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ph 87 地獄開門

phase 87 地獄開門


 1


 ジークの体は、黒瀧の流れ込む意識に抗って痙攣した。

「ぐぁぁ…」

 ジークは鼻血を垂れ、涎を垂れた。

 彼はほぼ覚醒し、見たことのない獣に変貌していた。


 ジークの変わりゆく姿に、黒瀧は(おのの)いた。

 暗い影のような黒瀧の髪や装束とは真逆の色、どんどん白くなっていく彼に、

「どういうことだ? とても私の血を分けたとは思えぬ…」

 と、渋い表情で吐き捨てた。



 ジークに鋭い二本の角が生え、角の脇に耳が立っていた。

 隈取りが残った顔から、獅子のように高く鼻が突き出て口が大きく裂け、尖った牙が並んでいた。

 神がかったような、白い(まなこ)


 彼は大地に両手を着いている。

 その筋肉の表面が、白蛇のような細かな鱗に覆われている。

 翼と尾羽を備え、長い風切り羽が指のように開いている。

 鳥と蛇と獅子の混ざり合った、白いキメラだ。



「ジーク。達紙(たつがみ)の苗字を、竜神(たつがみ)の字に変えちゃどうだ!?」

 ヘルが階段の一番下の段で、胸ポケットからタバコを取り出し、口にくわえて火を点けた。



「くぅぅ…」

 黒瀧が歯軋りした。

 彼のチカラが、そこから先、ジークに入っていかなくなった。


 ジークの中で、血がせめぎ合った。

 元々、ジークの不死のカラダは、黒瀧の血で出来ている。

「ギャオー…オウオウ…!!」

 ジークが獅子のように咆哮した。


「チッ!!」

 黒瀧はジークの背に触れていた手を離した。

 ジークの体内で獣が牙を剥き、黒瀧の侵入するチカラに噛みつきそうだった。



「ジークをもう一度、私の玉座へ連れて行く…」

 黒瀧が黒い霧を吐き出し、ジークの周囲を包んだ。

 獲物であるジークを逃がさない為に、袖を広げ、懐に引き入れる。


「くそっ…、頭が割れそうだ…」

 ジークは全身の血が、最大限に脈打つのを感じた。


 ジークは翼を広げ、黒瀧の袖を払おうとした。

「退けよ、ジイサン…!!」

 しかし、黒瀧は既に霧のように広がり、彼の翼は空を切った。

 彼は黒瀧の霧に包み込まれた。




 2


「待てよ。黒瀧、逃がしゃしねぇって…」

 ヘルが階段の上の方を振り返った。

「ほら、見ろよ。おまえは本当に誰からも怨まれてるんだな。黒瀧に怨みを持つ数万の怨霊達を、地獄の底から案内してきたぜ…」



 巨大な門から続く、長い階段が異様な光景だった。

 奇岩の島に続く、暗黒の空からの折れ曲がった階段。

 それは地獄の底と深淵の底を繋いだ橋…。


 階段の上で黒い雲が湧く。

 大量の気配が起こり、ずるずると垂れてくる。

 悪寒を催す禍々しい気が流れる。



「う…はぁ……」

 黒瀧が呻いた。

 知った者達の気配があった。


 黒い雲に乗り、鬼の形相の怨霊達が地獄の魑魅魍魎を引き連れて、百鬼夜行の如く降りてくる。

 地獄火の絡まる車輪が巡る。

 黒ずんだ皮膚と濁った目玉、腐敗した内臓、脳を零しながら。

 自我も曖昧になり果てて、最後に残るものは憎しみだけだ。


「王よ…。王よ…。我等を見捨て、殺戮の限りを尽くした王…」

 怨霊の数、数万。

 遠くからだと、アリの大群のように見える。


「知らぬ。おまえ達は深淵を追放された怨霊達だ。闇の契約に従い、地上の闇に還るがいい」

 黒瀧が虫を払うように、手を払って見せた。


「王がいた…!!」

「あいつだ!! 我々の家族を惨たらしく殺し、村を焼き払ったのは…」

 怨霊達に歓喜の声が湧き上がった。

 長い者は二千年の月日を地獄で過ごしてきた。

 遂に、復讐するべき相手を眼前に見出した。


 アリの大群がどっと勢いを増し、階段を流れ落ちてきた。

「うおお。あいつの肉と魂を食らうまでは…、うひぃ、死んでも死ぬものか…」

