第三話 信じてる
ようやく大田区の近くまで乗せてもらった俺は、金を払いすぐに飛び出した。愛梨の家はもともと俺のすぐ隣だったのだが、高校に入るときに引っ越しして、大田区に住んでいる。
愛梨の家は一回しかまだ行っことが無いせいか、よく道が分かっていない。だけど今日は何故か知らないが愛梨が俺を導いているように感じた。
少し走ってようやく区内に入ろうとしようと思ったが既に瓦礫の山だった。
少しでも早く着こうという焦りのせいか、俺はイライラしている。
「くっそ!なんでここ行き止まりなんだよ。」
全て巨大隕石のせいだと分かってるのに怒りがこみ上げてくる。
落ち着け…落ち着け
俺は心を落ち着かせようと深呼吸した。
「……よし、別の道を探せば……」
俺は振り返り走り出した。
するといきなり警察官が俺を見つけたのか、
「君、待ちなさい!ここら辺一帯は既に避難勧告が出てる!君も早く戻りなさい!」
やはりもう既に避難勧告は出てたそうだ。だが、俺は無視して慌てて警官から逃げるように瓦礫の山を越えようとした。しかし俺の願いも届かず、瓦礫を越えた途端目の前にもう一人の警官が現れた。警官の足が速く、俺はすぐ警官に取り押さえられた。
俺は必死に叫んだ。
「どけ!どけてくれ!!俺は…会いたいやつが……待っててくれてるやつがいるんだよ!!」
「こら!動くな、こっちは何もしないから。」
警官は俺を取り押さえるのに必死でいる。
それもそうだ。俺は取り抑えられながらでも抵抗していらるからだ。だけどここまで走ったせいか、体力が限界だ。ようやく動きを止めた俺に、警官が
「諦めるんだ。君がこんなに必死になってここに入りたい気持ちは分からんでもないが、もうここには何もないんだよ。」
警察官はどこか悲しい目をしていた。
「ここは既に救助活動が始まっている。もう何百人、何千人もの人が死んでいるんだ。もうこの場所には生き残っている人はいないんだよ。
」
「嘘だ……そんなの信じねぇ!!」俺は声をあげてしまった。
信じねぇ………俺は…俺は…………愛梨!
なぜここまで愛梨のために必死でいるのかそれは友達だからか?…いや違う。俺はずっと…ずっと前から愛梨の事が好きだった。絶対に俺が愛梨を護りたいと思ったんだ。なのに……。
今にも泣きくぞれそうな俺に警察官は言った。
「私の妻がこの場所に住んでたんだ。……分かるかこの過去形の意味が。死んだんだよ。即死だそうだ。」
警官の目からは涙がこぼれ落ちそうだった。
「私は悲しいよ。辛いよ。でももう振り返ってる暇はない!今はすぐにでも行方不明者を探さないといけないんだ。そうしなきゃ今もまだ生きている人の命が無駄になる!それが私の妻が望んでる事なんだと私は思っているんだ!」
俺はふと警官の目を見た。その目には強い意志が感じた。
そうだ。迷ってなんかいられない。信じ続けるんだ。愛梨も俺の命は危険にさらしたっていいと思ってくれてないはずだ。
だから……
「すいません……。」
とうとう耐えきれなかった涙と共に俺は決心した。
絶対に生きていてくれると。
警察官は俺をパトカーに乗せ、自宅まで連れていってくれた。
家に到着した時は、既に18時を迎えていた。家には母さんと姉ちゃんがもう帰っていた。
その後、警察官に礼を言った俺は誰とも喋らずに静かな自分の部屋に戻った。
八月の暑い日なのに何故か部屋は冷たい空気で満たされていた。
俺はそっと眠りについた。