ph 46 封印屋
phase 46 封印屋
1
「深由ちゃん、寝てて」
ジークが波を集中して、パンッと深由の額に当てた。
深由の意識がなくなった。
ジークは崩れ落ちる深由を抱え、ポイズンを見上げた。
「達紙ジーク。優しいヤツって、それだけで弱点なんだよな」
ポイズンがメキメキと骨を軋ませ、変形し始めた。
ポイズンの体は薄茶色に変わり、2メートルを超えるほど大型化した。
上半身はレスラーのような逆三角形に広がり、その肩から異様に大きな翅が生えた。
翅は黒字に瑠璃色の斑。
その途端に、独特の匂いがした。
毒蛾の匂い。
ポイズンの額から、木の葉型の蛾眉が生えた。
絵本の世界から抜け出た妖精のように、薄気味悪く、美しい。
「大丈夫。麻酔なしに切り刻んだりしないから。もう暴れるな」
ヘルが麻酔銃を構えた。
「俺はサバンナの猛獣じゃねぇー」
ジークは注射の一発目を、手で払い飛ばした。
「オネンネしてる間に、あの世に行ける」
次の手段として、ポイズンが防毒マスクを被り、仲間の男達も防毒マスクを着装した。
ヘルが睡眠ガスのバルブを開いた。
「おい、深由ちゃんを部屋の外に出せよ!! 深由ちゃんまで昏睡してしまう…」
ジークは叫ぼうとして、咳き込んだ。
すーっと意識が遠くなる。
彼は必死に意識を保とうとした。
ヘルの肩に吊るされたギターケースを睨み、波を集中する。
「おっと。無理、無理ー」
ヘルはギターケースを肩から下ろし、仲間を振り返った。
「ほら、封印のフローラ。頼んだぞ」
ヘルが白衣の眼鏡少女に、ギターケースを投げた。
眼鏡少女はにやっと笑い、ギターケースを抱き締めた。
彼女は防毒マスクをしていない。
彼女の側を、睡眠ガスの方が避ける。
がっちり結界に包まれたように、黒飛龍剣がジークの波に無反応になった。
封印のフローラは挑戦的に、ジークを見た。
おかっぱが静電気みたいに広がって、薄笑いを絶えず浮かべているのが気持ち悪い少女だった。
ジークの力はこの少女の結界で制限を受け、覚醒することが出来なくなった。
彼は自分の体が、目に見えない鎖で縛られたように感じた。
でも、それより、深由が命の危機に瀕した。
半分ゾンビのジークより、はるかに弱い、生身の人間だ。
睡眠ガスの濃度が濃いと、障害が起きるかも知れない。
ハンカチを濡らして、深由の口元を覆ってやりたいけれど、ハンカチも水もない。
迷っている暇はないと思う。
何人いようと、敵を瞬殺していくしかない。
ジークはふらつく身を起こし、気力で立ち上がった。
「ふん、そう来なくちゃな…」
ポイズンが嬉しそうに近寄ってきた。
他の連中は、夫々銃火器を取り出した。
銃火器の安全装置の外れる音。
それから、ガスの噴き出す音。
静かな部屋に響く。
ベッドの周囲には、医療用機械とパソコンのディスプレイが並んでいる。
天井は高いが、地下なので窓がない。
何か圧迫感がある。
逃げ道は、背後の出入り口、ただ一つ。
ジークは呼吸が荒くなった。
呼吸が速くなるほど、ガスを吸い込んでしまい、クラクラした。
「誰の為に、そんな忠実な犬になってんだよ? おまえら雇ってる金持ちって、誰なんだ?」
ジークは全員を見回した。
ちょうど一ダースいる。
「教えてやってもいいよ。我々を雇っているのは、政治家でも、財界の大物でもない。ただの進学塾の、塾長だ」
ヘルが答え、
「はぁー!?」
ジークは仰天し、叫んだ。
「ガッコの先生が、永遠の命の薬を開発して、どうすんだよー? 塾生に売るのか!?」
