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ph 60 異界縮図

phase 60 異界縮図


 1


 ジークは緑青(ろくしょう)で模様が不明確な、銅製の円盤(えんばん)をじっくり見た。

「どこの免税店で売ってる土産なの、それ?」


 圭太は面白そうに円盤を裏返した。

「売ってるとしたら、免税店じゃなくて骨董屋だね。四百年前に黒瀧さんが、どっかの神社の裏山を掘り返して見つけたとか。…だから、盗掘だよね」


 円盤の裏面には、模様が錆びて固まった凹凸があった。

「ここに描かれた図柄は、宇宙を表す幾何学文様さ。この方形や円は、多次元の空の重なりを表現してる」

 圭太は(さび)の下に、鋳造された頃の図柄を見て取る。

 彼の顔ぐらいの大きさの円盤と、それより一回り小さな円盤。



「黒瀧さんは、そいつを異界縮図って呼んでる」

 朔夜が横から言った。


「その縮図のどの辺りが、ケイシーの居場所なのさ?」

 ジークは地図と勘違いした。


「まあ、そのうちにわかるよ。これは確かに、圭太向きのオモチャだな」

「朔夜さん。俺はこんな出口のややこしい迷路で遊ぶのは、面倒だよ」

 圭太が愚痴を言った。


「俺は黒飛龍剣みたいな、直接パワーアップするような道具が欲しかったな」

 そんな愚痴を言いつつ、圭太は楽しんでいる。



「初めて見たよー。異界縮図かぁー。聞いたことあるんだけどな」

 ナオも興味津々で覗き込んだ。

「ケイシーは物理の法則を超えて、日本に瞬間移動して来るんじゃなかったのか?」

 ジークは圭太の手から一つ奪って、一心に図柄を透かし見た。


「ケイシーが覚醒したら、いつでも、地球の裏からだって来るさ。何の道具も使わずにね。ジークだけなんだよ、覚醒したケイシーとまともに会話出来たのは…。黒瀧さんの息子の弥一郎さんでさえ、会話が成り立たなかったと聞く」

 朔夜は不思議そうに言う。


「俺はそんな話は知らねー。…てか、黒瀧教授はジイサンの孫だろ? 朔夜、なんで息子とか言ってんの?」

 ジークは円盤を見ていて、急に振り返った。


「弥一郎さんは黒瀧さんの六十歳下で、孫だ。黒瀧さんが人間の女に産ませた子供の子供だけど、黒瀧さんの血で一族に加えられた。つまり、闇の血で言えば息子だ。血で言うなら、弥一郎さんと俺とジークは、一族の中では兄弟だ。ジークには血の兄貴が、弥一郎さんを筆頭に十人いるんだぞ…」


 ジークは気に入らないらしく、口を歪めた。

「はぁー!? 俺とおまえが兄弟!? 冗談でもやめてくれよ」


「マジで言ってるんだ。おまえがケイシーを黒瀧さんに帰順させないと、一族が二つに割れることになる。しっかり話して来いよ。間違っても、ケイシーを暴れさせるな。おまえに勝てる相手じゃない」

 朔夜が腕組みして、頼りない「弟」を見た。



 ジークは首を傾げた。

「黒瀧教授は、ケイシーの居場所は大体わかってるけど、あいつの進化の先を見届けるとか言ってたな。何が原因で、教授とジイサンが揉めてるんだよ?」


「それは…、研究の意見の相違だな。古代の吸血鬼(ダーク)を復活させたい黒瀧さんと、最強の遺伝子を作り出したい弥一郎さんと…」

 朔夜が言葉を濁した。



「ジーク。ケイシーと何を喋ったの?」

 ナオが話しかけた。

 ジークは突然、円盤をデスクに伏せた。

 胃がきゅっと縮むような感覚がして、彼は言葉を探す。


「…最初はケイシーが、あんたの血を飲みたいとか言ってきて…。研修先の病院で、ゾンビ患者が共食いした夜…、初めてケイシーと会ったんだ。あいつは四階の隔離病室から降りて来て…ゾンビを殺した。銀色の龍になって、空に消えたよ…」

