第三三話 死して見た景色
これは夢だ。
『意識』は目の前に広がる光景を見て、すぐに察した。
『意識』の目の前に立つのは、一人の青年だ。
がっちりとした筋肉質の体格、真っ赤な赤い髪に、宝石のような青い瞳。
歳は二五だと、なんとなくわかった。
炎のような男だ。それが『意識』が覚えた第一印象だった。
その男が、こちらに向かって語りかけてくる。
「よう、『 』。今度こそ決着を付けようぜ」
「……えー」
「えー、じゃねえよ! 戦おうぜ、何が不満なんだ!?」
「いやだってさ、なんで俺が戦わなにゃならんの? めんどっちー」
男が『意識』に向けて語っていたのではなかった。相手は『意識』の、すぐ背後にいた。
声からすると、女だろう。男らしいというより、不真面目でふざけたような、いい加減な口調だ。
振り向こうとしたが、できなかった。視界は固定されているようだった。
「だいたいさ、俺とお前がガチンコで戦ったら、ここら一帯どうなると思ってんだよ?」
「お前とシリオスにアクエス、あとグロウスの奴がいれば、自然なんて元通りだろ?」
「そう問題じゃねえっつの脳筋バカ!」
女の、あからさまなため息が聞こえた。
ずいぶん苦労しているらしいと、『意識』は同情した。
「だいたい、なんで俺なんだよ? テンパスとでもヤってろよ」
「あ、あいつに関わるのは御免だぞ! 男色だぞあいつ! クールなフリして男の尻を狙う変態だぞっ!」
「食われちまえー! 掘られろー!」
「じょ、冗談でも言っていいことと悪いことがある。俺が好きなのは、おま……」
「とりまテンパスに『イグニスがいつでもいいらしい』って言っとくか。……っと、わりぃ。さっきなんて言おうとしてたんだ?」
「い、言わねえよ! それとそのセリフ、アイツには絶対言うなよ、絶対だぞ!?」
「フリですね……っておいおい。な、泣くなよ……」
さっきの同情を返せ、と『意識』は呆れた。
そうやって弄っていたら、戦いを申し込まれるなど当然だろうに。
きっと彼は、ものすごく鬱憤が溜まっているんだろう。
しばらくアホみたいなやり取りが続いた。
いつになったらこの夢は覚めるのだろうか。
と、暇にしていると、夢に新たな登場人物が現れた。
「おーい、どこだなんだい、『 』? って、イグニス、ここにいたんだ。ねえ、『 』を知らないかな?」
一人の女が、丘を登ってきた。
純白の髪と青い瞳の女性だ。穏やかな笑みが印象的だった。
「――あ、『 』、ここにいたんだ」
「どしたのスピルス? なんか用か?」
「ああ、うん、まあね。ボクねぇ、グロウスの家でお菓子作ったんだ。今は焼いてるところなんだけど、どうだい? 食べる?」
「おっ、いいの?」
「当たり前さ。自信作でね、真っ先に君に食べてほしいんだ」
「そういうことなら、もらおっかなー」
「ついでに、イグニスも食べるかい?」
「ついでかよ! ……いただかせてください」
ああ、とても楽しそうな光景だ。
自分のことじゃないのに、こんなにもうれしい気持ちになる。
『意識』の背後から、楽しそうな笑い声。
顔も名前もわからぬ女の人も、この日常が大好きなんだろうな。
「んじゃ、行くか」
地面を踏み締める音。
背後の女に、『意識』は追い抜かれた。
今まで声しか聞こえなかった女の、背中を見た。
腰あたりまで無造作に伸ばした、白髪が混じった漆黒の髪。
女が振り向いた。
顔が見える。かと思ったが、そうはならなかった。
黒い靄が、女の顔を隠していた。
「――なあ、お前はどうなるんだ?」
刹那の間もなかった。
青い空が、緑の丘が、赤の男が、白の女が。
この夢の世界すべてがモノクロになり、時の流れは止まっていた。
この世界で動けるのは黒の女と、最初から体のなかった『意識』だけだった。
女との視線が絡んだ。目は見えないが、そんな気がした。
「お前は生者でいられるか? それとも、道化の死者に堕ちるか?」
世界が崩壊する。
バキン、と空間がガラスを粉々にしたかのように砕け散っていく。
夢に残ったものは、上下左右もない、黒一面の空間だ。
「――俺に、答えを見せてくれ」
その言葉を最後に、夢は完全に崩壊した。
◇
――ここは、どこだろう。
世界を漂う、数えきれないほどの青い光。
それらが重なって、世界が青く、青い、青に染められていく。
綺麗だ。
感嘆とともに呟こうとして、発する口がないことに気付いた。
青い光に手を伸ばそうとする。
けれど、伸ばす腕はなかった。
そして今、ようやく体がないことに気付いた。
ずっとともに在ったはずなのに、今は何も感じない。
自分という存在を感じられない。
ただわかるのは、自分が幾多もの光の、一粒に過ぎないということ。
自分という存在を認識できない。
自分は誰だっただろうか。
俺? 僕? 私?
