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ph 55 仮面の呪術師

phase 55 仮面の呪術師


 1


 ジークの放つ蒼い雷が、ヘルに触れる直前、消えてしまう。

 ヘルが撃った弾丸はジークに命中するが、蒼雷はことごとく消滅する。


「あれ!? どーなってんの!? 早く愛理を助けに行かねーと……」

 ジークはすかされて戸惑う。



 一方、朔夜は龍となり、精神(こころ)の強さをカタチに置き換えていった。

 大量のエネルギーを消耗し、変化(へんげ)する度、朔夜は死に近付いていく。


 朔夜は荒ぶる神となる。

 朔夜は自由になって解き放たれる喜びを感じた。

 身をくねらせ、長い胴を解いていく。

 尾の先まで自由に投げ出す。


 朔夜は天へ駆け上り、雲海の上で身を躍らせた。

 全身に(うろこ)があり、背(びれ)があり、手に水かきがあった。


「おまえの呪い、見せてもらおうか。呪術師…」

 雲海に浮かぶ島のような最上階に、朔夜が強烈な光を吐いた。


 最上階の床が吹き飛び、全員の目が(くら)む。

 たった一瞬で石畳の大部分が蒸発し、足元を失った数人が墜落していった。

 その光に包まれると、吸血鬼さえ炭になってしまう。

 燃える暇さえ与えられない。



 加藤が足場を失い、仮面の呪術師の肩にぶら下がった。

「うぉおお、シャバダー!! 早く朔夜を何とかしろ!! ヘル、おまえは俺を守れ!!」

「加藤さん、こちらへ…」

 ヘルが羽ばたいて加藤を抱え上げ、戦線から距離を置く。


 仮面の呪術師が顔を上げ、朔夜を仰ぎ見た。

 仮面には、四つの眼と一組の鼻と口。

 左半分が赤、右半分が黒で描かれた、半笑いの仮面。

 簡素な衣服が風にはためく。

 脚は素足。



 この男もヘルと同じ、毒蛾の遺伝子を持っている。

 しかし、呪術師シャバダは毒蛾に変貌しなかった。

 シャバダが変貌しないのは、その仮面に秘密がある。


 シャバダは多次元と重なるように、存在感が薄まっていく。

 彼は空気に似ている。


 シャバダの仮面の赤い方が、微かに動いた。

 仮面の下で、顔の筋肉が動いているのだろう。



 朔夜は結界ごと、空間を締め付けていった。

 この結界を生んだシャバダに対する圧迫だった。

 結界が狭まり、世界が歪んだ。


 朔夜の最初の攻撃が予告で、閃光が空を斬り裂き、ズタズタに塔の最上階を引き裂いた。

 次の攻撃がシャバダ個人を狙った。



 シャバダの呪いが発動した。

 朔夜が吐いた二度目の閃光は、呪術師を()かなかった。

「…!?」

 朔夜は一瞬様子を見ようとして、いきなり爆発に巻き込まれた。

 自分自身が焼け、電撃が全身をめぐった。



 同時に、ジークも攻撃を食らった。

 突然、何の前触れもなく、体が光に包まれ、瞬時に血が沸騰した。

「危ない!!」