 ジークは再び汗が噴き出すのを感じた。


 ジークはポケットからタバコを取り出し、口にくわえた。

 ライターをカチカチ鳴らしたが、うまく火が点かない。

 ナオがライターの火を貸してくれて、彼はやっと煙を吸った。


「…次にケイシーと会ったのは…、ルビーが死んだ夜だったな……」

 ジークは思い出したくない過去について、語り始めた。




 2


 ジークは憂から恐ろしいことを聞いた。


 ルビーが注射器を持って、黒瀧教授の血を盗みに行ったらしい。

 心臓が弱い弟を、不死者にする為に。


 ジークはフィアンセを守る為、大急ぎでボートを走らせ、黒瀧家の管理する別荘の船着き場に着いた。

 憂をボートに残し、ジークは建物に向かった。



 彼は中庭からテラスへ上がり、半分開いていたガラス扉から侵入した。

 そこは玄関入ってすぐの、明るく広々した吹き抜けのホールだ。

 燦々と午後の陽射しが降り注いでいる。

 シャンデリアの真下に、白いワンピースの女が倒れている。

 ワンピースを鮮やかな血で染めて。



「ルビー!!」

 ジークは衝撃に打ちのめされ、呆然として見詰めた。

 彼女は固く瞼を閉じ、息をしていない。


 ジークは側に駆け寄り、ルビーを抱き起こした。

 その瞬間から、彼は彫像になったみたいに停止した。


 彼女の喉の脇にある、四つの牙の跡が、死因を物語っていた。

 彼は自分の命より大事な、かけがえのない存在を失ってしまった。

「ルビー、俺は、俺は…。どうしたらいいんだ…? 何がどうなってる!?」


 ジークはロミオとジュリエットの一場面のように、彼女の後を追って死ぬことを考えた。

 彼女の腹の出血を見れば、二人の間に授かった命も助からなかったことが確実だった。

「そうだ、死のう…」

 ジークは彼女を抱え、湖に入ろうと思った。



「ふはははは…」

 誰かの笑い声が聞こえた。

 ジークが地下室に続く廊下の方を振り返った。

 元親友の大祐が笑っていた。



 大祐は黒いスーツと、黒いシャツを着込んでいた。

 彼の立つ位置だけが太陽の光の下になく、薄暗かった。


「いい気味だ、ジーク。結婚式まで一ヶ月を切ってる。おまえは至福の最中に、最も大事な人を失ったんだ。俺は最高にぶっ飛んだ気分だ…」

 大祐はハイな状態で話した。


「大祐…。おまえが……?」

 ジークの舌が喉に貼り付き、声が掠れた。


「ジーク。死にたくなった? はは、愉快だな。絶望してるおまえの顔を見ることが、こんなに楽しいとは思わなかったよ! 俺はルビーを愛してた。出来れば、おまえ以外の男と幸せになってほしいと思ってた…。死んだらもう、どうでもいい。ただの死体に違いない」