男? 女?
人? 犬? 猫? 鳥?
植物? 大地? 大気? 火? 水?
わからない。
わからない。
わからない。
けれど、不安はなかった。
自分という存在は、終わったのだ。
なんとなく、それがわかった。
生まれ落ちた、すべての存在が持つ命が終わり、世界に還元されていく。
それだけの話だ。
――――?
声が響いた。
知っている声だ。たぶん男の声。まだまだ若さを残した、ちょっと高めの声。
そうだ、思い出してきた。
歳は自分と同じで。
白髪が混じった黒髪で。
名前は……名前は確か……、
――クロミヤミコト――
……思い出した。
それは俺の名前。この一帯を漂う光の粒たちも、全部すべて俺だ。
砕け散り、霧散していく、クロミヤミコトの命、魔力。それに宿った心。残留思念と呼ばれるもの。
ああ、そうだ。
まだまだ終わってなどいない。
クロミヤミコトはまだ、終わらない。終われないし、終わりたくない。
大地から見上げ、大気から見下ろし、水から見守り、火から激励する。
世界に散っていくクロミヤミコトたち、そのすべてが思い出し、一点を見つめる。
炎の海の中で倒れ伏す、クロミヤミコトたちの体。
フリージスからもらった火鼠の外套も焼かれ、皮が焼け、肉が焼け、骨が焼けていく。
明らかに死んでいる。
けれど、『再生』は発生しない。
クロミヤミコトの残留思念が見守るのをやめるか、完全に世界へ還元されるまで、『再生』は発生しない。
《浄火》が、体へと近付いていく。
炎の海が割れてできた道を、一歩一歩と歩み寄る。
まだだ。
まだ、まだ、まだ……。
炎から抜け出すそのときまで。
拳が届く、その距離まで。
まだだ、まだ消えるな、俺たち。
まだまだ還元されるな。耐えろ、耐えろ。
俺の光が、世界に吸い込まれる、そのときまで。
自分の意識が、世界に溶けていく。
もう少し、もう少しだけ、待ってくれ。
まだまだ、もうちょっと、あと少し、その一歩を――!
