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ph 53 醜い魔女

phase 53 醜い魔女 


 1


 目の形のモニタが複数、宙に浮かぶ。

 そのモニターの一つで、朔夜とナオが黒蝶部隊と対峙していた。

 黒蝶部隊の背後に、三つの蛹があった。

「おお、朔夜。さすがじゃねーかー。すげぇー」

 ジークは拍手を送った。


 別のモニターでは、圭太が黒飛龍剣を手に、仮面の呪術師と戦っていた。

「圭太…。おまえの剣じゃねーだろ?」

 ジークは舌打ちした。



「ジーク…。私がおまえの命を終わらせてやる…」

 封印のフローラが、光の中から降り立つ。


 彼女の手には、一輪の薔薇があった。

 (しお)れてしまった薔薇。

 ピンクの花びらが、一枚だけ残っている。



「まぁ、そう急ぐなよ。なんで、封印屋なんて商売を始めたのか? ちょこっと聞かせろよ」

 ジークの頼みに、

「最後だから、話してやろうか…」

 フローラが腕組みして立った。


「私が初めてラボに来た頃、生け捕った吸血鬼一体をサンプルに研究してた。…とても醜い吸血鬼だった。覚醒した状態で薬物漬けにして、動けないように、前任の封印師が封じていた。前任の封印師も、そいつから吸血病に感染してた。ラボの研究は、私には興味深かった。吸血鬼をいたぶって、血を絞り続けることが…」

 フローラは唇の端を斜めに歪めた。


「吸血鬼の血を飲んだだけでは、簡単に吸血鬼にならないことが、マウス実験でわかった。細胞を移植しても、ただ凶暴化する程度だった。私達は吸血鬼の血から、不老不死の秘密だけを取り出したかった。吸血鬼は血を吸わないと、麻薬中毒のように苦しむ。吸血鬼は朝日を浴びれない。日中の行動も制限される。つまり、不老不死になることは、デメリットも大きい…」

 フローラは淡々と話した。


「研究の途中だったかな。ラボの一番若い助手が、何故か吸血病に感染してしまった。彼は醜く変化した。本当にキモい。彼の顔は元に戻らなかった。体格もごつくなって、運動能力も大いに変化して、私の恰好のサンプルになった。彼は家族と会えなくなり、自殺しようとした」

 フローラは笑い出した。

 笑うところではないのに。


「スカルだな。容姿を気に病んでた…」

 ジークは胸を痛めた。



「ラボの責任者のヘルは、自分から蛾になった。可哀相な部下に責任を感じて。でも、ヘルの顔は覚醒時以外、人間のままだった。変貌には個人差があって、内面の違い、精神力の違いが大きく左右するの。ヘルが自ら吸血鬼となったお蔭で、研究は飛躍的に進んだ。そして、私も決心した。私も…、自分をサンプルに研究を進めてみようと…」


 フローラは得意げに話した。

 ジークは違和感を感じた。


「私は蛾人の細胞を使って、その能力と不死性を、私の血にコピーした。ただし、私も血を吸わなくてはならなくなった。私達は医大から、血液パックの提供を受けた。不老不死の共同研究の見返りに。かくして、私達は鬼とはならずに、特殊能力を経た。年を取らなくなり、若く見られるようになった。他の研究員も続々と、この遺伝子をコピーした。…私がそう仕組んだけど…。みんな、私の研究サンプルになったの…」


「仲間をサンプル扱いか?」

 ジークは吐き気を感じた。


 フローラは深く頷いた。

「私はうまい具合に、一番実用性が高い能力を得た。封印のチカラ。私は仲間を支配出来た。誰の力も封じられる。誰の魂も、呪いで思うがまま。…私は、前任の封印師に死んでもらった。私が唯一の封印師でなければ、私の絶対的な地位は有り得ないもの。ヘルだって、私を粗末には扱えない。…もし他に封印師が見つかっても、私が先に殺してやる…」


「根性悪い女だとは思ってたけど…」

 ジークはうんざりした。


「どう? 私に勝てる気しないでしょ? おまえの技、全部封じてやる。おまえを呪い殺すことなんて、すごく簡単。口笛吹きながら殺せるよ!」

 フローラは不気味な薄笑いを浮かべ、にやにやした。



「一つ聞くけど、サンプルにした吸血鬼はどうなった?」

 ジークが尋ねた。


「用済みになったから、廃棄したよ。そうそう、体の半分をミキサーにかけて、あの若い助手に健康食品だと言って食べさせたの。…ああ、それでかしら? あの子があんな醜い顔になったのは!? 吸血鬼は保管庫で、最低限度の血を輸血されながら、飢えと渇きにのたうってたよ。二十年ばかりね!」


