第五話 何この人。めっさ優しい!!
「記憶喪失」だった。
俺は耳を疑った。なんてったって、記憶喪失なんて、漫画やドラマだけの世界だけだと思っていたからだ。
ちなみに記憶喪失とは、意識障害によって、過去のある時の経験を思い出せないことをいう。
その症状が今おきているのが、愛梨である。
愛梨は俺達四人のことを覚えていないらしく、そしてお世話になった叔父さん叔母さんのことも忘れている。どうやら家族のことも忘れているようだ。あんなに衝撃的だったであろう大災害のことも忘れている。
それだけ今の症状はひどいらしい。南美が何回も声をかけるものの、
「愛梨、私よ私。南美だよ。」
「ごめんなさい。思い出せないの。」
やはりダメか。何回問いかけてもやっぱり答えは同じだ。愛梨の叔父さんが医者に何か質問しているのが耳に伝わった。
「先生、どうしたら記憶喪失は戻るのでしょうか?」
「あいにく私も記憶喪失になった人なんて初めて診ますからねぇ。ホントかどうかは知りませんけど、もう一度頭を強打するとか、催眠術をかけるとかしか聞いたことないですからね。」
「まともなの方法はないんですか?」
叔父さん叔母さんがなんとか聞いてみるはものの、やはり他には分からないらしい。
「しかし、生きていたのは奇跡ですね。」
そうだ。愛梨は生きていたんだ。
俺は改めて、愛梨の「生」を実感した。
あの大災害で生存者はいないだろうと言われていた。だが愛梨は生きている。その嬉しさは宝くじで一等が当たるよりはるかに嬉しかった。
「愛梨ちゃんもここにいつまでもいてはなんの進展もないでしょう。今までの生活を取り戻せば少しは良くなるんじゃないでしょうか?」
「それもそうですね。じゃあ愛梨は私たちの家に連れていきましょう。あなた。」
「そうだな。うちには子供が一人もいないし、ちょうどいいだろう。」
叔父さん達の家は同じ横浜市だ。近くてすぐに会いに行けるから、ちょっと嬉しかった。
腰をかけていた他の三人が立ち上がった。そして豪が、
「学校に来てみれば少しは思い出すんじゃないか?」
「んまぁそうだろうけどよ、何も無いぞ。こいつ家無くしたから道具も揃えないと。」
俺はちらっと愛梨の叔父さん達の方を見た。
すると叔父さんがこちらに気づき、ニコッと笑って言った。
「大丈夫だよ。学費も道具も制服も。全部揃えるから。なんせ兄貴が愛した可愛い娘なんだからな。」
その場にいた俺達四人は全員心の中でそう思っただろう。
((((何この人。めっさ優しい!!))))
親戚といえども、漫画の中ではよく奴隷のように扱う怖い親戚がよくいる。
そんなのと比べたらこの人は、天使だ。
だって、学費も出すって。
俺は心の中で「すげーだろ。この人wwwwww」
と思った。
「それなら安心だな。これからも俺達がしっかりとサポートしてあげよう。」
俺が指揮をとってるかのように言った。
「修斗君…だったかな?これから愛梨を頼むよ。」
「はい。」
ここから新たな物語が始まるんだ。
俺達は愛梨の記憶を絶対に取り戻させ、いつかまたあの頃に戻るんだ。
そこで俺達は病室を出てそれぞれの家に帰った。
愛梨は明日、叔父さんの家に行くらしい。
俺はホッと一息つくと、少し早歩きで家に帰った。
またあの日にいつか戻る。俺達は。
だが、現実はそう簡単にいかなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
大田区の穴場にある隕石の側で何者かの動きがあった。