 大祐はへらへら笑い、口に付いた血を手で拭った。



 ジークは心の全てを打ち砕かれた。


「ジーク、俺と会ったことは忘れろ。おまえは先月以来、俺と再会しなかったと記憶しろ。おまえは今見たことを忘れるんだァ…」

 大祐がジークを睨み付け、暗示をかけた。



 大祐が地下室に降りて行った。

 ジークはその場で、意識を失っていた。



 その後、黒瀧教授が警察を呼び、ルビーの死体を警察が解剖することになった。

 ジークはよろめきながら、ボートに戻った。


 先刻、一緒にボートに乗ってきたはずの憂が消えていた。

 憂が自力で病院に戻ることは、不可能のはずなのに。


 どうやってか、病院に戻っていた憂は、姉の死を知って心臓発作を起こした。

 薬で落ち着いてから、憂は病室のベッドで、

「ジーク!! おまえがルビーを殺したんだ!! おまえが遅れたから、ルビーが殺された…!!」

 と泣き叫び、ジークを延々罵倒し続けた。



 ジークは魂の抜け殻になった。

 ルビーの魂だけを求め、月明かりの下、泣きながら公園を歩いた。


 大きな湖と街を見下ろすように、高台に建つ白亜の城館。

 ジークのいる公園から、映画のように美しい景色が見える。


 ジークは湖の、月光に煌めく小波(さざなみ)を見る。

「ルビー。俺も、今行くから…」

 彼は軋む板を踏みしめ、船着き場を進んだ。


 船着き場の杭に手を掛け、水面を覗き込む。

 小波に揺れる、彼自身の影。

 満月とともに映り込む。



 ゆらり、と何かが覗いた。

 深緑の水草が、杭の周りに浮かんでいる。

 その水草に絡まれるように、何かが捕えられている。


 月光を受けた白い顔。

 水中で水草に絡まれた、誰かの上半身が見えている。

 ジークはぎょっとした。

「ケイシー!?」


 ゾンビが共食いした夜、遺伝子治療の臨床実験の病棟が燃えた。

 あの夜から行方不明だったケイシー。


 ジークがどんなに手を尽くしても見つけられなかった相手が、水に沈んでいた。

 ケイシーの眸は、眠るように閉じられていた。

 確か、二十一歳とカルテにあったが、その夜のケイシーは更に若く見えた。



「い…生きてるのか?」

 ジークは水を掻き、水草を掻き分けた。

 ケイシーの体が水面に浮き上がり、唇が酸素に触れた。


「ふぅ…ーーっ……うっ…」

 ケイシーが息を吐き出した。



「うわぁっ!!」

 ジークが後ろにのけ反り、尻餅を着いた。

 ケイシーは水中で眸を開け、もう一度空気を吸い込んだ。

 ぐぐっと、彼の上体が起き上がった。


「うわぁー!!」

 ジークは這って退いた。

 ケイシーが人間離れした動きで、スーッと水面に浮上した。

 首をのけ反らし、顔を空に向けたまま、垂直に腰まで浮き上がった。


 それから、糸に操られるマリオネットのように、力が全く入っていない片手を船着き場に掛けた。

 首がかくんと前に曲がり、瞼が開いた。

 青い眸が、ジークをまっすぐ見詰めた。



「…ケイシー!! こんな近くに隠れてたなんて…!!」

 ジークは尻を着いたまま、呟いた。


「……ドクター…?」

 ケイシーがジークを認識し、不思議そうに言った。


「くそ。また、あれだろ。腹減ってる、血をくれーって!?」

 ジークは突然、前に突っ走り、ケイシーの額を足で踏み付けた。

 殺人の意志を込め、強く踏み込んだ。

「もう一回沈んでろよ!!」


 ケイシーは一瞬沈み…、水面を手で叩いてもがいた。

 しかし、そこから、水飛沫を上げて飛び出した。

「ドクター!!」

 飛び出す勢いで、ジークは後方へ吹っ飛んだ。


 ケイシーは深いブルーのシャツを着ている。

 湖と同じブルーの色合い。

 ケイシーの眸と同じ色だ。


 