「二十年!!」

 ジークは残酷なラボの研究に、鳥肌が立った。


「廃棄した吸血鬼の名前は確か…、ノスとか言ってたな」

「おまえを一番恨んでるとしたら、そいつだろうな」

「あはは…。そうなんじゃないの? もう一人、私を恨んでそうな奴がいるけどね。前任の封印師で、吸血病に感染してた男…、久津川。特殊能力がどのぐらい火に耐えられるかと思って、限界まで炙って、焼き殺してしまった」


「黒蝶型の吸血鬼も、サンプルにした?」

「ああ。彼は通称ノットと呼ばれてた。現在の黒蝶のクローン細胞が出来てから、要らなくなったの。切り刻んだ後、輸血してやらなかったから、勝手に溶けてたよ。…ねぇ、私をひどい女と言わないで。だって、吸血鬼は人間じゃないんだし、虫と同程度の扱いが妥当よね?」

 フローラはくだらなそうに言う。



「ご覧よ。異空間を繋いだ、私の覗き窓(モニター)を」

 ジークはフローラに言われ、目の形のモニターに視線を移した。




 2


「レディース・アンッ・ジェントルメェァァーン!!」

 各フロアのスピーカーから、音楽に乗せ、加藤の声が流れた。


 殺戮の進んだホールに、大型スクリーンが出現した。

 そこに、豪華な部屋で寛ぐ加藤の姿が映った。


「ただ今、ヴァンパイヤ・ナイトのライブ映像を、ネットで公開中継してまーーす。…途中ですが、ライブより面白いものが撮れちゃったから、この動画をどーぞ!!」

 歌うように話す加藤。

 スクリーンに出た映像とは…。



 異様に盛り上がるイベント会場内。

 踊り狂う客。

 その中から、次第に奇怪な姿を現す、吸血鬼達。


 そして、狩りが始まり、人間がチーズを裂くように縦に裂かれ、ゾンビに食われていく。

 飛び散る血飛沫。

 逃げ惑う、若い男女。

 最悪の末路。

 血の池となったホール、積まれたバラバラ死体、跋扈(ばっこ)する鬼達。



「撮ってたのか!? 全部? これ、世間に公開するの!? 冗談じゃない。こんなの公開されたら、俺達はどこにも居場所が無くなる。ヨッシーやベロニカだって、どう思うか…」

 ジークは焦って、フローラに詰め寄った。


「もう遅い。今の中継は、繁華街の大型広告塔にも流れてるはず。多くの市民が目撃したんだよ!!」

 胸ぐらを掴まれても、フローラは余裕で言い返した。


 ジークはまた、モニターの異変に気付いた。

 朔夜の映るモニターで、黒蝶が蛹を割って羽化を始め、上半身を抜きにかかっていた。

「もう!? あとちょっとで蛹から出てしまう…!!」


「翅を伸ばしきるのは、夜中の三時頃かな。夜明けの少し前、新たに三匹の黒蝶が誕生する。アイドルの黒アゲハを始め、あの子達は私の作品よ。あの子達の羽化が終わる前に、おまえの仲間を料理したげる」

 フローラがモニターを指差す。

 各フロアに、警察の特殊部隊が突入した。


 加藤の声が実況を流す。

「見ましたぁー!? スゲー。本当に吸血鬼って存在したんだぁー。俺達のイベントに、本物の吸血鬼が来ちゃいましたよぉーー!! 俺達はすぐ、警察に通報!! 今から特殊部隊が鎮圧するのを、生中継しちゃいまーーすー!!」

