四十五丁目 魔法の…
朝日香の村へはやはり徒歩だった。朝日香の飛行力は三丁目一人でさえつらいのに、三人を飛んで運ぶことはできないのだ。てくてくとだだっ広い草原を並んで歩いていると、なんだか本当にRPGの世界に来た感覚に襲われる。
最も職業は定かではない、学校指定のシャツに靴下の三丁目に、紅色のジャージを上下着た神海。朝日香の制服は背中が破けていたため、神海が上のジャージを貸してあげていた。それにメイドさんである。強いて言うなら芸人一座だ
「すいませんね赤坂さん」
「いえ、今日の私のお仕事は終わったので、お付き合いしますよ」
にっこりと微笑んで上品に歩く赤坂さん、メイドさんをやるより雇う方のがしっくりくる気がする
「仕事って普通は何やってるんですか?」
紫雲寺メイドさんがまともに仕事をしているとこがあまり思い浮かばない
「そうですねぇ…、お掃除にお洗濯…、あとは買い出しくらいでしょうか…」
「普通にメイドさんですね…」
「あはは、私達だってお給金頂いているわけですからね」
赤坂さんは眉をハの字にして苦笑した。なんとなく三丁目の言わんとすることがわかるのだろう
「あ、見えてきました!」
朝日香が指差す先には確かに集落らしきものがあるが…
「テント…?」
目をすぼめれば、そう、見た感じテントのようなものがはるか彼方に数個、寄り添うように連なっていた
「私達鳥人は移動民族ですから、私はまだ幼生だからうまく飛べないんですけど……」
幼生……
本格的に人間と掛け離れていくな……というか
「朝日香さんはなんで近衛高校いるの?」
異世界から来たとすれば、手続きやら、住所とやらはどうしているのだろう
「あ、それなら校長先生が異文化交流も大事、とか言って認めてくれました。転校生として」
歩きながら朝日香が説明した。今までいろいろありすぎてそこまで頭が回らなかったが、リボンが赤い、色からして一年だ。
「あのオペラ座の怪人…文化以前の問題だろ…」
さっきの蘭さんでは無いが、ファントムマスクを被った校長が頭の中で高笑いするので、これもまた追い出した
「てか足痛ぇ…」
外ばき無しなので小石やら木の枝やら踏むとずきずきする。
「大丈夫です、村に着いたら用意しますから」
朝日香が屈託の無い笑みで三丁目を振り返ったので、三丁目はそれ以上文句は言えなかった。
…………
三丁目はみんなには聞こえないようため息をつき、辺りを見回す。360度草原で長閑なものだ。実際ここの何を救えばいいのか皆目見当がつかない。……まあ考えても仕方ないな、三丁目は自分をそう励ましながら、とぼとぼと歩くのであった。
――――――
―――
村に着くと一様に羽根の生えた村人たちが迎えてくれた、が、微妙な歓迎である。小さな子どもたちは好奇心で自分たちを一目見ようと親の後ろから顔を出していたが、その親たちはそれを諌め、また年配の方々はヒソヒソとこちらを見てなにやら囁いている。なんとなく居心地が悪かったが、黙って朝日香さんに案内された。
「どうぞ、狭い家ですが…」
申し訳なさそうにする朝日香に促され、家に入ったが
「充分広くないですか…?」
そうなのだ。
入るときは藁葺きといった珍しい作りに目を奪われて気がつかなかったのだが、思いの外広いのである。暖かみのある暖炉に、ふかふかの藁床、首を真上に上げなければてっぺんが見えない天井からは大きなランプが下がっており、机、椅子、果ては台所まで、生活に必要な物資は完璧に揃っていた。逆に俺が住みたいぐらいである
「あら、おかえりなさいアスカ」
「ただいまライカ姉さん」
きょろきょろしていると、台所から聖母のように微笑む女性が現れた。これもまた、朝日香に負けず劣らずの美女である。腰まで伸びたプラチナブロンド、それに合わせるようにして真っ白なローブ、背中には銀翼を備えている。スリーサイズは言うまでもなく、世界中の男が合格点を出すだろう。これでハープでも持たせようものなら、それだけで一枚の絵画が完成する
「ではその方たちが…」
朝日香がライカと呼んだ女性は、ゆったりとしたローブを引きずりながら三丁目に近づき、まるで芸術品を愛でるように三丁目の頬を撫でる
「あ、あの、お、俺浅岡三丁目ていいまふ!」
なんともはや、直立して固まる三丁目、名前とか、自分が噛んだことなどどうでも良くなってきた。横から二つの視線が自分を睨んでいるような気がしたが、あまり物を考えられない。
「ラ、ライカ姉さん、もういいでしょ!」
朝日香が焦った風に、三丁目と密接するライカを引き離す
「あらあら、ごめんなサイヤ人」
ライカは口に手をあて、ふわふわとおとなしく三丁目から離れた
……
……ん?
