ph 4 蝙蝠が飛ぶ
phase 4 蝙蝠が飛ぶ
1
愛理は邪魔な荷物を後部に投げ、助手席に乗り込んだ。
「釣り具ばっかり! まだ釣りなんかやってんの? いつか太陽光で大ヤケドするから!!」
「放っといてくれ。俺は多趣味なんだよ」
愛理に壊されないよう、ジークが大切な釣り具を片付け、運転席に着いた。
アウトドア志向のSUVだが、一体何年前の型なんだろう。
古い塗装は傷だらけ。
内装はシンプルで最低限の、男臭い仕様だ。
どちらかと言うと、女の子を乗せる為の車じゃない。
愛理はすぐに音楽をかける。
ギターがソロで掻き鳴らされ、ドラムが加わる。
アコースティックな音、スピード感のある演奏が、意外に音質のいいスピーカーから流れ出す。
ジークはスカルの絵柄のタバコを、ポケットから取り出す。
ちょっと曲がった一本をくわえ、
「異種の吸血鬼と、争いは避けられねーんだろ?」
と念を押した。
彼は片手でハンドルを握り、開いたウィンドーから、もう片手でタバコの煙を外へ出す。
「元々、うちの一族は、よそ者とは互いに潰し合ってきたんだ。ジーク。この世に、そんな沢山の吸血鬼が溢れたら、どうなると思う? 餌の人間が足りなくなっちゃうよ!?」
愛理が膝を叩き、リズムを取る。
彼女は音楽を楽しんでいる。
彼女に緊張は見えない。
「やっぱ、戦うしかねーのか…」
ジークは納得した。
それが自然の掟だと思われた。
弱肉強食だ。
「おまえは血を吸わねーの?」
ジークの素朴な疑問。
「うちの一族、子供の間は血を吸わないの。大人になったら自分で、いつ不老不死になるか決める。私はもう少し、背が伸びてから…」
小柄な愛理ならではの、理由。
「チビが。もう伸びねーよ」
ジークが小声で言った。
「何か言った?」
愛理が運転席の方に視線を向ける。
「おまえはニンニクのきいた餃子を、しこたま食ってろよ」
「私、無臭ニンニクの餃子しか食べれない」
愛理がジークの冷やかしにめげず、言い返した。
ジークは車を走らせ、ミッドタウンに向かっていた。
愛理は話を続けながら、耳のアンテナを立て、異種の吸血鬼の波を確認した。
「ジーク、近いよ! ここで停めてくれる!?」
彼女が言うと、ジークが車を路肩に停めた。
愛理はウィンドーを半分降ろし、彼方まで見渡す眸で、敵の群れを追った。
愛理と群れの間には、多くの高層ビルやら、高速道路やら、波を遮る障害物が立ちはだかっている。
彼女は一つ一つ、意識の中で消しながら、群れの姿を追おうとした。
群れはかなり速いスピードで移動し続けている。
「ジーク。あれの意識を支配出来る?」
愛理が川を指差した。
高速道路の下に川が流れ、近くの湾に注ぎ込む。
車を停めた路肩から近いところに、橋が架かっている。
何か黒い生き物が、びらびらと上下左右に不規則に乱れて舞う。
「何かと思ったら、蝙蝠かよ…」
ジークは気持ち悪そうに、飛び交う黒い羽を見た。
その蝙蝠は、彼の片手で掴めるぐらい、小さい。
「そうだよ、ジーク。蝙蝠を支配すれば、異種の群れに近付けるよ」
愛理がシートに凭れ、早速目を閉じた。
ジークもタバコを灰皿に突っ込み、愛理を真似た。
二人は意識を飛ばし、蝙蝠を襲う。
夫々が蝙蝠の意識を乗っ取って、その小さな体の自由と視界を奪った。
特殊な映像が眼前に広がっていく。
二人は車の中にいて目を閉じているのに、蝙蝠の見下ろす川面や、高速道路の裏側を見ることが出来た。
視界はその独特な飛び方の為に不安定で、蝙蝠の視力が超音波によって確保されている為に、色彩を持たなかった。
