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エピローグ Start In Life

Start In Life

 巣立つ・門出する







 魔王教に勝利した後日。

 プラムの宿屋の一室で、ミコトはベッドに腰掛けていた。


 ミコトが着ているのは、新調した白黒の衣服だ。

 ファルマで購入したのはすでに燃えてしまっているので、新しいものが必要だったのだ。


 その彼の掌で展開されるのは、青い魔法陣だ。

 無駄なく効率的に、細かく構築する練習をしている。


 ふと、窓の外の騒がしさが気になって、構築をやめて外を覗いた。

 中央通りを忙しなく行き交う警備員たちの姿が見えた。彼らは門に向けて走っていた。

 おそらく、ガルムの谷の調査だろう。ミコトは聞こえてきた話の内容から判断した。


 ミコトは改めてベッドに座り直して、ぼうっと窓から空を見た。

 雲一つない、青々とした空だ。


 あの魔王教襲撃の一件は、まったく公になっていない。

 プラムを領土に含む貴族も現れず、フリージスが面倒を被るという事態にもならなかった。

 これが不幸中の幸い、という奴なのだろうか。不幸の度合いが大きすぎて嫌になる。


 地球換算で二週間もない異世界生活を思い返せば、どうにも死の記憶が目立った。

 思い通りにならない現実に挫いて、臆病風に吹かれてみっともなく震えて。なんてかっこ悪い。


 やはり死というショッキングな必然は、人生に一度だけでいいと思う。

『再生』が役立ったのは確かだが、できれば使うような事態になってほしくない。

 もう二度と経験したくないと切に願うが、この生活を続ける限り逃げられないのだろう。


 魔王教の中核を担う《虚心》の使徒――バーバラ・スピルス。最高脅威度の《浄火》の使徒。

 彼らを討つことは成功した。

 とはいえ、魔王教が壊滅したわけではない。魔王教という組織が不明瞭すぎてハッキリしないが。


 最近はわけのわからないことばかりが起こる。

 何を考えているのかわからない仲間。千年前の神話に関わるらしい、正体不明の敵。

 これから先、何が現れるかわからない。


 だけど、とミコトは思う。


 この世界に来て、そこで出会った少女に、命も心も救われた。

 だから、決して不幸なんかじゃない。


 だから、戦ったっていいじゃないか。

 守りたいと声高らかに叫ぶ。それを否定する奴には、全力で立ち向かおうと思う。


 これは義務なんかじゃない。

 権利なんていう、誰かに与えられたモノでもない。

 ミコトはミコト自身の意思と欲で、これからも生きていく。


 それは素晴らしい生きがいだと、ミコトは信じている。


「ミコト、そろそろ行くよー!」


「んぉ? おお、すぐ行く!」


 扉越しに声をかけられて、ミコトは立ち上がった。

 部屋を出ると、すぐそこにフードを目深に被った、銀髪赤眼の少女がいた。

 少女――サーシャはミコトを見るなり、温かな微笑みを浮かべてミコトの右手を握った。


「ほら、行こう!」


「――ああ、そだな」


 階段を降り、食堂を抜ける。

 従業員には頭を下げた。グラン関係で迷惑をかけてしまった人だ。

 ミコトは異世界に来て、初めてまともに敬語を使った。一応これでもコンビニのバイトをしていたのだ。敬語などやろうと思えばできる。


 少し前までのミコトならふざけていたのだろうが、今の彼は主人公ではない。

 ミコトは普段通りの自分を演じてきたつもりだったが、どこかで『敬語を使わない主人公』でも混ざっていたのだろう。


 そうして、ミコトとサーシャは宿屋を出た。


「遅い!」


 ツリ気味の目をさらに吊り上げ、ミコトの姿を見るなりぷんすか怒鳴る少女がいた。

 亜麻色の髪と緑眼の少女だ。彼女こそがサーシャの姉、レイラだ。


「わりぃわりぃ。いやさ、ぼうっと空眺めてた」


「なお悪い!」


 ちゃんと返ってくるツッコミ。ボケがいがあるというものだ。


「ミコトとレイラ、仲良しだねー」


「せやろ」「ないない」


 だたまあ、息はあまり合っていないが。

 こんな感じだが、レイラもずいぶんと変わったように思う。

 具体的に言えないが、ノリがよくなった。


「サーシャはねえ、コイツに気を許しすぎなのよ! 見たでしょ、あの、えっと……」


「雄の象徴?」


「黙れ小僧! とにかく、男なんてのはみんな野獣なのよ。不用意に近付いたら妊娠しちゃうわ」


 あと、シスコンがオープンになり、レベルが増した。