 誰かがジークを助けようとした。

 でも、ジークは攻撃を半分以上食らって、体がバラバラに弾け飛んだ。

 黒い血の雨が降った。


「心臓は無事か!? すぐに繋ぎ合わせて!!」

 圭太がジークの半身に呼びかけ、ちぎれた脚を投げて寄越した。

 その脚は黒焦げだった。

 ジークは右腕を失い、腹から下を失い、左手だけで塔の端にぶら下がっていた。


 顔の皮膚も焼け爛れていた。

「もうダメだ…」

 血を失い過ぎ、彼は意識を失いかけた。


「しっかりしろよ、ジーク。俺は今、全てを見てた! あの呪術師が何をしたか!」

 圭太が俊敏に、ジークの体を拾い集めてきた。

 黒焦げの状態で、ジークは石畳に転がった。



 見ると、ナオも血を噴き、床に膝を着いていた。

 他の仲間達も、黒瀧側だけが血を流していた。

「どーいうことだ…?」

 ジークは死の淵で考えた。 



 先程、ジークはヘルと戦い、蒼雷の(マイナス)の電気を溢れさせた。

 目に見えないうちに、空間を負が支配していった。

 ジークが気付いた時、結界の中は闇を撒き散らしたのと同じ状態になっていた。

 彼等の周囲で、電気がパチパチと()ぜた。

 足元に黒いタールが広がり、石畳を覆っていった。



 シャバダの呪いで、世界のルールは逆さまになった。

 軽いものは重くなり、固いものは柔らかくなった。

 ナオの日本刀はグニャグニャに柔らかくなった。


「ジークの雷撃を朔夜さんが食らって、朔夜さんの光連星ていう技をジークが食らったんだよ。ナオは仲間の攻撃を受けて、仲間がナオの攻撃を受けた。仲間同士で相討ちになった!!」

 圭太は黒飛龍剣を構え、

「ちょっと荒療治だけど、ジークの体、闇で繋ぐよ。いいか、闇に食われるなよ」

 と、ジークに闇を流し込んだ。


 ジークはぶるぶると痙攣した。

 死の瀬戸際の苦しみで、反射的に痙攣が続いた。

 ジークは全身の激痛を抑えようと、奥歯を食い縛った。


「…さ…、朔…夜は…?」

「朔夜さんは、ジークの雷撃程度じゃ死なない。ダメージは受けてるけど…、たぶん無事」

 ナオがジークの側に来て、答えた。

 ナオは首筋を押さえながら、血を止めようとしていた。

 相当量、出血してしまった様子だ。


 ジーク、ナオ、圭太が空を見上げた。



 朔夜はすぐにダメージから回復していた。

 けれど、空間に拡張する朔夜のカラダが負の電気と溶け合い、大量の闇を吸収してしまう。

 朔夜のカラダは重くなり、自然と落下し始めた。


「俺達の攻撃は、仲間同士を傷付けあう…。あの呪術師に届かない…。どうすれば…?」

 朔夜は呟き、空を飛び続けた。

 


「なぁ、圭太…。何が…起きた…!?」

 ジークは全てを目撃していた圭太に尋ねた。


「呪術師の呪いなんだよ。俺もさっき、自分の攻撃が自分に返ってきた。あの呪術師は攻撃力を持たないけど、他人の力を他人に跳ね返す。見ろよ、ジーク。あの呪術師の仮面を」