「私についてきて。何があっても、強い感情を持っちゃダメ。平常心で、なるべく気配を消して近付くんだ。もし気付かれたら、すぐに蝙蝠から離れるんだよ」
彼女が注意事項を述べ、ジークもそれを頭に入れた。
2
蝙蝠は川べりから離れ、ビルの谷間を飛んで行った。
墨を掻き混ぜたような空。
雨上がりの、ぬるい湿気を含んだ風が揺れる。
濡れた街路樹の葉、街灯の黄色みを帯びた光。
蝙蝠はコンクリートの海を見下ろして飛び続け、死そのもののように暗黒の、光の差さない区画を目指す。
ビルの工事現場。
鉄骨の柱と鉄筋が剥き出しのままの場所へ、覆面の男達が十五歳の少年を追い詰めていた。
男達は十人ほどもいた。
揃えた迷彩服で、異様な感じがする。
まるで、特殊部隊。
アメコミのマッチョヒーローみたいにも見える。
対する、たった一人の少年は、中学のブレザーの制服姿だ。
か細く色白で、女の子のような顔をして、両手で学生鞄を抱え込んでいる。
ただ、少年は追い詰められているのに、その表情には笑みがある。
蝙蝠は庇の裏に逆さまにぶらさがった。
彼等はそこから、気配を窺う。
「憂ちゃん!?」
ジークが少年を見て、何か衝撃を受けた。
「心を動かさないで!」
愛理がジークを叱った。
ジークの心が一瞬、大きくブレた。
彼は急には冷静に戻れなかった。
その間にも、少年の状況はどんどん悪化した。
男達は少年を警戒しながら、数メートル離れてぐるりと囲んだ。
体格のごつい男達が大股で仁王立ち、或いは大きく膝を開いて中腰になり、いつでも攻撃の出来る体勢を取った。
彼等は手に手に武器を携えていた。
ここが本当に日本なのか? と思うぐらいに、武器は多種に渡って、派手で大仰だった。
男達の一人が前に進み、片手を少年に差し出した。
「さぁ、渡してもらおうか。呪いの真珠だ。そこに持ってるんだろう!?」
彼は少年の抱える、紺色の学生鞄を要求した。
「呪いの真珠!?」
少年がこの状況下で、声に出して笑った。
「いい度胸してんな。マジで舐めてんな? おい、子供だからって、オジサン達は甘やかさねーよ。早く出せ。呪いの真珠。あの黒蝶の卵の名前だ」
暗き闇の底から、男が威圧感を声に滲ませた。
光が殆どないその場所で、黒い覆面が不気味な影のように薄っぺらく見える。
男の覆面は、黒いラインが絡まる、鬼の顔のような図柄が描かれている。
男の太過ぎる腕の筋肉にも、鬼のタトゥーが描かれていた。
黒一色で描かれた、人を食らう鬼のタトゥーだ。
少年は鞄を片方の肩に担いだ。
鞄はぺっしゃんこだった。
「黒蝶の卵のことか。早く、そう言ってよ。あれさ、もう無いんだ」
男達が少年の返答でただならぬ空気になり、一斉に目を交わし合った。
男達の間に動揺が広がっていった。
「全部、やらかしちまったのか…。五つとも…?」
少年の正面の大男が呻く。
怒ると言うより、激しい落胆だ。
「それは……、孵化…させたということなのか…?」
鬼の覆面の隣りの、スカルを白黒で描いた覆面の男が唸った。
少年は男達の落胆ぶりを、楽しそうに眺めた。
「可愛かったよー。アゲハチョウの幼虫の飼育みたいでさ! ちょっと、餌代が高かったけどね!!」
男が拳を構えて踏み込むと同時に、少年はぱっと身を引き、体を反らせた。
男の脅しだった拳が、少年の顔の手前で、空を切った。
「クソッ!! おまえ、なんてことをしてくれたんだ。あの蝶の食欲と繁殖力をわかってねぇな!!」
男が握り拳を震わせて怒鳴った。
少年は益々面白そうに、彼等を憐れむように眺めた。
