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ph 91 怪奇メドゥーサ

phase 91 怪奇メドゥーサ


 1


 ジークが汚れた屍鬼になってからの時間が、何度も脳裏で稲妻のように閃く。

 彼は最愛の恋人・ルビーの復讐の為に、死から蘇った。


 しかし、今や、

「生きてたんなら、なんで連絡を寄越さねーんだよ?」

 そんな質問をすることも、全く無意味だ。

 肝心の恋人が、邪悪な(パルス)を持つ吸血鬼(ダーク)になってしまったからだ。



「憂ちゃんは……このことを知ってるのか…?」

 ジークの声は、蚊が鳴くより微かになった。


「もちろん。あなたの預金で、アメリカで憂の心臓移植手術をしたの。多額の費用がかかったけど、心臓外科医だったあなたのお父様の遺産のおかげで、憂は命拾いしたわ。ジーク、ありがとう」

 ルビーが微笑み、打ちのめされたジークを見下ろした。


「マジか…、俺の口座に入ってた預金で、憂ちゃんの心臓移植を…」

 ジークはこれ以上思いつかないぐらい、衝撃を食らった。

 頭を割られるよりも、ずっと致命的な衝撃を。


 彼は抜け殻みたいに、へたへたと座り込んだ。



「そんなの、ひどい…!!」

 愛理が思わず非難した。

 ヨッシーは手で口元を押さえ、黙っていた。



「どうやって生きてたんだ? あんな血だらけで脈もなくて、葬式までやったのに」

 ジークの心の中の疑問を、ルビーが察した。

 ルビーは白い喉を反らせ、高笑いした。

「あら!? あなたがその方法わかんないなんて…、可笑しいったらないじゃない? 自分も同じことをして、蘇ったくせに!」


 ジークは喉がからからに乾くのを感じた。



「ジーク、お葬式はあなたのお葬式よ。私も出席したわ。ふふ、ぱっとしない男の、残念無念の水難事故。私は悲劇の新婦の役よ。あなたの死後、私は帰国して、達紙るみとして病院に勤めてた」

 ルビーは酷い内容を、得意げに話した。


「憂ちゃんに…血をやらねーの?」

 ジークは悪夢を見ている気持ちだった。


「そうよ。あげない。黒瀧の一族には、二十歳未満の人間に血を与えてはならないという掟があってね。理由がちゃんとあるらしいの。二十歳までに血を与えると、子供のまま成長が止まってしまうし、異常に暴力的になって気が狂うか、早死にするんですってよ。憂は欲しがったけど、彼にこの血は強烈過ぎる。きっと、心臓から腐ってくると思う」