 圭太は遥か先の雲間に浮かぶ、飛び地のシャバダを振り返った。


「あいつの仮面、眼が四つあるじゃん。顔が赤と黒に分かれてる…」

「んなの、見りゃわかるよ…」

「あれが、あいつの属性を表してるんだよ」

 圭太が言い、ナオが頷いた。


「ジーク、覚醒して見てみろよ。全然別の顔が、ヤツの仮面に重なって見えてくる…」

 ナオが言った。

「今…、覚醒したら…、そのまま死にそうなんだけど…」

 ジークはよろよろと起き上がった。

 皮膚の火傷は回復しつつあった。

 だが、長い牙が口からはみ出し、顔つきが鬼のように変わっている。



 遠くから、ヘルが面白そうに眺めた。

「どうした? もう技が尽きたのか? ジーク」


「うるさいわー。俺はこういう状況に馴れて来てるんだよ…」

 ジークは自棄(やけ)クソで叫び返し、黒いタールの池を歩いた。

 グッチャ、グッチャ、闇が音立てて糸引いた。


「うひゃひゃ。カッコ悪いな、黒瀧の奴等。自滅し合ってる。ざまぁーー!!」

 加藤がヘルに抱えられた状態で、飛び地から叫んだ。

「はぁ?」

 ジークの悪い目つきが、更に悪くなる。

 黒い(パルス)が、彼から一気に大きく立ち上がった。



「圭太。ジークに闇を入れ過ぎてないか?」

 ナオがジークの邪悪な(パルス)を読み、圭太を責めた。

「いいんじゃない? これで死なずに済んだし」

 圭太が無責任に、笑って言い返した。



 ジークは繋ぎ目が皮膚に残った、未だボロボロの状態で、タールの浅瀬を歩いていった。

 雲の川が、彼とシャバダを隔てていた。


 対岸からシャバダが、

「こんな戦いは(むな)しいよな…。君も、そう思ってるんだろ…?」

 と、ジークに話しかけてきた。




 2


 ジークは斜めからシャバダを睨み、

「今更、ナメたこと言ってんじゃねぇー」

 と、答えた。


「私は戦いを好まない。殺し合って生まれるものがある? お互い譲り合えば、この世界は丸く収まっていく。そうじゃない?」

 シャバダは意外なことを言った。

 仮面の黒い側が、微かに動いていた。


「そっちが引くと言うなら、止めねーけど? 今回は、おまえらが始めた戦争だぜ?」

 ジークはタールに仁王立ちで、シャバダと向かい合った。


 シャバダは中洲のような小さな飛び地で、雲に乗る妖術師みたいだった。

「じゃ、ここでお互いに退こうよ? 君らは怪我人を多く抱えてる。私達はたくさん仲間を失った。五分五分で引き分けたことにしよう」


 ジークは急にシャバダが持ち出した提案に、納得いかないものを感じた。

「胡散臭いおまえが言っても、信じられるかよ。加藤を出せよ」

 彼は人差し指を、戦線から離れた飛び地の加藤に向けた。



「くふふふ……」

 シャバダが含み笑いを漏らした。

「…そう()くなよ。一時停戦が成立したんだ。もう少し話そう。お互いの話とかね。…君は医者だったんだよね? 私も似たようなもんさ。この組織で、蛾になる病気に感染するまでは…ね」



「てめーの話なんて、興味ねー。一つ、いいこと教えてやる。たぶん嫌われてただろーけど、封印のフローラって蛾女、死んだよ。俺が深淵に落としてやったぁー」

 ジークが言うと、シャバダは、

「へぇー。それは礼を言うよ」

 と喜んだ。


「彼女は目の上のコブだった。あの人がいると、私は満足に力を発揮出来ないし。それに、あの人が殺した前任の封印師って、私の兄だよ」

 シャバダは引き締まった浅黒い腕を組む。


「私の兄が最初に感染したんだ。まだ吸血鬼の素因がどこにあるか、殆どわかってない時期だった。みんな、混乱した。兄が私を襲って血を吸い、隔離されたりしたね」

 と、懐かしそうに思い出を語った。


「兄は覚醒し、呪術的な力を得たんだけど。自分が化け物になってしまうことを、すごーく怖がってた。どうしたらいいかわかんなくて、組織に置いといてくれって、泣いて頼んでたよ。…それをいいことに、フローラが実験と称して弄んだわけ。…兄は彼女を呪いながら死んでいった。…私は彼女に付け入る隙を与えない為に、今日までおとなしく耐え忍んできたよ」

 シャバダは加藤やヘルにも聞こえるように言った。



「内心、こんな組織に仕えることは、反吐(ヘド)が出るぐらい嫌だった。何が悲しくて、蛾と蝶と吸血鬼の研究に明け暮れなきゃいけないの? 私は通常の遺伝子治療の研究を、もっと続けたかった。兄は死ぬ前に、私に血を託していった。この血の謎を明らかにして、組織を壊滅させてくれって…」

 シャバダの声に、ヘルは無言で聞き入った。

 彼は一人で話し続けた。


「私は今日限りで、この組織を抜ける。私は別に、君らに怨みはない。怨むのはラボのメンバーと、…加藤…一人だけだ…」

 背中越しに、加藤に告げる。

 加藤は唇を曲げ、嘲りの表情でいる。


「ジーク。君らに言っておきたいんだ。この血の持つ魔力に振り回されちゃいけない。力のみを暴走させ、世界を破滅させたところで、君らの苦痛を癒やすものはないさ。君らはどこかで密やかに、静かに終わりを待つべきだ。私もそうする。吸血鬼としてじゃなく、理性ある人間のうちに、人間らしく死に至るべきだ。それこそ、私達に唯一永遠の安らぎをもたらすだろう…」

 シャバダは仮面の下で鼻を啜り、黒い側の仮面の下端で、流れ落ちた涙を手の甲に受け止めた。

 半笑いの仮面に、涙がアンバランスだった。


 ジークは沈黙し、シャバダの涙を見詰めていた。



「人間は不可能なことを知覚し得ない。だから、夢を抱く。夢を見ているうちは幸せだけど、手の届かない夢をいつまでも追い続けることは不幸だ。挫折しかない。絶望して、神様を呪うことになるだろ? 時々、自分で判断つかなくなる人間がいるんだ。そして、周囲の人に聞く。この夢は自分に可能だろうか? って…」

