表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/97

ph 70 吸血鬼アプリ

phase 70 吸血鬼アプリ


 1


 ドンと、振動が来た。


 空から降ってきた吸血鬼(ダーク)がフロントグラスを砕き、車の屋根を爪で切り裂いた。


 屋根がめくれ上がり、ガラスが飛び散る。

 ガラスの破片が、ジークと圭太の顔を切った。


 圭太はブレーキを踏み込もうとしない。

 ジークはライフルを投げ出し、瞬間的に、黒飛龍剣を引き抜いていた。


 黒飛龍剣が襲撃者の心臓に突き刺さった。

 車に吹き込む風が、黒飛龍剣に引き寄せられる。



 骸骨みたいな姿の吸血鬼(ダーク)だった。

 死ぬ間際、ジークと目を合わせ、奥歯をカタカタ鳴らした。

「おまえか。東京をあんな風にしたヤツは…」

「俺じゃねぇ!!」

 ジークは全力で否定した。


「よくも…、あんな…ひどいことをしてくれた…。俺の仲間が半分…死んでしまった。おまえは今後、ずっと命を狙われるだろうな…」

 吸血鬼が息絶えた。


 ジークは青白い顔で、溶けていく吸血鬼を見下ろした。



「さぁ、急いで東京を離れるんだ。この街にいたら、米軍に始末されるのを待つだけだ」

 朔夜が急かした。

「ぶっ飛ばすよ、俺はー」

 圭太がアクセルを強く踏み込んだ。



「ジーク…」

 ナオがジークの肩を叩いた。

「俺がケイシーと融合してる間に、大勢の人が死んだ…。やっぱ、俺の責任だよな」

 ジークは逃れられない事実と向き合い、息が苦しくてたまらなくなった。



「あれはケイシーのチカラだ。おまえに東京を潰すほどのチカラはない」

 ナオが言うと、香がナオのシャツを引っ張った。

 香は何か言いたそうに、首を左右に振った。

 ナオも溜息をついた。


 すると、朔夜が、

「人間を殺すことに罪悪感なんか、必要ないだろ? 人間なんて、ただの餌だ。前にも言った。子供を産ませるか、血を抜くか」

 と、ジークに聞こえるように言った。


「うるせー。俺は……、誰も助けられなかった。ルビーも、深由ちゃんも、ケイシーも…」

 ジークが耳を塞いだ。

「そりゃ、強くなるしかないね」

 朔夜が呆れ、毛布を深く被り直した。


「強く…」

 ジークが言葉を繰り返した。

「強く…なりてぇー…」



 ナオが助手席の後ろから、ジークのシートを乱暴に蹴った。

「何言ってんだよ。おまえはまだ、新入りなんだよ。そんな簡単に、一人前になられてたまるかよ」

 ナオがライターの火を差し出し、ジークは震える手でタバコに火を点けた。




 2


 トンネルの中で、朔夜が待ち合わせていた仲間と合流した。

 ジークは、朔夜と似た雰囲気の暗い眼差しの男達を見て、ほっとする。


「東京の外はどんな感じ?」

 ジークが男の一人に尋ねた。

「あー。あの日の前と後じゃ、全然変わっちゃいましたよ」

 男の言い方は少し軽かった。


 彼等は壊れた車から次の車に荷物を積み換え、車二台で別の街へ向かった。



 ジークはどっと疲れを感じた。

 久し振りに、清潔で柔らかなベッドで眠りたいと思った。

 彼はいつの間にか、助手席で眠り込んだ。


 真夜中、車がアジトに到着した。

 マンションの駐車場に入ったところで、朔夜が呼び起こした。

「起きろ。ジーク」


 ジークはシートで、更に丸くなった。

「最近、体がだるくて…。何か、すっきりしねー」

 圭太が運転席から、

「それって、もしかして、ナオと朔夜と愛理ちゃんの血が入ったからじゃない? 濃いよー、闇の血は。人間の血とは全然違うもんねー」

 と、羨ましそうに言う。

 彼は以前から、愛理の血を欲しがっていた。



 賃貸だが、いかにも家賃の高そうな、高級感漂うマンションのエントランスに入る。

 エレベーターのボタンを押したのは、このマンションに住む、地区代表クレイ。

 ヴァンパイヤ・ナイトの一件で、ジークとも顔見知り。

 一緒に来た二人の男は、鳴海(なるみ)鷹詩(たかし)


