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イセカイキ - 再生回帰ヒーロー -  作者: はむら タマやん
第死章 異世戒貴 - 中編 インサニティ・アンデッド -
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第一二話 死

 黒宮尊は、死んだ。

 ミコト・クロミヤは、死んだ。


 自分は、死んだ。


 そこは闇だった。

 何もない、真っ暗闇。


 目の前、ずっと先には、光。

 サーシャやレイラ、グラン。ラカとオーデ、フリージスにリースとで、食卓を囲んだ光景。


 背後には、闇。

 何もない。何が起きるかわからない、絶望のセカイ。


 だけど、光の道は潰えた。

 歩く意味は、もうない。


 足元が崩れる。

 落ちる。堕ちる。


 地獄の底にいたのは、数多の屍。

 その屍は、尊やミコトの姿をしていた。


 ここは墓場。

 今まで死んでいった彼が、堕ちていった場所。


 その地獄にあって、彼らは生きていた。

 尊が苦痛の声を上げ、自分を死体の山へと引き込んでいく。

 ミコトが怨嗟の声を上げ、自分を死体で埋めていく。


 堕ちて。

 落ちて。

 墜ちて。


 オちて――――。




     ◇




 一二三死。

 再び夢を見る。


 二死五〇。

 洋館の前で、一つな二人が迎えてくれた。


 三〇死〇。

『黒』に染まる。


 死死死死。

 どこか誰かで、女の笑い声が聞こえた。


 五〇〇死。

 敵がやってきた。


 六死死〇。

《炎》が愛に発狂した。

《水》が孤独に発狂した。

《風》が憎悪に発狂した。

《地》が使命に発狂した。


 七〇死死。

《空》が一つな二人を二つに裂き、最後の力で跳んだ。

《心》が慟哭して、みなの『心』を収集した。

《時》が自身の力を犠牲にして、《心》と『心』たちを逃がした。


 八死死死。

 そして、《命》は。

《命》は――――。


 九九九九。

《死》は――――。


 一〇〇〇〇。

 夢が終わる。

 けれど地獄は終わらない。


 ――――数十数百数千数万幾千何度も何度も壊れて破れて弾けて裂けて砕けて

      死んで死んで死んで死んで 死んで死んで死ん   で死んで死ん    で     死んで死んで死んで 死んで死んで

死んで     死んで死んで死んで死んで死んで死ん     で死んで死んで死んで死んで死 んで死んで    死んで死んで死んで死んで死んで死んで死ん   で死んで死んで死んで死んで死ん    で

死んで死んで死んで死 んで死ん    で死 んで死んで死 ん で死 んで死 んで死ん    で死んで死 ん   で死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死ん    で死んで死ん

で死んで死んで 死んで死んで死   んで死んで死んで死んで死んで死ん   で死ん で死んで死んで死んで死ん    で死んで死んで死んで死んで死んで死んで死ん   で死んで死んで死んで   死んで死んで

死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで    死んで    死んで死   んで死ん で死んで死んで 死ん で死んで死んで死んで死んで死ん    で死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死       んで死んで死 で死んで死んで死 んで 死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死

で死んで死んで死んで死 んで死んで 死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで 死 んで死ん で死んで   

     死んで死死死死死 死 死死死死死死死 死死死  死死死 死死死死 死死 死死死死死死 死死死死 死死 死死死 死死死死 死死死死 死死死 死死死死 死死 死死死死死死

死死死 死死死 死死 死死 死死死 死死死 死死死死 死死死死死死死死 死死 死死 死死死死死死死死死死死 死死死死死死死死 死死 死死死死死 死死 死死 死 死死 死死死死死死死死死死     死死死死死 死死死死 死死死死死死死死       死死死死死死死死死死死 死死死死 死死死死死死死 死死死死死死死死死死死死死死 死死死死 死死 死死死死 死死死死 死死死死 

死  死死    死死死死死死死死死 死 死死 死死死死死死死死 死死死 死死死死死死 死死死死死 死死死 死 死死死 死死死死  死死死 死死死死 死死死死死死死死 死死死 死死死死死死死死死死死死死死死死 死死死 死死  死死死 死死死 死死死死死 死死死死死 死 死 死死死 死死  死 死死死死死死死 死死死死                   死死 死死死 死死死

死死死死死  死死死 死死 死死死 死死死死 死死 死死死 死死死死死死死死死死死死 死死死 死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死 死死死死死死死死死死死死死死死死死

   死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死



 それでも地獄は終わらない。無限の死と再生は、終わることを許さない。


 延々と永遠に、

  脹痛と刺痛と重痛と灼痛と冷痛と酸痛と絞痛と鈍痛と激痛の輪廻を

   回り続ける。

   回り続けるしかない。

   回り続けることができる。

   回り続けなければならない。


 なぜなら死なないのだから。

 生き返るのだから。


 そう。

 俺は、おれは――――。






「………………………ぁ、…………………………ぁぁ………………………………………………………、…………………………………………………ぁ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ぁ…………………………………………………………………………………………………………。…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ぁ」






     死






 イタイ。クルシイ。コワイ。オソロシイ。サミシイ。ツライ。

 ぐるぐると、意味のわからない単語が、思考に浮かんでは消えていく。


 心が傷付くから、イタイのだ。

 心が駄目だから、クルシイのだ。

 心が小さいから、コワイのだ。

 心が弱いから、オソロシイのだ。

 心が霞だから、サミシイのだ。

 心が脆いから、ツライのだ。


 いっそ心など、消えてなくなってしまえばいいと。

 いったい何度、そう思ったことだろうか。


 なのに、できなかった。

 心が死んでしまえば、きっとこんなオモイになることは、なかっただろうに。

 心が壊れることも、狂ってしまうことも、きっとなかっただろうに。


 けれど、ココロの中には、シアワセなオモイデがあった。


 父が背負ってくれた背中の感触。……その温度が、わからない。けど、確かに感じたのだ。


 母が作ってくれた料理の味。……その味が、わからない。けど、美味しかったのだ。


 親友と笑い合った日常。……どんなことを話したか、わからない。けど、可笑しかったのだ。


 幼馴染の告白。……その意味が、わからない。そのとき、自分が何を思ったのかも、わからない。


 レイラとの掛け合い。……オモシロかったなぁ。


 グランとの修行。……ジュウジツしていたなぁ。


 ラカとの喧嘩。……タノしかったなぁ。


 オーデに慕われたこと。……キハずかしかったなぁ。


 サーシャの笑顔。……それさえキオクしていれば、ココロがなくなることはない。


 …………。…………自分の心?


