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ph 85 奇岩の島

phase 85 奇岩の島


 1


 暗黒の坂道で、幻覚がジークの心を掻き乱そうとした。


 彼の前に、血塗れのルビーが現れた。

「どうしてその男を殺してくれないの!? そいつが私を殺したのよ!!」

 と、ルビーが忍人を指差した。

 ジークは幻とわかっていても、胸が痛んだ。


「もう少し待っててくれ…。俺もすぐ、おまえの側へ行くから…」

 彼は心の中で呟いた。




 2


 潮騒が聞こえる。

 闇の海原から飛沫が立って、闇が濃く、ねっとりと彼等の肌に絡み付く。

「たぶん、こっちだ」

 ジークが忍佐加の記憶に導かれ、走り出した。


 ナオはじわじわと闇に食われていくのを感じた。

 鳴海やクレイによって受けたダメージのせいで、彼のチカラは尽きかけている。


 ジークは、忍佐加を罵る闇の亡者を見た。

「忍佐加。おまえは死んでも深淵に拒否されて、生者の世に留まったのだ。永遠に亡霊として、苦しみ彷徨うがいい」

 ジークの中に憑りついていた忍佐加が、急に分離して彼の体から抜け出た。


「私は決着を付けに行くんだ。ここから先は肉体を必要としない」

 忍佐加がジークに言った。

「怨霊なんてすぐ闇に同化して、溶かされちまうぞ」

 ジークが警告したけれど、

「私の中は憎しみだらけ。君の体の中に隠れても、どうやら同じ…」

 と、忍佐加は答えた。



 黒い浜辺の波打ち際に、一艘の小舟が流れ着いていた。

「これが送迎ってことか…?」

 彼等は恐る恐る乗り込んだ。


 櫂も帆もない小舟が、ひとりでに波を切って、飛沫を上げながら猛スピードで進む。

 小舟が三角に立ち上がる大波に跳ね上げられ、バウンドした。

 彼等は頭から水を被りながら沖へ出る。


 呼び寄せられるように、小舟はどんどん進む。

 暗黒の海からは、無限の広さしか伝わって来ない。

「これ全部が…、黒瀧のジイサンを支えるチカラ…」



 やがて、雨が降ってきて、彼等はずぶ濡れになった。

 黒雲の中で稲光が走った。

 彼等は前方に、尖った針山のような、奇岩だらけの島を見た。

「あそこだ。あの島から、ジイサンの(パルス)を強く感じる…」


 奇岩の島が眼前に迫った。

 奇岩の夫々の頂点に、七人の男が立っていた。

 黒瀧のSPだった男達か。


 七人ともカルト教団のように不気味な黒装束で、顔も似通っている。

「黒瀧の血を受けた息子達、深淵の番犬だ…。ジークや朔夜の血の兄弟だよ」

 忍人がジークに耳打ちした。


 忍人が丈の長い上着を翻し、小舟から飛んだ。

 ジークも翼を羽ばたかせ、後に続いた。

 ナオが刀を杖代わりに着き、跳躍一つで島に降り立つと、乗ってきた小舟は波間に沈んでいった。

 帰り道はない。



 深淵の番犬の一人が宗教的な装束の袖を広げ、大仰に言った。

「ようこそ、ダークランド城へ」




 3


 奇岩の島全体が、城。

 風が吹き込み、異様な音が鳴っている。

 まるで、壮大な交響曲のように。


 男が大口を開け、二股の舌を垂れた。

 口から、蠅の大群が飛び出す。

 蠅は空中でオオコウモリの群れとなり、空全体に広がった。

 別の男も口から蠅を吐き出し、それはカラスの群れとなった。


 男が杖を前に突き出した。

 世界の重心が直角に傾き、ジークとナオはバランスを崩した。


 世界をスライドするみたいに横に滑って、ジークは泡立つ海に落ちかけた。

「ジーク!!」

 ナオがジークを掴んだ。

 危うく、海から跳び上がった魚竜に食われるところだった。


 ジークはそそり立つ岩肌にしがみ付いた。

 断崖絶壁の足元が脆く、小石が海に落ちていく。

 海が複数の手のカタチになり、ジークを掴もうと伸び上がってきた。

 二人は重心の狂った世界で、旗みたいに横向きにぶら下がった。



 二人に、カラスとオオコウモリの群れが襲いかかってきた。

 海からは、鮫のような歯をした魚竜が跳ね上がった。

 カラスの群れは飛ばされて塵になったが、また一つの影に集合した。

 次は獣のカタチになり、再び彼等を攻撃してくる。

 再生は限りなく繰り返され、どうやっても殺すことが出来ない。