――起きろ、ミコト……ッ!――
そう言って語りかけたのを最期に、光は世界へと溶けていった。
――勝てよ、俺――
◇
残留思念は世界へと溶けていった。
そうして、理を外れた奇跡が起こる。
その一瞬は刹那だ。
潰れた臓器が。
砕かれた骨が。
焼かれた肉が。
燃えた皮膚が。
――『再生』する。
夢から浮上していく。
意識が覚醒する。
軽い酩酊感は、すぐさま吹き飛ばす。
「――――ッ!!」
声にならない絶叫を上げ、黒宮尊は復活した。
体を覆う炎はない。それでも、未だ錯覚する熱と、死にゆく恐怖があった。
怖い。
熱い。
痛い。
死にたくない。
そう思ったときだ。
――勝てよ、俺――
この世界のどこかから、そんな声がした。
そんな気がした。
だから。
「俺は、生きてるんだ……!」
今まで何をしてきたのか、なんのためにここにいたのか、何がしたかったのか。
散り散りになった思考を束ね、再構成する。
ズキリ、と頭痛がした。
その痛みが、生きていることの証明のように思えた。
「ぇしぁァ、ぃあぁあぁあぁぁあぁぁあああああああ……」
視線の先、すぐそこに《浄火》がいた。
残留思念からの記憶は継続されないらしい。
ミコトからすれば、一瞬で《浄火》が目の前に移動したように感じただろう。
けれど、不思議と戸惑いはなかった。
記憶は繋がらなかった。その代わりに、想いは受け取った。
(だから安心しろよ、俺ども)
そしてミコトは、《浄火》に目掛けて駆けた。
魔術を使う時間さえ惜しい。『最適化』で最大限の力を発揮した拳で、敵に立ち向かう。
「おおおおおおおああああああああああああああああああああああ――――!!」
待ち受ける炎の男は、火傷だらけの顔を喜色に歪め、両腕を広げた。
それは、想い人を抱き締めようとする姿のようだった。――だが。
「テメェがキスすんのは、俺の拳と地面だァッ!」
ミコトの拳が、《浄火》の顔面に突き刺さった。
「ぐ、ごふぅおっ……」
男の体が一瞬、空中に浮いた。二、三回転して、地面を転がる。
男の数少ない歯が砕ける感触と、拳に走る激痛。
――構うものか。
《浄火》は立ち上がろうとしていた。上体を起こし、尻を軽く上げた、不格好な姿だ。
「手伝ってやる、ぜっ!」
その《浄火》の顎を、思いっきり蹴り上げる。
人体の限界に迫る力によって、体が浮き上がった。
「オラァラララララァッ、ダァララァララララァッ!」
稚拙ながらも立ち上がった《浄火》の腹部に、ラッシュを叩き込む。
「ぎひひゃはぁ! ぁづがぢぃなァ、だどぃぃなァ、ぃあずぅ!」
《浄火》は我武者羅に手足を振り回す。グランと比べることすらおこがましい稚拙さだ。
しかし赤いオーラを纏った一撃は、必殺の威力を秘める毒手。その輝きはグランを凌駕する。直撃すれば、一瞬で死に至るだろう。
ミコトには魔術を使う余裕はない。だが、『最適化』がある。
鋭くなった感覚は《浄火》の攻撃を確実に捉え、掠りもしない。
「――お、ラァ!!」
ミコトの本気の一撃が、《浄火》の腹部に深く突き刺さる。
癒着した奇形の口から、ごぼりと血が溢れた。ミコトの攻撃は、確実に敵を追いつめている。
予想通りだ。ミコトはニヤリと笑った。
《浄火》の使徒は、接近戦では高威力の爆炎は使わない。いや、使えない。
それは微かに残った理性か、それとも生存本能かはわからない。どうでもいい。
ここで大事なのは、使えないという事実のみ。
《浄火》――それは千年前、魔王を討伐した勇者の内の一人、イグニスの呼び名だったはずだ。
目の前にいる敵本人も、火属性以外の魔術を無効化する異能を使う。それはまさに、『浄火』と呼ぶべき力ではないか。
炎を操る力を持つ。
なら、なぜ《浄火》は、火傷をしている?
