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ph 62 吸血鬼狩り

phase 62 吸血鬼狩り


 1


 十二本目の蝋燭の炎が、間もなく消える。

「そろそろだな…」

 圭太が腰を上げた。


 異界の道から、ナオが走って来る。

「ナオ、早く! 早くー!」

 圭太は異界縮図側から、ナオに手招きした。



「圭太。ジークがケイシーを怒らせたみたいなんだ…」

 ナオが早口に伝えた。

「見てたよ。そうなると思ってたねー。だって、ジークだもん。あいつ、バカだし。じゃ、早く帰ろう」

 圭太が笑いながら、ナオの手を引っ張った。


「は? 圭太?」

 ナオと圭太が、第四の門を挟んで立った。


「何言ってるんだよ!! ジークがケイシーの覚醒に巻き込まれたんだ。ちょっと待ってくれよ!」

「ナオ…。時間切れなんだよ。門が閉まっちゃうー」

 圭太が蝋燭を指差した。

 時刻を示す、最後の蝋燭の火が消えた。


 ゆっくり、瑠璃色の大扉が動き出した。


「おまえ、ジークのこと見捨てる気かー!? 圭太!!」

 ナオが驚いた。

「大丈夫ー。昨日今日に知り合ったジークと、百五十年のつきあいのナオを一緒にしてないってー」

 圭太はさらっと答えた。


「もう一回、外から門を開けてくれよ。俺はこっち側に残る!!」

 ナオが異界に下がった。


「ナオ! あんまり長く幽体でいると、肉体に負担がかかるんだよ。一度戻って出直せばいいじゃないかー。ジークはきっと、もう持たないから。ケイシーに食われたのと同じ状況ー」