「この闇の雨の下で、眷属を殺すのは無理だ。奴等は無限にエネルギーを持ってる」

 ナオが重力を元に戻し、奇岩を駆け登った。


「おい、ナオ。深淵で黒飛龍剣を使ったら、どうなる!?」

「やめといた方がいいな。それ、元々、黒瀧さんの剣なんだぜ。そいつのチカラは黒滝さんに味方するかも知れない。ジーク、これを使えよ」

 ナオがジークに鬼美津を渡した。


「ナオは!?」

「俺は香の刀を使う。これも銘・鬼美津」

 ナオは香の形見の刀を抜き、コウモリとカラスをぶった斬った。

 眷属は散り、大きな獣になって戻ってきた。


「きりがねぇー。てか、黒飛龍剣使えねーと、俺ヤバいんだけど…」

 ジークがナオの鬼美津で、顔のない獣を斬った。

 下から魚竜が波を割って立ち上がり、ジークの腕をくわえて海に引き摺り込んだ。


「ぐはっ!!」

 ジークは深淵の海水を飲み込んで、深く引き込まれた。

 海中は何もかもが敵で、目から耳から鼻から、肌の毛穴から、邪悪な意志が入り込んだ。

 皮膚が剥がされるような痛みを感じて、ジークは海中から飛び出した。

 手の指の生爪が全部、もがれていた。


 ナオがジークを襲った魚竜の頭を割り、刀を深く突き立てたが、魚竜は黒く霧散した。

 海が割れ、もっとでかい首の長い魚竜が生まれ、辺りに産声を轟かせる。


「いってぇー!!」

 血だらけのジークが両目を押さえ、高く舞い上がった。

 ズキズキする痛み。

 海水から寄生虫のような闇が忍び込む。


 彼はチカラを解き放って、体内に侵入した毒素を排出した。

 そして、休む間もなく次の敵と戦う。

 彼の体中の骨が鳴り、覚醒に近付いていく。

 髪と虹彩が白くなり、体中に黒いタトゥーのような模様が浮かび上がる。



 ナオも覚醒し、次の魚竜と格闘していた。

 手に負えない相手だった。

 何度でも蘇るのだから、心臓や脳すら、致命傷になることがない。


 忍人と忍佐加は兄弟で戦っていた。

 闇の眷属を弾き散らし、寄せ付けぬ勢いがあった。

 兄弟は奇岩に立つ深淵の番犬まで、あと一歩の距離まで迫った。



 その時、深淵の番犬が覚醒し、チカラを集合させた。

 暴風雨が勢いを増し、稲光がびかびか光った。


 奇岩を跨いで、七つ頭の黒龍が立ち上がった。

 七つの(こうべ)をもたげ、大口を開けて火を吐いた。


 ジークとナオは海面すれすれで、炎を避けた。

 炎は幕のように燃え上がって海面を舐めていく。

 波間から魚竜がジークの腹に食らいつく。

「わあっ!!」

 ジークは腹を食いちぎられ、波間を転がった。


「ジーク!!」

 ナオが叫んで、自分の体を盾にした。

 ナオの背中が燃え上がった。



「ここで時間を取られていたら、黒瀧に会えなくなってしまう」

 忍人は深淵に浸るタイムリミットを感じた。


 忍人が突然消えた。

 と思ったら、違う場所に現れた。

 彼は空間を縫うように動いた。


 忍人は一瞬で、七つ頭の龍の頭の一つに辿り着いた。

 その頭部を、いきなり彼は木端微塵に吹き飛ばした。

 龍の頭部は連続して爆発し、喉、長い頸部、首の付け根まで爆発して飛び散らせた。

「あはは、黒瀧…。終わりだよ、あなたは…。もう朽ち果てて、闇に溶けるがいい」

 忍人が呟き、次の首に飛びかかった。



「強い…。さすが忍人だ。本当に強いな…」

 ナオは敵ながら認めた。



 忍人は黒瀧を憎む余り、黒瀧の血を継ぐ者を全員憎んでいた。

 攻撃する度、彼の心は強く闇に染まっていく。

 忍人が黒瀧に執着するほど、理性が薄れ、彼は闇の深淵に近しくなっていった。


 化けの皮が剥がれるとはよく言うが、忍人も本性が剥き出しになってきた。

 忍人のまなじりが吊り上がり、眸の虹彩が金色に燃えている。

 口から犬歯が長くはみ出し、髪が天を突くように逆巻く。

 か細かった腕に、筋肉が隆々と盛り上がってきた。


 忍人が血を求め、龍の口を引き裂いた。

 龍は首まで二つに裂け、血が高く噴き上がった。

 忍人は裂いた首の間に頭を突っ込み、ゴクゴクと喉を潤した。

 顔を上げたら鮮血で真っ赤で、鬼のようだった。



「忍人…?」

 ジークが不安になった。

 忍人はもう理性を失ったんじゃないか?