その答えはすぐに思い至った。
――《浄火》の使徒には、火への耐性がない。
魔術の火と同じだ。
魔術は世界を歪めて作り出した現象だが、柔軟に性質を変えられるものではない。一工夫を加えるか、火鼠の装備をしなければ、術者にさえも牙を剥く。
使徒の能力も、魔術という存在も、突き詰めていけば同じだったのだ。
だが接近戦に持ち込むには、炎の壁を越えなければならない。
その壁を突破できるのは、《浄火》に執着されていて、決して死なないミコトしかいなかった。
そうして考え付いたのか、死に待ち作戦。
《浄火》を本命の戦場から遠ざけ、折りを見て死ぬ。
残留思念で『再生』を抑え、近付いてきたところで反撃――という戦法だ。
その作戦は、大成功だった。
思惑通りに《浄火》の懐へ潜り込んだミコトが、左腕を腰に矯める。
そういえば、左腕も元通りになったんだな、と戦闘に特化した思考の隅で思った。
治っていたのなら丁度いい。今度は左腕もどんどん活用していこう。
「五体、大・満・足っ! ァァアアアア!!」
途切らせるな、繋げろ。
たとえ激痛があっても、手を緩めるな。
たとえ手がなくなっても、足を出せ。
たとえ足がなくなっても、噛みついてみせろ。
たとえ体が使えなくなっても、心でだけは負けるな。
たとえ死んでも、道連れにしてみせろ。
「ゃるォぜ、……すぅぅぅああああああああああああああああ!!」
「おおおおおおおおおおおっ、らあああああああああああああ!!」
ミコトと《浄火》の拳が交差した。
しかしそこで、ミコトの二の腕が赤いオーラに触れて、弾かれてしまった。
迫る焼け爛れた拳、直撃すれば必死の一撃が、迫りくる。
今でも精神的余裕がないというのに、もう一度死んだらどうなるのか。『再生』してもまともに戦える自信はなかった。
この一撃は、なんとしてでも避けてみせる。
「く……ぁあっ!」
最大の『最適化』を発動させる。今まで以上の激痛が、脳に焼け付く。
だというのに、痛みに苦しみを覚えることはない。思考はさらに戦闘に特化され、単純な強い想い以外が消え去る。
雲っていた思考が、晴れ渡るかのようにクリアになった。
改めて、眼前に迫る敵の拳を視界に映す。
刹那の時間が引き伸ばされ、どうするべきかを悟り、そのために必要な力を限界から引き出していく。
そして、ミコトは動いた。
弾き飛ばされた左腕を元に戻そうとはせず、逆に勢いに乗せて体を捻った。
体を傾け、敵に背中を見せるほどに回す。
その途中で、《浄火》の拳が耳を掠めた。あまりにも強い衝撃に、左の耳が弾け飛んだ。
だが研ぎ澄まされた思考の中では、痛覚は働かない。
そのままミコトは、右脚に力を込めた。
昨日、自分の身で味わった技だ。
あの獣族に比べれば威力はないだろうが、人体を限界まで酷使した今、放てない道理はない。
そして。
――ミコトの後ろ回し蹴りが、《浄火》の頬に突き刺さった。
がん、と足に衝撃が走るとともに、《浄火》の体が揺れた。
それは今のミコトにとって、突くには絶好の隙だ。
宙に浮いた右足を、震脚のように地面に叩き付ける。直後、左脚を前へ踏み出す。
大きい衝撃と小さな衝撃が、短いテンポで地面を叩く。《浄火》の懐に深く潜り込み、その短い間に右拳を振り上げた。
限界まで膂力を引き出す。ギリギリギリ、と筋が引き絞られる音がした。
――構うものか。
「歯ァ食いしばって味わえよ。これがテメェを倒す……そのための拳だ――――ッ!!」
次の瞬間。
ミコトの拳が、《浄火》の顔面に突き刺さった。
勢いよく砂利と岩だらけの地面に叩き付けられた火傷だらけの体躯が、白目を剥いてゴロゴロと転がっていった。
《浄火》が立ち上がる様子は、なかった。
◇
体力と精神力を底まで使い果たし、ミコトは地面に体を投げ出し、倒れ込んだ。
研ぎ澄まされた感覚が、徐々に正常になっていく。
がほごほ、とミコトは咳き込む。
酸素が足りず、体の芯まで痺れるような感覚があった。