 シャバダの言葉は途切れなかった。


「やる気と根気さえあれば、大抵のことは何とかなるよね。でも、概して、不可能なことを高望みする者は、努力もなしにたやすい成功を探してる…。低い山は誰でも登ることが出来るが、高い山は選ばれた者しか登ることが出来ない…」

 シャバダは加藤のことを言っている。


「一人で永遠の命を願う者には、永遠に孤独しか訪れない。生きてても、そんな空しいことってある? 惜しまれて死ぬことの方が、どれだけ幸せか。…さあ、私達は共に剣を引こうじゃない。この戦いは、余りにも大義が無さ過ぎだよ」

 シャバダは一歩下がり、ジークにも下がることを求めた。



「お話はごもっとも」

 ジークの眸が吊り上り、白銀色に光っていた。


「さあ、第2ラウンドと行こうぜ」

 ジークが長い舌を出し、顔の傷を舐めた。



「おい、ジーク!! おまえがそいつに手を出したら、朔夜さんが攻撃食らうんだぞ!!」

 ナオが怒って叫び、走り出そうとした。

「もうわかってやしないよ。ジークの覚醒が始まってる」

 圭太が笑いながら、ナオを引き留めた。


「チッ」

 シャバダの仮面の赤い側が、舌打ちした。




 3


「パアァァァ…ァン…」

 ジークは雲海に飛び込んで、一声啼いた。


 彼は手足にビリビリ衝撃を受けた。

 髪が逆立ち、体中の血が沸き立つように、一瞬で高温になった。

 体が変形していく。


 骨がバキバキ激しい音を立てた。

 凄まじい速度で、人間から異形の姿へ変わっていく。


「グゥオオッ!!」

 彼は獣のような雄叫びを上げた。

 鼻が狼のように突き出し、背骨が曲がって、皮膚が(ワニ)のように硬くなる。

 体中をエネルギーが駆け巡り、肛門から腹の中央、心臓、喉、額へと、エネルギーの矢が身を貫き、上昇していく。


「パァアアーーンッ!!」

 ジークが白銀の龍となり、空高く躍り上がった。



「あ? あいつ、なんで白いんだ!?」

 圭太がジークを見上げ、不思議そうに首を傾げた。


「グガガガガッ!」

 ジークは仮面の呪術師目がけ、急降下した。

 白いたてがみを(フレイア)のように逆立てながら。


 

「おい、わかってるんだろ? 私に危害を加えることは出来ないって。代わりに、君の仲間が傷付くんだよ…?」

 シャバダが呟き、身構えた。


「知るかー。死ぬ前に、好きなことをほざけ!!」

 ジークはシャバダに直接食いついた。


 ジークの龍の頭部と、シャバダの身長が同じぐらい。

 体に牙を食い込ませ、胴を絡めて締め付けようとした。

 シャバダは多次元と重なっている。

 ジークの牙が突き抜けた。


「闇は少なからず、本人の姿を再構築するんだ。君はこの虚の世界で、真の姿を知ることになった。見て」

 シャバダが叫ぶ声がした。

 ジークは加藤を見た。


 ヘルにしがみ付いている加藤の姿が、醜悪な魔物だった。

 ジークの龍眼に、加藤の真の姿が鮮明に映像化された。

 頭が獣で、嘴が生え、目は朽木の節穴で、虫が食っている。

 その体は寄生虫の宿主となり、腐乱しているのに、白骨の手だけが両手に札束を握っている。



「加藤は欲望の魔人。煩悩の鬼。他人のものが何でも欲しい。厚かましい、不相応な夢の為に、他人の命を奪う。吸血鬼以上に、人間の生き血を貪ってきたんだ!!」

 シャバダが加藤を評した。


「私は加藤の為に、求められるままに、自分のチカラを使ってきた。情けないけど、金という権力に縛られた奴隷だ。ジーク。君は私と違うよね? 朔夜や、黒瀧の一族の為に戦ってるんだろ? 加藤が不死じゃない今のうち、殺した方がいい!!」