 ルビーは白衣の腰に手をかけた。


 大きな胸の膨らみは以前と変わらない。

 抜群のスタイル、端麗な顔立ち。

 外見は何も変わってない。

 でも、受ける印象は異なる。

 いびつで陰湿な感じがする。



「憂が黒蝶になったのは、たぶん失敗…。子供の吸血鬼(ダーク)は強いけど、早めにエネルギーを食い尽くす。憂は二十歳になるまで、待つべきだった…」

 ルビーが哀しそうに言うと、黒蝶の中学生グループがざわついた。


 ジークはふと思いつき、喉から声を絞り出した。

「ちょっと待てよ。君が生きてるんじゃ、俺が憂ちゃんに仇討ちされるのは変じゃねーか?」


 ルビーは彼が見たこともないような、気味悪い笑いを漏らした。

「くふふ。…ルビーは死んじゃったのよ、ジーク。憂はわかってる。死の国から蘇ってきた女は、ルビーじゃなかった。くふふふ、帰ってきた姉は…昔とは別人だった…」



 ルビーの白衣の背中が丸く膨らみ、そこから昆虫の脚のようなものが数本生えてきた。

 タランチュラのような毛だらけの、太くて長い節くれ立った脚だ。


 ジークは目を疑った。

「何だ、そりゃ。ルビー…」


「内面が醜いと、醜い吸血鬼(ダーク)になるそうね…。私、知らなかった。自分がこんなに醜い女だったなんて。これが理性から解き放たれた、私の本性よ…」

 蜘蛛の長い脚が八方に広がっていく。


 ボコボコという奇妙な音。

 骨が歪んでいく。


 蜘蛛女ルビー。

 血を吸う快楽を求めて。


「わかるわ。ジーク、あなたに流れる黒瀧博士の血が見える。それを私に…少し分けて…」

 ルビーの唇が両頬まで裂け、長い牙が四本見えた。

 他の歯も、サメのようにギザギザに尖っている。


 長い黒髪が無数の蛇のようにうねり、個別の生物のように動く。

 女神メドゥーサ。

 


