第一一話 マーダー・スウィッチ
ケーキを食べ終わり、ミコトはほう、と吐息をこぼした。
レイラの自慢話と遜色ない……いや、それよりすごかった。
「ミコト、美味しかった?」
サーシャの質問に、ミコトは大きく頷いて肯定を示した。
「ガチで美味かったよ。ほんとお前の料理スキルって、振り切れてるよなぁ」
「えへへ、よかったぁ」
サーシャの笑顔を見ると、こちらの自然と微笑む。
褒めると、サーシャは本当に嬉しそうにするのだ。その顔をもっと見たいと思ってしまう。
麻薬やでぇ。
「ほんと、みんな、よろこんでくれてよかった」
サーシャの視線を追うと、食堂の面々が目に入った。
今、みんなはそれぞれの行動をしていた。
レイラは喜び奇声を発し、身悶えしている。
その姿さえ除けば、微笑ましいのだが……。
無表情にあーんしようとしているリースと、リースの無言の迫力に負けて、素直に受け入れたフリージス。
チャングはミコトでは届かない語彙力で、ケーキの素晴らしさを語っている。
それを、グランは黙って頷いて同意していた。あれは理解していない顔だ。
ラカは目を丸くして驚いている。
こんな美味しいものを食べたのは初めて、と呆然とした呟きが聞こえた。無霊大陸は砂漠だというし、こんな食事はなかったのかもしれない。
「……サーシャ」
「ん、なに?」
「今度、またさ。ケーキ食わせてよ?」
「――もちろん」
これから先、何が起こるかわからない。
エインルードに到着したとしても、完全に安全ということはないだろう。
けど、この光景をもう一度、何度でも見たいと思うから。
万回過ぎようとも、未来の約束をしよう。
「……それじゃあ、さっそくだね」
サーシャの言葉の意味が掴めず、ミコトは困惑。
サーシャの視線の先にはラカがいた。よく観察してみると、寂しそうな表情を浮かべている。
「……勘よすぎだろ、この子。まあそれはともかく、この場に曇った表情は不要だわな」
しかし、なぜそのような顔をしているのだろう。ミコトの中のラカは、もっとこう、何事にも突っ掛かっていくイメージがあったのだが。
いや、実はラカと屋敷で再開した二日前から、思い浮かんではいた。ただ、本人に訊くのは憚られただけで。
ミコトはサーシャを連れて、フリージスのそばに寄った。
ラカに聞かれるわけにはいかない。
「なあ、ちょっといいか?」
声を静めたミコトに、フリージスが訝しげに「なんだい?」と問い返した。
「ちょっと訊きたいんだけどさ。ラカを連れて来るとき、ほかの《無霊の民》はいなかったか? 具体的に言うと、四〇前のおっさんな? 名前はオーデって言うんだけど」
「うーん、いなかったけど……。リースは見たかい?」
「いえ、わたくしも見かけませんでした」
「だとすると、僕たちが来る前に買われたんだろうさ」
フリージスたちが奴隷商に来たのは昼過ぎ。つまり、ミコトとそう変わらない。
ミコトが去って、フリージスが来る。その僅かな間に、誰かが訪れたのだ。
「ちな、もしオーデがいたら、連れて来た?」
「おそらくね」
(……これはもう一度、奴隷商に行かなきゃな)
一度知り合った仲だ。連れて行った者が人道的ならいいが、もし苦しんでいるのなら、見捨てられるわけがない。
それに、もし連れて来られれば、ラカも気が楽になるはずだ。
とはいえ。そんな簡単な話でないことはわかる。
オーデの行方を掴むこともそうだが、見つけたあとにどうするのか、助けていいのか、という問題がある。
勝手に連れて行くのは駄目だ。それは窃盗になり、フリージスに面倒をかけることになる。
「そうだね……」
思案していたフリージスが、何やら決めたのか、視線をラカに向けた。
「ラカ、オーデが誰に買われたか、わかるかい?」