「知らん。そいつが不老不死になりたいだけだと聞いてる。そんなもんだよ。我々はそいつがどうやって、莫大な資金を集めたのかも知らん」
ヘルは愛用の銃を撫で、ゆっくりと構えた。
「ジーク、仕方ないんだ。その塾長がムカつく男でも、家族と生活の為に、ちょこっと我慢してペコペコするのさ。俺達だって、何も食わずに生きてけないんだから」
「可愛いディーヴァちゃんの面倒なら、俺が見るから、安心しろよ。お父さん」
ジークはふらつきながら、歯を食い縛った。
「やめろ!! 俺の娘に指一本触れるな!! 汚らわしい殺人鬼!!」
ヘルが銃口を、ジークにロックした。
ジークはふらついて、背中を壁にぶつけた。
「吸血鬼は切り刻むくせに…。吸血鬼に人権はねーの?」
「あるか!! おまえらは人間様じゃないんだ!!」
ヘルが吐き捨てた。
「へぇー。蛾に言われたくなかったな…」
ジークは唾を吐く。
彼は既に、限界だった。
「あれー、俺、終わりかな。深由ちゃん、ごめん。助けてあげられなくて。いや、一応ダメでも行っとくか…」
ジークはポイズンに向かって走った。
一瞬の風のように、ジークは数メートルを一歩で迫った。
ジークの拳が目に見えないほどのスピードで、ポイズンを襲い、ポイズンが片手で受けた。
「ひょろいオッサンだな」
ポイズンはクレーン車のように、受け手一つでジークをぶっ飛ばし、壁に叩き着けた。
ジークは壁を凹ませ、地面に落ちた。
大人対子供のような体格差だ。
ジークは鼻から血を流しながら、起き上がった。
襲い来る攻撃を皮一枚で躱したつもりが、まともに受けて、体ごと回転していく。
ギャラリーが一斉に爆笑した。
「傑作だ。フローラの呪いが効いてるな。手も足も出ないじゃないか」
ポイズンの舌管が口から飛び出し、剣のようにジークの頭部を貫こうとした。
ジークが瞬間的に避けた。
が、何度も連続で、ポイズンの舌管が彼を襲う。
ポイズンは舌管を外側に巻かずに、口中から弾丸のように吐き出す。
ジークは右に、左に避けながら、壁際に追い詰められていく。
ポイズンの毒の爪がジークを切り裂き、毒の鱗粉を浴びせる。
ジークがしゃがんで避けたら、長い舌管が鞭のようにしなって、彼を薙ぎ倒した。
「俺、封印されたら、…こんなに弱いの?」
ジークは首の骨が折れたのを感じている。
ゾンビだから、首が折れても死なない。
でも、視界が傾いて、後ろを見れなくなった。
「そろそろ、終わりにするか。でかい風穴を開けてやる。急所を外して撃つ。蓮根みたいにしてやろう」
ヘルが大口径のリボルバーを構える。
パンッと、肉が弾け飛んだ。
ジークの背中から血飛沫が、壁に飛んだ。
音がする度、ジークの体が上下に跳ね、後ろ向きにのけ反って倒れていく。
最早、痛覚もない。
ほどよく、睡眠ガスが効き始める。
2
床中央に、光る亀裂が走った。
ジッパーで開くように、異空間との裂け目が開いていく。
部屋の床の両サイドに光の正三角形が現れ、滑るようにすっと流れてきた。
二つの正三角形が、重なるように交差した。
正三角形が重なって出来た六芒星が、一瞬強い光を発し、床から消えた。
闇の紋章だ。
「お待たせー。遅くなっちゃったねー」
誰かの声が言う。
異空間の亀裂がL字型に伸びて行き、ジッパーの向こう側の世界から、影絵のような手がニョキニョキ生えてきた。
封印のフローラの足元から。
彼女自身の影が、人型に立ち上がった。
ひゅるっと影絵が人の姿に転じ、三次元の厚みを持った。
「徳阿弥圭太、戦国時代から参戦だァー!」
可愛らしい童顔の圭太が、フローラの腕の上に、軽やかに立った。
