第一話 酒池肉林! スッキリした目覚め!
ハッピーニューいあ! いあ!
す、すいません……まだ六章書き終わってない……。
進捗としては、75%というくらい。もう半年近くまともに更新していないのに。
ともかく、切りのいいところまで投稿しようと思います。
余裕があれば、更新日時で遊びたい……。
小鳥の囀り。
目蓋の裏からでも感じる、明るい光。
覚えたのは、全身を覆う小さな重圧感だ。次いで、睡眠からの覚醒を自覚した。
「ふぁーぁ」
欠伸を漏らしながら、目を開く。
目蓋というカーテンが失われたことで、直後、強烈な光が目を焼いた。
もちろん、それは錯覚であり、比喩的な表現である。実際に目が焼かれたら病院行きだ。
単純に、眩しすぎただけだ。
ただ、眩しいという感覚は一瞬だけだった。
白いカーテンに阻まれ、日の光は薄らとしか入り込んでいなかった。角度と色から、どうやら朝日か。
内心で「目がぁー! 目がぁー!」呻いていたことは、恥ずかしいから秘密だ。
この程度の明るさでキツイとか、どんだけ眠ってたんだ俺……。
しばらくすると、この明るさにも目が慣れてくる。
そうして、自分がどんなところにいるのか、視覚として映し出すことができた。
「知らない天井だ」
どうしても言いたくなった。
……見慣れない一室だった。
全体的に、レンガで作られているようだった。茶と白と灰の色合い。全体的に、白っぽい印象がある。
あとは、あまり本が積まれていない本棚。その本も、読んだことも見たこともない。
部屋の四隅にはランプのようなものがあったが、ガス缶があるようには見えない。
なんだアレは……とは、思わなかった。自然とそれが魔道具だと理解できた。単純な、魔力を流すと光を灯す魔道ランプである。
なんて非現実的、ファンタジー。しかし、それを当たり前のように『存在する』と、理解している自分がいる。少し戸惑った。
知識はある。だが、どうしてそんな知識があるのか……、今は後回しだ。
「……?」
首を傾げようとする。どうにも動かしにくい。そういえば、自分は今、寝転んでいるのだった。
上体を起こそうとする。が、これがまた動かしにくい。
力が入らないわけではない。全身を覆う重みが、腹筋を上回っただけだ。
だからこそ理解できない。まさか布団に負けたとでも言うのか。いや、そんなの認められるはずがない!
「スゥ――」
息を吸い、
力を溜め込み、
腹をしならせ、
そして、解き放つ。
「――セイ!」
もぞりと布団が動いた。
いける。これならいける。布団になんぞ負けるものか――っ!
と、意気込んだ直後だった。
三つの感触があった。
一つは右脇の下。もぞもぞと蠢く何者かが、右腕を拘束している。
一つは左腕。何かが上から伸し掛かるように、左腕が捕えられていた。
一つは腹部。胸から横腹を通り、背中まで行き付きつく。
まさか、締め付けられる――?
「ふんぬらば……ッ」
上に動かすことができずとも、下に力を入れることならできる。
膝を曲げ、足裏をベッドに付ける。そして、足裏と首裏をベッドに押し付け、ブリッジの要領で思いっきり腹を持ち上げた。
「わ、ぅ!?」
「ぐえっ」
悲鳴とともに、腹に掛かる拘束力が上がった。
胴を締め付けられ、思わず呻いてしまう。ブリッジしていられなくなり、ふかふかのベッドに逆戻り。
息を吸えない。中身が出そう。口から泡を吐きそう。白目を剥いて気絶しそう。
なんて剛腕なんだ、この下手人。死ぬ死ぬ死ぬ、この程度じゃ死なんけどさ。
などと内心で悪態をついていたら、拘束が緩まった。急いで酸素を確保する。
掛かっていた布団は、ブリッジをしたためにベッドから落ちたようだ。今なら、下手人の姿を確認できる。
明滅していた視界を気合いで定かにし、下手人を睨み付けた。
そして、思わず呆然とする。
「おんな……の、こ?」
腹に乗っかっていたのは、幼い少女だった。
いや、彼女だけではない。左右の拘束者も、両方とも少女だ。しかも、どちらも幼い。
となると、この現状は、なんだ?
