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ph 81 死闘始まる

phase 81 死闘始まる 


 1


 ドアを開けて入ってきたのは、悪党な雰囲気のサングラスがよく似合う男、ヘルだった。


「ヘル!! なんでここに!?」

 ジークが叫ぶと、

「パーティーじゃないか。今夜は役者が揃うだろう」

 と、ヘルが言った。


 ジークはヘルの礼服姿にも驚いた。

「何だよ、パーティーって。俺はそういうの、苦手なんだけど!」

「ダセェな、ジーク。受付で締め出されるぞ」

 ヘルはジークのラフな普段着に文句を付けた。


「ヘル、一人で来たのか?」

 ジークがエントランスを眺めた。


「仲間は殺された。俺一人で、最後の後始末に来た。そう言うおまえこそ、相棒を変えたみたいだな? あの吸血鬼の女の子はどうした?」

「ああ。…愛理なら、たぶん、この別荘のどこかにいるよ。ヘル、こいつは黒瀧のジイサンの長男、忍人だよ」

 ジークが忍人を紹介した。

「へぇ…」

 ヘルがサングラスをずらし、鋭い眼で忍人を見詰めた。



 忍人は興味なさそうに、

「ジーク、急ごう。黒瀧は既に、私達の侵入に気付いている。正面から堂々、あいつの部屋に乗り込む」

 と、くるっと背を向けた。


 ジークはヘルに、

「おい、おまえの娘、如月憂の死体抱えて、どっか飛んで行ったぞ。危ねーぞ、あいつ」

 と、ディーヴァの近況を伝えた。


「放っといてくれ。娘はじきに大人になる。俺は今夜、この世と別れて旅立つ。あいつのことはもう…」

 ヘルは渋い低音で答えた。

 胸の内ポケットに自然に手が伸びる。そこには、娘の写真が入っていた。

「…闇の深淵に、自ら堕ちる…」

 ヘルが覚悟を聞かせた。


「待てよ。もう少しの間、娘を見守ってやんなよ。まだ十五だ。どんな悪い男に引っ掛かるか、わかんねーだろ? 俺達と一緒に行かねーか? 異界の鍵を開けて、ダークランド城に行くんだ」

 ジークが誘った。


「黒瀧の結界全部を、ダークランド城と言うんだ。更にヤツの深部に向かうには…、おまえ、聞いてみたらどうだ? 連れの男に」

 ヘルがジークと並んで、歩き出した。



 忍人はさっさと階段を上がり、三階の黒瀧の部屋を目指す。

 十九世紀に迷い込んだような、クラシックな建築だ。



「鍵があるから、大丈夫だよ。必ず、生きて帰って来るさ」

 ジークが答えた。

「生きて帰れるもんか。まあ間違いなく、深淵に食われるだろう。それでも、行くしかないけどねぇ…。勝算はあるのか、ジーク? 数百年長らえてきた相手だぞ。いや、千年を超えるとも言われてる…」

