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ph 54 永遠の命をくれ

phase 54 永遠の命をくれ


 1


 ジークが次に入った結界は、塔の高層からの景色を見渡せた。

 深い森、渓谷、川のうねりが見えた。


 塔の壁は朔夜によって、崩壊していた。

 朔夜を囲むように、無数の金属片が浮遊し、複数の旋風が乱れていた。


「朔夜は半覚醒で流星剣が使えるから、すげーな」

 ジークがナオを見つけ、話しかけた。

「こいつら、まだ戦闘経験の少ないガキばっかりだから。敵としては、物足りないレベルさ」

 周辺で、黒蝶部隊が泡となって溶けていく。



 前方の薄膜の向こうに、蛹から出たばかりの黒蝶が三匹、透かし見える。

「うわ、もう羽化しちゃってるじゃねーか…。あれがフローラの造り出した、最新の改良型か」

 ジークが目にした時、黒蝶は萎んでいた翅を膨らませているところだった。


 グロテスクな蛹を脱ぎ捨て、裸の少女達は頭部に長い触角を生やし、人間でないサイズの眼を持っている。

 腕は四本ずつある。

 するすると伸びていく翅が、漆のように艶やかな黒さで、とても美しい。



「朔夜!! ヘルが他の吸血鬼(ダーク)を殺しまくってるぞ!!」

 ジークが言うと、朔夜は、

「殺されるヤツが悪いんだ。異種のことは、放っておけよ」

 と、冷淡だった。


「なんか、ネットで中継されてるらしいぞ? おまえ、今後のアーティストの仕事、どうするよ!?」

「ジーク。そんなの、後で考えろ。俺達は出来るだけ、ラボの奴等を始末するんだ」

 術を操る朔夜の眼が、きつく吊り上っていた。



 黒瀧の一族が続々と、この結界に集結してきた。

 鵜野影馬の一件の時にアジトで会った面々や、初めて会う、他の地区の者もいる。

 約二十名。


 その中に、ジークが夜叉族のレイと戦ってる最中、助けてくれた剣士がいた。

「無事だったんだ! あいつを殺ったの?」

 ジークが喜んで迎えた。

 相手は笑顔で、

「夜叉ですか? あの後、すぐに撒きました。時間を止める相手と本気でやり合うのは、面倒臭いですから」

 と、意外にあっさり言う。


(かおる)。下のフロアはどうなった?」

 朔夜が剣士を呼んだ。

「朔夜さん。弱い奴等は、ほぼ死にました。強い吸血鬼(ダーク)は撤収を始めるでしょう…」

 香は朔夜の忠実な部下だった。



 その時、圭太が黒飛龍剣を手に、結界にジャンプしてきた。

 仮面の呪術師に手こずったのか、重傷を負っていた。

「ジーク。交替だ。黒飛龍剣、おまえが使えよ」

 圭太が息を切らし、黒飛龍剣を投げた。


 ジークが柄を握ると、黒飛龍剣がジークの所有時のカタチに変化した。


「ジーク。空間に断裂がある。そこの薄膜を、その剣で裂いてくれ。流星剣を黒蝶にぶちこむ」

 朔夜が命じた。

「おう」

 ジークが黒飛龍剣を振り上げた。



 薄膜に隔てられた世界。

 ジークは十代前半の、無防備な少女達を見た。

 アイドルデビューする予定だけあり、顔立ちが綺麗だ。


 ジークはちょっと気が引けた。

「…可哀相な気がするな。アイドルになりたかっただけなのに。加藤に利用されて。別に吸血鬼(ダーク)になろうとしたわけじゃねーのにな…」


「おまえだって、なりたくて吸血鬼(ダーク)になったわけじゃないだろ?」

 朔夜は苛立ちを滲ませた。


「ジーク、ラボはあの子達を、使い捨てにする気だよ。あくまで、本物の吸血鬼(ダーク)の血を欲しがってる。加藤は人間のまま、不老不死になりたいわけだ。なれると思ってるんだろうな」