「何かマズかった? オレはもう関係ないよ。幼虫は全部蛹になって、いつの間にか羽化してたからね。どっかに飛んで行っちゃったー」
残酷なことを知らしめ、少年が笑う…。
「憂ちゃん…。なんでここに…。何言ってるんだ…!?」
ジークが心の中で独り言を漏らす。
男達は打ちのめされ、憂をどうにも出来ない。
項垂れた男達が、その場に立ち尽くした。
憂は片手を制服のズボンのポケットに突っ込み、彼を囲む男達の輪を抜けた。
男達はリーダーの判断を待っている。
憂は打ち放しただけのコンクリートの階段を、静かに降りて行く。
ジークは蝙蝠の姿を借りて、憂を追おうとした。
「待て」
男達のリーダーが、ジークを呼び止めた。
「ヘル…」
スカルの覆面の男が、リーダーを呼んだ。
黒い鬼の覆面が、この群れのリーダーである。
彼はスカルの手を払い、庇の下の蝙蝠へ呼びかけた。
「吸血鬼ども…。様子を窺いに来たか。満足だろ? おまえ達の天下だ。人間は食い殺されるのを待つのみになった…!!」
ヘルが悔しさに歯噛みして、蝙蝠に向かって銃を発砲した。
3
停車した車の中で、ジークが深い吐息を漏らした。
蝙蝠から離れ、二人の意識は元の体へと戻っていた。
「あーあー」
愛理が縮まっていた全身を伸ばし、大声で喚いた。
「どうなっちゃってんのかなぁ!? 異種の吸血鬼が蝶の卵を探しててぇー、それがもうとっくに羽化して蝶人が生まれててぇー。人間は食い殺されるって、異種が人間に同情してたんだけどー!?」
愛理はどう考えたらいいかわからず、苛々した。
「それにだよー、ジーク! あの異種、銃とかマシンガンとか、手榴弾で武装してた!! なんで!? すごくない?」
助手席で騒ぎ立てる愛理に、返事が来ない。
ジークは返事どころじゃない。
未だ愕然としていた。
「憂ちゃんが…、何故…? あいつ…、何やってたんだ? 病気はもういいのかな…!?」
呆然と呟くジークの肩を、愛理が掴んだ。
「ジーク! あんたがちっとも気配消せなくてバレバレで、こっちまで危なかったんですけどぉー!?」
しかし、ジークは聞いてない。
愛理は仕方なく、彼が落ち着くまで待った。
彼女も興奮し過ぎて、疲れた。
「憂ちゃんて、誰?」
「知り合いの弟…。病気がちで…、前に見た時は入院してたんだけど。あの制服、A中学だな…」
ジークは悪い夢でも見てるような気がしてきた。
愛理は手の甲で汗を拭い、ウィンドーの外へ視線を向けた。
異種の波はすっかり消え失せ、街に群れの姿はなかった。
「覆面の下、見たか?」
ジークが愛理に尋ねた。
愛理は無言で頷いた。
彼等の能力では、相手の服や仮面の下を、透かして見ることが出来る。
それは気配を視覚的に見る(認識する)ということだ。
「あいつらの顔…、覆面取っても、同じようなもんだ…」
ジークはまだらの模様になった顔を思い出した。
黒ずんだ眼窩、細かなうぶ毛、人間としては少し変形して崩れたような顔の輪郭。
昆虫の頭部を見ているみたいな…。
「怖いんだけど…」
愛理がジークの背中を叩いた。
ジークはキーを回し、車を発進させた。
4
一週間が過ぎた。
夕刻、深由が不二富町の飲み屋通りを歩いていた。
彼女は周辺を見回し、きょろきょろしながら歩いた。
深由に、このガラの悪い通りは似合わない。
彼女は品があり、落ち着いて優しい感じの女の子だから。
セクシーにボタンを上三つ開けたベロニカが、茶髪をルーズに結い上げ、高いヒールで深由の傍を通り過ぎる。