 派手に音楽が鳴り続けている。


 各フロアの吸血鬼(ダーク)は、警官に扮したハンターを見た。

 ハンターが吸血鬼狩りを開始した。

 容赦のない機銃掃射に、吸血鬼(ダーク)の手足がちぎれて舞う。


 ヘルと加藤は、用意周到に作戦を練っていた。

 そうそう簡単に吸血鬼(ダーク)を狩れないと考え、ネット公開という手段で、彼等を袋小路に追い込もうとしていた。



「さあ、話も終わったし。おまえの死に顔を見たくて、ウズウズする」

 フローラが呪いの薔薇の最後の花びらを、無造作に引きちぎった。


 その途端、ジークは凄まじい激痛に見舞われた。

 身を屈めて心臓を押さえ、床に転がった。

 体が硬直し、声も出ない。


「ふふふ。可愛い顔するんだね」

 魔女が嗤った。


 ジークは白目を剥き、口から泡を噴いた。

 体がピクピク痙攣している。

 意識が混濁した。


 フローラは薔薇を投げ捨て、足で踏み付けた。

「おまえの命なんか、ゴミクズ同然…!!」



 フローラはモニターの一つを見上げ、上司に報告した。

「ヘル・ファイアモス様。ジークの呪いが終了しました」

 彼女は可憐な顔に、晴れ晴れとした表情を浮かべた。


 モニターの向こうで、ヘルがインカムに応じた。

「…フローラ。本当に、間違いなくジークは死んだんだな?」

「はい。死体はサンプルとして使用出来ます。黒瀧朔夜ほどの逸材じゃないですけど…」

 フローラがジークの頭を蹴とばした。

 ジークは反応しなかった。



 フローラはジークを、ラボの担当者に引き渡した。

「これは人間の脳死のようなもの。死体はすぐに溶けて、闇に帰す。私が死体の時間を止めれるのは、数分だけ。早く切り刻んで、まだ生きてる細胞を培養して」

「わかってますよ、フローラ」

 担当が頷いた。


「生きたまま頂けたら、もっと良かったんですけどね…」

「それはもうすぐ、別のサンプルが手に入るから。未覚醒の処女のサンプルがね」

 フローラが死体の引き渡し書にサインをした。




 3


 ジークの魂はふわふわと、自分の肉体の上を飛んでいた。

 宇宙遊泳のように逆さまになり、バランスをうまく保てない。


 彼の幽体の心臓から、二本のラインが出ている。

「有り難い。こいつがまだ切れてねーってことは、俺は完全には死んじゃいねーってことだ。うまく仮死状態に自分を持って行けた。これで、あの封印屋を騙せたかな?」

 彼は喜び、自分の死体を見下ろした。


 ちょうど、フローラがジークの頭を蹴ったところだった。

 彼女の足元には、踏みつけられた薔薇の小枝があった。

 薔薇とジークとフローラは、夫々、細い糸状のもので繋がれていた。


「これが呪いか?」

 ジークは糸の結び目を解こうとした。

 彼女の守護符(タリスマン)の五芒星が刻み付けられている。

「熱っ!!」

 彼が触れると、五芒星が火を噴いた。


「どうやって呪いを解く? 鍵はねーのか?」

 ジークが五芒星を拡大して見た。

 細かな幾何学模様がびっしり書きこまれている。

 このパズルを組み替えれば、五芒星を消せる。

 彼は難解なパズルを解き、呪いの結び目を解いた。



 ジークは幽体の心臓から始まる、真紅のラインを手繰ってみた。

 一本は肉体の心臓部と繋がり、もう一本は遥か下方、闇の深淵から伸びていた。

「ああ、嫌だ。あそこには二度と行きたくねー」

 ジークが見下ろした時、下方から彼のラインを昇ってくる人影を発見した。


 大きな鎌を抱えた死神の顔は、ジークにそっくり。

 鵜野影馬だった。

「うわっ、影馬!! 生きてたのかよ!?」


「俺は死んだ。この俺は闇の深淵と同化し、深淵が作ったコピーだ…。こうなっても未だ、怨念が闇に残り、貴様の堕ちて来るのを待っていた…」

 鵜野が告げた。


「俺も死んだよ。怨みは無しにしろよ」

 ジークが鎌の切っ先を避けた。


「俺の怨念は、貴様と黒瀧を殺すまで消えぬ…」

 鵜野がラインを狙い、二度、三度と、鎌を振るった。

 闇が(しずく)となって飛び散り、辺りが黒く霞んだ。


「俺は御免だね。おまえと深淵に棲むなんて。俺は肉体へ戻るんだ…」

 ジークは自分の肉体を振り返った。


「無理を言うな。自分の契約書を読むがいい」

 鵜野がジークの心臓から出たラインを引っ張り、()れを引き延ばして見せた。

 ラインは広げると帯状で、血管が浮かび、生温かく脈動している感じがした。

 その表面には、外国の古代文字がびっしりと書き込まれていた。


 ジークはラインを凝視した。

「これが噂の、契約書ってやつなのか!」

 字は読めなくても、意味は伝わってきた。


「ジーク。俺達はみな、この契約書で闇と繋がっている。貴様が復活を望もうと、貴様の魂はその全てが、闇の所有物なのだ」

 鵜野が話すことに、ジークは抗った。

「死んでからまで、束縛を受けてたまるか」

 ジークの腕を、鵜野がしっかり握った。


「貴様は生まれ変わることもない。後はただ、この深淵に溶けていくだけ。闇の一部として、また新たな吸血鬼(ダーク)のチカラの源になる。新たな吸血鬼が生まれる時、貴様の魂の一部が、その覚醒する個体の骨や肉や、翼に変わる…」