客観的に見ると、これは拘束されているのではなく、抱き着かれているのでは?
そして今、気付いた。
――俺、裸だ。
「……うん?」
だからなんだと言うのだ。いや、だからなんだじゃなくて、どういうことだと言うのだ、これは。
もう一度ちゃんしっかりきちんと、主観抜きの客観的な視点で、この状況を俯瞰してみよう、そうしよう。
朝、ベッドの上で。
年端も行かない少女が三人、真っ裸の男に抱き着いている。
……なんだというのだ、これは。
いったい何があったのだ、昨日は。
うん、そうだ。昨日は何をしたっけ……何をしたっけ?
あれ? っていうか俺――
「俺、誰だ……?」
ここはどこ? 私は誰?
ベッドで何してたの? この子たち誰? ナニしたの?
「あぁ、起きたんだね、お兄さん」
声が聞こえた。右側に抱き着く、白髪の少女からだ。
見覚えがあるような気もするのだが、やはり記憶にない。
「え、えぇっと、ちょっといろいろなんか、説明してもらえませんかね……?」
上擦った声を恥ずかしがる余裕もない、刺激しないように問い掛けた。
しばらく見詰め合う。
緊張の瞬間である。
『あんなこと』や『こんなこと』や『そんなこと』な行為をしてたら、どうしよう。
胸はドッキンドッキン、心臓が張り裂けそうだ。息苦しい。
もしかして、これが恋?
ちげぇよトラウマだよ。
トラウマってなんだよ、身に覚えねえよ。
「――――」
少女は右腕に抱き着き、顔を赤らめ、頬に手を添えてから、
「昨日は激しかったね☆」
「 」
「あ、気絶した」
◇
起きたくなかったが、起きないわけにもいかない。
そういう謎体質らしく、すぐ起きた。
「嘘です☆」
キラッ、な少女。
イラッ、な俺。
白い子、あんまりふざけてると怒るよ? 泣くよ? 泣いた。
……とりあえず、よかった。過ちは犯さなかったのだ。
少女からの軽い謝罪と、若干引き気味な促しで、俺は目元を拭って服を着た。白黒の、シンプルなデザインだ。
そうしている間に、少女が全員を起こし始めた。
高級感漂う椅子に座り、改めて彼女たちを観察する。
まず、俺を弄くってくれやがった、白髪の少女――シェルア・クロミヤ。さっき、軽く名乗ってくれた。
一五歳のようだが(なぜか断定できた)、漂う雰囲気は大人っぽい。赤い水晶のネックレスを、首に下げている。
次に、腹に乗っかっていた、剛腕薄青髪少女。起こそうとするシェルアの呼び声から察するに、アクィナという名前らしい。
一二歳なのだが、伸びをする動作は、いやに艶めかしい。先ほどまで密着していたことを考えると、動悸が再発しそうになる。
最後に、左腕に抱き着いていた、白髪の少女。こちらはユミルらしい。
こちらは一二歳で、「あと五分」とごねる姿は子供っぽく、見ていてホッとする。
この子もシェルアと同じく、首に赤い水晶のネックレスを下げていた。
共通しているのは、目が青いことと、美少女であることか。
いったい彼女たちと俺に、どういう繋がりがあるのか。
姿見に映る一六歳の少年、つまるところ俺の姿を見て、溜め息をこぼした。
若白髪が生えた黒髪に、黒目。中性的な容姿で、メイクすればまぁ、美少女に見えないこともないかもしれない。
「お兄さん、皆が目を覚ましたよ」
「あ、あぁ」
気を引き締めて、三人に向き直った。
アクィナはベッドに寝転がったまま。ユミルはベッドに腰掛け、足をぷらぷらさせて。シェルアは椅子を引っ張り出してきて、俺のそばに座った。
口を開こうとして、少し戸惑う。記憶喪失の経験があるはずもない。
とにかく、躊躇していても仕方ない。言葉選びを諦め、率直に言った。
「俺、記憶喪失みたいだ」
反応は、それぞれだった。
シェルアは考え込むように天井に目をやる。アクィナはのっそりと起き上がり、感情の読めない目を向けてくる。
