始まりの森
…とある森の中…
一人の男が機嫌よく歩いていた
男「この辺りのハズなんだが…」
一人で夜の森を歩く男、ただの森ならまだしも、この森には魔物が出るというのに…
男「本当にいるのか?ガセじゃねぇの?」
なんて、油断してると…
ほら、人食い植物が後ろから!
植物「ガプ!!」
一口で人を食べる大型種、その鈍い音と同時に男は消えてしまった…
植物「?」
植物は頭を傾げている
男「食った気しないってかぁ?当然だな!!」
気付けば、植物の後ろに男は立っていた
男「そいじゃ、今度は俺の番な」
そう言うなり男は腰に携えた刀に手を添える、次の瞬間!!
男「…お疲れさん」
辺りの風までもが消え、森は静寂に包まれた…
ドサドサ…と大型の植物はバラバラになり、崩れ落ちた
男「ま、相手が悪かったな、俺とやり合う前には棺桶の用意しておかねぇとな」
この森に人間は一人…あの植物をバラバラに斬ったのは彼だろう…しかし、人間とは思えない速さ
男「…やっぱガセだな…いるわけねぇよな…?」
そんな彼の目に写ったのは
男「翼のある人間?…まさか」
暗闇の中、姿はよく見えないが男は声をかける
男「あんた、吸血鬼かい?」
その言葉に
少女「だとしたらどうするの?」
と答える。そしてその声は少女のような声…その声を聞くや否や
男「…なら、棺桶の用意しなぁっ!!」
男はその吸血鬼と思われる少女に刀を振る
少女「人間が…身の程を知れ!!」
片手で簡単に刀を止める少女…
男「人間なめんなよ?」
男は少女を蹴り上げ、さらに少女の足を掴み、地面に叩きつけた…この間、一秒にも満たない速業
少女「!?こいつ…人間か…?」
考えさせる間もなく、男は少女を蹴りとばし、壁に叩きつけた
男「くたばれぇ!!」
…そんな声が森に響くが…風はいつも通り吹いていた
雲に隠れていた月が辺りを照らす
男「あ、アンタは…?」
男の刀は少女の首に触れるギリギリの所で止まっていた
少女「あなた、そのネックレス…」
少女は男が付けていたネックレスに目をやる
慌てて男は刀を鞘に戻し、その場に土下座をした
男「すんません!!まさか…こんな所で会えるなんて…」
ただ時は過ぎ、やがて少女は口を開く
少女「思えば、あなたを拾ったのもこの森ね…」
時はさかのぼり18年前
散歩をしていた吸血鬼の少女、そして少女のメイド
いつもの森の中、見たこともない物を見つける
少女「あれは何かしら?」
メイド「かご…ですね、何が入っているのでしょうかね?」
いつもなら、興味ない。と無視する少女…しかし何故か…
少女「どれ…?」
メイド「お嬢様!?危ないですよ!?」
かごの蓋を開ける少女…その中にいたのは…幼い赤ん坊だった
メイド「…捨て子?」
少女「小さくて、柔らかい」
メイドは思う(いつもなら、何もせず帰るから、)と
しかし、少女は口を開く
少女「ねぇ、このまま放っておくとどうなるのかしら?」
メイド「…まぁ、餓死するか…あるいは魔物やらに食べられるでしょうね」
メイドはそう答えたが、この時、まさかあんな事になるとは思ってもいなかった
少女「…連れて帰っていい?」
メイド「はぁ!?」
思わず出てしまった言葉に修正をしながら聞き返すメイド
メイド「連れて帰ってどうするつもりなんですか?お嬢様」
少女「…ここで消え行く命なら、私のおもちゃにでもしようかと…ね」
そう言うなり、少女はその子供を抱き上げて帰る
メイド「…おもちゃ…可哀想…」
結局、あの赤ん坊の命は…
と、思いきや、館に着くなり
少女「さぁ、皆で探すのよ!!」
メイド「探すって何をです?」
少女「人間の子供を育てる方法とか書いてる本よ」
メイドは、(まさか、そんな展開は無いわよね?)と心で呟く
館の大きな図書館で総動員で本を探す
メイド「A隊はこの棚を、B隊は…」
流石、お嬢様側近のメイド、他のメイド隊を分散させ探させる
そんな大騒動に図書館の管理人は慌てて話しを聞く
管理人「一体何が?説明して頂戴」
少女「あなた逹も探すのよ!」
とにかく探せとうるさい少女、しかし館の主なので逆らえないのだ。
メイド「説明は探しながらさせて頂きます」
管理人「仕方ないわね…」
愚痴りながら探す管理人、しかし流石管理人
沢山の棚からありそうな棚を厳選する
管理人「これだけあれば、大丈夫でしょ?」
メイド「そうですね、ありがとうございます」
少女と部屋へ戻り、これで終わり…と思っていたのに…
少女「さぁ、私の変わりに育てなさい」
メイド「ちょ、おまww…エフン…お嬢様…拾ったのはお嬢様ですよ?」