 ここまで来ると業が深い。


「一応俺も男なんだが……」


 グランが気まずそうに呟いた。

 彼の左腕には包帯が巻かれていたが、左手の薬指に隙間がある。

 それは日光を浴びると、キラリと輝いた。


「グランはケモナーだからな。あんまりそういう心配してないんじゃないか?」


「けもなぁ?」


「簡単に言うと、獣族好き、かねぇ」


「なるほど」


 もっと詳しく言うと『獣姦』なんてものが出てくるので、やめておく。

 ちなみに、グランをケモナーとは言ったが、彼の種族からして自然の摂理であって、特殊性癖的なものではない。


「確かに、俺は獣族が好きだ。人族には一度として欲情したことがない。……やはり耳はいい。特に垂れ気味の獣耳というのは――萌える」


 いや、やはり特殊性癖か。

 今回の件で一番変わったのは、もしかするとこの男なのかもしれない。


「で、もう一人の男であるフリージスさんは、どう思ってるので?」


「心配しなくても問題ない。僕は生まれてこの方、性欲というものを感じたことがなくてね」


 フリージスの仙人なセリフを聞いて、グランはぽつりと呟く。


「……インポか」


「グランはほんとに、本当にマジでオープンになったよな!」


 最初の寡黙な印象はどこに行ったのか。

 自制心がクレイモアとともに、ぽっきりと逝っちゃったのか。


 と、そんな会話をしていると、馬車の御者台から声。

 紫紺の瞳と髪を持つ、無表情なメイド――リースが、のたまう。


「フリージス様。もしも昂ってしまわれたなら、わたくしにおっしゃってください。いつでもお待ちしております」


「何言ってんのリースん!?」


 もしかするとこれは、リースなりの冗談だろうか。

 顔を注意深く見てみると、無表情の中にどこか真剣な色が見える。

 あれ? 本気?


「じゃあ、もしそんなことがあって、君が受け入れてくれるなら、頼んでみようかな」


「フリージスも乗るんじゃないよ!?」


「いつでもお待ちしております」


「もうイヤこの主従」


 まさか自分がツッコミに奔走するときが来るとは。屈辱の極みである。


(待てよ?)


 天然頑固のサーシャ。

 シスコンのレイラ。

 ケモナーのグラン。

 よくわからないフリージス。

 主人崇拝のリース。


 このパーティのメンバーを鑑みて、導き出される結論は――


「もしかすると、もしかしてだけど? このパーティで一番まともなのって、俺……?」


「それはないんじゃないかな」


 サーシャの控えめなツッコミが、ミコトの胸を貫いた。


「こ、この話題はやめよう。っていうか、さっさと行こうや。急いでたんじゃねえの?」


「ああ、そうだね。今のうちに出発しておかないと、今日中に次の町に辿り着けない」


 フリージスが頷き、馬車の中に入っていく。

 グランとレイラが乗り込むのを見ながら、ミコトは、


「サーシャ」


「なに?」


「まあ、なんだ。これからも、よろしくな」


「――こちらこそ」


 改めて言うと恥ずかしくて、ミコトは頭を掻いた。


「早く来なさいよ。あとミコトはサーシャに近寄んな」


「ったく、レイラの奴ぁ……。んじゃ、行こうか」


「うん」


 そうして、全員は馬車に乗り込んだ。

 馬車が進んでいく。門を出て、草原を駆けていく。


「――さあ、門出のとき、ってね」







はい。エピローグでした。

いや、長かった! ほんとは夏休み中に終わらせるつもりだったんですがね……。

今章の役割は、主人公陣営三人の過去バナでした。


特に難産だったのはミコトですよ。二重人格でもないのに性格が変わる設定とか、書きにくいったらありゃしない。これでもまだこの子の精神的問題が解決してないんだけど、次の問題は楽しんで書けそう。

とりあえず今章を経て、彼は逃げなくなります。布石は打った、四章早く書きたい!


次章に入る前に、幕間と断章があります。

特に断章については、本編には関係なく補完もされませんが、知っておいてほしい話です。『異世悔鬼』の鬼が主役。


三章『異世皆記』は日常回で、前編のエピローグみたいなもんです。

舞台はアルフェリア王国王都アルフォード。書きたいネタや伏線を入れたら、さくっと終わるはず。大丈夫、プロット練った!


長々書きましたが、ここらで筆を置くとします。

誤字脱字、感想があればください。ありがとうございました!

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