劇的だったのがユミルで、目を見開いて硬直している。信じられない、という顔だ。
沸々と湧いてくる罪悪感から目を逸らすように、早口にまくし立てる。
「それでその、なんだっ? いろいろ教えていただきたいなぁ、なんて思ってるんですけれど、どうですかね?」
「……うんうんうん、それじゃあまぁ、教えてあげようかな」
見上げるのをやめ、俺に視線を向けたシェルアが、言葉を紡ぎ始めたのであった。
「んじゃ、間違いのないようにおさらいさせてもらうと――」
ベッドの上で、シェルアから受けた説明を思い出しながら、確認作業を取る。
「俺ことミコト・クロミヤは、事故に遭って二週間くらい寝ていた。……となると、今は何月だ?」
「何月とかじゃなくて、上冬の初日なんだけれども」
「そうだ、そうだったな。……なんだ、この謎知識」
一月とか二月とか、そういう数え方は一旦忘れておく。
「んで、お前が俺の妹、シェルア・クロミヤ。……似てねえなぁ」
そんなことを言っていると、頭を掴まれる感触がした。
そして、すぐ真後ろから、溌剌とした少女の声。
「お兄ちゃんにも白髪、生えてるよ?」
「若白髪っ! それ若白髪だからねユミルちゃん! あっ、抜いちゃダメぇ、頭皮が痛んじゃう、白髪増えちゃうぅ!」
なんとか白髪の童女――ユミルの手から髪を守り抜き、安堵の溜息をこぼす。
「で、さっきの子が、従妹のユミル・スピルスちゃん」
「うん、そうなるわけだね」
ベッドに落ちた髪を拾い上げた。
白髪のそれは、女性にしては少し短い。つまりそれは、ユミルに引っこ抜かれたもの。
シェルア、ユミル、そして自分の髪を見比べて、
「――『しらが』と『はくはつ』って、決定的にどっか違うと思うんだ俺ぇ!?」
そして、俺は白髪である。
悲しくなってきた、泣きそう、泣いた。
「うぅ、うぅっ……」
……少し、大げさだったかもしれない。
彼女らは、俺が記憶喪失だったことに、そんなショックを受けている様子はない。
謝ったって意味ないからと、無駄にはしゃいだ効果は――とりあえず、ユミルを元気づけることには成功した。
そろそろ真面目にやろうかと、面を上げて、
「ペロっ」
涙を、嘗められた。
「ひゃぁぁぁあ!?!?」
おそらく童貞なミコト・クロミヤ一六歳に、女性に嘗められた経験は(たぶん)ない。
まぁつまり、女に耐性がないのだ。
嫌なわけじゃない。むしろどんと来いゲフンゲフ、ぐふっ。動悸が……。
俺はな、誠実さとか気構えだとか清らかさだとか雰囲気とか、そういうのをもうちょっと育んだあとでならゲフンごふっ。
「なにさ、なに!? ナニすんの!? あっれぇ、俺らの関係って幼馴染じゃなかったの!? 淫らな感じじゃなくてぇ!? これがアクィナ平常ぉ!? それとも幼馴染ってこんなもん!? 待って、ウェイトっ、冷静になろう!」
「お兄さんこそ冷静になりなよ」
さて、涙を嘗めた薄青髪の少女――アクィナは、エロティックに頬を紅潮させ、
「お、おいしぃ……!」
「へ、へんたいっ!」
「……男女、逆じゃないかなぁ。いや、逆にしても変態嗜好になるわけなんだけれども」
マイペースのアクィナ、ひたすら騒ぎ立てるミコトに、ツッコミのアクィナ。
そんな三人を眺めながら、不思議そうに首を傾げる童女が一人。
「なに話してるんだろ、みんな」
ユミル・スピルス。
彼女には、清らかに育ってほしいものである。
>タイトル
スッキリ(記憶が)。
>女性に嘗められた経験は(たぶん)ない。
《浄火》の使徒に、首を舐められた経験ならある。
>ミコト・クロミヤ
《黒死》の使徒。能力『再生』と『変異(?)』
記憶を失ったため、恋愛トラウマは軽減されている。そのためまともな青少年思考になっている。
が、完全にトラウマを失っているわけではないので、たまに発作が起きる。