朝日香、ライカ以外の三人の目が点になる。当の本人は相変わらず神々しい笑みを浮かべて朝日香をなだめていた
「……あはは、気のせいだよな?」
「…そうではないかと」
「サイヤ人……?」
入口で固まる三人
「あの…三丁目さん?」
「あ、ああ…」
朝日香が三丁目達にテーブルに着くよう促し、呆然としていた三丁目達はおとなしくそれに従った
「それで…本題なんですが…」
「あ、救う、のくだりね?」
神海がここぞとばかりに口を挟む、それに嫌な顔一つせず、朝日香は続けた
「はい、実は…」
朝日香が言い終える前にライカが席を立った
「あ。アスカ、私キッチンでお茶を沸かしてくるY」
すっ、と何事も無かったようにキッチンへと消えるライカ
「……」
それを黙したまま無表情で見る三人
「あの…どうかしましたか…?」
朝日香が心配そうな顔で机上の三人を眺めた
「いや…幻聴かな…」
「?」
Y…?
とりあえず話が進みそうに無いので、それ以上何も言わず黙って話を聞いた
「ここ、バードラウトはさっきも申しましたが、我々鳥人が住まう世界です。この村は田舎の中の田舎で平和なものなんですが……ここからさらに南へ下ると『帝都』と呼ばれる大都市があります」
「帝都…ですか…」
三丁目が相槌を打つと、真剣な眼差しで朝日香が頷いた
「はい、名前の通り帝、アミアブル=ド=グランギニョール三世様が治めている都市でした、しかし皇帝が病に臥し、治世が難しいとされ、今ではその奥方であられる、アニムス=セフィラス様が統治しておられます…」
「そのアニムス…なんたらが問題ね?」
ファンタジーではよくある話だ。三丁目と赤坂さんも神海に同調する。
「はい……アニムス様は暴政を繰り返し、帝都は荒れに荒れました……揚句に、アニムス様は世界を支配するという野望まで掲げ、近隣の小国に次々と攻め入ったのです…」
「それはまたはた迷惑な……」
三丁目が呆れてため息を漏らすと、朝日香は目を伏せ、膝の上で拳を固めて唇を噛んだ。
「私たちが暮らしてるこの地も…いずれは帝都の手に落ちてしまうでしょう…、何も無い場所ですが、戦をするには領土が必要です。この土地は隣国、ガルガント公国の領土ですが、国王であられるガルガント様は国を捨て亡命、もはや抜け殻の国家をアニムス様が見逃すはずがありません。人々が怯える中、私はあなた方の世界に赴き、世界を救ってくれる人を探しました」
朝日香は一息つくと、すがるような眼差しで三丁目に目をやった
「そこで見つけたのです、三丁目さん、いえ…『魔王』を!」
自信一杯に三丁目を指差す朝日香、当の本人はその熱意に圧され、びくっ、と体を強張らせた
「魔王……っていっても…薬だし…」
「大丈夫です、三丁目さんなら」
朝日香は手を伸ばすと、向かいに座っている三丁目の手を包むように握った
「お願いします……私たちの世界を救ってください…」
「う……」
助けてくれと言わんばかりに三丁目は両脇に座る人間代表を眺める。無論、両者とも首を横に振り、自分に拒否権は無いのだ、という事実を物語っていた。
「わ、わかりました…俺がどこまでできるかわかりませんが……」
「あ、ありがとうございます!!!やっぱり三丁目さんを選んで良かった……!」
何度も何度も頭を下げる朝日香、逆にこっちが恐縮してしまう。事がかなり重大になり、はっきり言って断りたいが、ここで逃げては男じゃない。三丁目は朝日香に頭を上げるよう促し、目に溜まった喜びの涙を拭ってやった
「まあアンタは薬があるからいいとして、あたし達の魔法の件は?」
「魔法?」
「あ、そういえば藍華さん知らなかったんだ」
三丁目の両脇で会話を飛ばしていると、キッチンからライカがゆったりとやってきた
「どうぞ」
