五十三丁目 異世界の謎
炎泪(♀)に案内された三丁目(♀)と赤坂さん。たどり着いた先は立派な、と言えば嘘になるが、ぼちぼち小綺麗な家だ。
「いろいろと聞きたいことが多いんですが……」
「ふふ……。わかっています。できるかぎりでお答えしましょう」
「はぁ……」
林立する家並みの一つの前で止まり、炎泪が扉を開く。二人が後に続くと、炎泪は丁寧に自分の下駄と二人の靴を揃えた。
「今お茶をいれますね」
そう言ってにこやかに笑うと、炎泪は着物を翻して台所とおぼしき場所に消えた。きしきしと木製の床がやわらかく軋み、なんとなく古き日本の家屋を思わせる。ちょうど三丁目と赤坂さんがいる居間もいろりのような暖房設備があり、やはり、あの筋肉ダルマの言葉が頭に浮かんできた。
「世界にあっちもこっちも無い、か……」
日本でいう葦草(?)のような藁を編み込んだ座布団の上でぎこちなくくつろぎながら、はぁ、とため息をついてみる。おもむろに脇を見れば、赤坂さんはやっぱりというかきちんと正座して、物珍しそうにいろいろな場所に目をとばしていた。
「気分はいかがですか?」
炎泪が盆に湯飲みを三つ乗せ、二人の前に二つ、そして残りを自分で持ち、三丁目のちょうど向かい側に座った。
「気分、っていうか体が……」
僻疫しながら両手をひらひらと肩の位置でやってみせる。すると、ふとあることに気付いた。
「なんで俺だってわかったんです? こんな姿なのに」
「うーん、強いて言うなら『形』ですね…」
「形……?」
「はい、魂、というか、精神というか、姿形が変わってもそういうものはそうそう変わらないものです。長いこと生きてるとそういったようなことがわかってくるんですよ」
とぽぽ、とお茶を継ぎ足しながら炎泪が答えた。
「はぁ……なんともまあ……」
なにせ伝説と称される日本刀だ。納得こそ怪しいが、ここは首を縦に振るしかない。
ってちょっと待てよ……
「ふぅ……」
「どうしました?」
三丁目がふいに額を抑えて長いため息をついた。
「炎泪さんは女性だったんですか? ってかその前になんで人間?」
混乱していて聞きそびれていたが、これは初歩的、というか一番はじめに質問したかったところである。
「この体は仮の姿です。刀のままでは便が利きませんしね。まあ元が刀ですから、性別は無いのでこの町に合わせたつもりです」
ずず、とお茶をすする炎泪。なんともまあ、さらりと言ってのけるものである。
「……なるほどです」
もういいです、といった感じで三丁目はある種の諦めを決め込んだ。
「それで、あの、俺達今……」
「神海さんと鳥人の少女を助けに来たんですね? ああ、そういえば私と神海さんとは温泉以来の仲でしたか」
「な、なん……」
「で知っているのか。その質問の前にひとつ、言っておきましょう」
炎泪はペースを一切乱さず、反対にペースを乱されている三丁目を真剣な眼差しで見た。
「その少女、助けるのは構いませんが、このままともに旅を続けるのはやめておきなさい」
強い口調で、ずい、と三丁目に迫る。三丁目は思わずたじろいだ。
「ど、どうしてです?」
「……うまくは言えません……ですがあなたに決して良くは無いことが起こります。……ですから、彼女はこの町で私が預かるか、元の村に帰すのが妙案でしょう」
しん、と茶室が静まり返る。三丁目がなにを言おうかまごまごとしていると、炎泪は短く息を吐いた。
「すいません。おそらく私の杞憂でしょう。さしでがましい真似をいたしました」
深々て頭を下げ、吊られて三丁目と赤坂さんも下げてしまう。
炎泪はもう一度息をつくと、すっと立ち上がり、窓に垂れた簾をめくった。
「そうでした。この世界のことを少しばかりお話いたしましょう」
炎泪は続けた。
「お気づきかもしれませんがこの世界、いわゆるバードラウトは私達が元いた場所と平行した世界、と私は解釈しています。俗に言うパラレルワールドですね」
