表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
138/187

第一六話 悲劇の再開

この話で、第一次更新は終わりです。






 捜索が始まるも、一向にミコトも、魔王教の影も見つかることもなく、数日が過ぎ。

 上冬の月は終わり、下冬に入ってしまっていた。


 しかし、そんな停滞した日々は、レイラとグランからもたらされた情報によって終わりを迎える。


「アクセサリー店の店主が、黒髪に白髪が混ざった少年を見たそうだ」


 テュアーテとチアの家にて、全員が集まった中で、その報せは告げられた。

 それぞれが安堵や歓喜などの反応をする。


「よく憶えてたな、その店主」


「若白髪のそばには、白髪と薄青髪の少女が二人いたそうよ。超絶美少女だったって、店主が興奮してたわ」


 訝しむテッドに、レイラは呆れたような口調で返した。

 ちなみにその店主、四〇歳に差し掛かったおっさんである。少女と言う辺り一〇代なのだろう、手を出さないか心配である。


 それはともかく、とラカが手を組む。


「白髪っつーと、ユミルか?」


 封魔の里に向かう直前にミコトが拾ってきた、記憶喪失の少女である。

 ミコトと同じく失踪したのだが、やはり魔王教に捕まっていたらしい。この分ではイシェルも一緒だろうか。


「薄青髪ってのがわかんねーな。心当たりは……ねーか」


 ラカが仲間たちを見回すが、全員が首を横に振った。

 サヴァラやユウマなら、と見てみるが、知らないらしい。


 話が滞ったところで、サーシャが手を叩いて、話を切った。


「ミコトの周りに誰がいたか、それは置いておこう。それで、レイラ。ミコトはどこに行ったの?」


「ええ。バッチリ店主がストーキングしてたわ。途中で撒かれたそうだけど」


 店主……。

 レイラの視線を受けて、グランは話を続ける。


「店主の言によると、若白髪は北区の旧城壁方面へ向かったらしい。――睨んでいた通り、魔王教の拠点は下層北区にある」


 緊張が走った。戦いが近付く予感があった。

 緊迫感が場を包む中、サヴァラが告げる。


「これからは一層、下層北区を中心に捜索を行おう。最低でも二人一組になれ、絶対に一人で動くな。先走るな、連絡を怠るな。油断は自分だけでなく、仲間の命も危険に晒すことになると肝に銘じろ」