 そんなの、もうどうでもいい。






     ◇ ◇ ◇






 視界が青赤白黒灰金銀紫空緑橙紺黄茶桜に明滅し、目の前にあるはずの世界を認識できない。

 目玉がひっくり返って視神経が断裂する。比喩ではなく、眼球が眼孔から飛び出した。


 どうして俺は、こんなところにいるんだろう。

 俺はいったい、なんなんだろう。


 水の中を揺蕩う感覚。

 もう何も見ることができないのに脳内は、虹色に明滅するブラウン管テレビの砂嵐を捉えていた。

 それを、虚ろなココロで見つめる。


 ぼうっと。

 ただ、ぼうっと。


 テレビの砂嵐の中に、映像が映る。

 ありもしない、幻想の悪夢が映る。


 ただただ、それを見つめる。

 虚ろなココロで、壊れたココロで、歪んだココロで、狂ったココロで。


 悪夢が、映る。


 それは死の記憶。

 生のない、もしもの世界。

 誰もが悲しんで、救われない、死に溢れた、そんな世界。


 そんな、悪夢。






     ◆ ◇ ◇






 車に轢かれて死んでしまった、自分の姿が見えた。

 右腕は折れ、指はあらぬ方向に曲がり、爪は剥がれている。

 肌は擦り切れ、頭部からザクロのような色をした液体がどばどばと湧いている。


 傍らで、幼馴染が泣いていた。

 ミコトの訃報を聞いた親友が、膝を付いている。

 葬式が開かれた。母は絶望して、生気のない目をして、涙さえも流さない。


 ――ああ、よかった。みんな、生きている。






     ◆ ◇ ◆






 爆発によって死んでしまった、自分の姿が見えた。

 右腕は吹き飛び、左手の指は潰れている。

 火傷だらけの体は、ひどく醜悪だ。


 レイラが表情を歪めている。

 サーシャが死骸に泣きついている。


 ――ああ、よかった。俺は生き返った。だから、こんな光景はありえない。






     ◆ ◆ ◆






《浄火》の使徒に焼殺された。全身から火が噴き上がり、体の芯まで焼き尽くす。

 角熊に食い殺された。生きながらにして食われ、甚振られ、殺された。誰にも見られることなく、その生涯を閉じた。


 ――でも、大丈夫。俺には『再生』がある。だから、みんなを救える。






     死 ◆ ◆






 やっと今、気づいた。


 そうだ。誰も心配なんかしなくていい。誰も悲しまなくていい。

 無限の命の、一つが死んだだけだ。十が死んだだけだ。百が死んだだけだ。千が死んだだけだ。万が死んだだけだ。


 だから大丈夫。

 俺は死なないから。


 生き返る人間が、万の命を失ったところで、いったいなんだ? どんな被害がある?

 命は尊い? くだらない。

 こんなに簡単に逝って、簡単に這い上がって来る怪物が、尊いわけがない。


 尊きを捨てろ。

 自身が思う貴きを、戒めろ。


 無限の命の一つの価値など、どうでもういいさ。必死に一つの命で生きている人と比べてみろよ。どう考えても釣り合わない。

 無限の内の一つは、無価値に等しいのだから。


 尊くない。貴いなどない。尊いなんてありえない。

 貴きを戒めろ。

 俺は、ミコトじゃない。






     死 ◆ 死






 なんちゃらの猫ってタイトルの絵本があるだろ?

 百万回も生き死にを繰り返した猫の話なんだけどさ。最後は生き返らなくて、死んじゃうんだ。


 今じゃもう、どんな話だったのか、頭が痛くて忘れちゃったけどさ。

 でもさ、アタマガイタイカラ、こう思うんだ。


 ――百万回死んだら、また百万回再生すればいいだけの話だろう? ってさ。






     死 死 死






 やっとわかったんだ。

 むしろ遅すぎたくらいだ。


 クロミヤミコトは生き返る。

 だから死んでも大丈夫だ、と。


 クロミヤミコトは決して終わらない。

 最後に無事だったなら、なんとでもなる、と。


 クロミヤミコトの、たった一つの命など、なんの価値もない。

 だから後回しにしても問題ない、と。


 クロミヤミコトは不死の怪物だ。

 だから、みんなの命のほうが大切なのは当然だ、と。


 みんなみんな、みんなの苦しみと死の運命を、クロミヤミコトが肩代わりすればいい。

 もう何も求めはしない。生きていてくれれば、それだけでいい。


 みんなのため? そんなこと言って、責任を押し付けたりはしないさ。

 俺は俺のために、みんなを生かすんだ。


 だから――――嗤え、嗤え、嗤え。






   死 死 死 死 死






 どこかで誰かが笑う。哂う。嗤う。


 やっぱり堕ちたと、寂しそうに。

 ようやく堕ちたと、嬉しそうに。




 ――嗤え、嗤え、嗤え――




 嗤う。嗤う。嗤う。

















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