コト、と丁寧に木作りのカップをそれぞれの前に置き、ライカ自身も席につく
「うわ…おいしいですね…」
一口飲んだ赤坂さんが感嘆の声を上げた。それもそのはず、本当に旨い、渋味でも苦みでも無い、形容し難い味が口内に広がる。不思議な味だが、旨いものは旨い、熱いのにも構わず、ぐいっ、と飲み干した
「あの、この茶葉、少し分けていただきませんか…?」
赤坂さんが早速ライカさんに交渉していた。仕事熱心で尊敬する、どっかのメイドさんにも見せてやりたい
「まあお茶がおいしいのはいいけど、魔法は?」
コトンとカップを置き、神海が焦れていた。やはり興味を引くのは魔法らしい、無理も無い、自分だって魔法が使えるなら一度は使ってみたいものである。
…もちろん日本刀は無しの方向で
「あ、それなら…ライカ姉さん」
「はいはい」
キッチンへおかわり用意しに行っていたライカさんがぱたぱたと戻ってくる
「みなさん、妹にも聞いたでしょうが、このバードラウトにはあなた方の世界でいう、魔法のようなものが存在します。我々はそれを使い、超人的な力を駆使します」
ライカは穏やかな口調でそこまで言うと、最後に付け加えた
「鳥人だけに」
………
沈黙
ってもう我慢できん!
「さっきからなんなんですか一体?」
咳をきったように溢れ出す疑問が止まらなくなる
「ああ、これが私の能力です。次から次へと面白いギャグが思いつくっていう」
わ、笑えねぇ……
二つの意味で…
というか台なしだ。例えるなら、名品であるモナリザの首から下が筋肉質みたいな、そんなアンバランスさが、湧き立つ神々しさをことごとくうち殺している。玉にキズどころじゃない、玉を真っ二つに割ってロードローラーで踏み付けたようなダメージである
「それのどこが超人的…」
「いえ、これで相手が笑ってるすきに逃げるっていう……」
「…プライドが傷つきませんか…?」
「…?便利な能力だと思いますが…」
本人が満足しているようなので、これ以上は言及すまい。こっちが痛い
「まあ、というわけで、私たちが魔法を使える由縁はバードラウトにあるわけです。ですからバードラウトにいるかぎりは大地の恩恵により魔法が宿るはずですよ。最も、どんな能力かは使ってみるまでわかりませんが」
そう言ってライカさんはすっかり冷めてしまったお茶をすすった
「魔法かぁ…どんな魔法なのかなぁ?」
「お前なら幽波紋くらい出せそうだがな、無駄無駄ー!って」
「なによソレ…って藍華さん?」
神海が横に座る赤坂さんの異変に気付く、いつもの穏やかな表情はどこへやったのか、きりりと顔を強張らせ、じっと動かない
「赤坂さん…?」
「何者かが盗み聞きをしています…」
トーンを落とし、赤坂さんが抑揚の無い声で静かに呟く
「ええ!?」
「しっ!静かに…」
赤坂さんに叱咤され、黙り込む四人
水を張ったような沈黙……、張り詰めた空気が肌を刺激し、ピリピリと痛む。物音が一切しない中、自分の心臓の鼓動だけが速くなるのを、三丁目は感じた
「!」
赤坂さんが何かを感じとったらしい、ここからは一瞬の出来事だった。
バッ、と目にも止まらぬスピードでテーブルに置かれた果物籠の中からナイフを取り出し、ひゅっ、と鮮やかな手つきで持ち帰ると、手首をしならせ自らの背後へとダーツの要領で思い切り放った。
ナイフは、カッ、と音をたて木作りの扉に刺さり、次いで三丁目達にはかすかに聞こえる程度ではあったが、何かが倒れる音がした。赤坂さんの鋭敏に研ぎ澄まされた神経はそれを逃さない。体をひねり椅子から離れ、勢い良くテーブルをひっくり返して楯を作る。ほんの数秒後、赤坂さんの予想は紛れもなく現実となり、窓の外から矢の嵐が屋内を襲った
「な、なんなんすかコレ!」
三丁目が頭を抱えながら叫んだ
「わかりません!ただ…きゃっ!」