 ジークは彼女の狂った視線に凍りつきそうになって、身震いした。

「やめてくれ、ルビー! そんな君を見たくねぇ…」

 彼は慌てて、後ろ向きに這った。


「百年の恋も冷めちゃう? ジーク。私は本当にあなたを愛してた、大祐くんと同じぐらいに」

 ルビーが嗤う。


「でもね、今はもう、あなたに一滴の愛情もないの。あるのは食欲と、繁殖の欲望だけ」

 ルビーの足が地上から浮き上がった。

 彼女は背中のコブから生えた、八本の蜘蛛の脚で立っていた。


「ジーク、あなたって美味しそう…」

 彼女の舌先から、ヨダレが滴った。




 2


 突風がごうっと押し寄せた。


 ジークも愛理も吹っ飛び、ヨッシーも転がった。

 黒蝶の子供達と、自警団のメンバーも飛ばされた。


「ヨッシー!! 愛理!!」

 ジークが手を伸ばす。

 空間がグニャグニャ伸びていく。

 彼の手がぎりぎり、愛理に届かない。



 階段室は急に全体が暗くなった。

 空間が縦に伸び、階下に降りる階段と吹き抜けは、文字通りの闇に飲み込まれた。

 階上に繋がる階段は果てしなく、合わせ鏡で合成されたみたいに、天まで曲がりくねって昇っていった。


 結界がまた、外の世界と遮断される。

 ジークは黒飛龍剣の魔力が使えない奈落へ、再び落ちていく。



 岩石が伸し掛かるように、重い圧が伸し掛かってくる。

 ジークは階段に打ちつけられ、手摺に掴まろうとしたが、ずるずる落ちる。

 階段に掴まった指先から、生爪が剥がれた。


 愛理とヨッシーは上へと押され、踊り場の壁で潰れそうになっている。

 特に、ヨッシーの顔は圧で平べったくなり、息も苦しそうだ。



「自由になって、初めて知ったの。他人の生き血がこんなに甘いって…」

 ルビーが自警団の男を一人引き寄せ、その首筋にむしゃぶりついた。

 頸動脈を噛み切られ、男は絶命した。


 ルビーは蛇口から水を飲むように、噴き出した血をゴクゴクと飲み干した。

 美しい顔を男の血で染めて、

「美味しい…。ああ、本当に昔をバカバカしいと思う。無力な人間だった頃を」

 と、呟いた。

 血を拭おうともしない。

 白衣が血で汚れ、赤く染められていく。



「ルビー! 君はその無力な人間を救う為に、医者になったんだろ? 子供達を難病から救いたいって、と言ってたじゃねーか!?」

 ジークが階段の下から叫んだ。


「バカバカしい。弱いヤツは死ねばいい。みんな、死ねばいい。ジーク、私はあなたよりもっと強い男と繁殖する」

 ルビーはぞっとする内容を告げ、変貌ぶりを見せつけた。



 ジークは悲しくて、運命を呪った。

「黒瀧のジイサン、あんたのせいだ。俺は見なくていいものを見て、知らない方がいい真実を知ってしまった。求めてきた答えが、これなのか!?」

 彼の眸から、悔し涙が溢れた。



「死になさい、ジーク。これ以上、私の弟の周りをうろつかせない。私達の邪魔をしないで。私達は本能のままに、この世を闇に塗り替えていく。ただ、それだけよ」

 ルビーが口から蜘蛛の糸を吐いた。


 粘つく蜘蛛の糸が、ジークの頭と顔面に巻き付いた。

 彼は無意識に、糸を取ろうと手で触れた。

 左手が顔から離れなくなった。

 接着剤のような糸だ。


 糸に口を塞がれ、言葉も悲鳴も奪われてしまう。

 呼吸も出来ない。


 ルビーの髪は百の蛇となり、シューシュー啼いた。

 ジークのカラダがピクピク痙攣し、失神する。

 見届けて、ルビーはニヤリと嗤った。


 彼女は蜘蛛の脚を伸ばし、ジークの上に重なって倒れていた黒蝶の子供達を払い除けた。

 前脚二本でジークを持ち上げ、自分の牙に合う高さまで運んできた。


 ぶちっ、とジークの首を捩じった。

 ジークの首の片側に皮膚が弛んで皺が寄った。


「くふふふ…」

 ルビーが気味悪い笑い声を発しながら、口を寄せていく。

 ジークの首が一周捩じられ、捩じ切られそうになる。



「ああ、ジーク…!!」

 ヨッシーは涙の粒を飛ばし、固く目を閉じた。


 愛理は壁に張り付いたまま、動けずにいる。

 彼女は考えている。

「ジークを助ける方法はある。今、ヨッシーの血を吸えば、私は体力を回復して覚醒できる。でも、ヨッシーを殺してしまうほどの血が必要だ。ジークの為に…ヨッシーを殺す!? ジークは仲間だけど、ヨッシーは人間だ…」

