ギルド
両開きの扉をあけて、中へ入るといつもの様子が目にはいいってくる。丸型のテーブルが並べられ、そこでまだ昼間だというのに、飲んだくれて寝ている人も多くいた。
テルマが帰ってきたのに気づいた人たちは、声をかけてくる。
テルマも適当に返事をしていた。
ここは、テルマの所属しているギルドであり、市民の酒場でもある。
テルマは、ラカゴ村での事件のあと、隣の村の依頼をこなしていたこのギルドのマスターたちに保護された。今ではすっかりギルドにも馴染み、立派に育っていた。
テルマは、奥のカウンターでマスターが手を振っているのに気がつくと、歩いて近づいていった。
「ただいま、マスター」
「お帰り、テルマ、その様子だとまた依頼は成功したみたいじゃな」
マスターは、テルマの体に傷ひとつついていないのを確認して言った。
「まあ、今回もそんなに難しい依頼でもなかったしね」
「そうか、でもなぜ最近は、山賊討伐の依頼ばかりなんじゃ? もしやお主…」
「まあ、気にしてないといえば嘘になるけど、いろいろと理由があるんだよ」
“心配すると思うから、マスターには、黙っておこう”
「ほう、それならばいいのじゃが」
「それよりさあ、ミカゲさんいないの?」
「ミカゲなら今、買い物に出かけているが…」
「じゃあ、戻ってくるまで、部屋でまってるよ」
「わかった。ミカゲが帰ってきたら、呼びに行かせよう」
テルマは、少し頷くと、階段を上って、二階の部屋に入っていった。
しばらくベッドで横になっていると、コンコンっとドアをノックする音が聞こえてくる。
テルマが立ち上がり、ドアを開いた途端、ミカゲがテルマに抱きついた。
「お帰りーテルマ、寂しかったよー」
テルマは、押し付けられる二つの大きな膨らみに顔を赤くした。さらに、ミカゲのきれいなロングの黒髪から甘い香りが漂ってくる。
「あの、ミカゲさん、苦しいんで放してください」
「おっと、ごめんごめん」
ようやく解放されたテルマだったが、少し残念な気もしていた。
「それより、私に何か用があるんじゃなかったの?」
「ああ、はい。また新しい依頼を受けようと思って」
「また依頼? 少しは休みなさいよ」
「今は、休んでいられないんで」
「そう? じゃあ、下で待ってるから、用意してきなさい」
「わかりました」
「それと、いい加減敬語やめてよね。マスターにっだってタメ口使うのに」
テルマが苦笑いで返すと、ミカゲは、下へ降りていった。
特に用意することもなかったのでテルマもすぐに下に降りた。
「この依頼でいいのね?」
「はい」とテルマが返事をすると、ミカゲは依頼書に受注の印鑑を押した。
依頼内容は、北の山奥にあるイロハ村に最近、山賊が多く出るので追い払って欲しいというものだった。
マスターに「またか」と言われたが、気にしないでおいた。
「そういえば、イロハ村には、良い鍛冶職人がいたはずよ。テルマ新しい武器欲しがってたでしょ? 依頼のついでに作ってもらったら?」
「ありがとう、そうするよ」
「じゃあ、気をつけてね」
「行ってきます」
ほかのギルドメンバーたちの激励を背にテルマはギルドから走って出て行った。