体重も感じさせない、羽毛みたいな軽さ。
圭太が空中に舞って、フローラの顔面を蹴り飛ばした。
「あぅっ!!」
フローラが眼鏡を飛ばし、顔面から後方に飛んだ。
圭太は空中でギターケースを受け取った。
「黒飛龍剣、確保ー」
圭太が口笛を吹く。
「おまえ、どこから…」
ヘルが喚く途中で、出入り口のドアが、内側に吹っ飛んだ。
ドアは爆風で飛ぶみたいに、ポイズンを強襲する。
「ジーク!! 助けに来たよー!!」
チビの愛理が、ドア口に勇ましく仁王立ちしている。
「あ…? 愛理?」
ジークは意識が朦朧とする中で、愛理を見た。
「ジーク。愛理ちゃんに頼まれて、手を貸しに来てやったよー。感謝してー。今回、友情出演だからー」
圭太がふざけ、ギターケースに手を滑り込ませた。
圭太が確認したいのは、まずジークより、黒飛龍剣の無事。
「バカ…。愛理、誰に頼んでんだよ、おまえ……」
涎を垂れ、眠り込むジーク。
風通しのよくなった場所に、愛理が深由を運び出した。
「ジーク。私は大祐さんのことを聞こうと思って、圭太さんに連絡しただけなんだけど…」
愛理が言い訳したら、圭太が、
「黒瀧の一族で一番、遠目が利くのは誰? 俺じゃなーい?」
と、慌てて付け足した。
「それに、俺に結界は利かないし。封印屋が居たって、蹴ったもん勝ち…」
クールな表情で圭太が振り返ると、一撃で顎を砕かれたフローラが、血だらけで睨んでいた。
眼鏡を取ると、十七歳の美少女。
しかし、陰湿な目つき。
「おお、怖い!! 呪い殺されそう!!」
圭太が首を縮めた。
「こんなひどい怪我…」
愛理がジークの腹を覗き込んだ。
蓮根の輪切りのように、穴が並んでいた。
「逃がすものか。おまえら、まとめてサンプルにしてやる!!」
ヘルが連射した。
圭太はぱっと、影の中に伏せた。
変幻自在だ。
部屋の中は大勢が発砲した為に火花が散り、薬莢が飛び交った。
跳弾が壁を削り、硝煙の匂いが満ちていく。
医療用機械に銃弾が当たり、数カ所で煙が昇る。
愛理はジークを抱え、天井に張り付いていた。
彼女だけ、重力が逆向きになったみたいだ。
「三体だ!! 三体とも捕まえろ!!」
ヘルやポイズンが興奮して怒鳴り、銃を乱射した。
でも、愛理に当てることは不可能だった。
彼女は弾丸より速かった。
ヘルの背後から、また影が起き上がった。
影が圭太となり、その手が闇から日本刀を掻き出した。
「ふふん。四百年、闇を操る者を舐めるなよ」
圭太は鼻歌を歌い始めた。
圭太の側で、血飛沫が舞う。
次々と、躍るように人が倒れていく。
噴き上がる鮮血。カジノの噴水ショーみたいに、派手な演出で血が舞う。
ひらり、と圭太がベッドに飛び乗る。
誰かが血を噴いて倒れる。
ひらり、圭太が宙に舞い上がる。
また誰かが、血を噴いた。
弾丸の速度を剣速が上回るわけないと、ヘルは今まで考えていた。
だが、吸血鬼は常識と違う。
ヘルが横に銃を滑らせ、手を止めて撃つまでの一瞬に、刃が振り下ろされる。
圭太は巧妙にサイドを取って誘い、ヘルの手が止まる直前に振り下ろしてきた。
圭太の刀がヘルを肩から斬り裂き、返した刃でポイズンを斬る。
ポイズンの心臓のラインが切断される。
ポイズンは闇に帰した。
更に切っ先が、ヘルの心臓を狙う。
ヘルは圭太の渾身の突きを、奇跡的に躱した。
「やりますねぇー。だけど、密猟ごっこはお終い。もう諦めて下さいってばー」
圭太はへらへら笑っている。
圭太は主君を二度裏切り、仲間を屠って生きてきた。
その強かさ、異常な冷静さ。
彼は殺す時、殺されそうな時、常に笑っているのである。