テーブルに背中を密着させていた赤坂さんの肩を、スレスレに矢が通り過ぎる
「少なくとも味方ではないでしょう、ねッ!」
赤坂さんが懐から仕込み千本を指で挟み、テーブルの影から投げつける。しかしいかんせん数が多すぎる。たとえ命中したってこの矢の雨は止まることを知らないだろう
「三丁目さん!」
「う、飲むのか…?」
「バカ!迷ってるヒマなんて無いでしょ!」
二人に責められ、ポケットから小瓶を出した。ドクロが自分に笑いかけている気がする
「三丁目さん、今は飲まない方がいいです」
「ライカさん…?」
ライカが三丁目を止め、勇んでテーブルの外へ出ようとした
「あなたの力は世界を救う力です、こんな場所で使わせるわけにはいきません。ここはわたしの『笑激』で……」
それこそ無理だ。必死でローブの裾を引っ張り、出ていこうとするライカを止めた
「魔法っていつ使えるのよーーっ!!!」
泣き声でわめく神海だったが、魔法が出てくれる気配は無い。しかもそうこうしてるうちにテーブルはどんどん傷み、限界が近づいてきているのだ。のんびりしていられる時間は皆無である
「お、奥へ!」
朝日香の合図で隙を見て奥へと逃げ込んだ。赤坂さんが離れた瞬間テーブルは粉々に破損し、木片が派手に飛び散る
「はぁ…はぁ……い、行き止まりィ!?」
「す、すいませ〜ん…」
廊下を駆けた五人がたどり着いたのは居間のような場所で、そこそこの広さはあるものの、窓が一つあるだけで、脱出できそうな気の利いたものはない
「うわっ!」
耳をつんざく音とともに、小さな窓を突き破り、真っ黒な玉がコロコロと居間に転がる
「このパターンは…」
「みなさん!伏せて!」
赤坂さんが黒玉に飛び付き、片手で掴むと、飛んだままの体勢で入って来た窓に投げ返した。しかし一歩遅く、黒玉は窓にたどり着く前に光り輝き、爆風とともに豪音を起てて爆発してしまう
「キャァァァッ!!!」
朝日香が悲鳴を上げる一方、赤坂さんは腰を落とし、次の攻撃に備えていた。しかしおかしい、攻撃はこれで最後だ、と言わんばかりに止む。パラパラと藁が焼ける音しか聞こえなくなった
「ほっほっほ……素晴らしい…」
「止まりなさい!」
赤坂さんが三連式の携棒をすばやく組み立て、声の方へと突き出した
「おっと、威勢の良い娘さんだ」
声は小馬鹿にした様子で肩をすくめ、尚もコツコツと渇いた音を響かせこちらに歩いてきた。
「皆様ご機嫌麗しゅう…。わたくし、南は『帝都』からやって参りました、ホーラウと申します」
丁寧に頭を下げる初老の男、真っ白な髭をたくわえ、それとは対照的に真っ黒な軍服と翼で身を包んでいる。瞬時に三丁目に浮かんだイメージは、カラスだった。目は光り物を逃すまいと狡猾に光り、声は重く、シワがれていた。また、背筋の張り具合いや威圧感は、老人とは思えないほどに三丁目達を圧迫する。根っからの軍人であることが説明されずともわかる
「さて、お嬢さん」
ホーラウが見たのは、床に臥して震える朝日香だった
「あなた、異世界への行間は固く禁じられているのをご存知ですかな?」
それを聞き、朝日香の震えはいっそう激しくなった。唇は青ざめ、カチカチと歯が音を鳴らしている
「…ふむ、できることなら穏便に行きたいのですがね」
これだけやっといて、いけしゃあしゃあとうそぶくホーラウ、背後に呼びかけ、下官とおぼしき青服の鳥人が現れた
「アラムッ!」
朝日香が叫ぶ。
そう、下官が、村の子どもを乱暴に前に押しやったのだ。わめけば殺す、とでも脅されたのだろうか、目を真っ赤にして必死で泣くことを耐えていた
「正直に話してくれればそれでよし、わたくしも手荒な真似は嫌いなのですよ、ほっほっほ」
ホーラウは手を後ろで組み、高らかに笑った。しかし目はまったく笑っていない。敵意が瞳の中で静かに燃えている。その無言のプレッシャーに耐えきれなくなったのか