 鬼火が青く燃え上がり、地獄の車輪が轟々と鳴った。



 ヘルは道を開け、門扉の脇に退いた。

「ヘル、そんな雑魚どもをどうするつもりだ!? 一人一人は下等なゾンビだったんだ。そんな奴等を大量に集めたからと言って、私のチカラの根源であるこの闇の深淵に於いて、最強の私を倒せるとでも思うか!?」

 黒瀧が怒鳴った。


 ヘルはタバコを砂浜に捨て、

「雑魚どもの牙を味わえよ、老いた吸血鬼の残骸が」

 と、皮肉を言う。



 やがて、怨霊と魑魅魍魎が島の浜辺に降り立った。

 黒瀧は下等な者達と戦う気もなく、ジークを懐に包み込んで、暗黒の空に掻き消えた。


「黒瀧、もう逃げられないんだって。とうとう俺は、あんたの本体に食らいついた。この島全て、いや、この結界全ての闇が、言いかえれば黒瀧秀郷だもんな。二千年の吸血鬼の魂よ、おまえを生み出した闇とともに…死ねよ!!」

 ヘルが空に向かって言った。


 ヘルの声を合図に、数万の怨霊が深淵全域に散っていった。

 彼等は深淵の闇と混ざらず、片っ端から深淵を貪り始めた。

 深淵を食うことが、黒瀧という宿命の敵を食うことであった。



 深淵が均衡を失い、大きく傾いていった。

 主軸である黒瀧は正常さを欠き、自我を失いつつあった。

 闇の深淵は制御されなくなり、欲望とチカラだけが暴走した。

 深淵が虫食いになって、ポツポツと穴が開いていく。



 奇岩の島は、黒瀧の心の異様さと殺伐として乾燥した状態を表していた。

 そんなものは、一切の光と一緒に消えてしまった。

 世界は純粋な闇に還った。

 どこまでも果てしなく無で、全ての視界が失われた。


 ヘルは暗黒の中、門扉の前に立ち続けた。

 怨霊達が闇を食う音が、ポリポリと四方から聞こえ続けた。

 光と影の城も、美しかった銀河もない。

 世界は完全にブラックアウトして、足元も何も無い。



 ジークは宙に浮き、どこかへ流され、方向も重力も感じなかった。

「ジイサン、どこだ!?」

 頭痛が嘘のように、爽やかに消え去っている。

 入り込む黒瀧のチカラは、今は途絶えている。


 ジークの中に入り込んだ黒瀧のチカラは、現在、ジークの制御下にあった。

「俺はジイサンに抱え上げられ、深淵に投げ出された…」

 ジークは目を凝らしたが、何も見えなかった。

 (パルス)を投げ掛けても、何の反応もなかった。


「お化け屋敷で鬼ごっこしてるみたいだな…」

 ジークは黒瀧を探した。

「いや、ジイサンはもう深淵じゅうに散らばってしまった。元々、自我が失くなりかけてたから、こうなるのが末路だったんだ。ジイサンは深淵と一体化した…。ここもあそこも、どこもかもがジイサンなんだ…」

 ジークは息も吸いたくない気分だった。


「ヘルは…地獄の門の側か? あいつはジイサンと刺し違える気か?」

 ジークは闇を掻いて泳いだ。

 怨霊達が闇を噛み砕く音、怨霊を噛み裂く闇の音が聞こえた。

「深淵が終わる…? まさか…!?」

 ジークは結界に入る亀裂を感じた。



 ヘルは地獄の門の前で、黒瀧を待ち続けた。

 人生をかけ、待ち続けた瞬間が訪れた。


「ヘルゥ……」

 黒瀧の声だけが聴こえた。

「寝言は聞かないぜ」

 ヘルが口笛を吹いた。


「ヘル…。あれしきの怨霊の数で、この無限の闇が食い尽くせると思うか…」

 黒瀧がすぐ側から囁いた。

「腹いっぱいになった怨霊は、ここの闇を吸収して肥えていくのさ。深淵を食った分と同じだけ、でかくなってゆく。闇はその分、体積を減らす。いつかは食い終わるさ」

 ヘルが答えた。


「違うよ、ヘル。永遠に食い合い続けるだけだ。決着は着かぬ。いや、私は次の手を打つことが出来る。何故いつまでも、私一人の生にこだわり続ける必要があろう? 私は人間どもを根こそぎ殺して、吸血鬼(ダーク)を増やす。世界に闇を拡大する。意識の世界から物質世界へ、闇を放出するのだよ」