 ヘルはいつもより影が薄く、弱気に見えた。


「忍人はジイサンの実の息子だから、互角なんじゃねーの?」

 ジークが言うと、ヘルは呆れた。

「チャラいな、ジーク。…相変わらずだ」



 三階のホールに差し掛かった。

 今夜のパーティーの受け付けだ。


 ソファーで寛いでいた男達が、飲み物を置いて立ち上がった。

 ナオと圭太と香、その部隊と、クレイ達の部隊が並んだ。

 一番後ろに、長身の朔夜が腕組みして立っていた。


 朔夜の後方に黒瀧の部屋のドアがあり、僅かな隙間から光が漏れている。




 2


 ジークの歩みが停まった。

「朔夜…、ナオ、圭太…、香…」

 彼は胸が苦しくなるのを感じた。


 朔夜が静かな口調で言った。

「ジーク。おまえは何も言うな。おまえの話は一切聞かない。一族の掟に従って、一族を抜けたおまえを処刑する」


 そして、朔夜は忍人に、

「忍人さん。あなたもかつて、一族を抜けた。今日殺されるのも当然ですよね?」

 と言い、ヘルに、

「ヘル、久し振りだな。ヴァンパイヤ・ナイト以来だ。あの時逃げた蛾が、何しに来た?」

 と、挑発的に話した。



「朔夜。おまえの名は知っている。父の血を授かった十人の義息の一人だ」

 忍人は青みがかった灰色の眸を、朔夜に向けた。


「黒瀧朔夜。俺は今夜のパーティーに招待されて来たんだよ。…しかし、おまえは本当に、どこまでも黒瀧の犬なんだなぁ…」

 ヘルがしみじみ言った。



 ジークは朔夜を見て、やりたくない気分だと思った。

「朔夜…。俺の中に憑りついた忍佐加とちょっと交替するから、話を聞いてくれね?」


 朔夜は首を振った。

「馬鹿か、おまえは。忍佐加は、一族に反乱起こして死刑になった罪人だぞ?」

「あ、そうだったね…」

 ジークは頭を掻いた。



「ジーク、今日は逃げられないぞ。どっちかが死ぬまで、終わらない」

 ナオがジークの前に進み出た。


「おっと。その前に…、言うことがあります」

 クレイがナオと朔夜達の前に立ちはだかった。

「朔夜さん。今日までありがとうございました。お役目ご苦労様。…じゃ、そろそろ消えてもらいますかね。…ねぇ、忍人さま」

 クレイが忍人の言葉を求めた。


「ああ、さっさと邪魔な奴等を片付けろ。クレイ」

 忍人が命じた。


 ナオが自分の耳を疑う。

「クレイさん…!! 変だとは思ってたけど、あんた、忍人の部下だったのか!?」


 クレイは嬉々として答えた。

「長かったぁー。仲間みたいな面すんの、面倒臭かったですよー。忍人さまの部下がナーガ族だけのわけないでしょー? 今も黒瀧の一族の中に、忍人さまに仕える者がたくさんいるんですよー」