「嫌だ…!! 俺は拒否する!!」


「貴様の翼は、俺の魂の欠片で出来ている。貴様の能力の一部も、俺の血から継承されたものだ。黒瀧を通じて…」

 鵜野が液状化してジークを覆い、深淵へ取り込もうとした。


「ほら。先に死んだ者達が一つになって、貴様を待っている。ジーク。往生際が悪いぞ…」

 鵜野という個別の意識が消え、闇がジークを誘っていた。

「静かな永遠の淵だ。溶けてしまえば、悪夢もない。ただ毎日、堕ちて来る魂を食らうだけだ…」


 ジークは闇に質問した。

「闇と契約者の魂が溶け合うなら、深淵にノス、久津川、ノットという、フローラに怨みを持つ吸血鬼(ダーク)がいるはずだ。深淵、おまえはコピーして再生出来るんだろ?」

 長い沈黙があった。


 ずしり、と重い闇がドロドロの波になって、彼のラインを昇ってきた。

 ジークは唾を飲んだ。


「俺達がそうだ…。呼んだのはおまえか…?」

 混じり合う怨念が、彼に話しかけた。

「誰でもいいじゃねーか? 復讐のチャンスをやる。俺に手を貸してくれ」

 ジークが思念で話した。


 闇の塊は、フローラへの恨みつらみをぶちまけた。

「俺達は何の罪もなく、あの女に支配され、惨たらしく処分された…。この怨みは…世の終わりまで消えることはない…」

 ヒューヒューと闇の声帯が鳴った。


 ジークは這い上がる人影から、憎悪の(パルス)が蒸気のように噴き上がるのを見た。

 彼は薔薇の小枝を指差した。

「見えるだろ? あそこに、あの女の魂の糸口がある。あそこから、あの女の魂に侵入してくれ。思う存分、あんたらの怨みを晴らしてくれたらいい」


 闇がジークから離れ、フローラの中へ流れ込んでいった。




 4


 ジークは元の肉体に戻った。

 彼のエネルギーは尽きていたが、深淵から闇のエネルギーを引き込んだ。



 フローラは書類にサインを終え、ジークの死体を抱え上げた。

「さあ、行きましょ」

 ストレッチャーに死体を載せ、彼女が押し始めた瞬間だ。


 突如、ジークの眸がカッと開き、

「まだ終わってねーんだよ!! ババァ!!」

 と、呟いた。


 フローラは驚いて、ストレッチャーを投げ出した。

 彼女は後ろ向きに引っくり返り、尻餅を着いた。

「なっ…なんで死んでないのー!?」

 彼女が慌てふためいた。


「よう、フローラ。散々、俺を痛めて楽しんだろ? おまえ、ドSだねー。俺は死んだけど、また戻って来たんだよ。おまえの顔に靴の跡クッキリ付けるまでは、死んでも死にきれねーんだよ!!」

