる。

「エサを真ん中に括り付けて、出る。イメージはこんな感じだ」

「なるほど」

なるほどじゃねえよ、と軽く頭を小突かれる。

いって、と頭を押さえて、暴力反対、と漁太は思った。

「結構しんどくなってくるし、作業が遅れれば休憩時間も短くなる。プレッシャーかけるわけじゃねえけど、そこらへん頭に入れとけよ」

小突かれてむすっとした漁太は、コク、とだけうなずいた。


竜が漁太に説明を行っている時、船長の源次と水沼は船の操作室で話をしていた。

源次が煙草をふかしながら、

「今年はどうなるかな」

と言うと、

「新入りの漁太の頑張りがないと、結構しんどくなるかもしれませんね」

と水沼が言った。

源次は今年で50になるが、水沼が入って来た時には、すでに船長をしていた。

「林治さんはあんまり良く思ってないみたいですね」

と水沼が言うと、源次も苦笑する。

「この仕事は体力勝負だからな。船員の若返りが必要だ。だが、それと入れ替わりで自分が捨てられるんじゃないかと思ってるのかもな」

フーッと煙草の煙を吐き、仲良くやってもらわにゃどうにもならんのにな、と言った。

「去年の事故で、林治さんが一番ショック受けてましたからね。同期の山根さんが体力の限界で倒れてそのまま死んじゃって。竜が入って来たってのもあるし、次は自分の番か、なんて思ってるかもしれません」

水沼がそう言うと、

「だがベテランってのは必要だ。とっさの事態に対処できる。漁太や竜じゃ、不足の事態には対処できんだろう。林治さんはこの船には必要だよ」

と源次が言った。


源次がモニターを見て他の船の動向を確認する。

「俺たちと同じ進路を取るのは……ゴールドラッシュか」

水沼がそれを聞き、

「ポイントが被ると、相手は大型船ですからごっそり持ってかれる恐れがありますね」

と返事をする。

「まあ大丈夫だろう。こちらとは少し進路がそれているし、カニの群れに当たれば早いもの勝ちだ。こちらが先にカゴを投げればいい」

源次の強気の発言を聞き、歴戦の猛者がそう言ったなら間違いないですね、と水沼がつぶやいた。


海上では、竜と漁太が船の上であぐらをかいていた。

竜が漁太に言う。

「いいか?カニの相場は一匹5000円だ。このタンクには2万匹のカニが入る。だから、一杯になれば1億の稼ぎになるんだ。もしそうなれば、経費を差っ引いて、1500万くらいの金が俺たちの懐に入ってくる」

それを聞き、さっきまで機嫌を損ねていた漁太であったが、

「そうなんですか!」

とさすがに驚きを隠せなかった。

「期日は3か月、大体100日とすると、一日に200匹のカニを取ることがノルマになってくる。当たりの漁場で一カゴ20匹ってとこだ。当たりで、な」

「へぇ~」

よくわからないが、漁太はそう返事をした。


「一個のカゴで、投げ入れ5分、引き上げ5分、おおよそ10分、10個で2時間ってとこか。今言ったみたく、うまいこと行けばそれでその日の仕事は終わりだが、入ってなかったら、どんどん投げ入れるカゴが増えてく。20個、30個ってな」

竜は、そうそううまくはいかなんだわ、と頭の上で手を組む。

「そこまで行ったらもうクタクタだ。なにせ6時間ぶっ通しで働いてることになるからな。まあ、20個投げ入れて様子見がセオリーだけどな」

漁太には、6時間ぶっ通しで働くということのイメージがつかめなかった。

しかし、マラソンで6時間ぶっ通しで走るみたいなものかな?と思ったら漁太はぞっとした。


そうこうしている内に、昼になり、竜に促されて船内に入った。

「そろそろ寝とかないとやばい。なんせ、当分まともな睡眠なんてとれないからな」

と言われた。

部屋は竜と相部屋で、2段ベッドに眠る。

「お前、どっちがいい?」

と竜に聞かれたので、

「じゃあ、1段目でいいです」

と漁太は答えた。

「お前、そこは先輩に譲れよ」

と言われたが、その配置で二人は眠ることになった。


ポイントまで、あと8時間を切った。




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