あまりに直球なフリージスの質問に、ミコトの背中にヒヤリと冷たいものが流れた。サーシャはあわあわしていて、あまり頼りになりそうにない。
その当人であるラカは、やはり表情を暗くしてしまった。
「あの野郎の名は……わかんねー」
「特徴で構わないよ」
ラカはしばらく頭を悩ませてから、ぽつりぽつりとその人物の特徴を言っていく。
「隻腕っつーのは、はっきり憶えてる。あと、髪は茶色で……たぶん、短かった。目は……駄目だ、思い出せねー。悪人面なのは憶えてんだがな、クソ。ンで……」
それらの特徴を聞いて、頭の中で何か引っかかりを覚えた。
その人物を、どこかで見たことがある……。
「ン、で……ああ、そうだ! 確かそいつ、奴隷商のクソ野郎に、こう呼ばれてた――」
必死に捻り出して、ラカは言った。
「――《カザグモ》、って」
ラカの口から、ついに出た、その単語。
それはミコトたちにとって、聞き覚えのある通り名だった。
「ラウス・エストック……!」
食堂が緊迫に包まれる。
サーシャは恐怖、ラウスは憎悪。グランと元傭兵だったチャングは顔を顰めた。
変わらないのはフリージスとリース、急な雰囲気の変化に付いていけないラカだけだ。
「この前ミコトくんから、王都にいるとは聞いていたが……ここでその名が出てくるとはね。さて、どうするか……」
「んなもん、決まってんだろ。――ぶっ潰してやる」
湧き上がる衝動――殺意のまま、ミコトは行動する。
「来い、ラカ」
「お、おい! どーしたんだよ、テメー!」
ラカの腕を引っ掴んで、ミコトは食堂を去る。
ミコトの雰囲気に飲まれていたサーシャは、食堂の扉が閉まる音で我を取り戻した。
「ま、待ってよミコト!」
あとにサーシャが続き、溜め息をこぼしたレイラも、あとを追っていった。
しばらく悩んでいたフリージスは、吐息をこぼして、グランに指示を送る。
「頼んだよ」
グランは頷くと、食堂を出て行った。
和気藹々とした空気が消えた食堂で、チャングがフリージスに尋ねる。
「止めなくてよかったんですか?」
「ミコトくんとの議論は面倒だ。アレはなかなか主張を曲げない。だから、グランを制止に向わせた。僕が追いかけてもいいけど、体力が持たないからなぁ……」
愚痴るフリージスに、リースが進言。
「フリージス様、ではわたくしが背負いましょう」
「うん、いらない」
即答である。
さて。
指示を出したフリージスであったが。
グランがそれを正しく捉えているとは、限らなかったりする。
グランが彼らに追いついたとき、ミコトとレイラは怒鳴り合っていた。
状況が掴めないので、いったん距離を置いて、聞くことに徹することにした。
「だから! すぐそばに敵がいるんだ! 今すぐ潰しに行かねえと……」
「だからこそ、逃げるべきでしょうが! あっちが襲い掛かってこないなら、出発まで屋敷にいるのがベストなのよ!」
「そうやって逃げ腰で、敵を放置したままか!?」
「放置ってのは、何も行動しないことよ! そういえば、フリージスがさっき言ってたわね。『この前ミコトくんから、王都にいるとは聞いていたが』……だったかしら? どうしてアタシたちには、何も言わなかったのよ!」
「それは……余計な心配をかけたくなかったからで……」
「じゃあなんで今、飛び出すわけ?」
ミコトはラカを見やった。それに、ラカは不愉快そうな表情を浮かべるが、ミコトは気にも留めない。
「足取りを掴めなかったから、行動できなかった。でも、今は手掛かりがある。今なら殺せ――」
ミコトが言い切る前に、睨み合うミコトとレイラの間に、割り込む者が一人。サーシャが表情を悲痛に歪めていた。
「どうしたの、ミコト? なんか、おかしいよ」
「おかしい……? 俺が?」
呆然と、ミコトが虚空を見る。
その目にはもう、殺意はない。感情すらなかった。完全な虚無だ。