 シャバダが助言をした。


「君が加藤を殺すなら、私も協力する!!」

 半笑いの仮面が、本当に笑っているように見えた。


 加藤は飛び地で、歯をギリギリ軋らせている。



「俺は…、最近、ちょっと、朔夜やナオ達がいい奴等だって、思えてきたんだ…」

 ジークは自分でも意外なことを話し始めた。


「朔夜のこと、最初はスゲー、嫌なヤツだと思ったんだ。嫌味だし、俺を罵倒するし、威圧的だし、女は全部自分のモノだと思ってるし。しかも、イケメン鼻にかけて、マジムカつくんだよなー。…でも、何故だか、俺はあいつが…」

 ジークはそこで、言葉に詰まった。


「うまく言えねーけど、…わりと仲間思いで…、責任感があり過ぎで…、けっこう真面目なヤツなのかなー、って…思い始めて…」

 言葉が勝手に、口から出た。

 ジークは頭を左右に振った。


「いやいや、違うな。朔夜はムカつく野郎だー。あいつを助けようと思って、一緒にいるんじゃねー。とんでもないわ! 俺は俺の目的の為に、朔夜と組んでるだけだ。先に黒蝶の数を減らすことにしたんだ。短期的な同盟みたいなもんだよ!」

 口を尖らせ、ジークは先の発言を取り消した。



「てか、おまえの真の姿の方がグロテスクだぞ、呪術師!!」

 ジークは驚愕を込めて吠えた。


 シャバダの真の姿、仮面の下には双つの顔があった。

 赤い側には、恐怖に歪んだ泣き顔が。

 黒い側には、残酷さを隠し切れない殺人鬼の顔が。


「自分の顔を鏡で見ろよ。おまえが今まで、楽しんで人を殺して血を吸ってきたことが、よーーくわかるはずなんだけどな!!」

 ジークが叫んだ瞬間、シャバダの前に大きな鏡が出現した。

「うわっ!!」

 シャバダが悲鳴を上げ、鏡から逃げ出そうとした。


 しかし、シャバダは既に、八面の鏡に周囲と上下を囲まれていた。


 シャバダは鏡に映る赤い顔の中に、自分の過去と、兄を見殺しにした弱さ、加藤に卑屈に仕えてきた事実を見た。

 シャバダは黒い顔の中に、人殺しが楽しくてたまらない、人を欺き裏切ることが楽しくてたまらない醜い心を見た。


「てめー、静かに終わる覚悟なんか、全然ねーな…?」

 ジークは呆れ、

「俺の攻撃を俺に打ち返してみろよ。てめーの呪いが本物ならな、俺がくたばってやるよ!!」

 と、遂に最大限のチカラを内に集め、ただ一点に集中して吐き出した。

 シャバダ一点に。



 闇を燃やす地獄火が猛り狂い、火柱となって鏡の迷宮を蒸し焼きにする。

 瞬く間に鏡が溶け、内部が地獄火に晒された。

 黒い炎が何もかもを焼き尽くす。



「ギイイ!! な…、何故だァーー!!」

 逃れられないシャバダは炎に焼かれながら、ジークに問うた。


「俺が覚醒するところから、ずっと黒飛龍剣が見せた幻だったのさ。本当の俺は、覚醒してねぇ」

 ジークが答え、元の姿で、圭太の足元に倒れた。

「あいつはジークに呪いを打ち返そうとして、幻覚に惑わされ、自分自身に呪いを与えたんだ」

 圭太が続きを答えた。

「なるほど…」

 ナオも幻覚から目を覚ました。



 シャバダは答えを聞くことなく、焼き尽くされた。




 4


 シャバダが死亡すると、全ての結界が解けた。

 ジークは塔の最上階じゃなく、湾岸のクラブの屋上にいた。


 一階の扉が開き、一斉に人間の生き残りが逃げていく。

 泣きながら、喚きながら転倒し、ひどく取り乱している。

「あーあー。明日から、どうなるか…」

 ジークは割れたコンクリートに倒れたまま、火傷の痛みに呻いた。


「ヘルと加藤が逃げた」

 ナオがジークの腕を取り、肩に担ぐ。


 ヘリコプターのローター音が辺りに響く。

 彼等を見下ろし、大笑いする加藤が乗っている。


「あの船に行くんだろ。追いかけよう」

 朔夜が覚醒から戻り、香らと合流してきた。

 ジークも思い出した。

「愛理が…船に…」


 ジークは痛みを堪え、ナオと急いで埠頭を走った。

 朔夜がジークの肩を叩き、

「ジーク。愛理に呼びかけても、ずっと返事がないんだ」

 と、話した。















 









 





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