Ⅰ プロローグ
初の小説です。完結目指して頑張りたいと思っています。
「はぁ…はぁ……っまだくるのかよ…!」
時刻は11時。誰もいない裏路地を、少年は一人、走っていた。後ろから追ってくるものはいない。だが、少年は追われるように走っていた。
ガタンッ
少年が過ぎ去った後のゴミ置き場で、ゴミ箱が一つ何の前触れもなく倒れた。そのあとも、少年が過ぎた場所のものもどんどん前触れもなく倒れていく。もし、ここに人がいれば、不審に思い警察に追放したであろう。しかし、今は夜。人一人いなかった。
少年のペースが落ち始め、何かをさがすようにあたりをキョロキョロしながら走るようになった。それをきっかけに、何の前触れもなく倒れていたものは倒れなくなった。これで良かったと見ている人は思うだろう。しかし、少年はさらに深刻な顔をした。走りは後ろ歩きに変更し、前を見据える。そして、次の瞬間。少年は消えた。笑みを浮かべながら。
「まってろよ…××!」
2022年8月10日。
陽炎が揺らめくほど暑い日だった。熱中症で倒れた人は日本国内で5700人以上だ。
おかしい。
誰もがそう思うだろう。今年になっていきなり急激に増えたのだ。去年は例年通り3ケタだったのに。今年はもう4ケタだ。TVをつけるとどこの番組でもこれが取り上げられている。
そう、まさに異常なのだ。
いろいろな専門家もいろいろな番組に出ているが、やはりどこも同じく。まだ解明されていません。といっている。この現象は日本だけではなく、世界各地で起きている。アフリカとかの砂漠地帯の人とかは大変だろう。いや、大変どころではないのかもしれない。だって、
日本にいる私だってこんな風になっているのだから。
「あつい」
私、榊原亜紀は高校の保健室のベッドに横になっていた。保健室は冷房が効いているものの、節電やらなんやらでかなり高めに設定されている。
私は制服の第一ボタンをとり、大の字になってベッドの上に寝転んでいた。たまに寝返りをうったり、うたなかったり。
「はぁ…あつい」
「なぁにあついあつい言ってんの」
あまりの暑さにあついあついと連発していると声がかかった。
「だってあついし」
「それで前のの授業サボったの?」
私に声をかけてくる人間はただ一人。百川百珂。ももが多すぎてゲシュタルト崩壊がしそうだ。
百珂は、私に話しかけてくる唯一の友達であり、親友。高校一年生のとき、私はクラスで孤立していて誰も話しかけてこようとしなかった。だけど、10月に転校してきた百珂が私の席の隣になり、話すようになったのだ。
「だってあついんだも~ん」
「うわぁ、暑いから離れて!」
今ではこの通り。この世界で唯一心を許せる人。
「無理~」
「っもう」
いろいろ喧嘩もしたけど、でも何回も仲直りした。こんな私だけど、ずっと一緒にいてくれたのは、百珂一人だけだった。
キーンコーンカーンコーン……
「あっやば!私授業行くね。亜紀…はこれたらきてね?じゃあ私は行くから」
6時限目開始予告のチャイムが鳴り響いた。それを聞いた百珂はパタパタと走って自分の教室があるほうへと向かっていった。こういうところは薄情ものだとおもう。無理やりにでも連れて行ってくれていいのに。
さて、どうしようか。
このままここにいてもいいし、クラスに戻るのもいい。
「……寝るか。」
そういって私は眠りについた。
目が覚めると、もう5時を回っていた。
「やば!!!!!遅れる」
がばっとおきて枕元を見ると、私のカバンが置かれていた。多分百珂がやってくれたのだろう。こういう時に親友の偉大さを実感する。
「ありがとよ!百珂」
親友がいないのにもかかわらず、そう叫んでから保健室を後にした。
「はぁ…間に合った…か?」
私が向かった先はアンティーク店。この店はアクセサリーが主だが、喫茶店もやっていてとても人気のある店なのである。
そして私は、この店でアルバイトをしている。アルバイト時間は5時半から10時まで。アルバイトでも閉店後の仕事などができ、給料が弾むのだ。
「遅ーい」
私は声のしたほうを見る。そこにはこの店のオーナー、風見笹子が立っていた。このオーナーは人柄がよく馴染みやすい。とても良いオーナーだと私は思う。だって、バイト禁止の学校に通っている私がバイトしていることを学校側に黙っていてくれるのだから。
「すみません!今から入ります!」
「おう、期待してるぞー」
「っはい!」
オーナーから言葉をもらい、店内の奥の部屋に入る。そして、この店の規則などをしっかり見てから学校の制服から店の制服に着替え表に出る。
「いらっしゃいませー!」
私は元気よく挨拶をし仕事を始めた。
今日もなんの変哲もないないいつもどおりのアンティーク店だった。
「お疲れさまでしたぁ!」
今日も閉店時間の9時まで仕事をし、私以外の店員さんやオーナーにしっかり挨拶をする。
「今日も亜紀ちゃんがんばってたねー」
「だよねー!私高校生の時なんかそんなに働けないわー」
「しかも毎日出てきてるし。すごいよ、亜紀!」
みんな、私のことをしっかりと一人の店員として認めてくれている。それがとても嬉しい。ここに来る前は褒めてくれる人なんていなかったのだから。