 七つ頭のうち、二つ欠いたはずの黒龍が大きくのけ反った。

「グシャアアアッ!!」

 威嚇するような啼き声を上げ、身を躍らせた。


「あっ…!!」

 龍の姿を見て、ジークとナオは愕然とした。

 僅かな時間で、頭部が七つに復活していた。

「くそ…」

 忍人が表情を、屈辱の為に歪ませた。


 破裂し、裂かれたはずの二つの頭は元通りに、激しく火を噴いた。

 火山が爆発して、金色にどろけたマグマを噴き出すように、深淵の番犬が一斉に火を噴いた。

 奇岩の島の入江は、超高温の炎で満たされた。


 ジークとナオ、忍人兄弟は奇岩の影に伏せた。

 しかし、岩も吹き飛ぶほどの熱と爆風が来た。

 彼等は海に投げ込まれた。

 海が泡立って、表面が沸騰した。

 黒い海水が蒸発し、更に世界が暗くなった。


「深淵の番犬は不死身で、無敵だ…」

 ナオは心の声で、ジークに言った。


「黒瀧のジイサンと同じように、闇から再生のエネルギーを得てるんだろ? 深淵の中じゃ、最強ってわけだ」

 ジークは魚竜の体に鬼美津を突き立てたが、魚竜はそのまま深く潜水した。

 海の水を寄せ付けず、海を一部割るようにして、忍人兄弟が来た。

「ジーク。私と弟が七つの心臓を抉る。君とナオくんで七つの首を落としてくれないか?」


「どうやって!?」

 ナオが魚竜に足を食いつかれ、それどころじゃない。


「わかったよ。やっぱり、最初からそれしか無かったよなぁー」

 ジークは忍人の肩を借りる。

 忍人の持つ龍の目玉の指輪のチカラで、空間を縫うように移動した。


「ひとーつ!!」

 ジークが一つ目の首を、黒飛龍剣で斬り落とした。

 大振りの一撃で、剣より径の太そうな首が落ちた。


「ふたーつ…!!」

 ジークが跳躍して、黒飛龍剣を振り上げる。

 黒飛龍剣により、空間ごと裂けていく。


 ザアザア空間がノイズを立て、ひび割れる。

 ジークの黒飛龍剣に電気が走り、チカチカ光が飛ぶ。

 ジークは翼を自在に変形させ、深淵の番犬の攻撃を躱して、ちょこまかと動く。


 忍人と忍佐加が首の落ちた龍の心臓を引き抜き、グチャッと握り潰した。

「みーつっと!! よーつ!!」

 ジークが更に剣を大振りして、その場から空間ごと、龍の首を断つ。

 空間の切り口は数十メートルに達する。

 大空が崩落しそうだ。



「ジーク、豪快だな…。最後に面白いもんを見せてもらったよ…」

 ナオが苦しそうに、はあはあと喘いだ。



 深淵の番犬の残る首が振り返り、ジークに火を噴いた。

 それは自らの体に火を浴びせることになった。

 尻尾でジークを叩き落とそうとした。


 ジークは五つ目の首を落とす衝撃に乗って、大きく跳んだ。

「むーぅーつっ!! ヤマタノオロチ退治みたいだぜ!! ラスト、七つぅー!!」

 首を全て斬り落とした。

 深淵の番犬は自らの火で、全身焼け爛れ、燃え上がっていた。


 忍人と忍佐加が七つの心臓を潰し終えた。

 深淵の番犬は黒い塵になり、ゴゴゴ…と低い地響きを轟かせながら崩れていった。


 空はメチャクチャに切り裂かれている。

 赤と黒が入り混じり、雨が止んだのに、生ぬるい不気味な風が吹いている。



「やった…」

