プロローグ フェードイン - 悲劇の再開 -
『五章の重要あらすじ』
・ミコト
発狂→突き抜けて廃人化→弱点突かれて魔王教に捕まる。
・サーシャ
イヴ侵食→父親登場、再封印→『操魔』強化
アルフェリア王国、王都アルフォード。
ここは下層北区酒場街。その、昼間のこと。
この時間では本来、人通りは少ない……はずが、現在は野次馬が集まっていた。
その中心に、少年はいた。
若白髪が生えた黒髪に、黒い瞳。中性的な容姿で、化粧すれば女性に見えかねない。
彼は困惑していた。道の真ん中で、困り果てていた。
彼の目の前には、また別の少年がいた。
癖のある茶髪と、青い瞳の彼は、声を張り上げる。
『こんなところで何やってんだ、尊ォ!!』
茶髪の少年が口にした言語は、ここで使われるものとは違う、日本語と呼ばれるものであった。
「えー、と……」
ミコトと呼ばれた若白髪の少年は、その言語を理解していながら、やはり困惑する。
右手を後頭部に回し、髪を掻く。
『さっさと帰るぞ! ここは、お前がいるべき場所じゃないっ』
「って、言われてもなぁ……」
鬼気迫る様子を見せる茶髪の彼に対し、未だミコトは訝しげだ。
雰囲気や態度に、大きな隔たりがあった。ミコトに、緊張感がまるで見られないのだ。
『言ってもわからないなら、仕方ない。無理やりにでも……!』
怒る茶髪の少年が、大股でミコトに近付こうとする。
その直前だった。ミコトの背後で、声が張り上げられた。
「ミコト――!」
振り向くと、そこには美しい少女がいた。
美しい銀髪に、涙で潤んだ赤い瞳。
童顔が安堵の感情に染まる。それは、ミコトに出会えたことを、本当に嬉しがっているようで――だからこそ、ミコトは困惑してしまう。
銀髪の少女と、茶髪の少年に挟まれて、ミコトは曖昧な笑みを浮かべる。
「あー、あのさぁ……」
言い辛そうに目を逸らしながら、それでも言うしかないのだと、ミコトは罪悪感とともに諦めた。
「あんたら、ミコト・クロミヤの知り合いだったりする……?」
え? と。
二人とも、呆然とした表情を浮かべる。
『お、おい……おい! どういうことだよ!?』
「あぁ、悪い。なんか事故に遭っちゃったらしくてさ」
そして。
ミコトは、言った。
「――記憶、ないんだよ」
絶句している、誰かもわからない二人に向けて。
ミコト・クロミヤは、申し訳なさそうな、曖昧な笑みを浮かべて。
「ごめん。あんたら、誰なんだ?」
彼らの表情が、絶望に染まる。
と、そのときだった。
「みつ、けた」
薄青髪の、幼い少女が現れた。
ミコトはその娘の名を、親しみを込めて言うのだ。
「アクィナ、どした? こんなところに」
無垢そうな青い瞳が、銀髪の少女と茶髪の少年を、交互に見やる。
そして、少女を見た瞬間。アクィナの目に、深い嫉妬と優越が宿った。
「アクィ……んむぅっ?」
そして。
口付けを、交わした。
中編『インサニティ・アンデット』
第六章『異世怪忌』
――物語が始まって以来、最大規模の戦いの幕が上がる。