 圭太がげらげら笑った。


「俺は諦めてないんだよ。もう少し時間をくれ…」

 大扉が閉まっていく。

 顔がぎりぎり見える隙間から、ナオが閉まる直前に言った。



 異界の道が波打ち、やがて透明になって消えていった。

 突風が吹き、空が紫がかった雲に覆われた。

 雨が降り始め、雷が鳴った。


 ナオは天空に浮かぶ、第四の門の礎石に片手でぶら下がって、雲の海を見下ろした。

 既に細かい扉(接点)は存在しなくなり、物質界と同じ広さの第四の異界が広がっている。


「ジーク…。ケイシーを説得し損なったな…。俺達、どうなるんだ?」

 ナオはジークの気配を探した。





 2


 不二富町の飲み屋通り、その一本表の大通りに噴水公園がある。


 涼しい水音を立てる噴水を囲んで、ベイカフェの店長ヨッシーと、飲み屋通り自警団がいた。

 時刻は午後七時過ぎ。

 自販機で缶コーヒーやジュースを買い、疲れたように座り込んでいる。


「この辺も変わったよなぁー」

 ホームレスがいなくなった公園を見て、誰かが言う。

 元々治安が悪かったこの地区では、財布を抜かれて殴られた酔っ払いが放置されていたり、違法ハーブやドラッグが売られていたり、子供が遊べるような公園じゃなかった。

 街灯に寂しげに浮かび上がる公園の向かいで、コンビニのシャッターが降りていく。



 ベロニカは職場の女社長ジャッキーと喋っていた。

「ジャッキー。私、大使館から避難勧告来たのー。日本から逃げろってー」

「私も来てるよー」

 ジャッキーも深刻な表情だった。


 ヨッシーは噴水の縁に座っている。

 深由が死んで以来、元気が全くない。

「みんな帰国しちゃうと寂しくなっちゃいますよね、店長。売上げ的にも…」

 ベイカフェのバイトのジュンが、ヨッシーに向かってボソッと言う。


「私はまだ日本にいますー。年俸契約ですから」

 ベロニカの彼氏のインド人サリムは、IT関係の仕事をしている。

 彼もこの近所に住んでいる。



 自警団のやんちゃ組、ヨッシーの地元の同級生はベンチに座っている。

 七人来ている。

 そのうちの一人が、深由を死なせたユウキ。


 ユウキはベンチの横の灰皿に、灰を落とした。

 ヒップホップを口ずさみながら、髪を片手で掻き上げた。

「ヨッシー。続きやろーぜぇー。吸血鬼狩りぃー。この前のは、たまたま事故だったんだよー。今夜は本気出して、本物の吸血鬼締め上げよーぜぇー」

 片耳で、重そうなピアスが銀色に光った。


 ヨッシーが両脚で地面を踏み鳴らし、急に立ち上がった。

「事故で済むかよ!! 遊び半分で吸血鬼狩りして、何の罪もない女の子殺しやがって!!」


 慌ててベロニカがフォローした。

「深由ちゃんは本当に吸血鬼だったかも知れないでしょー。ジークと親しかったんだもん」


 ユウキは長い舌を出して、頭を傾けた。

「いつまで言ってんの? 過ぎたことじゃん。俺は悪くねぇしー。あの女は人間を裏切って、吸血鬼匿ってたんだ。殺されて当然ー」


 ヨッシーは怒りで青くなった。

「ユウキ…。おまえがそんなヤツだとは思わなかったよ…」


 ユウキは馬鹿笑いした。

「ひゃはは。俺はヨッシーの仕返ししてやろうと思ったんじゃないか。そのジークって吸血鬼を見つける為に、かなり頑張ったんだぞー」


「ユウキ…。そのぐらいで」

 仲間が横から止めると、益々ユウキは饒舌になった。

「ヨッシー。営業時間制限されて、赤字になってんのは飲み屋通り全部なんだぞー。ここらで俺達が大活躍してさぁー、街の平和を取り戻そうよー。飲み屋通り自警団、武器入手出来ちゃったしねー!!」