 朔夜は加藤を批判して言う。


「ジーク、おまえは本当にバカだな。もういい。圭太、替われ」

 朔夜が圭太を振り返った。


 圭太は荒い息をしていた。

「朔夜。一人、ヤバいヤツがいる。そいつに逃げられた。その呪術師が全部の結界を支えてる。…なんか異質なんだ…。ああいうヤツは見たことがない…」

「四百年生きてるおまえが、見たことない?」

 朔夜は首を傾げた。


「俺はしばらく、へたばってる」

 圭太がスルッと、影に溶けた。

 彼は闇の中に隠れてしまった。


「チッ。圭太のヤツ、また肝心なとこで逃げやがった」

 ナオが腹を立てた。

「仕方のない人ですね」

 香も呆れ顔だ。



 朔夜は圭太を諦め、ジークに話を戻した。

「ジーク、あの黒蝶は雌なんだ。なんで見た目が可愛いか。繁殖させる為だ。あの子達は一生の間に、数百個の卵を産むだろう。そのうちの何割かが成虫になり、更に卵を産むわけだ。…どうしても殺す必要がある。わかるよな?」


「いや、わかってんだけどさ。朔夜。まだ一度も血を吸ってねー子供を殺すってのが、俺にはやり辛くて仕方ねー」

 ジークは汗をかき、ためらいを見せた。


 すると、ナオが、

「ジーク。俺と朔夜さんは子供に情けをかけた為に、後々、かけがえのない人を失う羽目になったことがある。大切なものを守りたきゃ、手を汚さざるを得ない時もある」

 と、古い過去を思い出した。



 金属片が旋風の中、ジークの間近を擦り抜ける。

 朔夜が苛立つ度に、風は激しく轟轟と唸る。


 黒飛龍剣は血を求め、ぐわわわわーんと鳴った。

 その場の闇の気配に反応し、内から強力な闇を吐き出した。

 剣を持つ手が痺れていく気がする。


「なんか、もう笑うしかねー。自分が無様(ブザマ)で笑えるわ。俺、何の覚悟も決められねー」

 ジークは葛藤し、その場に棒立ちだった。

「ジーク。俺達は今、自分達の存亡をかけて戦ってる。ここで退いたら、大勢死ぬんだ。責任は俺が取る」

 朔夜が急かす。


 ジークと少女達の視線がぶつかる。

「ガァッ!!」

 少女達は威嚇するように牙を剥き、ライオンが吠えるように吠えた。


「ああ、朔夜。頼んだぜ…」

 ジークがやっと、黒飛龍剣を振り降ろした。


 彼が異空間を斬り裂いた瞬間、朔夜の流星剣が空間を(えぐ)った。


 ただ、一瞬遅く、少女達は忽然と消えてしまった。




 2


「…転送されたか」

 朔夜が唇を噛んだ。


「おまえが甘いこと言って、モタモタしてるからだよ!! ジーク!!」

 ナオが仲間の手前、ジークを注意した。

 ジークは拍子抜けして、呆然としていた。


 ナオが彼に尋ねた。

「そう言えば、愛理ちゃんと一緒じゃなかったの? 俺達、彼女を全然見掛けてないんだけど」


 ジークはしまった、と思った。


「ナオと一緒にイベントスタッフの役だったじゃん。ナオ、どこではぐれたんだよ?」

 ジークは焦りまくり、記憶を辿った。

 そう言えば、フローラの呪術モニターにも、愛理の姿は映ってなかった。


「知らないよ。イベント始まってから、ずっと別行動だった」

 ナオが腕時計を見た。

 深夜、四時。

 翅を広げた黒蝶が、転送した先で活動を始めた。 


 フロアの大型スクリーンに、惨劇が映し出される。

 三匹の黒蝶が猛り狂い、次々と人間を襲う。

 場所は恐らく、最下層のフロア。

 大ホールだ。


 人間達は泣き叫び、命乞いするけれど、逃げ場がない。

 黒蝶は舌管をしならせ、初めての食事をしている。

 一気に血を吸い尽くし、相手を失血死させる。


 殺戮中の映像を見て、ジークは後悔した。

 ナオの言う通りだった。



「俺達は最上階のフロアに行く。加藤のフロアだ」

 朔夜が仲間に告げた。