 彼女は葛藤した。


「ヨ、ヨッシー…」

 愛理が牙を剥いた。


 ヨッシーは気配に気付いた。

 彼は圧に潰れて死にかけていた。

「いいよ、愛理ちゃん。俺の血を飲みなよ。どうせ、もう死んじゃうから」

 ヨッシーは心の中で言った。

「愛理ちゃん、早く。俺は何も役に立てなかった。早く俺の血を飲んで、ジークを助けてあげて!!」


 愛理は肩を震わせた。

「ダメだ、ヨッシー。出来ないよ…。友達だもん」

 愛理の頬に、涙が一筋零れた。



 ジークの首がその間に切れた。


 ルビーはかつての婚約者の首を、底なしの暗闇に投げ捨てた。

 そして、その血を飲もうと口を付けた。


 獣が血肉を貪る、嫌な音が暗闇に響いた。




 3


 刹那。


 自動的に、黒飛龍剣を持ったジークの右手が剣先を旋回させた。


 ルビーの首が切断され、宙を飛んだ。

「ああっ!! 嘘!!」

 メドゥーサの首が悲鳴を上げた。



 ルビーの顔が痛みに歪んだ。

 百の蛇となっていた髪が元の黒髪に戻り、首は階段を転がり落ちていく。

 蜘蛛の脚はジークを投げ捨て、首を追いかけた。



 愛理を押し付けていた圧が解除され、彼女は自由になった。

「今だ!!」

 愛理が踊り場から飛び降りた。


 ジークの首から下の胴体が、愛理に黒飛龍剣を投げ渡した。

 愛理は空中で剣を受け取り、大きく振り被りながら、蜘蛛女の胴体を追った。


 愛理は全体重を乗せ、蜘蛛女の背中から突き刺して体当たりした。

 飛び乗るような格好だった。


 だが、背中の厚いコブが、蜘蛛女ルビーの心臓を守った。

 闇の血のラインは切断出来なかった。

 蜘蛛が暴れ、愛理は跳ね飛ばされた。


 蜘蛛女のカラダは首を探し求めたが、首は深みに落ちてしまった。

 愛理は飛び起き、剣を構え直した。

 ジークの胴体も、ゆるゆると起き上がった。

 彼は腹から腐り始め、腐敗汁が周囲に飛び散った。


 ジークの胴体は意志があるみたいに、階段をふらふらと降り始めた。

 彼の胴体も、首を探し求めて階下へ降りていくようだ。

 暗き淵へと向かう。



「ジーク、待って!!」

 愛理が行こうとするのを、ジークの手が押し戻した。

 彼を縛っていた蜘蛛の糸は溶けてしまい、左手も自由になっている。

 愛理は黙って、黒飛龍剣をジークに託した。


 ジークは黒飛龍剣をしっかり抱え、階段を降りていく。

 蜘蛛の後に続いて。



 結界の底には、闇が溜まっていた。

 闇溜まりの中に、ジークの首とルビーの首が並んでいる。


 ルビーが先に、自分の首を拾った。

 既に、彼女は蜘蛛から、元の白衣姿に戻っていた。

 背中から血を垂れ流し、喘息みたいにぜいぜい言っていた。


 ジークも首を付け、自分で頬を叩いて、捻じれていた皮膚と骨を回転させて元に戻した。

「ふぅ…」

 彼は長い息を吐き出した。



 ルビーは弱り過ぎ、結界を維持出来なかった。

 その場は地下の、階段の行き止まりに戻ったのである。


「お互い、戦闘続行は不可能だな。改めて出直してやるから、その首、綺麗に血を洗い落して待ってろよ」

 ジークが憎々しげに言った。


 愛情が消えたことを感じ取りながら、ルビーも、

「行きなさいよ。いずれ、地獄まで追い詰めてやる」

 と、憎悪の炎をたぎらせた。

 二人は激しく睨み合った。


 ルビーは静かに影の中に沈んでゆき、ジークは階段を昇った。



 愛理が踊り場で、ヨッシーを抱いて泣いていた。

 嗚咽する彼女の肩に、ジークはそっと手を掛けた。

「人間には無理だったよな。自警団も全員アウトか…。どこかに埋めてあげよう。…黒蝶は逃げたみたいだな」


 愛理はしゃくりあげ、

「いい人だったのに…。人間にも、こんないい人が居るなんて…」

 と、泣き続けた。


「そうだな。すげーいいヤツだった。いい友達になれたよ」

 ジークは反対側を向いた。

 涙を見せまいとするかのように。




 4


 病院から脱出し、夕刻、ジークと愛理はヨッシー達の墓を作った。

 ローズ色の美しい夕焼けが見える、丘の上だ。


 ジークは夕焼けを眺め、

「俺は、憂とルビーを殺しに行く。どっちも強敵だ。死ぬかも知れねー。おまえはここに残れ」

 と、愛理に言った。

「何を今更。そんなこと言ったって仕方ないじゃない」

 愛理が口を尖らせ、文句を言った。


 ジークは少し考え込み、

「愛理には生き残ってほしい。この世界の新しい秩序の為に、中心になるヤツが必要だ。おまえは黒滝のジイサンがいなくなった今じゃ、この国の吸血鬼(ダーク)をまとめるに必要な、正当な血筋ってヤツを持ってる。それに、完全に吸血鬼(ダーク)側でも、人間側でもねぇ。貴重な存在だ…」