 彼はこの界隈のろくでもない男達から、チャカをゲットしていた。


 回転式小銃を見て、ヨッシーは後ろにふらついた。

「ユウキ…。何人殺す気なんだよ…?」


「ひゃはは。何人? やめてくれる? 何匹だろ?」

 ユウキはチャカをくるくる回し、上着のポケットに戻した。

 半分見えているが、気にしてない。



「ユウキくん。そんなの持ってたら、警察に捕まるよー。自衛隊と警察に任しとけばいいのよー」

 ベロニカがやんわりと釘を刺した。

 ユウキはまた舌を出して、

「我慢してられないのー。リアルにゲームの世界に来たみてーじゃない? バンバン撃ち殺してやるよー!!」

 と、銃を撃つポーズを取った。


 ジュンが、

「えー。でもー。この間のヴァンパイヤ・ナイトの吸血鬼がCGじゃなかったら、とんでもなく強そうなんですけどー。動き速そうだし。ピストルの弾丸でも避けそう」

 と、鋭い意見を言う。


「ジークはそんなに強くないなー。ジークには勝てますよー」

 サリムが勝手な分析で、無責任なことを言った。



「どこも警官だらけよ。先週、東京で若い子が暴れて、たくさん逮捕されたでしょ。夜は電車もバスも止まってるし、検問も厳しいよ」

 ジャッキーが、ユウキの計画の甘さを問う。


「今からみんなで、吸血鬼狩りに行きましょーよー? 面白過ぎて、ゾクゾクするわー」

 ユウキはブレスレットを重ね付けした手でスマホを持ち、ジャッキーと話しながら、他の女の子からのメールを読んだ。

「この女の子、俺が吸血鬼KOした動画待ってるってー。早く殺らなくちゃねー」



「私、帰るわ」

 ジャッキーが迎えに来た旦那の車に乗った。

 ユウキは手を振った。

「お疲れー。また来週の自警団の集まりで報告するから。何匹殺してるか、お楽しみに…!」

 ジャッキーは不愉快そうに顔をしかめ、車のドアを閉めた。



 ベロニカがヨッシーを振り返り、

「あの子達、危ないわ。吸血鬼を甘く見てると、殺られると思う。…ヨッシー、あの子達をちゃんと見てた方がいいよ」

 と、顔を曇らせた。

 ヨッシーは何も言わず、ペットボトルの水をがぶ飲みした。



 その時、通りすがりの警察官が声を掛けてきた。

「君達、何してるの? 八時から夜間外出禁止だから。もう帰りなさい」

「自警団です」

 ユウキがチャカをポケットに押し込み、答えた。

「すぐ帰ります」

 ベロニカが笑顔で言った。


 警察官は美人で愛想いいベロニカを見て、

「そう。気をつけて。色々物騒になって、事件が多発してるからね」

 と言った。


「それって、警察は吸血鬼の存在を認めるんすかー!?」

 ユウキが警察官に絡んだ。

 警察官は無言になった。


「よせよ、ユウキ…」

 またユウキの仲間が止めた。

「アキト、黙ってろよ」

 ユウキは仲間を押し退け、警官を斜めから睨み上げた。


「まだ吸血鬼は一人も捕まえられてない…」

 ジュンが小声で囁いた。


「…そんなものは迷信だ。連続殺人事件の犯人は、必ず警察が逮捕します」

 警察官は苦々しい表情で言った。


「俺達が吸血鬼捕まえますよー」

「危ないから、バカげたハンターごっこは止めなさい」

 警察官は急いで、パトカーに戻った。




 3


 吸血鬼狩りが、始まった。


 一台目のワゴンにユウキ達が乗り、二台目のサリムの軽自動車にベロニカ、ヨッシー、ジュンが乗った。

 ベロニカは気まずそうで、いつもの笑顔がなかった。

 ヨッシーは黙り込み、ジュンは元から感情表現が乏しい。

 サリムが空気に合わないアップテンポの音楽を車内に流し、一人で浮いていた。


「ベロニカ、私が守るから心配しないで下さい。ジーク程度の吸血鬼なら、私でも何とかなる。昔、格闘技やってました」

「本当に?」

 頼もしそうに言うベロニカの後ろの席で、ヨッシーのスマホが鳴った。


「…ああ」

 ヨッシーがユウキの声に頷く。



「ヨッシー? 次の交差点を左ぃー。取りあえず、駅前行くー。ちょうど終電のヤツらが降りて来て、駅前が混む頃じゃね? 吸血鬼は人混みで獲物を選ぶかも知れないだろー? 行ってみよーぜー」