「ありがとうございます!」
素直にお礼を言う。嬉しいもんは嬉しいのだ。
「あ、亜紀ーこれ今月の分」
オーナーに渡されたものは、ここ一ヶ月のバイト代。コレをもらったときが一番達成感を感じられる。お礼をしっかりといい、封筒を受け取った。ここで封筒に違和感を覚える。封筒は何も変わらない、いつもどおりの封筒なのだが、何か違和感を感じる。
「あっ!オーナー!!いつもより厚いですよ!間違えてます」
違和感の正体に気づいた私は急いでオーナーに言う。すると、オーナーは
「あぁ。亜紀はいつもがんばってるからなー。まぁ、ボーナス?として受け取って」
「えぇっ!?オーナー!!ちゃんと考えてください。きっとオーナーは疲れているんです。私以外にちゃんと仕事している人はこの店にたくさんいるはずです。そこらへんをしっかりとかんがえてください。おかしいでしょう?高校生のアルバイトがこんなにボーナスをもらってもいいんですか?私にこんなにボーナスをつけるんならほかの人につけてあげてください。笹原さんとか佐々木さんとか佐藤さんとか。あれ?ここの店って『さ』のつく人多くないですか?なんですか。ねらってるんですか、オーナー。そもそも…」
「落ち着け。亜紀。あと、話が変わってきている。」
オーナーにそういわれてやっと我に返る。
「あぁ、またやってしまった。」
そう、私はお金のことや、物の貸し借りのことになると力説…というか、無駄に長い台詞をはいてしまうのだ。はぁ…しかも今回は話も変わってきていたし、恥ずかしい…
「亜紀。ボーナスをつけたのはお前が毎日毎日毎日毎日頑張っているからだ。他の人にボーナスをつければいいだって?亜紀は亜紀。笹原は笹原、佐々木は佐々木。佐藤は佐藤。みんな個々の頑張りってもんがあるの。だから、遠慮はいらないって。もらっておけ。」
「…でも」
「あぁんもう!もらえって!そして帰れ!妹が待ってるんだろ?」
妹が待ってる。その単語を聞いて、私はハッとした。
「あぁ!!」
その表情を見てか、オーナやその他もろもろの店員も笑顔になり、一人一人挨拶をしてくれた。
「今日もお疲れサマー」
「亜紀ちゃん、明日もよろしくね。」
「亜紀、明日も待ってるよ、おやすみー」
みんな笑顔で見送ってくれている。別に一人一人言わなくてもいいのに。でもそれが嬉しい。みんなのそういう性格もあるんだろうけどそういう風な店を、店員をつくりあげたオーナーもすごいと思う。私はオーナーを心から尊敬している。
何の変哲もない毎日だけど、私は毎日明日を楽しみにできる。
私はそんな今、一瞬を愛していた。
「はい!ではまた!お疲れ様でした」
「ただいまーって言っても寝てるか……」
私が帰宅できたのは10時頃。家から学校やアルバイトの店まで結構あるのだ。それは、妹の真紀の通っている学校に近い場所にあるため。別に私は全然苦にはならない。だって唯一の家族の妹のためだから。
私は靴を脱いでリビングに入った。このアパートの家賃は母が払ってくれている。水道代やガス代なども母もちである。その他の生活品はこちらで負担しているが。
私が母と別々に暮らし始めた理由は、話し始めると長いので、今は言わない。だが、ひとつ言っておく。私は今も母を恨んでいる。
父親は私が生まれる前に自殺。だから、私は父とは会ったことがない。
「はぁ……」
私はソファに座って一息ついた。これから宿題もやらないといけないし大変だ。リビングにあるテーブルを見ると、小学生の真紀が作ってくれた夜ご飯が置いてった。小学生ながらよくできている妹だと思う。でも、その反面、とても申し訳なく思うのだ。夜ご飯くらい私だって作れるのに妹に任せてばっかりで。だから、朝ごはんは私が作るようにしている。あと、選択などの家事も。妹になるべく負担はかけたくないのである。
「はぁ…」
もう一回ため息をつく。ため息をつくと幸せが逃げるというが、私の幸せゲージは無限大だから大丈夫だ。………こんなことを真面目に言うのは少し…いやかなり恥ずかしい。
体育座りをした体制からおでこをひざに押し付ける体制にした。恥ずかしいときはなんとなくこうしてしまう。
「さて、洗濯でもしますかぁー」
―――プルルルルルル
電話の音がした。
「え?こんな時間になんだろう…」
時刻は夜の10時半。こんな時間に誰が電話をかけてくるのだというのだろう。妹の友達はないだろう。小学生がこんな時間にかけてくるわけがない。
電話番号を見てみると、080××××○○○○というように携帯からだった。へんな何とかサービスとか化粧品の売りなどではないようだ。だが、携帯でも十分怪しい。否、怪しすぎる。
――ープルルルルルル
電話は一向に鳴り止まない。このままでは妹がおきてしまう。
私は意を決して電話に出た。
「も、もしもし…」
こちら、榊原です。そういう前に相手は話し始めた。
『あ、もしもし。俺メリーさん、今お前ん家の前にいるんだけど、鍵の発注ミスで入れないんだよねー。わるいんだけど、あけてくれない?』
電話を出たのが間違いだったと事後の私は語る。