「香。おまえはもう一回下のフロアに降りて、あの黒蝶の女の子達を片付けてくれ。後で合流しよう」

「わかりました。スグ参ります」

 香は何も恐れていないように、余裕で返事した。


「香。五人ぐらい連れて行っていいよ」

 朔夜が許可し、香が消えた。

 と思ったら、スクリーンの中に現れ、鞘から白刃を抜き放った。



「ジークはどうする? 愛理ちゃんを探しに行く? 黒瀧さんが日本に帰って来るっていうのに、溺愛してる孫が行方不明じゃマズイしな」

 ナオがジークの背中を押した。

「え、でも…」

 ジークは遠慮して、朔夜を見た。


「ジーク、加藤の首を取りに行くぞ。どうせ、あいつが愛理の行方を知ってるはずだよ」

 朔夜がジークを引っ張った。

 朔夜は半覚醒で、凄味が増している。


「そうだな。加藤がいなきゃ、ラボだって、ここまで狂った方向に突っ走ってねーよ。加藤は許さねー」

 ジークは頷き、重過ぎる黒飛龍剣を担いで、朔夜に従った。





 3


 塔の最上階。


 天空の城が彼等を待っていた。


 見下ろす視界は、雲の海。

 この建物の最上階には、壁も天井もない。

 石畳が果てしなく、直線で続く。


 遥か前方に、先回りしたヘルの特殊部隊が見える。

 その更に彼方に、悪役に相応しい、金色の玉座。

 妖気漂う仮面の呪術師と、玉座で反り返る加藤がいる。

 加藤は昔の王侯を真似たような、緋色の軍服を着ている。



「まだコスプレパーティーやってるのかよー、ヘルー?」

 ジークが怒鳴った。


 ヘルは彼を無視し、朔夜に話しかけた。

「あー、つまんねーなー。結局、最終フロアまで来たのは、ガチガチの本命かー。まぁ、それなりに会いたかったけどなー。久し振りだな、くたばり損ないー」


 朔夜はヘルの奇襲でダメージを負い、洞窟で眠っていたが、再び襲撃を受けて、本当にくたばりかけた。

 衰弱から持ち直すまで、随分長い休養を余儀なくされた。

「ヘル…。借りを清算しに来てやったよ」

 朔夜が仲間を引き連れ、前に進もうとした。


 謁見の間のように、石畳は玉座へ続いていく。

 雲が悠然と流れていく。


「待てよ。王様に取り次いでやるから」

 ヘルと特殊部隊はにやにや笑いながら道を開けた。

 ヘルは遥かな加藤を振り返った。


 ヘルと加藤の長い距離の中ほどに、じわっと浮き出すように、巨大な門が現れた。

 瑠璃色の大扉が、軋みながら開いていく。



 加藤のマントの裾が、風にそよいでいた。

「魔王城にようこそ。人間どもを支配する王と、吸血鬼世界の代表者の初めての邂逅(かいこう)だ。運命の女神の気紛(きまぐ)れが、俺達に出会いをもたらした。おまえが黒瀧朔夜か。俺の可愛い黒アゲハ戦隊を、よくも殺してくれたと言いたいところ…だけど、ま、あんな雑魚(ざこ)、正直どうだっていい。ここから先はある意味、この世の王と王の究極の会談。この世の領地を二人で分け合う話だ…」

 加藤が涎を垂らしそうな、ゆるい顔で呟いた。

 遠いけれど、マイクで話したようによく聞こえた。


「雑魚が俺の名を呼ぶのは許さない」

 朔夜は最初からキレた。

 彼の半覚醒のカラダの中で、闇の血がざわつき、理性がすぐにも飛びそうな状態だ。


「俺が雑魚だと!?」

 加藤がかっと赤くなった。

「そうだろ。仲間を使い捨て、雑魚呼ばわりする雑魚。現場は全て、ヘルが仕切ってたじゃないか。おまえは金を出しただけ」

 朔夜が嘲笑った。

 ジークは何となく、スカッと爽快だった。



 加藤はうひゃひゃと嗤った。

「吸血鬼が正義漢ぶってどうする? おまえと俺は同類。卑怯こそが俺達の本性だ。俺はこの世の領地を分け合う相手が、おまえで満足している。俺は富を手に入れた。これから恐怖をもって、人間どもを支配する。おまえは俺の申し出を受けるしかない。利益と価値がある話だからな」