「……はい…おっしゃる…通りです……」
震える声で朝日香が答えた。やっとのことで聞き取れる声だ
「ほっほっほ、素直なことは良いことですぞ、それでは引っ捕らえなさい」
ダダダ、と数人が部屋に入り込み、朝日香を取り抑える
「……さてと」
ホーラウは三丁目達を順に見回した。
「それではあなた方には死んでもらいましょうか」
「!」
ホーラウは依然、弾むような口調で平然と言い放った
「そ、そんな!手荒な真似は……」
「嫌い、と言っただけです。やむを得なければ致し方ありませんな」
ぎろりと朝日香を見下し、感情の篭らない声で吐き捨てる
「……ちッ!」
三丁目はポケットから『魔王』を取り出し、蓋を開けようとするが…
「おっと、妙な真似するなよ」
いつのまに現れたのか後ろからボーガンを突き付けられ、ぐっ、と歯を食いしばったが仕方なしにおとなしくポケットに戻した
「それではみなさん、さようなら」
ホーラウの冷たい声とともに、ガチャリとそれぞれの頭に突き付けられたボーガンが音を起てる。抵抗もできずに震えていると……
「な、なんですアナタは…」
ホーラウの声が逆に震えていた。それに我を取り戻し、三丁目はホーラウの視線を追う、そこには…
「こ、神海…」
「へ?」
神海も声も出せずに目をつむっていたのだろう、自分の異変に気付けていない
「まさか…魔法か?いやしかし…一体コレは…」
神海の右手が光っていた。白く、熱く発光した鉄のように…
「な、なにコレ!魔法!?」
「くっ…おのれ蛮族め…喰らえィッ!!!」
ホーラウが大地に足を固定させたまま翼で羽ばたく、すると漆黒の翼から『突風』の魔法が神海目掛けて放たれた
「もう!なんでもいいから助けてッ!!!」
半ばヤケクソで目をギュッとつむったまま右手を『突風』に対して振り下ろした。魔法は発動したらしい、二つの魔法がぶつかり衝撃となって三丁目達を襲う
「おわっ!」
「三丁目さん!」
危うくバランスを崩した三丁目、赤坂さんに支えられてなんとか立て直す
「……神海?」
『突風』が巻き起こした砂塵が徐徐に晴れて行く……果たして神海は無事なのか、緊張して顛末を見届けると……
「……ふぅ、なんとかなったみたいね」
煙の中からのんきな神海の声がした。額を左腕で拭い、右手には……
「傘ぁッ!?」
傘が握られていた。それもかなりでかい、パラソルと言った方が正確だろうか。
とにかくそれは、赤と白で交互に塗りわけされたありきたりなデザインで、お世辞にも魔法とは言い難い
「ま、見ててよ」
神海が傘を開き、自分の魔法を防がれてア然とするホーラウに狙いを定めた
「な!う、撃……!」
ホーラウの合図より早く、神海の魔法が発動した。なんと開かれた傘の先端から鉄砲水が勢い良く噴きだし、老いたホーラウの腹部にジャストミートしたのだ。
「おぐぅぉぉぉ!!!」
悲鳴をあげて吹き飛ぶホーラウ、よほど驚愕していたのだろう、ロクに受け身も取れず10数メートル先の床に激しく叩きつけられた
「はー、すごいわコレ」
まじまじとパラソルを眺める神海、撫でてみたり開いたり閉じたりする。
「お、おのれ貴様!よくもホーラウ様を!」
下官数人がいきり立ち、神海を襲おうとするものの、首筋に感じるひんやりとした触感にピタリと動きを止めた
「さて、動かないでくださいね」
「うぐ……」
背後で赤坂さんがにっこりと微笑み、下官二人の首にアイスピックを当てていた。残ったものも、神海にパラソルの先端を突き付けられ次々とおとなしくなる。
「形成逆転!」
「ふふ、ですね」
神海と赤坂さんが顔を見合わせて勝ち誇ったように笑う。
危機を脱したのは嬉しいが、なぜか疎外感を感じる三丁目であった…