第四話 あなたは誰?
もう…ホントの私はいないんだよ。
違う。お前はお前だろ?
いや、何も違くない。…あなたの知ってる私はもういないの。
違う。お前はいつも俺の…俺達の傍にいる。
止めて!何も、私にはなんの記憶も無いの!
違う。記憶が無くたって俺達はずっと一緒だ。
そう。これからも。だから……。
ジリリリリリリリリ!!!
はっ!!と目覚ましの音と一緒に勢いよくベッドから体を起こした俺は息づかいが荒くなっている。
はぁはぁはぁ…………夢か……
悪い夢を見てた気がする。よく思い出せないが、確か愛梨と俺がいたような気がするが………
だめだ。思い出せない。
鳴り止まない目覚ましを俺はまず止める。
あの大災害からもう既に三日が経った。
俺はほとんど引きこもり気味で家から出なかった。
あれからの被災地の状況はというと、ものすごいひどい。
大田区の人口は約72万人いるのだが、その中の約71万人死んだらしい。
この数字を聞いて驚いただろうか?そう。ほぼ全滅だ。これは、歴史上最大の死者だ。まるで戦争での戦死者に比べれば少ないではあるが日本の人口にとってはこの人数が一気に減るのは相当痛い。
だが一万人の中にはその場にたまたまいなかった者もいれば、今もまだぎりぎり生命を保たれてて入院してるものもいる。だがその命ももう長くはないと言う。
ところで愛梨はというと………。
奇跡的に助かっていたのだ。しかしまだ目が覚めてないという。
愛梨が入院している病院を探し回ったら、まさかの横浜市にいた。愛梨に会いに行ったのだが、医者はもう長くはないだろうと言う。それでも俺は何度も何度も見舞いに行っている。いつか愛梨が目を覚ますその時まで。
俺は着ていた部屋着を着替え短パン半袖のシンプルな格好に着替え、俺は自室を出て朝食を取る。時刻は既に9時を回っていて家には俺と母さんしかいない。
「修斗ー。あなた今日も行くんでしょ?愛梨ちゃんのお見舞い。」
「ふーん。ほひほんひふほー。」
トーストをくわえながら俺はスマホでほかの四人にLINEで連絡を待つ。
ピンポーンとLINEの着信音が鳴る。
豪『もち俺も行くぜー修斗ー。』
MINAMI『私も行こうと思うけど、ちょっと遅れるかもしれなーい。』
霧島『当たり前だ。』
MINAMI『あ、海里ー。おはよぉー♡』
霧島『おう。』
修斗(o・・o)/『わかったー、んじゃ10時に来てくれればいいよ。』
俺達は「いつもの五人組」というなんともシンプルな名前のグループをつくっている。
変わらずあの日から既読は3しかついていない。
だけど俺はこれも4になると信じている。
スマホの画面を切り、支度を終え、早めに家を出る。
「行ってきまーす。」と俺。「いってらっしゃい」と母さん。
俺は家の駐車場に停めている自転車をとり、道路まで押していき、自転車に乗って行く。
自宅から愛梨の入院している横浜総合病院までは約25分程だ。街を抜け、アーケードを抜け病院に着く。
俺は自動ドアを抜け、愛梨の緊急治療室に向かっていく。
あの話から少し気づいているかもしれないが、愛梨は家族を失っている。愛梨に会いに来てくれるのは、愛梨の叔父叔母ぐらいだ。
俺は緊急治療室に入るときに誰もいないことに気づいた。
俺は愛梨のベッドの横に椅子を置き、座る。
自然に俺の両手が愛梨の手を強く握っていた。
「もう三日が経つんだぜ、愛梨。……あの日からみんな心配してんだぞ?南美なんかその場で泣いて泣いて、連れて帰るのに大変だったんだからな。はは。だからよ……早く目を覚ましてくれよ。 」
俺の目から涙がこぼれ落ち、愛梨のベッドにそっと落ちた。俺は涙をぬぐい、
「ごめん。……もう泣かねぇって決めてたのに。俺は。」
涙が止まらなかった。どんどん雫が落ちていく。
ビクッ
その時……、愛梨の手が俺の両手で動いたのが分かった。
「愛梨……?」
すると、愛梨の瞼がそっと開いた。
「愛梨?……愛梨!!俺だ。俺が分かるか!修斗だ!」
俺は嬉しさと喜びのあまり立ち上がった。
そして愛梨が
「修斗?」
「そうだ。俺だよ俺。」
そして、その後の言葉に俺は衝撃が走った。
「………あなた。……誰?」
「えっ?」
その言葉に俺は息を呑んだ。俺の目の前にいるのは愛梨だ。だが、俺の知っている愛梨ではない。
俺の目にはもう涙は無かった。
突然の俺の大声に気づいたのか看護婦が治療室に入ってきた。
「何も…思い出せない。あなたは誰?」