 鷹詩と鳴海と、数人のクレイの部下が笑った。

 彼等は手に武器を取り出し、朔夜の部隊に向かってにじり寄ってきた。



「そんなことだと思ってた」

 朔夜は落ち着いていた。

「ジークとヘルは俺がやる。ナオと香は、クレイ達を先に片付けろ。圭太は忍人を殺れ」

 朔夜は十人ほどいた部下を割り振った。


「任してー。龍の目玉の指輪、俺がもらうよー」

 圭太が口笛を吹いた。



 忍人が横目で、圭太を睨んだ。

「久し振りだな、徳阿弥。…おまえ、早く飼い主を裏切ったらどうなんだ? 主人に毒を盛るのが趣味なんだろ?」

「ええー、それだけじゃないよー。かつての親友を葬り去るのも、大好きだってばぁー」

 圭太は脇差のような短い刀を抜き、ぶつぶつと歌い出した。



 雷が鳴るように、空間が鳴動した。

 その場が戦闘態勢に入り、緊張が走った。


 クレイが得意の結界を作り出し、周囲は薄暗い密林に飲み込まれた。

 地割れして大地が離れていくように、ジークはナオ達から引き離されていった。


 忍人と圭太が、影の中へ消えた。




 3


 ジークとヘルは正面に朔夜を迎え、立ち尽くしている。


「ジーク。愛理が死にかけてる」

 暗黒の空間が独立すると、朔夜が急に切り出した。


「へっ、なんで!?」

「愛理は俺の婚約者ということになってる。昨夜、こっちに着いた時に、俺だけ愛理と会った。彼女は危篤だ。今、熱にうなされて、うわごとでおまえの名前ばかり呼んでいる」

 朔夜が秘刀を抜き、自分の紋章の形に地面を切る。

 星が浮かび上がる。


 ジークはひどく動揺した。

「マジで? すげー心配だ。先にちょっと会わせろよ」

「おまえはここで死ぬ。愛理の回復を祈ってろ」

 朔夜が苛立ち、刀を一振りした。



 周囲の木造部分や壁が砕け、手摺の大理石が破片となって、旋回していく。

 細々とした欠片が朔夜の周りを、軌道とする小惑星群のように回り始める。

 ジークは旋風を両手で遮りながら、一歩後ずさった。


「ジーク、悪霊と結婚したんだろ? 愛理は俺の婚約者だぞ!」

 朔夜が嘲笑し、切先をもう一振りした。


 ジークは空間の壁まで飛ばされて挟まれ、数トンの圧迫を受ける。

 ぐしゃぐしゃにひしゃげていく。

 チカラの差は歴然としている。



 ヘルは姿を消し、幽霊のように透明になって、空間のどこかに潜んだ。

 彼はうまい具合に、朔夜の圧力壁から逃げた。

 朔夜は舌打ちした。

「ヘル…。隠れやがったな…」

 ヘルの気配は雑音に紛れるように、小さく途切れた。



 ジークは潰れながら押し返し、自分を膨らまそうとした。

 カラダ中からチカラを振り絞り、覚醒していく。

 エネルギーが大きなうねりを生む。

 彼のカラダは人間のカタチを超えて膨らんでいく。


「ジーク…。おまえの動きは遅いんだよ…。そんなので避けられるとか思ってないだろ?」

 朔夜のチカラが、空間に無数の亀裂を生じさせた。

 空間の亀裂が刃となり、ジークを襲う。

 朔夜は彼の覚醒を待たず、弾丸より速く切り刻もうとした。



 ジークは全身に鋼の(うろこ)をまとい、カマイタチを跳ね返した。

 朔夜の周囲で突風が吹き荒れ、塵で視界を奪う。


 天から流星剣が降ってくる。

 矢のように地面に突き刺さり、砕かれた地面が跳ね上がった。

 地面が波のように踊る。


 視界はゼロになった。

 ジークが何度避けても、衝撃が追いかけてきて炸裂する。

 彼は左腕を吹き飛ばされる。


「ダメだな。本当に落ちこぼれの、俺の義弟…」

 未だ半覚醒の朔夜が呟く。



 ジークは血だらけで地面に倒れ、ぜいぜい息をしている。

 龍に覚醒しかけていたのに、急速にエネルギーが萎んでいく。

「朔夜…」

 ジークが残った右手で地面を押し、朔夜を見上げた。


 朔夜は断崖絶壁の岩場の上で、刀の切先をやや上げて、ジークを見下ろしている。

「ジーク。何か言うことはないか? 愛理に言付けてやるぞ」


 敗れたジークは、

「黒瀧のジイサンは化け物だ…。朔夜、愛理を連れて…早く逃げてくれ…」

 と、必死に頼んだ。



「ジーク。あの男は化け物だ。それは知ってる。でも、義理がある。俺は黒瀧の一族の朔夜だ。他に俺達の場所はないんだと…、そう言ったよな? 愛理には愛理の生き方がある。俺は彼女と結婚しない。彼女が危篤から持ち直せば、俺は彼女自身が好きに道を選べばいいと思ってる」

 朔夜が気持ちを込め、ジークに話した。


「朔夜。おまえが結婚しねーのは…、誰も幸せにする自信がねーからだろ? 寿命が尽きかけてるから。おまえはそのまま、武士として死ぬつもりだ…。百五十年前に望んだように…、たった一人の主君への…忠誠の為に死ぬ気なんだ…。あんな主君の為に? ゴホッ」