数瞬後のことだ。
「あ、ぐ……!」
突然ミコトが頭を押さえて蹲った。
急変する状況に、グランも飛び出しかけた。その前に、心配が杞憂に終わる。
「どうしたの、ミコト、大丈夫!?」
サーシャが呼び掛けると、ミコトが目を丸くして、呆然としていた。
目に正気が戻っている。
「あれ……俺。どうして……。声が……」
しばらく混乱していたが、頭を振ると、すぐに立ち上がった。
「で、これからどうしよっか?」
あまりに急激なミコトの変容に、皆が訝しげにしている。そんな中で、ミコトは臆することなく発言する。
「ぶっ潰すって方針は変わったけど、俺は行くつもりだ。オーデを助けねえとな」
ミコトの発言に目を瞬かせたのはラカだった。信じられない、という表情。
オーデという名に心当たりがないレイラ、グランの三人は困惑していた。
サーシャはミコトとフリージスの会話を聞いていたので、多少の理解がある。
「ラカと一緒にいたっていう、《無霊の民》のことだよね?」
「そうそう。そいつとはちょっとした面識があってさ、見捨てるのは心苦しいし」
「わかった、協力する!」
即断のサーシャ。考える一瞬すらなかった。
その発言に、ミコトとレイラが戸惑った。
「ちょ、ちょい待て! これはお前に関係ないだろ?」「ちょっと考えるくらいしなさい!」
「理由を聞いて、放ってなんか置けないよ!」
「「うわぁ……」」
このとき、ミコトとレイラの思考はシンクロした。
((出たな頑固))
こうなったとき、サーシャが絶対に譲らないことを、二人は知っていた。
仕方ないか、とレイラがぼやいて、協力の姿勢を見せる。
「なんで……」
彼らの会話に付いていけないラカに、サーシャがニヤリと、少し様になってきた笑みを浮かべた。
「ラカの大切な人だから、だよ?」
唖然と。
口を開けて、信じられないという風に。
さて、もう状況は掴んだ。
グランは彼らの前に姿を見せる。
「あ、グランじゃん。止めても無駄だぜ。俺たちは行くのだ!」
危惧するミコトたちは、いつでも逃げ出せる姿勢に変わる。
彼らは知っている。この近距離ではグランに、全員でかかっても倒せないということを。
もっとも、それは杞憂なのだが。
「安心しろ。俺はただ、護衛に来ただけだ」
頼みを曲解したグランが、フリージスの思惑を思いっきり無視して、肯定の意思を見せたのだった。
◇
オーデの救出という方向になった。
というわけで、ミコトとグランは今、奴隷商人の前に立っていた。
ちなみに今、ラカはここにいたら面倒になると考え、少し離れたところで待機してもらっている。
荒くれ者が多い中にサーシャを連れて行くのも不安なので、レイラとともにラカと待機だ。
「なあ、ちょっといいか?」
「あん? 誰だい、客か? って、ん? その若白髪……。ああ、この前の兄ちゃんじゃねえか」
「その憶え方はいらなかったなぁ!」
思わず怒鳴ったミコトだが、平静を失って口論するわけにもいかない。
湧き上がる怒気を抑えて、ミコトは尋ねた。
「ちょい知りたいことがあってさ。ここにラウスって野郎が来なかったか?」
「あぁ? んー? どうだったかー?」
わざとらしく顎を撫で、片方の手をミコトに差し向けた。
ミコトはその行動が何を意味するのかわからなかったが、代わりにグランが奴隷商と握手をした。
「何やったんだ?」
「情報料だ」
声を静めたミコトに、グランもまた静かに返した。握手の数秒で、金を受け渡したということか。
奴隷商は握手した手を背中に回すと、ニッコリと笑った。
「ああ思い出した! あのクソ野郎のことだな。来たよ来た、三日前にな」
「どこにいるかとか、わかるか?」
「や、そりゃわかんねえな。だが何をするのかは、だいたい予想が付く」