 と、わけを話した。


「勝手過ぎる。それって、あんたの一方的な思い込みじゃないの?」

 愛理は不満でいっぱいだ。

「おまえまでいなくなると、吸血鬼(ダーク)がバラバラになり過ぎるんだよ。俺は黒蝶を滅ぼしてくる。たぶん、帰っては来れねー」

 ジークは言い切った。


「嫌だよ、ジーク。独りぼっちにしないで」

 愛理はめそめそした。


「ガキか!? もう覚醒できるんだろ!? そろそろ、一人前の吸血鬼(ダーク)として、自分で狩りをして来いよ」

「まだジーク以外の血を吸ったことない。人間を襲ったこともない。本当だよ」

 愛理はしょぼんとした。


「はあ、処女吸血鬼かよ!? 未体験かよ!? 甘えんな。俺はおまえの為に、餌なんて拾って来れねーからな!」

 ジークは刺々(とげとげ)しく言った。


「行かないでよ、ジーク」

 愛理がジークの背中にすがりついた。

 ジークは荒っぽく振り解いて、彼女を蹴飛ばした。

 その足にしがみついて、愛理は泣いた。

「イヤだってば。一人じゃ生きてけないんだ。寂しい時、誰に愚痴を言えばいいの? 苛々した時、誰に当たればいいの? ジークがいなきゃ、私はダメなんだよ」


「知るか」

 ジークが愛理を引き剥がした。

「これが最後の戦いになる。もし、もし生きて帰って来れたら…」

 ジークは何か言いかけた。


「カレーを作ってくれ」


 愛理はすごい勢いで頷いた。

「うん、わかった」


 愛理がちょっとだけ、笑顔になった。

 その笑顔を見てから、ジークは背を向けた。

「行ってくる」

「うん、行ってらっしゃい。…待ってるね」

 愛理は不安で、ドキドキした。



 ジークは厳しい表情で、坂を下りて行った。

 日が暮れ、辺りに闇が迫る。


 ジークは闇の中に、黒瀧秀郷の気配を感じていた。

 それが段々と濃くなっていくような、恐ろしい予感があった。




 5


 A大学付属病院。

 夜に白く浮かび上がる、巨大な建築群。


 塀には鉄条網。

 雇われている兵士達。

 完璧な現代の城塞だ。



 けれど、そこにいるのは、罪ない病人・怪我人を人質に取る吸血鬼の親玉で、この世を滅ぼそうと企んでいる。

 ジークは病院を見下ろす、ミッドタウンの崩れかけた高層ビルの屋上にいる。


「ルビー…」

 ジークの心は絶望に支配されている。


「おまえを殺して、俺も死のう。どれだけ深く君を愛したか。君に恋していたか。…裏切られた。最初から、俺の金目当てだったのか…?」

 ジークは心の中で呟いた。

 胸に込み上げるものがあった。

 切なく、やるせなく、どうしようもないほど悲しかった。


「来いよ、ルビー。聞こえるだろう? 君に殺されるなら、それも本望。君を一人で、闇の深淵に旅立たせはしねーから」

 ジークは囁き続けた。



 背後から、靴音が聞こえた。

 ジークが舌打ちをして、振り向いた。


 学生のローファーの靴音。

 憂が黒い翅を広げ、高層ビルの屋上のフェンスの内側を歩いてきた。



「おまえは放っといても死ぬんだ。憂。おまえは独りじゃ生きてけねー。精神が弱過ぎて、じきに闇に自我を食われる」

 ジークが憂に言う。

「憂、どうだ。心臓が時々痛むだろ? 俺は腹から腐ってくる。哲さんは頭が痛いと言ってたな。おまえは血が足りなくなってくると、胸が苦しくて痛いはずだ。今なら、哲さんの痛みと苦悩がわかるようになったはずだな」



 憂は青白い顔色で、夜風に吹かれていた。

「確かに、その通りだよ。ジーク。蘇って、なお恨めしいこのカラダ。クソ忌々しい。不死のカラダを得たつもりが、永遠の苦痛ときたよ。永遠につきまとわれ、逃れきることのできない、死への恐怖がある。…まさか、こんなに辛いもんだとはね…」

 憂が苦しそうに答えた。


「ああ、ジーク。オレ達は何の為に生まれて来て、何故にこんな苦しみながら、あがきまくって生きてかなきゃならないんだろうね? どんなに望んでも、努力しても、報われない。オレ達は孤独のままだね…」

 憂は自分の腕を抱くように、夜風を寒がった。


「ねぇ、狂ったルビーを見たでしょ? あんな姉にしたのは…ジークだよ」

 憂はジークを呪った。

 ジークを呪うことが、憂のチカラの源になっていた。



「ルビーは正気を保ってねーな。俺がおまえら姉弟に、引導渡してやらぁー」

「ふん、出来ると思うなら、やってみなよ。墓穴を掘りに来たんだね。未練たらしい、女々しい男…」

 憂が跳び上がった。


 ジークは黒飛龍剣に巻いていた布を解き、一歩、また一歩と進んでいった。





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