 ジークが鼻血を拭い、喉を流れる血にむせた。


「そんな大層なもんじゃないよ」

 朔夜は軽く頭を振った。


「今は…二十一世紀なんだけどな…。サムライ、俺は好きだよ。朔夜…」

 ジークは全身が腐っていくのを感じた。

「この体を流れる…おまえの血が…、俺の心臓を守ってくれた…。ありがとう、朔夜……」



「ジーク…、おまえは馬鹿だけど、面白いヤツだった。また来世に、どこかで会おう…」

 朔夜が刀を振った。

 千の流星が流れ、ジークに降り注ぐ。




 4


 大地が震えた。

 暗黒の世界が切り替わり、闇色の地平線に囲まれた荒野を出現させた。


 太い鉄格子の柵が、朔夜の頭上に振ってきた。

 いくつかの柵が朔夜の周囲を囲おうとしている。

 朔夜は一睨みで、柵を粉砕しようとした。


 朔夜の身を守る旋風が、チカラを柵にぶつけた。

 いや、チカラは柵を擦り抜けた。

 その柵は物理的なものではなかった。



 新しい結界が、朔夜の結界の中に生まれている。

 ヘルの生み出す、地獄という結界だ。

 それはこの世の(ことわり)に属さない。


 ヘルの世界では、朔夜の流星剣は無に帰す。

 朔夜の周囲で風がやみ、塵が地面に落ちた。


 檻だ。

 朔夜が囚われた。


「ヘル…、何のつもりだ?」

 檻の中から朔夜が、姿を現したヘルを睨んだ。


 暗雲から一筋垂れた竜巻。

 渦の中から現れた、黒い礼服姿のヘル。

「朔夜…。ここが俺の棲む世界。地獄だ…」


 風が暗雲を押し退けていく。

 ヘルの緩めたネクタイの先と、ボタンを開いた礼服が風に揺れる。



 黒い石造りの寺院がある。

 巨大な門扉、オベリスクのような高い石碑。

 石碑には、謎の古代文字がびっしりと刻まれている。


 周辺に仏塔らしき建築。

 石畳の道に、朽ちた馬車と轍。

 砂埃が舞い、空気が乾燥している。



 朔夜は景色を見回し、嗤った。

「過去の幻影か。何がしたいんだ?」


 ヘルが頷いた。

「教えてやろう。おまえらは魂だけ肉体から引き離され、俺の結界に囚われた。おまえらの肉体は、元の場所で眠っている…。この結界では、物理的なチカラを使うことができない。おまえらのずば抜けた破壊力は、俺に封印されたんだ…」


 ジークは呆然とした。

「俺…、死んだのか…?」


「ほざくな。ただの幻覚に過ぎない!!」

 朔夜は認めなかった。

 彼は刀で星印を切り上げ、檻を切り抜こうとした。

 その瞬間、彼の秘刀が砂のように脆く崩れ、消滅した。


 朔夜は沈黙し、半透明になった自分の腕を見詰めた。



「ふはは…。切れやしないって。精神だけの世界なんだから」

 ヘルは崖の上で、蛾の翅を背に生やした。

 幅4メートルはあるだろうか。

 美しい翅には、茶色と白と黒で髑髏のような模様が入っている。



 ジークは谷底で、ふらふらと起き上がった。

 腐肉がボトボト、足元に落ちた。

「俺の魂は、ゾンビのままか?」

 ジークは岩場をよじ登ろうと、手をかけた。

 岩には手応えがなく、彼は空振りした。


「仕方ねーな…。疲れたよ」

 ジークも白い翼を生やし、ゆっくりと浮いた。

 死力を尽くして、浮上していく。




 5


 圭太と忍人が二人きりになった。


「徳阿弥。こんな指輪が欲しいなら、くれてやる。私は黒瀧と戦いたいだけ。あの結界に入れたなら、もう指輪は不要になる。おまえに譲ろう」

 忍人が指輪を抜き、圭太に見せた。

 瑠璃色の石が煌めく。

 ドラゴン・アイ。


 圭太はヨダレを垂らしそうだった。

「欲しいけどね。あんたの嘘をそう毎回信じる俺じゃないのね」


 圭太の返事に忍人は眉をしかめ、端正な顔立ちを曇らせた。

「お気に召さない? 徳阿弥」



 圭太はポケットに片手を突っ込み、鼻歌でリズムを取っていた。

「思い出すよ、四百年前を。あんた、言ったよなぁー。黒瀧に毒を盛ってくれたら、何でもくれるって。俺は黒瀧の血が欲しかった。あんたは父親を殺す為に手段を選ばず、鵜野でも誰でも、利用しようとしてた。で、俺は危うく黒瀧に殺されそうになって…」