「おまえの吸血鬼のイメージなんか、知らん。興味もない。おまえと分け合うものも無い」

 朔夜は即答で断った。


「そう言うなよ。ま、聞きなって。俺はこの若さで、人生でどんなに贅沢しても使い切れないほどの、巨額の財産を築いた。だが、まだ手に入れてないものが一つある。永遠の命だ。おまえは俺ほどの財を持たないけど、永遠の命を持ってる。その素晴らしき血!! どうだ。俺達がこの世を分け合えば、全てを備えた者が二人生まれるんだ」

 加藤は唾を飛ばし、喋った。


「黒瀧朔夜。俺は金なら無限に持っている。俺はいくらでも金を生み出せる天才なんだ。俺は金のなる木を簡単に作れる。年寄りから貯金を(むし)り取り、貧困層から生活保護費を()がし取り、子供を食い物にして金にしてきた。心の弱い奴等から救いと引き換え、金を全て持ち去るカルト宗教商法。全国で講演をして、テレビに出てタレント活動、俺はガッポガッポ稼いでる。株は裏情報で値を操作して稼ぐ。今時、合法なんてイケてない。俺は高学歴高収入の勝ち組で、生まれてからずっと成功し続けてきた。俺のやり方を非難するヤツは、ひがんでいるだけだ。誰だって金が欲しいものな。今や、俺は金を使い、ネットを通じて、若者を意のままに操れる存在となった。教祖? とんでもない。俺は、帝王だ」

 加藤は得意げに語った。


「金で不老不死を買い取りたいと? さすが億万長者だな」

 朔夜は軽蔑の眼差しで聞いた。

「その通りだ。おまえの血はいくらだ?」

 加藤が玉座で脚を組み直し、傲慢に言った。


「高いぞ。買えるかな?」

「いくらでも払う」


 朔夜は鼻で笑った。

「ふん。血が欲しければ、闇と契約を交わすことだ。契約書に、代価が記載される。条件は交渉してみるといい」

 朔夜はジークから見て、意外に親切に教えてやっていた。


「ヘルから血をもらえよ。蛾になれるぜ」

 ジークが口を挟んだ。

「そんな醜い血はいらない」

 加藤が拒絶した。


 一瞬、ヘルと特殊部隊から殺気が走った。


 加藤は気付かず、恍惚として喋った。

「俺は美しい魔物になりたい。いや、人間のまま、美しい魔物の姿と力が欲しい。俺は吸血鬼の苦痛は欲しくない。欲しいのは、その力と命の源泉だけだ。俺に相応しい力が欲しい。もし寄越さないと言うのなら…」

 彼は玉座から立ち上がり、手をひゅっと横に薙いだ。


 隣に立つ、仮面の呪術師が何か呟いた。


 加藤の前に鳥が落ち、頭と胴が切断されていた。

「…こうする!!」


 朔夜は口を歪め、舌で乾いた唇を舐めた。

「血をやらぬとは言ってない。欲しけりゃ、力ずくで。俺を倒して、飲むがいいさ。そして闇と契約しろ。…そうやって、吸血鬼(ダーク)を倒して吸血鬼(ダーク)になったヤツは何人もいる。…長生きしたヤツはいないけどな。みんな、殺された。不老不死は永遠の命を意味しない。多く命を落とすものだ」