メイドは苦し紛れに反論するも…
少女「…あなた…私に逆らうの?」
メイド「わかりましたよ…育てます…」
メイドはやはりこうなるのね…と気を落とした
そんな赤ん坊はすくすく育ち、メイドだけでなく、図書館の管理人、そして館の門番も協力して子供を育てた
管理人は本を読み聞かせ、
子供「ねぇ、この本読んで〜」
管理人「仕方ないわね…むか〜しむかし、あるところに…」
門番は一緒に外で遊び(?)、
門番「蹴りとは、腰と足の融合ですよ」
子供「よく、わかんないけど…」
メイドは必死に世話をした
メイド「あらあら、ちゃんとご飯を食べる時も、行儀よくするのよ?」
子供「はぁい…」
しかし…少女は気づいた
少女「このままでは…あの妖精のようになる…」
子供が8歳になる頃に、人里に勉強を教える小屋があるというのを聞いた少女はその小屋へ子供を行かせる事にした
そして…とうとうその時は来てしまった
少女「…馬鹿にならないように…頑張って勉強してくるのよ」
子供「…寂しいよぉ…」
寂しいのもそのハズ、その小屋は館から遠く離れた場所にあり、通うのには適しておらず、向こうに住み込む形になる、世話は先生がしてくれるようにメイドから話しをしておいたようだ
少女「大丈夫よ…はい」
少女は子供に一つのネックレスを付けた
子供「これは?」
少女「お守り…かな?」
門番「では、行きましょうか」
そして子供は、門番に連れられ、人里に行ったのだった…
メイド「お嬢様…」
少女「…別に、寂しくなんかないわよ?」
メイド「名前…付けてませんよ?」
少女「あ…」
まさかの失敗…少女は悩んだが…
少女「名前なんか、勝手に付くでしょ」
メイド「ですかねぇ…」
時を戻して現在
少女「それよりもたくましくなったわね」
男「あなたはあの時と同じ姿ですね」
少女「私は吸血鬼よ?当然、年をとっても、姿はそうそう変わらないわよ」
少女は話しをしながら思いだしたようにこう聞いた
少女「あなた、名前は?」
男「俺は…名前は無いです」
名前付いてねぇのかよ!!等と少女は思う
男「あの、名前付けてくれないっスか?」
少女「む…そうねぇ」
名前、こいつの特徴…考え始めた少女、しばらくして出てきた名前は…
少女「…雷光」
男「らい…こう?」
少女「さっきのあなたのスピード…まるで雷光のような速さ…だから雷光」
考えるのが面倒だったのまるわかり…のハズだった
雷光「雷光、か…ありがとうございます!!」
少女「…雷光…ホント、大きくなったわね」
しかし、少女はもう1つの疑問を聞いた
少女「…ところで、何故、吸血鬼を攻撃する必要があったのかしら?」
雷光「それは…実は…」
雷光が言うのには、この辺りで吸血鬼に襲われたという事があり、その吸血鬼を討伐して欲しいとの依頼を請けたというわけだという
少女「…で、私が犯人とでも?」
雷光「あなたが人を襲うなんて考えられねぇよ」
少女「当然ね、それはそうと雷光、あなた館に戻ってくる気はあるかしら?」
雷光「え…?」
いきなりの誘い、やはり失敗だったか?と少女は思う
しかし、雷光の口から出た言葉は
雷光「ぜひ!また皆に会えるなんて、嬉しい限りです!!」
ならば話しは早い、と館に戻ろうとするが…
???「待て、その前に僕逹に着いてこい」
雷光「…誰だてめえ等?」
雷光の前には黒い服の男と赤い服の男が立ち塞がる
???「場合によっては力づくで連れて行くぞ」
赤い服の男がそう言うなり雷光は…
雷光「やれるもんならやってみなぁ!!」
少女「…!!雷光、待ちなさい!!」
少女の言葉も聞かず、真っ向から突っ込む雷光
???「面白い、こいよぉ!!」
赤い服の男は真っ向から来る雷光に対し、持っていた大剣を降り下ろした!!
大剣が地面に当たると、なんと地面が一瞬で割れ、地形が変わってしまった
雷光「遅ぇんだよ!!」
赤い服の男の後ろに一瞬で回り込み、刀を振り抜こうとした雷光
???「単調だな」
黒い服の男が雷光の刀を剣で受け止め、刀を弾き飛ばす
雷光「!?」
???「お前の負けだな」
黒い服の男は勝利宣告をしたが、雷光は幼い頃に覚えた体術で立ち向かおうとしたが
少女「やめなさい、雷光…ここはおとなしく着いていきなさい」
雷光「…くっ…!!」
雷光は諦めてその場に座りこむ
???「…いくぞ…」
赤い服の男は雷光を引きずり、連れて行く
雷光「ちょ!?待て!!」
少女の姿はすっかり見えなくなり、暴れてみても放してくれる様子もない
果たして雷光はどうなるのでしょうか?