 黒瀧がヒヒヒと嗤った。


「それは無理だよ。…ジークがいるからな。あの医者のくたばり損ないが、闇を消滅させてくれるよ」

 ヘルは声に期待を滲ませた。

「おまえはここで果てる」

 黒瀧が断言した。


「おまえを道連れにね。俺は今夜、仲間の仇を討つ」

 ヘルは黒瀧の、死神の用いる大鎌を避けた。

 首が危うく刈り取られるところだった。


「そうは行かない。ジークにも、そんなことは出来ない。…私を拒否したあいつは、もう不要の生ゴミだ…」

 黒瀧が再び、大鎌を振った。

 ヘルは門扉の反対側に、するっと扉を透かし抜けた。


「黒瀧…。俺はもう死んでる。地獄の案内人だ。例えおまえでも、俺の首を刈ることも心臓を抜くことも出来ないよ」

 ヘルが迷彩服のポケットに手を入れた。

 娘の写真が入っている。

 その写真の更に奥に、指を入れる。


 黒瀧が大鎌を振るう。

「亡霊よ。おまえの魂を刈ってやろう。我々の遺伝子から人工的に造り出された、蛾の吸血鬼。大元を辿れば、私の血の末裔と言えるではないか」


 ヘルが大鎌を避けた。

 黒瀧が反対の手から、黒飛龍剣を突き出した。

 空間が裂け、ヘルの魂が裂ける。


 ヘルの裂けた上半身の、まだ一塊である右手に握られていたのは、一本の注射器。


「黒瀧。俺がラボで、対吸血鬼用に作ったモノだ。このバカでかい結界に散らばったおまえの、たった一つの脳味噌を役立たずにする。おまえの精神(こころ)を終わらせる。カラダを殺さずとも、精神を殺す。それが死ぬということなんだよ」

 ヘルがバラバラに砕け散りながら、最後に呟いた。


 注射器が眉間に刺さり、黒瀧は闇の中で両目を剥いていた。

 深淵を宿した光なき眸に、青白い光が燃え上がった。

「うおおぉ……」

 黒瀧が呻き声を漏らした。




 3

 