それはなんとなく想像できた。
三丁目が独りごちている間にも炎泪の話は続く。
「この町の名前サウザン、どうです? 『千』軒町と似通ったところがありませんか? 三丁目さんのご学友に似た方が現れたのも似たような理由だと思います。さすがにアニマさんやトーリュ君、早良さんのようなイレギュラーな存在はいませんが……」
そういう話なら炎泪さんも充分にイレギュラーな存在に思えるのだが……。
ここは話を聞こう。
「ではここにいる私が何故こうして三丁目さんのことを知っていて、こんな姿に身をやつしているのか。その答えは三丁目さん、あなたたちがこの世界に来たことと同じです」
「俺達がここに来たこと……?」
「はい、二つの世界の境界線はかなり曖昧なものなのですよ。だから簡単にこちらへ来ることができる。そして最も重要なことはその流れがあちらからこちらへと流れているということです」
……そろそろ話についていけなくなってきた。
「わかりやすく言うとですね。あっちとこっちとは繋がっていて、だからこちらの私とあちらの私とは意識、知識、見識を共有できる。まあ私の例はかなり特殊なものですが」
「それはわかるんですが……。流れのくだりは……」
「まあ簡単に言っちゃえばこっちからあっちへ行くのは容易でないということです」
なるほど………って…
「じゃあ俺たち帰れないんですか!?」
「ご安心を、幸いにもこの世界は魔法が秩序を保つ世界です。ですから大きな都市に行けば……」
そういう魔法を使う魔法使いもいるって訳か。なんにせよ帝都には用がある。女王を倒すこと。家族を正気に戻すこと。さらに元の世界に帰ることだ。
「まあその辺のことは神海と朝日香を助けてから考えよう」
「ですね」
赤坂さんと顔を見合わせ、頷く。さすがは並みの女ではない。逆境をもろともしない度胸がこの人にはある。
「それで炎泪さん……」
「そうですね、助けたいのはやまやまなんですが、私はいけません。この姿ではロクに力が使えないので……」
残念、というか二人じゃ無理だ。赤坂さんの魔法は両刃の剣だし、俺に至っては魔法はおろか、毛生え薬しかない。
「代わりといってはなんですが……」
すると炎泪さん。口に手を当てメガホンのようにすると、奥の方に向かって呼びかけた。
「シャウルー!」
シャウル? いやなるほど、炎泪ともなればシャウルもセットだが、果たしてこの世界のシャウルは……。
「呼んだカ」
パンチの効いた声がふすまの奥から聞こえた。
「なんだ客人がいたのカ。それで何のようダ」
開いた口が塞がないとはこのこと、確かに髪型やら全体の雰囲気は現世のシャウルだが、なんとそれは八頭身で、ピチピチのチャイナ服を着ている。幼児体型のシャウルからは想像できないキッツイ目で座っている三丁目と赤坂さんを見下ろしていた。
「この方達を助けておあげなさい」
「なるほど、わかっタ」
即答である。尊敬度の具合はどうやら変わらないらしい。そういえば日本語もうまくなっている気がする。
「名ハ?」
赤坂さんに向かって唐突に尋ねる。
「あ、はい。赤坂藍華です。よろしくお願いします」
「ふム。アイカか、そっちの女ハ?」
女……? あ、俺か。どうも慣れない。
「三丁目。だ」
「サンチョウメ……? 長イ、サンでいいナ」
なんか勝手に決められたが、別にいいか。
「デ、誰をぶっ殺すんダ?」
表情を一切変えず、鋭く目を光らすシャウル。性格の方は180度変わってしまった。
「と、とりあえず作戦会議といきましょう」
ひとり奮起するシャウルを抑え、炎泪がとりなし、その場は明日決行されるであろう神海、朝日香救出作戦の段取りを決めることとなった。
更新遅れてすいませんでした……。しかも説明ばっかり。反省です。でも次回からは大きく動くと思うのでなにとぞお付き合い願います。