ベロニカは不二富町に溶け込んでいるけれど、深由は逆に目立つ。
ベロニカが珍しそうに深由を眺めながら、カフェに入って行った。
今時の長めのウェーブヘアを束ねた店長が、今日のメニューを黒板風の看板に書き込み、カフェから出てきた。
店長が深由に気付き、声をかけた。
「何か探してるんすか?」
深由は驚いて跳び上がり、カフェの方を振り返った。
雑居ビルの一階、間口の小さな店だ。
白い壁に石が嵌め込まれ、木製のドアを縁取っている。
手作りアート風の看板に、ベイカフェと書かれている。
黒板にはパスタやピッツァのメニューの他、カクテルやワインの名前が書き込まれている。
通りから窓を覗き込めば、お洒落なインテリアとお洒落な照明器具が見える。
店長はさりげない私服にエプロンをしている。
「あ、あのっ…。ジークさんて方を…この辺で探してるんですけど…、あっ、もういいです。どうせ、そんなの、ご存知なわけないですよね…!」
焦りまくる深由の声が、後半尻すぼみになった。
相手が知ってるわけないと決めつけてかかったのに、
「ああ、ジークさん? 隣のボロマンションの105号室っすよ。通路の一番奥ねー」
店長はあっさり、ジークの自宅を深由に教えた。
「え!?」
戸惑う深由。
更に店長は、
「ジークさんはいつも、うちで晩ご飯食べるんすよ。だから、うちの店で待つといいんじゃないかなー。あの人はうちの常連さんだから。さ、どうぞー」
と、手招きして深由を呼び、店のドアを開けた。
深由は断りきれずに店に入った。
ランチタイムの営業が終わり、店長は夜のメニューの準備を始めた。
「で、ジークさんに何の用すか? あの人、悪い人っすよー。女子はあんまり親しくならない方がいいっす。手作りストロベリーシェイクとか、どうすか?」
店長がカウンターにメニューを広げた。
「はぁ…。評判悪い人なんですか? 確かに、よさそうではないけど…」
深由は小声で答え、紅茶をオーダーした。
カウンターにいたバイトの女の子が、
「へぇー、ジークさんの知り合いですか? もしかして、つきあってるんですか?」
と、唐突に聞いてきた。
「そんな。違います。タイプじゃないです」
深由はハッキリと否定した。
「こら、向日葵! おまえに関係ないだろ!」
店長がバイトの女の子を窘めた。
「だって、店長ー。気になるじゃないですかー。ジークさんに、こんな可愛い女の子が…」
向日葵はちらっと深由を見た。
深由は店の中を見渡した。
「毎日、ここで晩ご飯を…」
一人暮らしの男性は、みんなコンビニの弁当を食べるものだと、深由は思い込んでいた。
寂しがり屋の人間は、一人で食事をしたくないから、こういうアットホームなカウンターのある店に通うものらしい。
ジークのあの暗い目つきを思うと、深由には意外だった。
「ジークさんのお仕事は…」
深由が対面式のキッチンにいる、店長に話しかけた。
「カメラマンらしいっすよ。昼間からブラブラしてたり、夜遅くに帰ってきたり、不規則な仕事っすねー」
「カメラ…。私も、写真撮るのが趣味です…」
深由がぱっと、表情を和ませた。
深由の空想の世界で、ジークはファッション雑誌のカメラマンみたいなイメージになった。
腕は一流なのに、口と態度が悪い為に余り活躍できないカメラマンで、モデルの彼女がいたりする。
そんな勝手な空想だ。
「すごいなー」
深由は勝手に感心した。
5
ジークのボロマンションに、来客があった。
それも、男が四人。
愛理が先頭の男と腕を組み、
「紹介するね。うちの一族で、この地区を任されてる朔夜だよー!」