「勘違いするな。おまえの汚れた血をそのまま飲んだら、俺も吸血鬼になってしまう。そうじゃないんだ。俺に、永遠の命をくれ」

 加藤がどす黒く顔色を変えて怒り、朔夜に向かって歩き始めた。


「永遠の命!? そんなもの、あるようで、無い」

 朔夜が笑いながら答え、立ち止まって、自身を解放した。

 半覚醒から、覚醒へ。

 朔夜が龍になろうとしている。





 4


 ジークとヘルが向き合った。


「よく生きてたな、ジーク。おまえらはマジで、しぶとい生命力だな」

 吸血鬼(ダーク)ハンターの隊長、ヘルが笑った。

 髭の似合う、渋い顔だ。


「ご期待通りに、パーティーに来てやったぜ。待ってたんだろ? 毒蛾野郎」

 ジークがぺっと唾を吐いた。


「おまえら吸血鬼は、害虫扱いで充分だ。殺虫剤で殺してやる」

 ヘルはノズルから毒ガスを噴射した。

「うぉっ!!」

 ジークが飛びあがって避けた。



 加藤は仮面の呪術師の後ろに隠れた。

「黒瀧朔夜。でかいことを言ってられるのも、今のうちだ。これを見ろ!!」

 加藤の声を合図に巨大スクリーンが出現し、海上のクレーンが映し出された。


 藍色の空。

 まだ夜明けには間がある。

 港の建設現場の超大型クレーン。いや、船の上か。

 吊られた鉄骨。


 鉄骨に人影が。

 縛られているのは…。

「愛理!!」

 ジークが大きな声で叫んだ。


 意識のない愛理は項垂れ、青白い顔をしている。


 朔夜は何も言わなかった。

 口元をきゅっと引き結んだまま。



「黒瀧の一族のリーダーの孫らしいな。俺が何も用意してなかったなんて思うなよ。万事、俺の読み通りなのよ。こういう可愛い女の子をいたぶるのが、俺の趣味なんだわー」

 加藤がクスリでハイになっているのか、興奮した口調で喋った。

 マイクが無くても、歌ってるみたいだった。


下衆(ゲス)

 朔夜は一言で感想を述べた。


「おまえ一人が不老不死になる為に、どんだけ大勢巻き込んでるんだよ。加藤!」

 ジークが空中から叫んだ。

 彼に向け、ヘルが毒ガスを噴射し、ヘルの部下がマシンガンをぶっ放した。


「うるせぇー。この世界はな、勝ちゃいいんだよ。たくさん稼いだ者の勝ちだぁ。高学歴高収入、俺みたいな人間を、成功したと言うんだよ。聞いてるか、ケダモノ達ー!? 手段は関係ない。憎まれようが、(さげす)まれようが、泥臭くても、卑怯でも、勝てばいいのさ!!」

 加藤が呪術師の背後から、大笑いした。


「最悪だな」

 ナオが侮蔑的に言い、銘刀・鬼美津の鯉口を切った。


 加藤は呪術師に、

「シャバダ!! 行け!! 黒瀧朔夜を生け捕りにしろ!! ダメなら殺してしまえ!!」

 と、命じた。

 無言の呪術師が、裸足で一歩踏み出した。



 ジークは黒飛龍剣を振り回した。

 蒼い閃光が走った。

 稲妻の光がサファイア・ブルーを帯びている。

 雷が落ち、石を砕く。


 ヘルは両手に銃を構えた。

 ヘルは両手別々に動かし、自在にトリガーを弾く。

 体を固定しなくても、彼は抜群の安定性で、ブレない照準を可能にした。

 両腕をクロスし、滑らかに上下左右に銃口を走らせ、ジークを狙い撃つ。


 ジークとヘルは一定の距離を持ちながら、走る。

 その間合の中、互いの仲間が障害物になる。

 他に遮蔽物は一切ない。


「ヘル、なんでバカなことしたんだ? 吸血鬼を狩ってるのに、黒蝶を世に出すって、矛盾してるぞ!?」

 ジークが蒼い雷を放つ。

「毒を持って毒を制す。あの子達は、おまえら吸血鬼を狩る道具だ!!」

 ヘルが迷彩のキャップを飛ばし、床を回転しつつ、ジークを撃つ。


 薬莢が乱れ飛ぶ。

 ジークは何発か食らった。

 体力は消耗するが、食らった弾丸は筋肉が全て、皮膚の外へ押し出す。


「俺達に何の怨みがあるんだよ、ヘル!!」

「スカルを殺された怨みだ。それに、妻を殺された怨み。人間としての人生を奪われた怨み。部下を殺された、多くの怨み。怨みの蓄積が、俺を地獄の鬼と変える…」

 ヘルが呟き、連射した。


「加藤に、いいように利用されてるぞ!!」

「構わない。俺達も彼を利用してる」

 ジークが剣で弾丸を叩き落とす。

 ヘルは弾を切らし、その場で堂々とリロードした。

 弾倉が金属音を上げて床に落ち、跳ねた。


 ヘルがリロードする間、ジークは周囲を見回した。

 ナオや、他の黒瀧の一族の者が、ヘルの部隊と格闘している。

 混戦の最中、朔夜が龍となり、夜空に広がっていく。


「朔夜!! 気を付けろ、その呪術師…、あの圭太を負傷させたヤツだ…!」

 ジークが朔夜を見上げ、叫んだ。











 












 











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