奴隷商はしばらく悩んでいたが、「ま、金貨を渡されたらなぁ」とぼやいてから、あっさり口を開いた。
「兄ちゃんら。最近下層北区で流行りの治癒術師、知ってるか?」
グランは首を振ったが、ミコトにはあった。
三日前、アスティアの捜索中に出会った者たちが、その話をしていたのだ。
「少しぐらいは、な。ほとんど何も知らないのと一緒だ」
「んじゃ、一から説明してやる。そいつの名はフィンスタリー・トゥンカリー。こんな掃き溜めみたいなところで、医療費も取らずに治癒術師やってる、珍妙な老人だ」
その人物が、ラウスとどう関わるのだろう。
悩んでいたミコトの前で、奴隷商はちょうどその答えを口にした。
「腕はすごいらしいぜ? なんせ、失った部位を戻すっていう話だからな」
ミコトとグランは絶句した。
治癒術師の実力はピンからキリまであるが、失った部位を回復させるなど、そうそうできることではない。
「そういや、知ってるか? ラウスの奴、隻腕になってやがったんだ」
「ああ、それ? 俺が吹っ飛ばした」
「はっは、面白い冗談だ」
冗談ではないのだが、話が拗れるので何も言わない。
「だからたぶん、奴はその老人に治してもらうんだろうよ。《無霊の民》の右腕を引っ付けて、な。いや、時間も経ったし、もう治してもらってるかもな」
オーデの右腕が使われる。
つまりそれは――オーデの右腕を切り離す、ということ、か。
「あの……ゲスがッ!!」
再燃する殺意。一歩踏み止まり、冷静に戻る。
「なあアンタ、その老人がどこにいるか、教えてくれ」
「悪いな、そこまでは知らねえんだ。噂じゃあ、怪我人の元に使者が――修道服の女が現れる、って聞いてるが」
修道服の女。最近見たことがある。
リッターの部下であるパラシュに、治癒術師を紹介したという人物。
黒い修道服を着た、紺色の髪の女性――バッサ。
「あの人が、そうなのか……?」
とにかく、フィンスタリー・トゥンカリーとバッサには関わりがあるらしい。
その彼女も、どこにいるのかわからないのだが。
グランに何か訊くことがないかと相談し合ったが、結局何も出てこず。
ミコトは礼を言って、奴隷商の前から立ち去った。
サーシャたちと合流し、ミコトは手に入れた情報と、三日前に出会った人物について説明した。
今回の件に、当たり前だが一番熱を入れているラカは、積極的に議論に入る。
「そのバッサとかゆー女といた、パラシュって奴に訊きゃいーじゃねーか?」
「そいつだって、どこにいるかわかんねえんだよ。貴族って、爵位低い奴は中層にも住んでるんだろ? 範囲広すぎ。リッターについても同様な」
貴族の屋敷なんて、案外あっさりとわかるものかもしれないが。
それを言うなら、下層北区で流行りの治癒術師に関しても、同じことだ。
「聞き込み、だね」
「それしかないでしょうね。手掛かりが少なすぎるし」
サーシャの提案に、レイラが同意した。
それなら、とグランが提案。
「何人かに別れよう」
ということで、それぞれ創作することになった。
ペアはサーシャとレイラ。ラカとミコト。一番強く、危険を跳ね除けられるグランは一人だ。
ミコトはレイラから『ノーフォン』を借りておいて、探索を始める。
「それじゃ、行くぞ。さっさと見つけて、救出しちまおうぜ」
最近、探索してばっかりだな。と、ミコトは思った。
◇
下層北区の娼婦街。
その内、性行為が許可された店から出てくる、二人の人物がいた。
一人はここの娼婦。肌の露出が多い衣服で身を包んだ、二〇代と見受けられる女性だ。
もう一人は、先に挙げた娼婦の客――茶色い短髪と、目付きの悪い三白眼の男。
「よかったぜ、あんた。巨乳はやっぱり最高だな」
「そりゃあよかったわぁ。あんさん、すごい激しいんですもの。性欲強いですねぇ。今も腰がくたくたですわぁ」
