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プロローグ Insanity Gathering

 どうも、筆者です。久々の更新でございます。

 ちょっとご報告。少しだけタイトル変わりました(今さら)


 ただでさえ読みにくい今章は、読みやすさを高めるため、一話の長さを短くしました。







 霊地となる森――霊森は、地下の霊脈から魔力を吸い上げる性質を持つ。その木々には高い魔力が宿り、伐採した木材は高値で取引される。

 霊森は近隣の区域に与える影響が、いい意味で大きい。生命に溢れ、水は清く、大地は豊か、空気もよくなる。


 だからこそ霊森の区域を、国の許可なく開発することを、各国は強く禁じていた。霊森の木々を無暗に切り倒せば、あらゆる悪影響が出る。そもそも、霊地として機能しなくなってしまう。


 霊森は国に管理され、伐採する木々も制限される。それが当たり前のことだった。

 しかし、たった二カ所だけ、国の管理から逃れた霊森がある。


《虚心》の末裔が暮らしていた『名無しの森』と。

《封魔》の一族が暮らしていた、ウラナ大森林のことである。


 逃れたというより、見つからなかった、と言ったほうが正しい。

 誰の目にも映らない。耳にも入らない。肌にも感じない。――意識に留まらない。


『名無しの森』は、その存在自体を認識することができなかった。

 ウラナ大森林は、その地に漂う魔力を認識できなかった。


 二つの例外的な霊森。それに手を施したのは、《虚心》の末裔である。認識阻害の神級魔術によるものだ。

《虚心》に属する者と、ベールを知る者以外の、誰にも気付かれないようにする、隠遁の奇跡。


 だからこそ、誰にも見つかることはなかった。

 エインルードは『名無しの森』の存在を知りつつ、《時眼》の勇者の『眼』があっても、ついぞ見つけることができなかった。

 唯一、ウラナ大森林だけが、エインルードの手にあった。


 もっとも、《地天》の末裔であるエインルードも、数人を残して滅んだ。その数人は今、王都に向かっている。

 もう一方、《虚心》の一族も、魔王教の手に落ちた。


 となれば、ここに来るのは、『彼ら』しかいない。




 ここは中央大陸、アルフェリア王国の東北部。

 山岳地帯と平野を跨ぐように、広大な山林があった。


 ウラナ大森林。

 その隅に、強大な力で木々を薙ぎ払ったような広場がある。


 広々とした空間があるのかというと、そうではない。

 切り株に腰掛けるように、数多の無法者が集まっているせいで、むしろ狭苦しく感じる。

 周辺には大量の蠅が飛び回っており、無法者が顔を顰めて払っていた。


 そんな広場の端。巨木を中間で切り倒して作った、どの切り株よりも高いステージ。そこに、少女は腰掛けていた。

 風に靡く純白の髪。虚ろな青い瞳。幼いながらに美しい顔立ちは、能面のように動かない無表情を保ったまま。


《虚心》の末裔、フィラム・スピルス……の、体。

 だか、違う。その中にいるのは別の、もっと異質な存在。


 魔王教の創設者。

 シェルア・スピルス――《虚心》の使徒。


 眼下に集まったならず者たちを、シェルアは冷たい目で見下すように見下ろす。

 やれ、力が手に入るだの。やれ、女を犯したいだの。やれ、蹂躙したいだの。


 どいつもこいつも、自分でなんの努力もしなかったくせに、他者に『力』を求めるクズばかり。

 そういう存在は嫌いではない。嫌いではないが、好きではない。ならばそれは、どうでもいい。


 彼女が求めるのは、渇望者だ。

 力を求め、足掻き。まだまだ足りないと、悪に手を染めることも厭わない。そんな狂人だ。

 最後まで、狂うほど必死に渇望し、その果てに悪に辿り着いた。そんな人間がほしいのに。


 改めて見下ろし、観察する。

 落ちた農民、酒に溺れた酔っ払い、言葉だけ達者な夢想家。

 やはり、足りない。その程度では、渇望などとは言えない。


(ならなら、それじゃあ、実験台となってもらおうかなぁ)