「諦めると思うか?」
血塗れヘルが、ポイズンの死体を踏み越え、決断を下した。
退却だ。
フローラが生きている限り、次こそ負けないと思う。
フローラにはまだ、秘められた能力がある。
生き残った二人と封印のフローラが、ヘルに続いて階段を駆け上がった。
「雑魚が」
圭太が死体を蹴散らし、罵った。
八つの死体は闇に食われ、泡を噴きながら煮蕩けていく。
「圭太さん、私はジークを運ぶから。深由ちゃんの方を運んでもらえません?」
愛理が床に飛び降りた。
「いいよ。車はどっちが運転する? 俺、一応未成年だからねぇー。無免許運転になっちゃう」
圭太が刀に付いた血を、美味そうに舐めた。
3
ジークは圭太の車の後部で、深由と凭れ合って眠った。
圭太は助手席で、大事そうにギターケースを抱いている。
圭太に無免許運転させないことにした愛理が、ハンドルを操作している。
「言っとくけど、その剣、おじいちゃんに返すことにしたから」
愛理が圭太に告げた。
「え、なんで? 黒瀧サン、ジークに預けてもいいって言ったんだよね? じゃ、そういうことにしようよ。で、時々貸してよ」
圭太が握り締め、放そうとしない。
「何に使うの? そんな危ないもの。闇に心が食われるって、圭太さんが言ったんじゃない?」
愛理は呆れてしまう。
「そうなんだけどさ。うまく使えば、底なしに強くなれるもん」
「寿命が縮むんでしょ? わからないなー」
「わからないのは、ジークだよ。こいつ、すぐ闇に食われて死ぬと思ったのに。女の子を人質に取られたぐらいで、暴れないなんて、理性残り過ぎじゃないか。絶対、強くなれないね。そっか、その女の子を、よっぽど好きなのかなぁー!?」
圭太は眠り姫のような、深由の寝顔を振り返った。
「違うでしょ。ジークの好きな女は、亡くなった恋人でしょ!」
愛理はムキになって言い返した。
「大祐ねぇー。確かに、そんな新入りが来てたっけ。でも、ジークと絡む話は、紹介状になかったな…」
圭太が面白そうに言った。
「朔夜なら、大祐のこと知ってるんだろ?」
ジークが起きた。
彼の全ての傷は、癒えつつある。
「ああ。朔夜さんはまだ寝てる。ナオも休養中。地区代表と代表代理が寝込んでるから、俺が代理の代理だよー。目が覚めた? ジーク?」
圭太が振り向き、ジークが、
「まあーな。この間のツケを消しといてやるよ」
と、遠回しに礼を言った。
「なんだよ、それ。別にいいけど。俺は何でも知ってるんだから、重宝してくれようー。大祐はちょうど、ジークが来る一ヶ月前に地区に来た新入りだよ。おまえらが知り合いなんて、マジでどうでもいい話だけど」
圭太がジークに、黒飛龍剣を返した。
「大祐は黒滝教授の実験動物じゃねーの?」
ジークが助手席と運転席の間から、身を乗り出した。
「あ? 確かに、黒瀧弥一郎さんの血の息子って聞いてるよ。あいつ、実験動物じゃなさそうだね。それより、蛾人の実験に使われなくて、ジーク、よかったねっ」
圭太がジークの肩をパンパン叩く。
ジークは肩の埃を払う仕草をした。
「うるせぇー。なんか、あの蛾モドキ、ラボで吸血鬼を作ることに成功したらしいぞ」
「そうなの? クローン細胞埋め込むとか? ま、黒瀧弥一郎の研究とは違うだろうね。だって、あの人の研究はクローン技術じゃなくて、本当に古代の吸血鬼を復活させようとしてるんだもん!!」
「古代の!!」
ジークは驚いて、話に食いついた。
「うぉ、それ、すごい話だな。そんなの復活したら、どうなんの?」
「新旧で戦って、淘汰されるんじゃない? ま、弱肉強食の掟通りだよ」