 ケイシーは猛獣のような唸り声を、周辺一帯に轟かせた。

「グァァァ…オオオ…!!」

 空に暗雲垂れ込め、稲妻が閃く。

 ケイシーの額に、二本の角が生えてくる…。



「嘘だろ? また龍になる気か!!」

 ジークが一目散に走って逃げた。

 森の中を駆けていく間に、頭上から、湖水が雨のようにぱらぱら降った。

 旋風が湖の上に起こり、湖水を巻き上げた。


 ケイシーがジークを追って、銀色の翼を広げた。

 蝙蝠に似た、五本指を広げたような骨の形の翼だ。


 ケイシーがジークの目の前に、舞い降りて来た。

「ドクター…。話を聞いてくれよ。ずっと話し相手が欲しかったんだ…」

 ジークは逃げ切れず、立ち止まった。

「元気そうだな、ケイシー? 水の中で寝てるから、魚にでもなったかと思ったよ」

 ジークとケイシーが草むらで向き合った。


 落ち葉が舞い上がって、ジークの頬を叩く。

 ケイシーは翼を(すぼ)めた。

 山羊みたいな角が長く生えている他は、病人らしい、以前の青白い顔のままだった。



「ドクター。…ずっと僕を探してた? 僕のカルテを見た? 僕について、黒瀧教授から話を聞いた?」

 ケイシーがジークの記憶を読み取った。


「ああ…。カルテを見たよ。君は…原因不明の病気で、全身に悪性腫瘍が出来て、一年前に死亡している…」

 ジークが静かに答えた。


「死亡? こうして生きてる。あれは嘘のカルテだ。もう腫瘍なんか、どこにもない。気分はスッキリしてる…」

 ケイシーは腕を広げ、嬉しそうに言った。


「君みたいな身寄りのない末期ガン患者が、黒瀧教授の治験を受けた。みんな、本当は死んだんだよ。でも、教授の血を死ぬ間際に輸血されて、…ゾンビになった…」

 ジークは苦々しく真実を告げた。


「ゾンビの話はいい。あいつらは下等な失敗作だ。僕は違う。そもそも、種族が異なるんだ…」

 ケイシーのこめかみに、静脈が青く浮き立った。


「種族!?」

 ジークは混乱した。


「僕は(いにしえ)の血を受け継いでいる。先史人類の生き残りなんだ…。黒瀧秀郷博士が僕にそう言ってた…」

「黒瀧博士がそんなことを?」

 ジークはその時はまだ、意味がわからなかった。


「僕はこの世の闇を支配する為に、深淵から遣わされた。僕の力で、この世界の秩序を作り変える為に…。世界は暗くなる。光が闇に吸収されていく…」

 ケイシーの話を、ジークは精神疾患の妄想かと思った。



 ケイシーは別の話を始めた。

「ドクター、僕は湖の中で眠りながら、毎日夢を見てたんだ。…誰だっけ。確か、日本から来た、とても美しい女性のドクターが居たよね。僕は四階の窓から、いつも見てた。彼女がベランダの花に水を遣っているとこを。…あの女の人だ。今日、ダークランド城で殺されたのは」


「なっ…!!」

 ジークは驚き過ぎて、声が詰まった。


「ドクター。彼女は邪悪な吸血鬼(ダーク)の生贄になった。僕は夢で見てた。…あれは僕なのか? わからない。誰かが彼女の首筋に牙を立てて、うまそうに血を啜ってたよ」

 ケイシーが手振りを交えて、詳しく語った。


「だ…誰が!? 黒瀧教授か!?」

 ジークが悲痛な叫びを発した。



 ケイシーは、

「僕は夢を見てただけだと思う。でも、夢の中で、あの女の人が死んでゆくのが残念だったよ。本当に綺麗な人だったよね…。へぇ、ドクターのフィアンセだったんだ!?」

 と、ジークの思考を読んだ。


 ジークは震えて、そこに立っていられなかった。

 彼は草むらに膝を着き、項垂れた。



「ドクター。僕は黒滝教授に引き続き、研究への協力を求められてる。…面倒臭いんだよ。やっと自由になれたのに。あの病棟で薬漬けにされて、動けなくされて、閉じ込められて、毎日退屈だったからさ、あの腹の立つ病棟を燃やしてやったんだよ。僕が欲しいのは自由と…」

 ケイシーが屈み、ジークの眸を覗き込んだ。


「…仲間だよ。ドクター、僕の仲間にならない? ドクターなら、信じてあげてもいい。黒瀧教授は信じたくないけど、ドクターは…僕の味方でしょ?」

 ケイシーはジークの中の、黒瀧一族に対する不満、怒りを読んだ。


「俺は黒滝教授の研究に反対だよ。でも、君の仲間になるかどうかは…別だね」

 ジークは断った。


 ケイシーはもっと顔を寄せ、

「僕の血をあげるよ、ドクター。そうすれば、たぶん、ドクターもこの特殊なチカラを手に入れられる。病気も治るし、若返るよ。そして、僕の気持ちがわかるようになる。言葉は必要ないんだ。互いに何の不信もなく、相手の心が全て理解出来る。…ドクター、僕の中に生まれた空虚感、このどでかい孤独ってやつを知ってほしいんだ…」

 と、強制してきた。



「俺は…そんな化け物にはなりたくねー。俺は人間でいたいから」

 ジークは汗をかいた。


「なんで? 人間なんて脆くて、すぐ壊れるよ? すぐ死んじゃうよ? ドクター、僕の仲間になってくれるなら、ちゃんと僕が、最初の餌を用意してきてあげる。その大祐ってやつが憎いなら、僕が殺してあげる。嫌いな相手は僕が、全員殺してあげるよー」

 ケイシーが子供のように無邪気に誘った。


 ジークはぐっと詰まった。

「俺はこの街全てが嫌いだ。黒瀧の一族も嫌いだ。ルビーを死に追いやった全てが嫌いだし、憎い。何もかもが空しい。そんなチカラは望まねぇ。俺は早く死んでしまいたいんだよ!!」

 ジークは眸を潤ませ、吐き捨てた。



 ケイシーがぱっと立ち上がり、窄めていた翼を広げた。

「聞いたよ。ドクターの為に、この街を破壊してあげる。みんな殺してやる。そしたら、僕の仲間になってくれるね!?」

 

