第一話 ランチ
心地の良い風がこの広い草原に吹いている。
蝉の鳴く声、照りつける日差し。
今年もまた暑い夏がやってきた。
俺達は、神奈川県横浜市渚高等学校に通うごく普通の高校生だ。
それにしても俺達はどこにいるんだって?
ここは横浜市にある、渚記念公園の広場の大樹の前だ。
「おーい、修斗ー!!こっちこっちー!!」
「もぉ!遅いのよー!」
「わーったって。」
おっと、自己紹介が遅れたな。俺の名前は草刈修斗。渚高校二年B組。
そして、
「遅いよ、修斗ったら。」
彼女が俺の幼馴染みの櫻井愛梨。同じ渚高校二年B組。ショートヘアのちょっとおしとやか?な女の子だ。
そして今さっき俺の名前を読んだのが、山田豪。二年A組。ちょっとガタイの良い体型で頼れる兄貴分みたいな感じだ。
「全く、何分待たせる気だ…。」
こいつが俺のあまり好きじゃないやつ、桐島海里。渚高校二年C組。メガネの理屈野郎。頭脳は凄く良い。この前のテストなんて学年1位だった。
そしてもう一人の女の子が末永美奈。渚高校二年C組。見た目はけっこう可愛い。クラスの人気も高いらしいが、俺はなぜこいつが海里を好きなのかが未だに分からない。
えっ?俺の自己紹介が短いって?
そりゃあまぁいいだろ別に……。
とにかく俺たちは今この大樹の前でランチをしようとしている。
「みんな揃ったな?」
豪がみんなを見渡す。そして美奈が、
「それじゃぁ早くランチにしようよ。」
待ちきれないのか相当うずうずしている。
俺にはこの楽しさがわからんが…。
「ところで、お前達はこの後暇か?」
海里が美奈の手作りサンドイッチを片手に質問する。続いて愛梨が、
「暇だけど?」
俺はまさか…と思ったが案の定海里は、
「それじゃあこの後皆で図書館に行って勉強しないか?」
「まじかよー!!」
豪が嫌そうな顔でおにぎりをほおばる。その理由は、来週テストだからである。
そりゃぁみんな嫌がるさ、海里以外は。
「テストをなめてると留年するぞ、豪。」
「へーい、分かってますよ。」
溜め息をつく豪はそれでも弁当に手がどんどん行く。
そこでいきなり携帯電話から着信音が鳴る。
愛梨の携帯だ。
「ごめん、ちょっと外れるね。」
スマホの画面を横にスライドするように指でなぞるところが見えた。そして電話にでた。
「海里はもちろん今回も一位よねー?」
ご機嫌に聞く美奈に対して海里は、
「当たり前だ」
テストの話はやめようぜ。と言いたいところだが、しゃべる気も失せる。早く帰りてぇ。
すると突然愛梨が電話を終え、
「ごめん、急用入ったらしくて帰らなきゃならないの。」
「まじかよ。」豪に続いて美奈が「えー!?」と言う。
「それじゃあこのあとの勉強会も止めねぇ?」
俺が口を開くと海里は、
「そうだな、一人いないだけでもなんかあれだしな。」
「えー!?やめるのー?」
内心嬉しいくせに、海里がいるからって美奈はほんと…。
「ごめんね。みんな」
「いいよいいよ。それじゃあまた明日ここに集まらね?」
豪の野郎め……
「そうだね、それじゃあ1回ここは片付けようか。
」
シートをたたみ、弁当もなおす。そして片付けが終わって俺が口を開く。
「それじゃあみんな」
俺達五人はいつもここに集まるときにすることだ。これだけはなぜか嫌な気持ちはない。むしろみんなと居れて良かったと思う。そして、目を一人一人合わせ、
「「「「「明日またここで会おう」」」」」
笑い声が漏れる。
「あはは、なんか何回やっても面白いね。」
「ああ、また会えるのにな。」
これは俺たちが一年前出会い、そして一緒にいる時に使われるようになった合言葉っぽいものだ。ここでみんな帰ってゆく。そういう流れだ。
俺は一人少し残って大樹を見た。
ずっと俺達は一緒だ。そう、いつまでもこの木が俺たちを支えてくれる。いつまでも。
帰り道に一歩踏み出す。空を見上げた。
こんな気持ちのいい日なのに、鳥が一匹もいない。何故なのか。
俺はそれ以上考えなかった。そしてまた一歩また一歩と歩み出した。
なぜ俺はこの時気が付かなかったのだろう。あんな事がおきるなんて……。
空がだんだんと暗くなる。最後の俺たちの思い出。