 本気で殺し合いの世界で生きてきた。そんな気迫が、サヴァラからは放たれていた。


 あまり見ない義父の姿に、レイラは息を飲みながら、火鼠の革手袋を嵌める。


 ラカとテッドは拳を握りしめ、グランは大剣を握る。


 ユウマはもたれ掛かっていた壁から背を離し、サーシャは改めて決意を胸に刻み付ける。


「そして、これだけは忘れるな」


 最後にサヴァラは、こう言った。


「自分の命を大事に、だ。彼が戻ってきたとき、誰か一人でも欠けてたら、どう思うだろうな?」


 その言葉が、誰に向けられたものなのかは、レイラたちにはわかりきっていて。

 しかし、本人には届いていない。


「お前らの元には行かせない。アイツは俺が連れて帰る」


 吐き捨てるように告げ、ユウマが姿を消す。

 彼に続いて、サーシャたちも捜索を開始した。



     ◆



 そして、その翌日。

 ついに――。



 歯車は回る。


 舞台は物語を進め、演者と演者は、ついに――。



     ◆



 数瞬の間、悠真は呆気に取られていた。

 なぜなら、それはあまりに唐突過ぎたから。


 下層北区、酒場の前。

 昼間であるためか、街を出歩く人影は少ない。疎らに舗装された道に立っているのは、悠真の空間把握によると一〇人もいない。


 ――その場所で。


 十数メートル先。数歩歩けば、届くであろう場所に、一人の少年がいた。

 遅々と近付く姿。焦るでも急ぐでもない、ゆったりとした歩みだ。


 黒髪に、前に見たときより随分と増えた若白髪。

 化粧すれば少女に見えかねない、中性的な容姿。


 ――探し求めていた黒宮尊が、そこにいた。


 最初は、信じられなかった。

 今までの苦労がなんだったのかと言いたいほど、あっさりだったから。


 だがしばらくして、ようやく悠真の頭にも理解が及んでくる。


「は……ははっ」


 自然と笑みがこぼれる。

 呆然が理解、そして歓喜へと変じていく。


《操魔》とその仲間に、発見の報告をするつもりはない。

 彼がすでに日本に帰ったと知ることなく、勝手に魔王教と争っていればいい。


 悠然と歩く尊は、中空を見つめたままで、悠真に気付いている様子はなかった。


 尊は自分を見て、どのような反応をするだろう。

 驚くに違いない。どうやって異世界に来たかと問うだろう。そこで『転移』のことをネタ晴らしだ。


 盛大に驚かせるなら、いきなり日本に跳ぶのが一番なのだろうが、生憎と《千空》の使徒と言えど、世界跳躍には時間が掛かる。


 事情を説明したら、さっそく日本へ戻そう。


 玲貴に会わせよう。

 自分が説得すれば、尊にトラウマを乗り越えさえ、二人を結ばせられるかもしれない。


 交通事故のあとに異世界に落ちた尊は、一時期はニュースになっていた。

 現在、黒宮尊は失踪中になっている。帰ったら、それもどうにかする必要があるだろう。


 そして、尊の母のことも――――。


 やることが、たくさんある。

 どれも苦しく、面倒に思う。しかしそれ以上に、感動が大きかった。


「く、はは……っ」


 まだ、尊がこちらに気付いた様子はない。

 少し不用心すぎるだろう、と悠真は呆れるように、笑みを漏らしながら思った。


 手を、上げる。

 そして、口を開いて、


「――よお、久しぶりだな!」


 日本語だ。


 感動に震えた声が、街に響いた。

 思った以上に大きな声を出してしまったが、そんなのは気にならなかった。


 ようやく悠真に気付いた尊は、不意に顔を上げて――なぜか、振り向いた。


「……?」


 悠真は疑問に、吐息を漏らした。

 尊は振り向いた先で、目を丸くしている矮族の姿を認めると、納得したように歩みを再開した。


 ――尊の目にはもう、悠真は映っていなかった。


「待……て、よ」


 擦れ違う。瞬前、悠真は尊の肩を掴んだ。


「ふざけんなよ、お前!!」


 感動に震えていたはずが、今の悠真の心内を占めたのは、失望に近い憤怒だった。


 気付かないのは仕方ない。そこに悪気はないんだから。

 だが、無視するのは違うだろう。冗談では済まされない。


「俺がどれだけ探したと思ってる!? もうすぐ一年になるんだぞ! ふざけるにもほどがある!!」


 せっかく会えたのに。

 どうして、お前はそんな平然としている。不思議そうな顔でこっちを見るんだ。


 やがて尊は、納得したように手を打って、


『あぁ、そっか。異世界の言葉なんだ、それ』


「……は?」


 その言葉が、どういう意図をもって紡がれたものなのか、悠真にはわからなかった。

 そして、沸々と、腹の奥底から怒りが込み上げてきた。


「だいたい、だ……!」


 先ほどの、呑気に散歩していた尊の姿が、脳裏をよぎった。

 その表情に焦燥はなく、充実していたようで。


 なぜ尊は、日本に帰ろうとしていない――ッ!!