 ジークは膝をガクガク震わせながら、海に降り立った。


「ナオ!?」

 ジークがナオを探した。

 ナオは波に洗われる低い岩場で、横たわっていた。


「ナオ、大丈夫か!?」

 ジークが翼を開き、ナオの側まで飛んだ。

 ナオは足を食われ、腹を食われ、腕もなくなり、顔も原型ないほど崩れ、肉塊状態だった。

 あちらこちら溶け出して、ぴくとも動かなかった。


「…先に行っててくれ…。…朔夜さんと…香と一緒に…、後から追いかける……」

 ナオが心の声で言った。

 そして、とろとろと崩れ、波間に溶けていった。


「ナオ…」

 ジークは顔をくしゃくしゃに崩して、涙を手の甲で拭いた。

「わかった…。後から来るんだな。いつまででも待ってるよ…」

 彼は岩場から立ち上がった。




 4


 ジークに忍人が言った。

「最後のステージに上がる。忍佐加に聞いたんだが、この深淵は何層ものレイヤーに分かれている。黒瀧の本体は、この島にあるんじゃない。もっと上のレイヤーにある…」


 ジークは半覚醒の白い眸を、鬼のような醜い姿の忍人に向けた。

「ジャンプするってことか。やり方は知ってるよ」

 彼は意識を集中した。

 薄い壁を何枚も跨ぐ感覚だった。

 結界を飛び越える。


 もうチカラが残っていないように思った。

 でも、朔夜やナオや香のことを思うと、不思議とチカラがどんどん湧いて来た。

 ジークは奇岩の島とまた違う景色に辿り着いて、荒い息を弾ませていた。



「付いて来れたね」

 忍人兄弟がジークを見て、胸を撫で下ろした。

「ここはどこ?」

 ジークが辺りを見回した。


「深淵の中心部。胎内というべきか…」

「ここ、来たことあるよ」

 ジークが思い出した。


 真っ暗な宇宙に浮かぶ、いくつもの銀河。

 煌めく星々が渦になり、回転している。

 遠く彼方に瑠璃色のガス雲が見え、近くの銀河では収縮と拡散の息遣いが聴こえる。


 世界がどちらかの方向に流れていく。

 ゆっくりと静寂の中、銀河の回転に巻き込まれていく。

 銀河の中心には、暗黒がある。

 ブラックホールなのか、何もないのか、とにかく闇でしかない。

 光は渦巻きながら、中心へ向かう。


 ふと、自我を忘れそうになる。

 ここでは何も意味をなさない気がする。

 大宇宙の中で、砂粒みたいにちっぽけな自分。



 長い旅だった。

 湖に沈んで息絶えたのに、蘇ってしまったジーク。


 望みもしないのに永久の命を与えられ、血を吸う鬼に変わり果ててしまった。

 自分を呪い、最愛の人を奪った相手を憎みながら、夜の片隅を生きてきた。

 人間達を守る為に吸血鬼を滅ぼそうとしたが、人間達が吸血鬼を狩り始めたら、必死で逃げ回った。


 所詮、吸血鬼。

 気を許せる相手は同じ鬼しかおらず、いつの間にか馴れ合い、仲間になって、彼等を殺せなくなった。


 ジークは自分をみっともなく思い、自分自身に嫌気が指した。

 いっそ、死んでしまいたい。

 最愛の恋人のところに行きたい。



 そこまで考えた時、忍佐加がジークの肩を叩いた。

「飲まれるな、ジーク。しっかり自分に留まれ」

 ジークははっとした。

 自分の姿が半透明になりかけていた。


「危ね!! もう少しで俺は…」