と紹介した。
濃い闇を背負った男が入ってきた。
身長はジークと同じぐらいで、年齢も大体同じぐらいか。
嫌味なぐらい、整った顔立ち。
けれど、眉間を寄せて唇をへの字に曲げ、愛想もへったくれもない。
「知ってるよ。この街に来た当初、世話になった…」
嫌な奴を連れてきたと思い、ジークが不機嫌になった。
ジークと朔夜、この二人はお互いに、好かない相手だと思っている。
「黒瀧さんに頼まれて、このマンションと車の手続きをした。それから、偽の身分証明書を作ったりね…」
裏の便利屋みたいな朔夜が、愛理に説明した。
残る三人も、朔夜と同じく、愛想の悪い連中だった。
三人は体格も服の趣味も全然違うが、陰湿な目つきだけ、共通していた。
愛理はとびきりの笑顔で、大好きな友人・朔夜を見上げた。
「例の、異種の吸血鬼の暴走、聞いてるでしょ。傍観してる時期は終わったと思うんだ。そろそろ、こっちも対策練らないと」
朔夜は腕を組み、
「だったら、新人のジークは外した方がいいな。この街の古い顔だけで、何とかするよ」
と言った。
ジークはムカついた。
「俺はコンタクト済なんだ。今更、外すって言ったって、敵の蝶人は俺の顔を知ってんだぞ」
「それは自分で、何とかしろよ」
朔夜が冷たく言い放ち、ジークの真ん前に詰め寄った。
二人が至近距離で、互いの顔を睨み合う。
「まあまあまあー」
愛理が間に割って入った。
「朔夜ぁー、隣りのカフェでパスタ食べようよー。私、腹減ったー。食べながら話そう。ねっ?」
彼女は無理やり、ジークと朔夜を引き離し、玄関から出た。
ジークは舌打ちしながら、一番後ろをついていった。
その頃、ベイカフェでは。
深由が来てから一時間ほど経ち、店内が暗い照明に変わった。
音楽のボリュームが大きくなり、店長の好みに合わせたスタイルになる。
深由もいつの間にか、果実酒のカクテルを口にしている。
飲みやすいけれど、アルコールが強そうだ。
彼女の頬がほんのりピンクになり、気が少し大きくなった。
入口のドアが開き、愛理と朔夜、三人の男、続いてジークが入ってきた。
彼等はまだ激しく言い合っていた。
「蝶は消すっきゃない。乱暴に人を殺し過ぎて、目立ってる。俺達の生活の邪魔だ」
朔夜が言う。
「俺が蝶のジジィを片付ける」
ジークが言う。
「あン? おまえにゃ、無理だ。素人過ぎる」
辛辣な口を聞かせる朔夜に、ジークは凶暴な目つきに変わっていく。
「無理かどうか、やらせてくれよ。次は俺も…」
「ジークー! オラ!」
ドアの近くに座っていたベロニカが立ち上がり、ジークとハグをした。
「ベロニカか。オラ!」
ジークが彼女の左右の頬に、交互に軽く挨拶のキスをする。
「ベロニカー、ご機嫌だなー」
ジークも美人のベロニカ相手だと、普通の男みたいにデレデレする。
ベロニカは訛りのある日本語で、
「ジーク、女の子がずっと待ってるよ。カノジョさん? カワイイじゃないー?」
と、彼を小突いた。
「えっ!?」
ジークと愛理が同時に驚き、深由の方を見た。
「ええっ!?」
ジークが上ずった奇妙な悲鳴を上げて退がり、後ろの壁に背をぶつけた。
「なんで!? ここにいるんだよ!?」
ジークが信じられない思いで、幽霊を見るように深由を見て叫んだ。
「深由です。来ちゃいました…」
深由が座ったまま、小さく手を振った。
ジークは背中を壁に着けたまま、ずるずると下がって、床に尻餅を着いた。
「バカが、記憶消すのを失敗したな…」
愛理がにやにや笑い、先に男達とテーブル席に着いた。