「こんなところで何やってんだ、尊ォ!!」



     ◆



『こんなところで何やってんだ、尊ォ!!』


 路地裏に、口論が響いてきた。

 その声に聞き覚えがあって。言葉に含まれていた名前を、よく知っていた。


 ごろつきに対し、力技で聞き込みしていたサヴァラを放置して、サーシャは走り出した。


 響くのはユウマの声だけで、相手の言葉は聞こえてこない。

 だが、口論の相手は、間違いなく彼だ。


 路地裏を抜け出ると、そこは酒場街だ。

 左右を確認すると、遠くに野次馬が集まっているのが見えた。


 その向こうから、声が聞こえてくる。


『さっさと帰るぞ! ここは、お前がいるべき場所じゃないっ』


 ミコトの、異世界への帰還――望んでいたはずなのに、サーシャは激しい拒絶感に襲われた。


 せめて見送らせてほしい。そう思うと、自分への失望感と、ゾッとするような寂寥感が湧き上がる。


 すぐにでもミコトを帰す、それが一番だってわかっているはずなのに。


『言ってもわからないなら、仕方ない。無理やりにでも……!』


 考える間もなく、サーシャは野次馬に突っ込んだ。

 人と人の間を掻き分け、フードが取れたのも構わず。


 そして。


 野次馬の群れから、抜け出て。


「――――ぁ」


 黒髪に、疎らに生えた若白髪が見えた。

 それは、ずっとずっと探していた少年の、後姿で。


「ミコト――っ!」


 少年が振り向いた。

 黒い瞳と、中性的な顔立ちが、目に映る。


 ――あぁ、やっと会えた。


 頬を伝う、温かいものがある。

 目の前がぼやけて、でも彼の姿が見えなくなると、消えているのではないかと思って、すぐに拭う。


 この手を取ってほしい。

 名前を呼んでほしい。


 また、もう一度。


「あー、あのさぁ……」


 なのに、どうして彼は、困惑しているのだろう。


 ユウマの手を取ることもなく。


 サーシャに苦い笑みを浮かべて。


 そして彼は、目を逸らしながら、告げた。



「あんたら、ミコト・クロミヤの知り合いだったりする……?」



 ……ぇ。


『お、おい……おい! どういうことだよ!?』


「あぁ、悪い。なんか事故に遭っちゃったらしくてさ」


 ミコトとユウマの会話が、どこか意識の遠くで聞こえる。


 ミコトが言うであろうことを、何が起こったのかを。

 自分はたぶん、わかっていた。なぜなら、自分がそうだったから。



「――記憶、ないんだよ」



 知らず、膝を付いていた。


 心の中で、がらがらと、大切なものが崩れていく。のが、わかった。



「ごめん。あんたら、誰なんだ?」



 それでも。

 それでも、認めたくなかったのに。


 ミコトの、本当に何もわからず、困惑した表情を見て。

 本当に彼は、すべてを忘れてしまったのだと、理解してしまった。




「みつ、けた」


 そのときだった。

 声が聞こえたのは。


 それはサーシャの背後から、その身の丈に合わない力で野次馬を押しのけ、現れた。

 擦れ違い様に、それの姿が目に映る。


 色素の薄い、青い髪の少女だ。


 異様な存在感がある。

 ミコト、ユウマ、そして少女。三人が並び立つ姿には、例えようのない同一感があった。


「アクィナ、どした? こんなところに」


 幼さが残る少女をアクィナと呼ぶと、ミコトは彼女を穏やかに迎え入れた。


 サーシャの中で、イヴが叫ぶ。

 あの少女は、危険だと。


 だが、どうでもよかった。

 アクィナの存在がどういったものなのか――そんなこと、どうでもよかった。


 ただ、気になった。

 ミコトにとって、アクィナとはなんなのか、と。


「……、……」


 無垢そうな青い瞳が、少しの驚きをもって、ユウマを見る。

 次いで、深い嫉妬を宿らせて、サーシャを見る。


 ――嫉妬が、優越に変わった。


 アクィナが唐突に、ミコトに跳び付いた。

 首に腕を回し、前傾姿勢にさせる。


「アクィ……んむぅっ?」


 位置を低くしたミコトの唇に――自身の唇を、合わせた。


 少女の舌がミコトの口に滑り込み、口内を蹂躙する。

 隙間から唾液が零れる。


 ミコトは驚愕しながらも、無理やり拒む様子はない。

 離れた唇と唇の間を、糸が引いていく。


 野次馬の歓声が、どこか遠くに聞こえた。


 サーシャの頬を、温かいものが伝う。

 それはきっと、先ほど流したものとは、違う意味を持っていた。






はい、プロローグ部分に辿り着いたところで、第一次更新は終わりとなります。


なんでこんなところで区切るんだ、的なことは自分でも思います。

でも、書き溜め分が現在35話くらいまでしかできてなくて、本話がちょうど半分辺りなんです。


次の一斉更新は、また『二カ月更新してない』的なのが出たときか、六章が完結したときになります。


改めまして、ハッピーニューいあ! いあ!


・おまけ

ズキュウウウウウン!

ア「初めての相手はメインヒロインではないッ! このアクィナだッ!」

サ「泥水をよこせー!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