 ケイシーは唖然とするジークを森に残し、夜空に飛び立った。


 その夜、街は隕石の飛来か、地震か、無茶苦茶に破壊された。

 大勢の人が焼け死に、倒壊した建物に潰された。



 ケイシーがジークの元を訪れた。

 ジークは病院で、次々と運び込まれてくる救急患者の処置の手伝いに追われていた。


 ケイシーは診察室の窓ガラスを通過し、侵入した。

 その手には、六体分の生首があった。

 彼は首を生きたまま引き抜き、髪を掴んで、片手に三つずつ、生首を持ってきた。


「ドクター!! 見て!! 殺してやったよ、僕を閉じ込めてた奴等を見つけたんだ。ほら、これで約束通りだよ。僕の仲間になってくれるよね!?」

 ケイシーが山羊のような声で鳴きながら、生首をジークの足元に投げた。



「う…、うう…。この惨事の原因は…俺達なんだな!?」

 ジークは握り拳に力を込め、怒りに震えている。

 周囲の患者や看護師達が悲鳴を上げ、診察室から逃げていく。



「さあ、飲んで。この血はこの惑星の、先住人類の血なんだ…」

 ケイシーが自分の爪で左手首を裂き、黒い血を滴らせた。

「ああ…、わかった…」

 白衣のジークがケイシーに近付き、彼の手首を掴んだ。


 けれど、次の瞬間、ジークがケイシーの左胸にメスを深々と突き刺した。


「心臓を(えぐ)れば…、てめーは死ぬ!!」

 ジークがメスの先を捩り回した。

「ギャオッ!!」

 ケイシーはジークを蹴り飛ばし、壁にめり込ませた。


 ケイシーの胸から赤と黒の入り混じった血飛沫が飛び、噴水のように噴き出た。

「ギャギャギャ!!」

 ケイシーはパニックになり、後方によろめいた。

 溢れ出る血が、彼を恐怖させた。


 ケイシーはガラス窓を突き破り、翼を広げて飛び去った。

 点々と血を落としながら。



 割れた窓から、夜明けが近付くのが見える。

 ジークは壁に半分埋もれたまま、泣いた。


 ゆっくり、山の端から日が昇り始めた。


「神様…!!」

 ジークは朝日に手を合わせ、祈った。


「この世には絶望しかない。生きてても、絶望しかない!! 早く俺を死なせてくれ!!」

 ジークの祈りを聞いたのか、その後、ケイシーは現れなかった。





 3


「…つーわけだ」

 ジークが語り終えた。


「何、そいつ。ガキのまま、吸血鬼(ダーク)になっちゃったんだな!」

 圭太が感想を言う。

「おまえが言うな。おまえも同じだよ、圭太」

 ナオが指摘した。


 朔夜は溜息をついた。

「それって、最悪のパターン…」



「ジークはケイシーと会って、何を話す気?」

 ナオが心配した。

「あいつが生きてるなら、放っとけねー。それだけだ」

 ジークはポケットに手を入れ、虚勢で胸を反らした。



「おまえ、多少は強くなったつもりか? 殆ど、黒飛龍剣の活躍だろ? 黒飛龍剣を予想以上には扱えてるし、おまえが闇に食われなかったことは意外だったけど…」

 朔夜はいつものように、ジークをけなす。



「いいじゃん。ジーク、行こうよ。何なら、先に愛理ちゃんにお別れを言って来たら? 愛理ちゃん、朔夜さんと婚約しそうだから。黒瀧さんの命令で」

 圭太が円盤・異界縮図を二枚合わせ持った。


「へぇー、朔夜。物好きー。ああいう女が好きだった? 野生のヒョウを飼い馴らすみたいな感じ? ま、愛理は胸デカいしな…」

 ジークは婚約に反対しなかった。

「朔夜から愛理に、俺がおめでとうって言ってたって、伝えてくれよ。あいつ、おまえのこと、本当に好きみたいだったしな。ギリ、美男美女かもな?」


「俺は別に、婚約なんかしてない…」

 朔夜が否定しかけたところで、圭太が、

「じゃ、ジーク。そうとなったら、早く行こうぜ。ケイシーの現在地と、この次元を接合してやるよー」

 と、飛び跳ねた。


「おう。あ、ナオ。これ、借りてくわ」

 ジークがナオのライターを、自分のタバコと一緒に胸ポケットに入れた。

 









 

 











 













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