 壁に凭れて、ジークは欠伸を繰り返す。

 気さくな鷹詩とナオ、香が話し込む。

 朔夜とクレイが少ない言葉を交わし、圭太と鳴海が互いに反対を向くように立っている。



 降りてきたエレベーターが一階に着き、ドアが開いた。

 突然、パジャマ姿の男が躍り出た。

「うわーっ!! びっくりしたァーッ!! なんだ、人間かぁー!!」

 キャラクターの着ぐるみパジャマを着た四十ぐらいの男で、無精髭だらけの顔の黒縁眼鏡がずり落ちた。


「こっちがびっくりするよ。キモいんだよ、その年でそのパジャマ!!」

 圭太が怒鳴った。

 パジャマ男は気にせず、

「君達も早く逃げたまえー!! ここのマンション、今、吸血鬼来てるんだ!!」

 と、ご親切に教えてくれた。


「は? 吸血鬼?」

 ナオが片方の眉を下げ、顔をしかめた。

「ほ、本当だよぉー!! だって、ほら!!」

 パジャマ男が、スマホをナオにかざして見せつけた。


 ジークの眠気が吹き飛んだ。


 パジャマ男のスマホが、耳障りなアラームを鳴らしていた。

「ビーッ、ビーッ、ビビーッ!!」

 画面には、緊急メッセージが表示されていた。

「緊急UME警報です!! 現在、あなたの周辺に、正体不詳の生物がいます。その生物は人間を襲って、食べたり、血を吸ったりする危険があります。ただちに避難して下さい。相手を刺激せずに、身を守る行動を取って下さい…」