圭太はあっさり言う。
圭太は生き残る自信があるらしい。
「あの封印のフローラって、何よ?」
ジークは思い出して、不愉快そうに眉をひそめた。
「時々いるんだよ、ああいう封印屋が。呪いとか、結界とかを得意とする。闇を操ることにかけて、上級者だと思っていいよ。ジークは闇をパワーに置き換えるだけだけど、愛理ちゃんみたいに遠視に長けた人、あの封印屋みたいに封印に長けた人がいるんだよ。ああいうヤツは、俺と同じ能力のタイプ。つまり、他人が張った結界をジャンプする。ああ、ジークも鵜野の幻覚の世界では、結界を飛び抜けてたねぇー」
圭太が笑う。
「俺はあの封印屋には勝てねーってこと?」
ジークは戸惑った。
「全ての技を封じられるからね。どう、俺の強さ、わかったでしょ? だから俺も、一族の長の黒瀧サンに封印されたことがあるわけ。だけど、まぁー、光栄だよねー。黒瀧サンに恐れられるなんてさー」
圭太が自慢たらしく言った。
「おまえはすぐ、裏切るからだろ。勝つ方に付くんだろ? どうやれば、フローラみたいなのを倒せる?」
ジークは真剣に問う。
「あの女の子は体術弱いから、蹴り倒せばいいの。問題は、俺。ジークの心は丸見えだけど、俺はそうそう倒せないよ?」
圭太が舌を出した。
圭太には、ジークの心が視えている。
ジークはいつか、圭太や朔夜やナオと、生死をかけて戦うつもりでいる。
「ふん、そうかよ」
ジークは椅子に凭れ、座り直した。
圭太がシートの間に入り、後ろを覗き込んだ。
「俺はなんでジークが鵜野の結界で生き残ったか、ずっと考えてたんだよ。朔夜さんとも、そんな話をしたよ」
圭太は息を吸い込み、一息にまくし立てた。
「ジーク、おまえは鵜野の生まれ変わりだったんだよ。だから、鵜野の結界であんなに自由に動けて、あいつの結界をジャンプした。ジークの顔と鵜野の顔がそっくりなのは、魂が同じせい。ジークは先代の長の転生だから、黒瀧サンが黒飛龍剣を託すと言ってるんだよ!!」
「ええっ!?」
運転している愛理が叫んだ。
「でもな、ジーク。おまえは自分で自分の前世を殺したんだよ。それが現世に影響出ないと思うなよ。おまえが邪悪な鵜野の転生なら、おまえの魂がイノセントであるわけないんだよ!!」
圭太は笑いこけ、助手席にひっくり返って笑い続けた。
「え? 鵜野影馬が、俺の前世? つか、マジ?」
ジークは口を半開きで、目を瞬かせた。
4
逃走する車の中、フローラは屈辱に震えていた。
涙が頬を伝い、後から湧き上がった。
「フローラ。次は確実にジークを殺せ。あいつをサンプルにするのは中止だ」
ヘルがフローラの髪を撫でた。
「でも、加藤さんが新しいサンプルを欲しがってるし。期限が近いから、早く誰かを生け捕りにしないと…」
フローラが泣きながら、ヘルに言う。
「加藤さんのことは気にするな。加藤さんの名前は出すな。ま、本名じゃないけど…、念の為だ。俺に考えがある。狙うのは、あのチビの未覚醒の女吸血鬼にしよう。ジークを殺す」
ヘルが力強く言い切った。
「わかりました…」
フローラは両手の中に、ピンク色の淡い光の玉を浮かべた。
「それがジークの魂のかけらか?」
ヘルが尋ね、フローラが頷いた。
「呪い殺せ」
ヘルがフローラに命じた。
フローラは薄笑いを浮かべ、涙を拭う。
「お任せください。地獄の案内人、ヘル・ファイアモス様…」
フローラの手の中で、ピンクの光の玉が花のカタチになった。
オールドローズのような、素朴で可憐な花のカタチ。
フローラが花から、花びらを一枚ちぎった。