 黒瀧は幻想を見た。


 自分のカラダがグニャグニャの生キャラメルのように、粘りながら溶けていく。

 どこまでも自由方向に広がって伸びていって、突き抜けていく。

 手足も肩も、腹も尻も頭も、みんなバラバラの方向に伸びて、極限まで薄くなっていく。


「はぁ…」

 伸びきっていく快感に委ね、眩し過ぎる光に目を閉じる。

「知らなかった…。完全な闇が、こんなにも眩しいものだったなんて…」

 黒瀧の眸が、青白い炎に焼かれていく。



 黒瀧は夢を見ていた。

 若かりし頃だ。


 希望に胸を膨らませ、真実を追い求める修行に日々明け暮れていた。

 彼の一族は光から追われたが、心まで闇に染まってはいなかった。

 光を恋しがって、度々泣いた。


 しかし、そのうち、黒瀧は裏切りに遭い、絶望する。

「我々は薄汚い蠅だ…。神よ、我々を滅ぼしてくれ…」


 黒瀧は闇に救いを見出す。

 心は憎しみに染まり、鬼となる。

 夜に居場所を求めていく。



 ジークは暗い深淵の片隅で、黒瀧の回想を見詰めている。



 黒瀧は狂ったように殺戮を始める。

 家族を、仲間を惨殺し、人間を殺す。

 真実を求める修行者は、突如殺人鬼に変わった。

 女、子供、年寄りも見境なく、敵も味方もなく殺し続けた。


 彼は吸血鬼(ダーク)の死後の世界である深淵に、新たな意志を吹き込んだ。

 彼は新たな使命を得た。

 光と闇とは何なのか。

 精神と肉体とは何なのか。

 全てを破壊せよ。


 人間の人間らしさを破壊せよ。

 吸血鬼(ダーク)の繋がりに楔を打て。

 永久の命は必要ない。

 永久の苦しみと、孤独だけでいい。


 その頃から、黒瀧は少しずつ狂い始めていた。

 孤独は更に黒瀧を(むしば)む。

「私は…誰なんだ? 何者なんだ…? 一体、この二千年は何だったのか…!?」

 黒瀧が悲鳴を上げた。


 最後のタガが外れて飛ぶ。

 深淵が空気の漏れた風船のように萎み、抜け出した闇が地上に吐き出される。

 既に吸血鬼(ダーク)に侵された物質世界が、再び穢される。



 ジークが駆け出した。

「ヤバい。ジイサンが崩壊する。どうなってしまうんだ!?」

 ジークが闇を疾走した。

 地上で言うなら、相当の距離を全力で駆け抜けた。


 間に合うか?

 深淵がひび割れていく。




 4


 ごく一部分に、さっと光が射した。

 地獄から伸びた長い階段に、誰かがいる。

 ヘルの魂が砕け散り、階段も朽ちて崩れていく途中だ。


「愛しい人…。死んでしまったのね…」

 玖磨が微笑みながら、嬉しそうに呟いた。

 彼女は映画祭の主演女優賞を受賞した女優みたいに、優雅に階段を降りてきた。

 玖磨が降りた後の階段は崩れて塵になった。

 スポットライトみたいに、玖磨だけが光を浴びている。


「黒瀧はまだ死んでねー。気化して、地上に漏れ出ただけだ」

 ジークが息を切らし、玖磨に答えた。



「あなた…、まだ生きてたの。私の二番目の夫…」

 玖磨が微笑み、玻璃、翡翠と碧玉、瑪瑙などの首飾りを外し、綾取りをするように両手にかけた。

 その(たま)が、毒々しい呪いを孕んでいる。

「玖磨、退けよ。愛理を返してもらう」

 ジークが階段の前で、仁王立ちになった。

 玖磨は白いキメラの姿を凝視した。


「どの口で言ってるの? 可愛い坊やね」

 玖磨が子供に言うみたいに、甘ったるい声で言った。

「玖磨。なんで愛理を襲ったんだ? 俺がいつ、あいつと結婚するって言った?」

 ジークがふてくされた。


「あら、聞いたわけじゃないけど。だって、私は未来を直接視たんですもの」

 玖磨は数珠を組み、広げた。

 珠の間で空間がひび割れ、網のようにジークに亀裂が走った。


「うわっ!!」

 ジークが避けたら、珠が当たった門扉の一部が粉々に砕け散った。


「玖磨、俺はあいつのこと、女とも思ってねぇー。一度も意識したことねー。結婚なんて、するわけねーんだよ!!」

「じゃ、私がいくら生き血を吸っても、あなたに関係ないでしょ。ジーク」

 玖磨がまた数珠をくねらせ、息を吹きかけた。

 雷が発生し、網のようにジーク目がけて飛んだ。


「やめろよ。俺達、夫婦じゃね? てか、愛理はおまえのオモチャじゃねーし。俺の妹みたいなもんなんだよ。妹に触手伸ばしてんじゃねーよ」

 ジークが横飛びして躱し、獣の咆哮を轟かせた。


「妹? 面白いわね。そうまで助けたい? 本心で、愛情のかけらもないって言える?」

 玖磨は嫉妬に狂った般若のようで、珠をジークに投げつけた。

 珠は手榴弾みたいに爆発し、ジークは慌てて後退した。



「玖磨、こんなことしてる場合じゃねーの。黒瀧の気化した闇を追わないと、人間達の世界がさぁ…」

「人間なんて、滅びればいいんだし!!」

 玖磨が泣き出した。


「私はあの人を愛してた。愛してたからこそ、憎くて、憎くて…。この気持ちをあなたにぶつけるしかないんだわ。ジーク、あの人の代わりに、私に殺されてちょうだい。私の怨みを受け止めて欲しいの。ああ、あなたも私以外の女がいいって言うのね…?」