 圭太はとても可笑(おか)しそうに笑った。


「…マザコンのあんたは、母親から乳離れ出来ないんだよ。俺を黒瀧の餌食にして、その隙に、母親を外へ連れ出そうとしたんだけどね」

 彼は琵琶を弾くように、脇差を掻き鳴らす真似をした。


「ジャジャーン。あんたの工作はバレてて、何故か俺はその後、お咎めなし。あんたは俺に約束の血をくれず、報復として俺に毒を盛られたわけだ。…どう、痺れたかい、あの毒!?」

 楽しそうに話す圭太。



 忍人は無表情に聞いていた。

「徳阿弥こそ、私の毒を飲んで、かなり気持ちよさそうに恍惚としてたね」


 圭太がぺっと唾を吐いた。

「あれは効いたよ。きつかった。あんた、面白い調合をするね。俺より本職の呪い屋なんじゃないの? 

で、今度はジークを利用するのかな。あの時の俺みたいに、うまく言いくるめて、ジークを捨て駒に使うんだろ? 気に入らないなー」



 忍人は少しずつ、整った顔を歪めていった。

「ああ、そうだとも。何とでも言うがいい。徳阿弥、戦国の世の汚い泥水を啜っていた野良犬が、黒瀧の一族の一員であるかのような顔をするな。おまえには一滴だって、黒瀧の血は流れてないんだ」

「言うな!!」

 出自を言われ、圭太が吠えた。


「おまえを手にかけるのも、穢らわしい気がする。徳阿弥」

 忍人が龍の目玉の指輪を、元の薬指に嵌めた。

 忍人の姿が、するりと影の中に入る。


「逃がさないってば、忍人…!!」

 圭太が影を追う。


 二人は影と薄闇の間を縫うように、出たり入ったりした。



 いや、その間に、本当に忍人は影を縫い合わせていった。

 圭太は見えない縫い糸に絡められ、次第に動けなくなっていった。


 忍人が振り返ると、影に縫い付けられた圭太は、全身を影に浸食されつつあった。

 少女のような顔が半分闇に食われ、黒く変色している。

「忍人…」

 圭太はしわがれた声で、歌を歌い出した。


 忍人は冷酷な表情で、歌を聞いていた。

「おまえの歌はローレライのように、人を惑わしはしない…。徳阿弥、おまえの歌は単純な呪い…」


 圭太は声の限り、歌い続けた。

 体の大部分が、闇に食われていく。

 足が溶けるように、体が低く縮んでいく。


 忍人は同情するように言った。

「その歌が終わるまで、…おまえの身が持てばいいな…」

 忍人は呪いの鎖を断ち切り、その場から退いた。


 圭太の下半身が闇の中に溶け、凍りついて固まったような上半身が黒く変色した。

 圭太は掠れていく声で、呪文の歌を歌い続けた。

 頭部が崩れ、砂みたいに流れた。

 顔が半分、崩れていく。


 立ち去って行く忍人の、靴音が響く。


 地面に突き立った、圭太の脇差。

 その柄に掛かっていた右手は離れ、圭太は胸まで闇に沈む。


「……った…」

 圭太が呟いた。


 圭太は歌い終わったが、首から上が全て砂と化し、首から下は闇に沈んだ。

 脇差一本残して。



「徳阿弥。魂となって、闇の深淵で待っていろ。私もじきに、おまえの傍に行く…」

 忍人は手品みたいに、赤い花を一輪、取り出した。

 赤い花が投げられ、弧を描いて飛んだ。

 そして、脇差の前に落ちた。


 墓標に供えられた花のようだった。



「ジークを迎えに行く。私とジークの二人で、黒瀧秀郷を倒せるだろう」

 忍人は龍の目玉の指輪を回し、ヘルの地獄の結界へ入った。






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