 後ろで仲間の声が、ガヤガヤ言っている。


「今度こそ、どうやって人間と吸血鬼を見分けるんだ? ユウキ」

 ヨッシーが聞くと、ユウキは笑う。

「そんなの。怪しいのから順にボコればいいじゃん。顔見て、気に入らないヤツを殴り倒すー」

 ユウキの発想は、かなりおかしい。


「ユウキー、俺は動画撮ってるから…」

 気の弱いアキトが言い、

「切り刻んで、血ぃー舐めてやろーぜー。俺も吸血鬼なっちゃうかなー」

 ナイフコレクターのカツヤが騒いだ。



「ヤバい人達ですね。店長の同級生…」

 ジュンが溜息をついた。

「もし彼等が人間を襲ったら、ジュンは止める役よ。いい?」

 ベロニカが言った。

「一人しか押さえ込めませんよ。店長とサリムさんで、二人ずつ押さえて下さいね。ベロニカさんが一人押さえて…、後一人…。誰がユウキさんを止めるんですか?」

 ジュンは指折って数え、不安になった。


「つーか、吸血鬼が出た時は、僕は一番に帰らせてもらいます」

 ジュンがヨッシーに予告した。



 車は駅前のロータリーに入った。

 ユウキの予想通り、大勢の人が足早にバスやタクシーに乗り込み、残りも急いで歩いていく。

 学生を迎えに来た親の車で、ロータリーが混み合う。


「ヨッシー。吸血鬼はどんなヤツを獲物に狙うかな? 行方不明になったり殺されたりしたのは、女が多いよな。JKか、やっぱりー?」

 ユウキはウィンドーを下げ、自分が吸血鬼(ダーク)みたいに物色し始めた。


「一人で歩いて帰る子を狙うかな。終バス乗り遅れた子を狙うかな?」

 アキトはハンドルを片手で回し、片手でタバコを吸いながら、ワゴンをロータリーの出口へ回していく。

 ユウキは女の子の顔と脚ばかり見ている。


「あの子、可愛くね? あの子を尾行(つけ)けてるストーカーはいねぇ?」

「俺達だろ」

 カツヤがナイフを準備した。



 ヨッシーは人混みを黙って見ていた。

 ジークのことを考えている。

 三浦邸で会った時に、深由の死を知って泣いたジーク。

「以前と、ちっとも変ってなかった…」

 ヨッシーが無意識に呟いた。


 ヨッシーはふと、人混みの中の誰かに視線を止めた。


「ユウキ!! 居た!! あいつだ!!」

 ヨッシーは鋭く息を吸い込み、スマホに叫んだ。

「あ!? どの女の子?」

 ユウキは女の子の脚を見ている。


「ユウキ、今、階段を降りてきたヤツ…。見たことがある。ジークさんの知り合いの朔夜さんて人が、連れてたことがあるんだ。名前は知らないけど…、たぶん、仲間だと思う…」

