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不死鳥ホクトとナオ

作者: 池谷眞季

 ナオは、10歳の男の子です。いつも元気いっぱいに野山を駆け回っています。動物たちとも仲良しです。

「ほら、ナオが来たよ。」

「いっしょに遊ぼうよ。」

 村には、同じ年頃の友達がいないので、いつも動物たちが遊び相手です。鹿、ウサギ、猿、リス、鳥たちは、みんなナオが大好きです。だってナオが優しい目をしているのを知っているから。

 きょうもナオは、元気に動物たちと追っかけごっこをしていると、突然、ケーンと耳をつんざくような音が聞こえてきました。

「今の音は何だろう?」

 動物たちも首をかしげています。浜辺の近くに、いつもぶすぶすと煙を上げている、割と大人しい小さな火山がありました。音は、どうやらその火山の方角から聞こえてきたようなのです。好奇心いっぱいのナオは、すぐさま火山の方へ走って行きました。その後を動物たちもぞろぞろとついて行きました。


 しばらく火山のふもと付近を捜しましたが、何も見つからないのです。

「もしかしたらこの火山、もうすぐ噴火するよっていう合図なのかなあ?」

 ナオが火山の方を見上げると、火山はいつものように黒い煙を、たばこを吸っているみたいに吐き出していました。

 そのとき、空から何か光り輝くものが降ってきて、近くの叢の中にどさっと落ちました。ナオはびっくりして、動物たちと顔を見合わせました。ナオが茂みをかき分けて、今落ちてきたものをのぞいてみると、それは茂みの中できらきらと金色に、また燃えるように赤く輝いていました。

「きれいだなあ・・・」

 ナオは、しばらくその何だかわからないきれいなものに見とれていました。すると、それはもぞもぞと動きました。ナオは、さらにびっくりして、後ずさりしました。その光るものは、しだいにふくらんで、ばさっと音を立てて広がり、二つの大きな翼が現れました。目を丸くしているナオの前で、今度は長い首が持ち上がり、伸びをするように、首を思い切り伸ばし、ひと声ケーンと鳴きました。

「さっきの音は、この光るやつが鳴いた声だったんだ。」

 それは本当にきれいな色をしていました。金色に波打つように輝くかと思えば、次には薪を燃やすような赤い炎が立ち上り、体全体が激しく燃えるようでいて、ちらちらと冷たい青い炎もところどころ顔をのぞかせるのでした。翼をばさばさと動かすと、その光の反射で虹色が混じった金の粉が辺り一面舞いました。やはり金の羽毛に被われた長い首の先には、かわいらしい小さな顔があり、瑠璃色の瞳がくるくるとよく動いていました。その瞳がナオに気づいて、赤く長いまつ毛が二、三回瞬きしました。小さく真っ赤なくちばしが動いて、ナオに話しかけてきました。

「何を見てるの?」

 ナオは我に返って、

「何って、急に空から降ってくるから、びっくりして見に来たんだ。」と、少しきまり悪そうに答えました。金色の鳥らしきものは、ゆっくりと立ち上がりました。そして、美しさを誇示するように、また翼をばさばさと動かして、おもむろに閉じました。金の粉が、ナオや動物たちに降り注ぎました。

「つまり僕の美しさにまいっちゃってると、こういうわけね。まあ無理もないけど。」

 ナオは、金の粉の中でうっとりしながらも、「嫌なやつ。」と思い、金の粉を振り払うと、

「別にそんなことはないさ。急に空から落ちてきたりして、変なやつだ。」と、ぷいと横を向いて言いました。金色の鳥は、少し笑って、

「君は人間の子供だね。まあ年のころは三歳ってとこかな。」と、つんとして言いました。

「何だよ、三歳って。おいらはもう十歳だい。」

「おやおや、怒ることないじゃないか。同じようなものさ。僕はかれこれ、そうだなあ、あまり長く生きているので忘れちゃったよ。」

「そうは見えないね。おまえ、鳥だろう。鳥っていうのは、すぐ死んじゃうんだぜ。」

「おいおい、失礼なこと言うなよ。僕を知らないの?やだなあ・・・これだから子供は困るのさ。僕のような有名な存在は、ちゃんと知っておいてもらわないとね。」

 金の鳥は、少し飛び上がって、ナオの上を一周すると、また元の所に戻って、首を高く上げると、えへんと咳払いを一つして、言いました。

「僕は、不死鳥のホクトだ。」

 ナオは、怪訝そうな顔をして、

「フシチョウ?やっぱり鳥じゃないか。」とばかにしたように笑いました。ナオが気づくと、動物たちは、みんなホクトの周りに集まって、喜んで歌ったり踊ったりし始めました。ナオはびっくりしました。

「お前たち、こいつを知っているのかい?」

 ホクトは、「やあ、また会えたね。」と、動物たちにあいさつをしました。

(なんだか知らないけど、ずいぶん偉そうなやつだ。それにしてもきれいなやつだなあ。)

 ナオは、しばらく見とれていると、それに気づいたホクトは、

「僕はね、死なないんだよ。何回も生まれ変われるんだ。ずっと昔から生まれ変わりながら生きているんだ。今は生まれたてだから、特に輝いているのさ。きれいだろう。あそこの火山でいつも生まれるのさ。あの火山はお気に入りさ。あそこで生まれなおして、世界中を回るんだ。」と、火山を羽で指しながら言いました。

「へえ、おまえ死なないんだ。」と、ナオがうらやましそうに言うと、ホクトは一瞬寂しそうな眼をしましたが、またいつもの調子に戻り、

「それじゃ、僕は失礼するよ。新しく生まれると、あちこちあいさつに行かないとならないんでね。」と言うと、またばさばさと金粉をこれ見よがしにまき散らしながら飛んで行きました。その姿を見送ったナオは、腕組みをして、

「それにしても何てやつだ。偉そうなあの態度、生まれたてのくせに。」とぷんぷんして、金の粉が付いてきらきらしている自分や周りの動物たちを見ました。動物たちは、ホクトに会えたうれしさで、しきりにおしゃべりしては興奮して走り回っていました。ナオは不思議とホクトのことが気に入っている自分に気づいていました。

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