「何なの、それ!?」

 ジークはナオの横から覗き込み、自分の声が上ずるのを感じた。


「何って、政府の機関が出してるヴァンパイヤ警報だよー。先月のヴァンパイヤ事件の後、緊急対策室が作られて…。おっと、こんな話をしてる暇はないぞー」

 パジャマ男が雄叫びを上げた。


 パジャマ男が走り出ていき、続いて、階段室から降りてきた別の男が、

「何やってんだー。早く逃げろー。ハンターが来る。建物ごと、ジェットバーナーで焼かれるぞ!!」

 と、慌てふためいて逃げて行った。

 ジークは口を開けて、呆気に取られていた。



「ハンターが来るのか?」

 朔夜がクレイに確認した。

「素人の吸血鬼探偵団だったり、プロの雇われハンターだったり、警官や消防士…。その時に寄りますね。運が悪けりゃ、銃撃戦ですよ」

 クレイがゆったりとした動きで、エレベーターに乗り込む。


「マジで? なんで、その警報は俺達の正確な位置情報を知ってるの?」

 圭太が不思議そうに聞いた。


「…いや、だからね。最初から早く、全員の(パルス)を消してもらえませんかー?」

 クレイが朔夜に頼む。

「俺は消してる。香も、ナオも、圭太も。…ジーク…、おまえはなんで、いつまで経っても気配を消すのが下手なんだ?」

 朔夜が苦りきった。


「俺ー?」

 ジークは意外そうに言う。



 エレベーターが五階に着き、全員そこで降りた。

 入れ違いに、二人の男女がエレベーターに乗った。

 男女は大荷物を持っていた。


「こんばんは。酒井さん。こんな夜中に、どこに行くんですか?」

 クレイがお隣さんに挨拶した。

「吸血鬼だよ。避難所に行かないと。九霊(クレイ)さんも急いでー。警備会社に通報したから、民間のハンターが来るよ!!」

 酒井さんが答えた。


「ハンターっすか。面倒臭ぇー」

 クレイはのんびり答えた。


「どうなってんだ? 蛾人のラボは壊滅したのに、まだハンターがいるのかよ?」

 ジークはうんざりする。



 リビングに入っても、寛ぐ気分になれない。

 誰も、ソファーに座ろうとしない。


「急にハンターって職業が出来て…。警察、消防、自衛隊は、首都圏の災害救助に手を取られて、活発に動き始めた吸血鬼(ダーク)に対して、大した対策出来なかったんですよ。彼等はネットや警備会社を通して仕事を請け負って、吸血鬼を狩り始めた。例えば、昼間から雨戸を閉めて、カーテンを閉め切ってるような家に押し入ったりして、吸血鬼を探すんです」

 クレイが朔夜に説明していた。


 話の途中で、ドアホンが鳴った。

「来たな?」

 ナオが呟いた。


「え? あの気配は…。あいつらがハンターなのか?」

 ジークが面食らった。




 3


 ジークは、一階エントランスに入ってきた、数人のブーツの足を視た。

 ちらちらと、そいつらのイメージが頭に浮かんだ。

 揃えの制服ではなく、思い思いの自由な私服。

 そして、完全武装している。


 彼の脳は、(パルス)から受ける気配を視覚化した。

吸血鬼(ダーク)を狩る専門家って、やっぱり、あいつらか…」

 彼は胃がムカムカするのを感じた。



 五階のこの部屋のドアホンを鳴らしたのは、クレイの隣りの美人女子大生ニイナだった。


「クレイちゃん。吸血鬼来たみたいだよ!! どこに避難したらいいの? 一緒に逃げてくれない?」

 ニイナがドアホンに向け、興奮して喋った。

「彼氏の家まで送ったげるよ。でもさ、その前に吸血鬼狩りをやるらしいから、ちょっと見てかない?」

 クレイが人間の女を部屋に誘った。


「えー、やだよー。怖いもん。逃げないと殺られるよー」

 ニイナが唇を尖らせ、不満を言った。

「怖くないよ、あんな奴等。昨日、吸血鬼退治の為に、消防署でジェットバーナー借りて来たんだ」

 クレイがドアを開け、自慢した。


「ええー、どーして消防署でジェットバーナー、貸し出してんのー?」

「吸血鬼から身を守る為だよ。昨日から一般人にも貸し出してくれることになってさー、早速借りて来たよー。これ、いっぺん使ってみたかったんだよー」

 クレイが玄関脇に置いてあったバーナーのノズルを向けると、ニイナは顔を背けた。


「やめてよー。吸血鬼が黒焦げになるとこなんて、別に見たくないー」

「溶けるらしいよ。YouTubeで動画出てるよー。誰かが吸血鬼狩りに成功したんだってー。案外簡単らしいよ」

 クレイが淡々と話す。

 ニイナも、彼が人間と信じて疑わない。


「本当ー? 溶けるのは見てみたいー。それ、ナメクジに塩かけたりするのと一緒だねー」

 ニイナが乗り気になり、リビングに入ってきた。



「あら、クレイちゃん。この人達は?」

 ニイナがジークや朔夜ら、目つきの悪い男達に気付く。

「ふふ、ニイナちゃん。目を閉じてて。…朔夜さんから、どうぞ。僕の部屋にウェルカムってことでー」

 クレイがニイナを後ろから抱き締め、押さえ付けた。


「え? 何の話?」

 鈍いニイナはわからない。

「んじゃ、ご馳走になるかな…」

 朔夜が唇を舐めた。



 ジークはリビングから飛び出した。

「やべーよ。やばくね? ハンターが来る。…もう夜明けまで三十分しかねぇー」


 彼を香が呼び止めた。

「ジークさんの(パルス)、今はクレイさんの結界の中だから大丈夫ですよ。先に腹ごしらえしましょうよ」

「香は見た目と違って、すげードライだね。完璧に何でも割り切ってるだろ? 年いくつだよ?」

 ジークは苛々して、神経が張り詰めてくる。


「私ですか? ちょうど九十歳ですけど。ジークさん、ハンターなんて、五分あったら切り刻めますよ。私達が殺られると思います?」

 香が笑みを浮かべる。


「くそー。これから毎日、毎日、追われて殺して、殺伐として何も感じなくなって…、身も心も鬼に変わり果ててくのかな? 香みたいに…」

 ジークは何となく恐ろしかった。


「割り切れますよ。ジークさんも、そのうちに…」

「だってさ、どうしても人間を殺さなきゃいけねーのか? そうしなきゃ、生き残れねーのか? そこまでして、俺に生きる必要がある? 俺は復讐しか、やることがない野良犬なんだ…」