娼婦――テュアーテは、妖艶に微笑んだ。
聞く者が聞けば顔を顰める会話だ。
しかし、ここは娼婦街。『そういう行為』が当たり前なここで、そんな潔白な者はいない。
悪人面の男――ラウス・エストックは、少しだけ不思議そうな表情をする。
「なんだろぉなぁ。なぁんでか昨日から、抑えらんねぇんだよなぁ」
「薬でもやりましたぁ?」
「いんや、そんな憶えはねぇが……、心当たりと言えば……」
何かをラウスが思い出す。
『両手』を合わせてから、左腕で『右腕』をぽんぽんと叩いた。
彼の『右腕』は左腕と、少し肌色が違っていた。
「右腕を治してもらって、興奮しちまったんだろぉさ」
「……? まあ、なんでもええわ。お金もたんまり貰ったし、うちとしては万々歳だわぁ」
「はっはっは! ヤり合った直後に金の話題が出ると、男としちゃぁ情けねぇなぁ!」
そういうラウスだが、実際には愉快げに笑っていた。
所詮、娼婦と客の間にあるモノなど、金しかない。それくらい理解していたし、そういう関係をラウスも望んでいた。
「じゃぁな、テュアーテ。王都に来ることがあれば、また相手してくれよ」
「ほどほどになぁ。あんさん、好いたモンがおるんでしょう?」
テュアーテの指摘に、ラウスは少しの間目を丸くしてから、痛いところを突かれたと、頭をガシガシと掻いた。
「ふん。好きでもない男に抱かれる仕事に就いた、お前ほどじゃねぇさ。これから、頑張って腰を振れよ」
「今日はうち、これで上がりなのよぉ。どっかの誰かさんが激しくて、お母様が許してくれたのぉ」
テュアーテが言う『お母様』とは、実際の家族ではない。
職場の決まりで上司を『お母様』、先輩を『お姉様』と呼んでいるに過ぎず、血の繋がりは皆無だ。
「そぉかよ。それじゃ、明日から、に変えとくぜ」
「あんさん、負けず嫌いねぇ」
二人の会話は、それで終わりだった。
ラウスは疲れた腰をポキポキと鳴らし、その場を立ち去った。
入り組んだ路地裏に入り、拠点に戻る中、ラウスは思考を巡らせる。
右腕は戻った。性欲も発散した。これで当初予定していた王都の用事は、すべて済んだ。
(だが……)
ラウスの脳裏に、若白髪の少年が思い浮かぶ。
あの少年は二カ月前、ラウスの右腕を道連れに自爆し、死んだはずだ。息を引き取った姿も、この目で見ている。
(息を吹き返したにしては、傷跡がねえ。だとすると……幽霊か、魔物か)
幽霊というのは、いくつか目撃証言がある。実際、元は魔物と大差がないから、あり得る話だ。
魔物とは、残留思念が瘴気によって形を得たモノだ。簡単に言えば悪霊である。
悪霊を含め、幽霊というモノは、強い未練によって生まれるのだ。
(若白髪の亡霊……抱いた未練は、いったいなんだ? 《操魔》への心配? つまり、《操魔》がここにいる? いや、俺を追ってきたとき、そばに《操魔》はいなかった。未練だらけの亡霊が、未練から離れるはずがねぇ。っつーことは……俺への殺意?)
その思考は完全に的外れなのだが、『再生』を知らないラウスは、危惧を深めていく。
思い出すのは、魔物への対抗策だ。
魔物は肉体を持たない。魔術を含む物理攻撃は、そのすべてが効かない。
だが、対抗策がないわけではない。要は魔物を構成するモノと同質な――つまり、魔力があればいい。魔力弾をぶつけるのだ。
しかし、ラウスの魔力制御能力は、それほど高いわけではない。
近接戦闘に役立つ風属性魔術は一通り憶えているが、ラウスは魔力資質が高いわけではないのだ。強力な魔力弾など使えない。
(ヘレンに頼めば、一瞬で葬れるんだろぉが……、アレは俺の敵だ。ほかの奴はともかく、ヘレンにだけは放り出せねぇよ)
となれば、これからの行動は決まったも同然。
「さっさと王都を出よう」
結論――逃げよう。
幽霊、ガチで存在します。