 ヨッシーの声が震えた。

 彼の眸は、人混みに混じって駅ビルから出て来た男に釘付けだ。


 ベロニカやジュンにも緊張が走った。


「どれー!?」

「黒いシャツに黒いパンツの…、ちょっとインテリ系の…。背の高い…」

 ヨッシーは窓から手を出し、ユウキに教えた。

 ユウキは初めて、大祐を見た。


「ウソー!! マジ本物ー!? 俺達って、ヤバくねー?」

 ユウキはワゴンの助手席で、小躍りした。



「え…。わりとイケメンじゃない? ジークよりかっこいい…」

 ベロニカがポッと赤くなった。


 大祐は何も気付かないように悠々と歩き、タクシーの列に割り込んだ。

 タクシーを長く待っていた人達も、誰も文句を言わない。

 大祐は一番前でタクシーに乗り込んだ。



「おーし、ターゲット確認ー。行くぞー」

 アキトがワゴンの向きを切り替え、大祐の乗ったタクシーを追った。

「二号車、続きますよー」

 サリムが車を、ワゴンの後続に付けた。



 ヨッシーは手に脂汗をかいた。

 緊張して、膝が笑ってるみたいだった。

「じゃ、店長。僕、帰らせてもらいます」

 突然ジュンが頭を下げ、信号待ちでドアを開けようとした。


「え?」

 ヨッシーはぽかんとして、ジュンを見た。

「だって、怖いですもん。じゃ、来週はシフト月木金なんでー。土曜は休みますんでー。お先に失礼しまーす」

 ジュンが唖然とする三人の前で車から降り、ドアを閉めた。



「最近の子、ここで帰っちゃうんだ?」

 ベロニカは苦笑した。

「あいつは最初から当てにしてないけど…。ベロニカさん達も帰った方がいいっす。たぶん、マジで本物の吸血鬼だから…。ユウキ達がどこかに着いたら、俺を降ろして下さい」

 ヨッシーがベロニカに頼んだ。


「ここで帰れないよー。ヨッシー、怖いけど、あなたとあの子達が心配で帰れないわ」

 ベロニカが首を振った。




 4


 大祐はダウンタウンの一画の、ゆるい坂道でタクシーを降りた。


「おい、吸血鬼が教会に入るぞー」

 ユウキがスマホを通し、ヨッシーに言った。

「結婚式場だろ。本当の教会じゃないよ」

 ヨッシー達は近くのパーキングに車を停め、結婚式場の敷地へ入った。


 西洋建築の屋根に、大きな十字架が載っていた。

 既に、午後八時近い。

 この時間に結婚式はやってないはずだ。


 ヨッシー達は窓から中を窺った。

 明かりは点らず、暗くて見えない。


 道に街灯はあるけど、建物の内部は真っ暗闇だ。

 入口の鍵は開いたまま。

「入るぞー。カツヤは裏口探して、ぶっ壊して入って来いよ」

 ユウキは鉄パイプや金属バットを配り、仲間を二つに分けた。


 カツヤ達はニヤニヤして裏に回った。

 彼等は一本しか懐中電灯を持ってない。


「ヨッシー、行こう」

 ユウキがヨッシーと腕を組んだ。

 逃がさないように、がっちりと。


 一番最後から、ベロニカとサリムが入った。

 ベロニカは手にクロスのペンダントを握り、

「神よ。お守りください。アーメン」

 と、十字を切った。



 広いエントランスから廊下が奥へ続き、正面にドアが、側面に吹き抜けの階段があった。

 それも、目が馴れるまで、何もわからなかった。

 外の灯りは、一切射し込まない。

 入口近くにロビーと控室、洗面所、奥の二枚扉の向こうが結婚式会場のようだ。

 控え室の向こうに披露宴会場と、パントリー、厨房がある。


 ヨッシーとユウキ、スマホのカメラを構えるアキト、懐中電灯を持ったハル、手を取り合うベロニカとサリムが、長い廊下を進む。

 ハルが時々、そっと左右のドアを開く。

 控室にも、厨房の方にも、人の気配がなかった。

 彼等は引き寄せられるように、式場に向かう。



「おかしくない? 結婚式場って、十字架あるんでしょ? 私、来たことあるよ」

 ベロニカがひそひそ声で話す。

「日本の西洋風結婚式って、宗教じゃないから。吸血鬼も平気なんじゃないすか?」

 ヨッシーは緊張して、脚が思うように進まない。

 ユウキがゆっくりと、ヨッシーを引っ張っていく。


「撃ち殺してやる…」

 ユウキはポケットからチャカを抜いた。



 ハルの手が式場の大扉に触れ、懐中電灯の光が内部を照らした。


 静まり返った結婚式場。

 左右に長椅子が並び、正面に牧師の演壇がある。

 その奥に祭壇と十字架と、壁一面のステンドグラス。


 ステンドグラスから、月明かりが七色に射し込んだ。


 ハルの懐中電灯の光が、式場内を泳ぎ回った。

 ヨッシーは息を飲んだ。


 演壇の前に跪き、祈りを捧げる男。

 こちらの物音に振り向きもしない。


 ヨッシーは大きく震え出し、何か叫ぼうとした。

 でも、声が出なかった。


 代わりにユウキが大声で怒鳴った。

「よぉ、よぉー、吸血鬼ー!! なんで、人間みたいに祈ってやがるんだァー!?」

 ユウキが両手で構えたチャカを前に突き出し、パンパン撃ち込んだ。



 長椅子の端と床板が弾け、演壇が弾けた。

 大祐がスローモーションのようにゆっくりと首だけ振り返り、ユウキを見た。


 ユウキは興奮して撃ちまくり、しばらくして荒い息で手を降ろした。

 弾丸が尽きた。



 大祐がのっそりと立ち上がった。

 先刻見た時より、背が高く見えた。

 影のように黒く、整った顔だけが青白い。

 弾丸を背に浴びていたが、血は流れなかった。



 大祐が一歩、二歩と、こちらに踏み出した。

 背中から弾丸が、ぽろぽろと抜け落ちた。


「わ、わわ…。わ…」

 ハルが引っくり返り、懐中電灯を落とした。

 懐中電灯が長椅子の下へ転がって行き、辺りは暗闇と、ステンドグラスからの月明かりだけになった。



「クソッ」

 ユウキはハルの鉄パイプを取り上げ、ふりかざした。


「ダメ!! そんな物じゃ勝てない!!」

 ベロニカが叫んだ。

 命知らずなユウキは長椅子の間の通路を駆け抜け、大祐に飛びかかっていく。



「ユウキ!! やめろ、これは罠だ!! 俺達、ネズミ取りの檻に入っちまった!!」

 やっとヨッシーの喉から、声が(ほとばし)り出た。









 












 




























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