 ジークがフローラの顔面を蹴った。

 フローラは暗闇で壁に頭をぶつけ、床へ落ちた。

 余りにも勢いがあり過ぎて、彼女の体はバウンドした。



 フローラの顔には、ジークの靴跡がめり込むように残った。

 彼女は鼻を砕かれ、前歯を折り、顔中から血を垂らした。

「じ…、じぃーくぅー…」

 機械の軋むような声で、彼女はジークを呪った。

「私…はババァ…と呼ばれるような…年齢じゃないし…。この…低級ゾンビが…」


「声がババァなのー。魔女のイメージにぴったりだよ」

 ジークが俄然、元気に溢れていた。



「このゾンビ、ちゃんと死んでろよ!!」

 ラボの担当者が拳銃を構え、弾倉が空になるまで撃ち続けた。

 ジークの全身に穴が開いたが、血は一滴も流れなかった。

 シュウシュウと煙が上がり、傷は瞬く間に塞がってしまう。

「それで終わりか?」

 ジークがストレッチャーから飛び降りた。



「ジーク…。見せてあげる…。私の封印術を…」

 フローラの顔面からも白煙が出て、靴跡と傷を消した。

 彼女は美しい娘の顔に戻った。

 そして眉を吊り上げ、厳しい眼差しでジークを睨む。


 フローラが右手を開いて前に突き出し、左手で右手の甲を支えた。

「何を始めるって?」

 ジークがせせら笑った。


 ジークの背後で風が唸り出し、渦を巻き始めた。

 同時に、彼女の右手の前でも、風が旋風(つむじ)を巻く。

「おまえが黒飛龍剣なしにやれないことを、私は何もなしに出来るんだ」

 フローラが渦の意味を教えた。

 異空間が口を開く。


 ジークは髪が後ろに引かれるのを感じた。

 ズタズタのシャツがはためき、風の歌を歌った。

 彼は前に寄ろうとしたが、背後の風に引き摺られる。


 しかし、ローラの方に地獄の入口が訪れた。

「えっ!?」

 フローラは何が起きたのか、理解出来ていなかった。

 突然、体が熱くなった。


「熱い…。熱い…!!」

 フローラが金切り声を上げた。

 彼女は自ら発火し、燃え出した。

 彼女の大切な顔が崩れ、体中の血がグツグツと煮え立つ。


「顔が…!! いやぁ、顔がぁー!!」

 顔が醜く老けていく。

 頬骨が高く浮き上がり、頬にそばかす・染みが浮かび、顔中、幾重にも皺だらけに弛んでいく。

 童話に登場する、魔法使いの老婆のように。

 その顔が、部屋の大きな鏡に映っていた。


「これは私じゃないー!! 私じゃない…!!」

 フローラは泣き出した。

 顔が崩れていく。それは彼女にとって、最も恐ろしい出来事だ。

 彼女は全身を黒炎に包まれながら、顔を手で覆った。


「ぎゃあああああ…!!」

 断末魔の絶叫を振り絞り、フローラが鏡を叩き割る。

 床に散らばった無数の鏡の破片、一つ一つに、彼女の醜く老いさらばえた顔が映る。

「いやー、やめてぇー!!」

 彼女は生きながら地獄火に焼かれ、ドロドロに蕩けていく。


 壮絶な最後だった。


「本当に醜いのは、おまえの方だったんだ。魔女…」

 ジークは部屋の隅で、ぼんやりしていた。



「そうだ。朔夜達と蛹はどうなった!?」

 ジークは一つ上の結界へ、ジャンプした。





 5


 不二富町は吸血鬼騒ぎで寂れ、午後九時には、飲み屋通りの殆どの店がシャッターを下ろした。


 ベイカフェも営業を終了していた。

 店内には常連だけがいて、サッカーなど観戦する為の大型壁面テレビに、ヴァンパイヤ・ナイトのライブ映像が流れていた。


 ヴァンパイヤ・ナイトなんて、嫌なイベント名だと思ったけれど、音楽好きの店長ヨッシーは、常連の為に映像を流していた。


 突然、映像が切り替わった。

「…途中ですが、ライブより面白いものが撮れちゃったから、この動画をどーぞ!!」

 主催のIT起業家が喋っている。


 それから、異様なモンスター達が暗闇から飛び出した。

 人間を襲い、首筋に牙を立てる。

 飛び散る血飛沫。


「ヤダー!! これ、ホラー映画の予告ー!? 突然、びっくりするじゃなーい!!」

 ベロニカが叫び、テレビから後ずさった。

「リアルですねー。何、これ? CGに見えないねー」

 ベロニカのインド人の彼氏も、気持ち悪そうに映像を見た。


 怖いもの見たさ。

 みんな、視線を外せない。


 そのうち、壁を垂直に立って走る男と、妖魔の姿が映った。

 妖魔は仲間割れを起こし、一人がキャベツより細かい千切りになった。

 逃げる男は集中攻撃を食らい、黒い血を流す。

「こ…これ、ジークさんじゃ…!?」

 ヨッシーがテレビの真ん前に走った。


 ヨッシーの前で、顔が大きく映し出された男が、シャツの前をはだける。

 胸から腹にかけて、透明になっている。

 男の顔は黒い隈取があり、眸が白く光っている。


「ジーク!!」

 ベロニカが叫び、口を手で押さえた。

 ヨッシーは頭の中が真っ白になり、言葉が浮かばなかった。

 

















 





















 






 

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