 怨霊の本来の姿に戻り、玖磨の顔半分が腐って崩れた。

 顔半分が白骨化し、着物もぼろぎれのようになった。


「あっ、おい…。怖ぇーんだけど」

 ジークが震えて、また一歩下がった。



 玖磨の背後で、地獄の門が錆びて崩れ落ちた。

 風が舞い、塵をジークの頬に叩き付けた。


「ジーク、一度でいい。好きと言って。誰よりも好きと。あの小娘より、私が好きだと…」

 怨霊が白骨の手を伸ばし、近寄ってきた。


 ジークは白骨の手を掴み、

「そんなの、黒瀧のジイサンに言ってもらえよ。でなきゃ、意味ねーんだろ!?」

 と、彼女を突き飛ばした。

 玖磨はわっと泣き出し、地面に座り込んだ。


「泣きたいのはこっちだよ。何だよ、結局、おまえが好きなのはジイサンじゃん。俺は代用品かよ?」

 ジークが吐き捨て、玖磨はもっと泣いた。

「後悔しねーように、今のうちに言って来いよ。ジイサンが消えてなくなる前に、おまえの気持ち伝えろよ。二千年、思い続けたってことを…」

 ジークが言い重ねると、玖磨はいつの間にか、十四、五の少女になっていた。


「それが玖磨の本当の姿…?」

 ジークは呆然と、泣き続ける少女を見下ろした。

 最早、顔に腐敗もない。

 とても美しい少女だ。


「ジーク、今気付いたわ。そうなんだわ。私、どうしてもあの人が好きなのよ。あなたじゃダメなのよ。ごめんなさい」

 玖磨はジークの手を振り払った。



 玖磨は数十秒、その場から消えた。

 そして、ジークの前に戻ってきた。

「ジーク、これを使って。異界を越えて、物質世界へ帰れるから。黒瀧を救ってあげてほしい」

 玖磨がジークの手に、黒飛龍剣を託した。


「ジーク、黒瀧に伝えてくれない? 私、きっと待ってるって」

「玖磨…。あと二千年でも待つつもりかよ?」

 ジークが尋ねたら、玖磨は頷いた。

 


 ジークは舌打ちした。

「誰がジジィを救うもんか。そんなことは知ったことじゃねぇし。俺はまず、愛理を…」

 彼は目の前の空間を、黒飛龍剣でぶった斬った。


 異界が垣間見えた。


「俺は愛理を…助けるんだ」

 ジークがもう一度空間を切り裂き、十字に道を開いた。


 


 薄暗い場所だった。

 ジークは覚醒から醒め、普通の状態に戻っていた。

 裸に近いほど、服が擦り切れてボロボロだった。


 黒瀧の部屋の、鏡の前だった。

 ジークは部屋を飛び出し、三階のホールに出た。

 陰惨な戦いの跡はなく、夜明け近い藍色の空がカーテンの隙間から見えた。


 ジークは階段を駆け下りた。

「愛理!! 愛理っ!!」


「ジーク…!?」

 二階の廊下でドアが開き、よろよろとパジャマ姿の女の子が出て来た。


「愛理!!」

 ジークが受け止め、

「俺の血を飲めよ。それしか方法がねぇ。どうせ、おまえからもらった血だよ。早く飲まねーと死ぬぞ!!」

 と、彼女を抱き寄せた。


 愛理はジークの首筋を見た。

 汚れて血だらけ、汗臭い首筋を。

 愛理はぶわっと涙を零した。


「ん、どうしたの!?」

「ジーク、…わ、私のこと…、…ブ…ブスって言ったぁー…!!」

 愛理が至近距離から、拳法の正拳を突き出した。


「ぶぶっ!!」

 ジークが顔面を張り飛ばされ、床にひっくり返った。


「助けに来たのに…、これはねー…だろ!?」

 ジークはむち打ちになりそうなほど首が一瞬で曲がって、意識が遠のいた。

 

 



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