精神状態が正常に戻れば、今の身体状態は耐えられるものではなかった。
《浄火》の攻撃によって左の耳は千切れ、余波は肉体をズタズタにしていた。
『最適化』によって酷使したため、筋肉痛をより酷くした痛みが全身に走っている。
けど、と。
真っ青な空を呆然と眺めて、ミコトはぽつりと呟いた。
「生きてる……」
途端、心の中に達成感が溢れかえった。
「勝った! そんで、生きてる! やった……やったんだ! 俺は、倒せたんだ!」
《浄火》の使徒。
強大な敵だった。
火属性以外を無効化する爆炎。唯一通用する火属性であっても、攻撃力で劣っていて、まったく通用しなかった。
赤いオーラの装甲を纏って放たれる攻撃は、人を一撃で死に至らしめる力を秘めていた。
相手に理性が残っていれば、一瞬の拮抗もなく殺されていただろう。
それくらい強力だった。
けど、勝った。勝てたのだ。
「っっっしゃああああああああぁぁげほっうぇ」
体調を考えず雄叫びを上げようとして、思いっきり咳き込んだ。
この調子では、本命の戦場には戻れないか。みんなは上手くやってるかな。
(わりぃ。俺はちょっち休むわ……)
強烈な眠気が襲いかかってきた。
耐えることもできたが、ミコトはそのまま眠気に身を任せて――
同時刻、《虚心》バーバラ・スピルスが討たれた。
変化が起きたのは、その直後だった。
「どごだ……ゴこは……?」
その声は、目を閉じていたミコトの耳に、唐突に入って来た。
ミコトが発した声ではない。では誰だ?
嫌な予感が脳裏によぎる。
ミコトの思考が真っ白に染まった。
いや、まさかそんな、嘘だ。
ミコトは否定しながらも、首を回して、それを見た。
――仰向けになった火傷だらけの男が、空に手を掲げていた。
咽喉が一気に干上がった。
あいつは白目を剥いて、気絶していたはずだ。
「ご、れ……が。おれの、手……?」
ようやくミコトは、《浄火》の様子がおかしいことに気付いた。
聞こえづらいが、意味の通じる言葉で喋っている。理性があるのだ。
そして紡がれるのは、現状を理解していないかのような言葉ばかり。
「そ、そうだ。なーる……ナールは!?」
呻きながら、男は立ち上がった。足を引きずって、川上に向かっていく。
今、彼がどうなっているかは不明だ。だが、その方向にはサーシャたちがいる。行かせるわけにはいかない。
「待てよ、テメェ!」
怒号して、ミコトも立ち上がろうとする。けれど手足には力がまったく入らなくて、動くことができない。
しかし、彼は振り向いた。
ミコトと男の視線が絡む。
違和感を覚えた。どこかがおかしかった。
その正体はすぐにわかった。ミコトは怪訝に眉根を寄せる。
彼の目に理性的な光がある。それ以上の変化。
――男の瞳が、赤から青になっていた。
「どう、いう、ことだ……?」
ミコトが発した疑問は、答えられることはなかった。
彼は答えを知っていたのか、知らなかったのか。それすらわからない。
結果として、彼は答えることがなかった。
「――ぁ」
理由は単純、火傷だらけの男が、大きく動揺し始めたからだ。
彼の青い瞳が、錯乱したかのように揺れ動く。
「……そうだ。あのひ、おれは、このてで……。ぁ、ぁぁぁぁぁあぁぁぁ ぁあぁあ ぁぁあぁぁあぁっぁ ぁあぁぁぁぁぁっぁぁぁ あぁっぁあぁ ぁぁぁ あああああああ あああああアアアアアアアア アアアアアアアアアアア アアアア――――!!」
慟哭の絶叫。
その、次の瞬間。
《浄火》自身をも焼くような炎が、全方位へと爆発的に広がった。
それは渦だ。自身を内へ取り込む、炎の竜巻だ。
竜巻に飲み込まれたミコトは、体を焼かれて何十メートルもの距離を吹き飛ばされる。
何が起こったのかもわからず、抵抗できぬまま吹っ飛ぶ。谷の斜面に衝突して、ようやく動きは止まった。
身をすり減らしてでも生き残ったはずのミコトは、ひどく呆気なく、その命を落とした。