 ジークは悩み、玄関にしゃがみ込んでいた。

 甘っちょろい彼の言葉に吹き出し、香はリビングに戻った。



 朔夜が女を寝室に連れ込み、好きなように抱いて、血を貪っている気配があった。

「朔夜。あいつはいいヤツだ。根っからの吸血鬼(ダーク)だけど」

 ジークは俯いた。


「ナオや朔夜は命の恩人だ。恩人は殺せねー。俺はこれから、どうする気なんだ? 黒蝶を滅ぼす、三浦先生との約束は…?」

 ジークは吐き気を感じた。


 体の中で、濃い闇の血が幾種類も混じり合い、消化不良を起こしている。

 未だ、ジークになってくれない。


「オェ…、気分悪…。吐く…」

 ジークがフローリングの床に、胃袋の中身を吐いた。




 4


 ハンターが迫る。

 彼等のブーツのソールが、大理石模様の塩ビタイルで、キュッ、キュッと音を立てた。

 彼等は真っ直ぐに、五階のクレイのアジトへ向かう。



 クレイの寝室では、ニイナが変わり果てた姿になっていた。

 全身の血を抜かれ、ベッドにうつ伏せに寝ている。

 血の染みは僅かにシーツに見られる程度だが、彼女は二度と起き上がらないだろう。


 満足そうなナオと香が、口に付いた血をタオルで拭った。

「ご馳走さま、クレイさん」


 枕元では、圭太が女の生首を膝に載せ、脳味噌をスプーンですくっていた。

「冷やした方が美味いんだけどな。これ、ユッケみたい」

 美味そうに食らう。



 ジークは廊下で吐いている。

 体中の骨が、ミシミシ軋むのを感じている。



 ハンター達が五階でエレベーターを降りた。



 クレイが朔夜に話しかけている。

「ご存知ですか? ヴァンパイヤ・ウォッチャーっていうサイト。吸血鬼探知アプリをダウンロードして、(パルス)を探知すれば、人間でも吸血鬼(ダーク)を見つけられるようになってます」


「吸血鬼探知アプリ…」

 朔夜が笑い出した。


 クレイも微笑み返し、

「僕達もかなり、追い詰められてますよね。蛾人のラボが創り出した(パルス)探知装置を、あいつらのボスの加藤がアプリにしたようですね。それをネットで売るなんて、死ぬ前にホント余計なことをやってくれましたよー」

 と、他人事みたいに呑気に話した。


「俺達はともかく、ジーク連れてると、あいつ、気配がダダ漏れじゃん」

 ナオが苦笑した。

 すると、圭太がスプーンを置き、

「ジーク、そろそろ用済みだよね?」

 と、ワクワクしながら言った。


「圭太の狙いは黒飛龍剣だろ? 裏切るなよ」

「別にー。新入りをからかうのに、飽きたんだよー」

「おまえなぁー」

 圭太とナオが言い争いになった。



 ドアホンが鳴った。


 すぐに、ジークが玄関ドアの鍵を開けた。


「あのぉー、警備会社の者なんですけど、朝早くにすみませんー。UME警報が出てたと思うんですけど、避難してもらえませんかー」

 落ち着いた声で、最初のハンターが玄関に一歩踏み込んだ。

 一人目のハンターの背後に、完全武装のハンターが控えている。



「あ、ダメ。もう、限界…。ウゲェー…」

 ジークが込み上がってきたものを、ハンターの胸元に勢いよく吐き出した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