 ニタリ、と。

 能面のような無表情が、愉しげな笑みに変わる。


 ――青い瞳が、血色に染まる。


「《ラ・モール》、ここに!」


 森の中から、シェルアが選び抜いた人材が現れ、シェルアの元に集合した。

 見た目に共通点はない。人種どころか、種族が、生物が違う。


 人族が二人。獣族と鱗族、魔獣と魔物が、それぞれ一体。

 いや、この魔物は、一つとして数えていいものか……。


 ともかく、集まったのはこれだけ。

 一三いる《ラ・モール》の半数だ。


「レヴィ、アレは設置してきたよね?」


「シュゥルル。ええ、もちろん」


 シェルアの確認に、掠れたような声で返したのは、大蛇の魔獣・レヴィ。

 全長三〇メートルを超える巨体は、強靭な青い鱗に覆われている。


「それじゃあレヴィには、その守護をお願いしようかな、どうだろう、頼めるかい?」


 ニタリと、蛇の面を喜色に歪め、シュルルと蛇特有の音を発する。血色の瞳が輝いた。

 好戦的な返答。それがレヴィの肯定だった。


「じゃあメレクは、里を襲撃してくれるかな。生き残りが何人が戻ってきてるみたいで、すっごくとってもウザいから。……それと、その『顔』やめないと、殺すよ」


 メレクと呼ばれた老婆。その容姿は、白い髪と青い瞳。――それは、バーバラ・スピルスそのものだった。

 シェルアに睨まれると、バーバラは悲しそうな表情を浮かべる。直後にその『顔』が歪む。表情が、ではなく、形そのものが。

 数秒ごとに瞳、髪、容姿、体が常に変化し、一定の『顔』を保つことがない。


 一つ一つ変わっていくごとに、無法者たちから驚愕の声が上がる。

 彼らは口々に、誰かの名前を呼ぶ。愛するように、求めるように、縋るように。けれど、顔が変わってしまうと、落胆の溜め息を漏らすのだ。


「あぁ、はぁ……。皆がわたしを見ている、ぼくを愛してくれているぅ!」


 無法者たちの声を聞くたび、『顔』が変わる存在は、恍惚に頬を染めていく。

 その狂態に、シェルアは先ほどの殺意もどこへやら、無法者たちを嘲笑する。


「ク、クッくふふっ。相変わらず、とってもすっごく、いい感じに趣味が悪いなぁ、メレクは」


「ぼくの趣味が悪い? いえいえ、私はただ、俺に向けられる愛を求めているだけなのよ? ……命令は受けるぜ? もっと愛が欲しいからな!」


 性別、口調、声、雰囲気。『顔』が変わるごとに、すべてが別人になる。

 それは、メレクの無属性魔術によるものだった。


 偽装魔術『ケムダー』。

 周囲の残留思念を読み取り、その思念を生み出した人物や、思念が向けられた人物に化ける、無属性魔術。

 メレクはそれを使って、無法者たちが愛する者に偽装しているのだ。貪欲に、卑怯に、愛を受けるために。


「で、マモンは異分子の排除をお願い」


「りょーかいっ、いいぜぇ。さっさと奪いたいんだよ、俺っちはさぁ!」


 獣族の男だ。糸目から覗く赤い瞳が、爛々と輝く。

 他人の持つ者を、それが保持者に見合わないと断じれば、問答無用で奪いに掛かる強欲の男だ。


「うんうんうん。命令を聞いてくれて、ボクはとっても嬉しいよ! 君たちを選んでよかった! 魔王教の精鋭、《ラ・モール》よ!」


 選んだ人材に間違いはなかった。

 みんなみんな、いい感じに頭がおかしい。


「で、ぼくたち残りの人は、シェルアさまと待機していればいいわけだ。まぁいいけどね、ぼくは」


 シェルアの高いテンションに惑わされず、一人の少年がこの先の予定を述べた。

 異様な姿だった。白い瞳と髪。黒い眼球と肌。人の形をした人間でありながら、その容貌は異様そのもの。


「うんうんうん、ロトの言う通り。ボクに変わって伝えてくれてありがとうねぇ」


「『待ってよシェルア! リリトからも何か言ってよ!』『リリスの言う通りだぞ、シェルア! 俺にもヤらせろよ! なっ、お前もそうだよな、リリム!』『僕の出番はー? ねーねー、シェルアぁ』」


 シェルアの命令に反対したのは、不定形の存在だった。有毒なガスのようにも見える。そのガスの中に、三つの顔があった。

 悪霊の集合体から生まれた魔物である。女のリリス、男のリリト、子のリリムを主人格にしている。

 彼らのことを統合して、シェルアはこう呼んでいる。


「少しくらいは我慢してよ、不安定アィーアツブス。無法者たちが逃げ出したりしたら、何をやってもいいからさぁ」


「『……それなら、いいかな? リリト』『そうだな。ああ、それならいいんじゃないか、リリス。リリムはどうだ?』『二人がそう言うなら、わかったよー』」


 アィーアツブスの了承を得られ、シェルアは最後の一人、鱗族の男に目を向ける。


 硬化した、まるで針山のように鋭くとがった、深緑の髪。

 体のところどころが爬虫類のような、深緑の鱗に覆われた肌。

 狂気を孕む、縦に割れた血色の瞳。


 ――《公平卿》ドラシヴァ。


 彼は腕を組んで悩んでいた。その姿だけを見るなら、優しげな神父そのもの。

 しかしその実態は、公平を謳いながら強者を理不尽に挫く、歪んだ平等主義者。


「……わかったよ、シェルアさん」


 ドラシヴァは最終的に、シェルアの命令に頷いた。

 彼は殺しを目的としない。強者を弱者にしたい、ただそれだけ。

 今回のことで、ドラシヴァが参戦する理由はない。


「ところで」


 ドラシヴァは視線を横にやって、シェルアに言う。


「あの娘はどうする? 逃げ出したそうだが」


「ああ、うん、ユミルちゃん? うんうんうん、まぁいっかなって。どうせまだまだ予備はあるし、回収できたら御の字ってことで」


「了解だ」




《虚心》の使徒は、実験を客観的に観察するため、移動を始める。

 その後ろに続くのは、《ラ・モール》所属のドラシヴァ、アィーアツブス、ロトの三人。


 無法者たちは力を得るため、実験場で待機する。手に入る力が、どういったモノかも知らず。

 実験を遂行するため、《ラ・モール》所属のレヴィ、マモン、メレクは暗躍する。


 ――シェルアの暇潰しが始まろうとしていた。




 逃げ出した少女は、ただただ走る。

 絶望から逃げて。狂気から逃げて。


 その先で、死を体現する怪物と出会う。





Insanity(狂気)Gathering(集会・腫物)


中編『インサニティ・アンデッド』

第五章『異世潰棄』

常人がもがき、狂人が嗤い、悪が叫び、悪が嘲る。


――ここに、主人公ヒーローはいない。


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