 ジークは頭を振った。

 彼の隣りで、忍人も意識が霞みかけていた。

「兄上…、父上が来ます…!!」

 忍佐加に揺すられ、忍人も目を覚ました。


「もう一つレイヤーがあります。北極星のように、この星々の中心に当たる場所に…、城が見えます」

 忍佐加は異次元に眸を凝らした。

「遠いね…。もっとも、私の龍の目玉の指輪と、君の黒飛龍剣があれば、行けない空間じゃない」

 忍人が星々の中心に向かった。


「息を吸って吐くだけで、体力を消耗する…」

 ジークがこの世界の感想を言った。

 三人はダイヤの如く燦然と輝く星々の、中心ながら、この世界で最も暗黒たる部分へ歩いていった。


 暗黒の星の裏側は、光と影のコントラストだけの、色彩のない超次元だった。



 始め、眩し過ぎて何も見えなかった。

 闇の深淵で戦ってきた後なので、太陽の中に入ったかと思うぐらい眩しかった。


 徐々に目が馴れて来ると、無人の城があった。

 見たことのない建築様式。

 光と影だけで、列柱とアーチと扉と彫刻が立体化されて見え、目がチカチカした。


 ジーク達は歩いてもいないのに、景色が横をすり抜けていった。

 空間が移動し、ジーク達は歩かずして、城の奥へ導かれていく。

 長い前庭を抜け、階段を上がり、ホールを通り、長い廊下を何度も曲がって奥へ向かう。

 謁見の間のような大広間に出る。


 正面に玉座があった。

 空の椅子であった。

 玉座の背後に複雑な幕があり、壁の中心に黒い太陽と放射状の筋が刻まれていた。

 いや、光を吸い込むブラックホールの象徴かも知れなかった。


 その黒い星の下に、崩れた肉塊があった。

 深淵の番犬の七人が着ていたのとよく似た、宗教的な四角い装束である。

 黒い裾は床を引き摺る長さ、大きな襟が立ち、光の当たる部分は金属的に白銀に輝く。


「父…上……?」

 忍佐加の声が掠れた。


 すると、肉塊が真っ直ぐ吊り上げられるように、垂直に立ち上がった。

 肉塊は長身の人影となり、背筋もシャキッとして振り向いた。

「来たか…。愚息どもめ…」

 黒瀧秀郷の眉目秀麗な顔が微笑み、口がすっと横に裂けた。


 長い牙が覗いた。


 ジークは息が苦しくて、酸欠気味だった。

 この空間に長居したくない。

 深淵に来てから時間が経ち過ぎて、疲労とダメージが大きかった。


「黒瀧ぃ……」

 忍人が唸るが、彼も息が荒かった。


「あと十分もしたら、おまえ達は酸欠で死ぬ。ここは人界にあらぬ」

 黒瀧が嗤い、玉座に腰を下ろした。

「おまえたちの裁判を始める。裁判官は私だ。原告も私」

 黒瀧が人差し指を、パチンと鳴らした。


 黒飛龍剣が黒瀧に吸い寄せられ、彼の脚元に落ちた。

 忍人の手から、龍の目玉の指輪が吸い取られ、石が抜けた。

 その石がそのまま黒瀧の顔に飛び、彼の左目に吸い込まれた。


 ジークは動けなくなり、両手首を背中で縛られたみたいに膝を着いて、床に倒れた。

「何なんだよ、ジイサン!!」


 忍人と忍佐加は抗ったが、やはり死刑を待つ虜囚のように手を後ろに回し、床にしゃがみ込んだ。





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