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四十四丁目 そして伝説へ

「ふぅ…」



自分達は今校舎裏にいる。突然窓から天使が降りてきたと大騒ぎになりかねない状況だったが、演劇の練習です、と言い訳したらなんなく納得してくれた。ほっとする反面、本当にこの学校が心配になる



「さて、説明してもらおうかしら、え〜と…」



「あ、鞠野朝日香です」



「朝日香ちゃん」



「……おい…」



「あによ」



「その前に言うことがあるだろ」



「たとえば?」



「ごめん!とか、私が悪かったとかだよッ!!」



三丁目の顔は包帯でぐるぐる巻きになり、ついには目と鼻しか見えてない



「自業自得じゃない」



「あ!?どこがだよ!てかなんでお前が怒る!」



「うっさいわね、なんかムカついたのよ」



「あ!?」



ぐぎぎ、といがみ合う二人、朝日香はそれを見てオロオロするしかない



「あ、あの〜…」



『なに!?』



「ひゃうぅ〜……」



ギロッと同時に睨まれ、朝日香は泣きそうになった



「まあいいわ」



「よくないけどな」



「いちいちしつこいわね!男のくせに!」



「お前こそ男なら潔く自分の非を認めろ!」



「あたしは女よ!」



「ギャンッ!!!」



半ば本気で言った三丁目を、神海が正拳で鮮やかに突き上げた。顔面を打たれ、一瞬足が宙に浮いてしまう。


それにしてもなぜか執拗に顔面だけ狙われる三丁目。このままでは無料で整形ができてしまう。整形後のことを考えなければ




「で、なんで羽根?」



「あ、はい…」



そそくさと大の字で気絶する三丁目の介護に移る朝日香を見下ろし、神海が尋ねる。



「実は…私、こことは違う世界から来ました」



胸に手を当て、信じてオーラを放出する朝日香、目は至って本気だ


「……」



「ほ、本当です!信じてください!」



「……ちょっと、起きてんでしょ?」



「……聞きたくない」



朝日香に膝枕された状態で三丁目は耳を塞ぐ



「そ、そんなぁ…」



夕日を浴び、それが後光を纏い、あまつさえ瞳は涙で潤んでいる。そんな顔で膝にのっけた三丁目の顔を覗き込んでくるのだ。三丁目の頭は次第にものを考えられなくなり……



「なんでしょう朝日香さん…僕で良かったら力になります…」



立て膝をつき、朝日香の手を取っていた。英国紳士もびっくりなジェントルマンっぷりであった



「なにしてんのよアンタは」



「がッ!」



神海が三丁目の頭をポカンと殴る。すると…



「あ…?俺何やってた…?」



きょとんとする三丁目



「これが証拠です…」



朝日香は顔を真っ赤にして、やり場のない恥ずかしさをごまかそうとしている



「証拠?」



「はい、これは私達、別の国から来た人間が使える魔法のようなものです。不本意ながら…私の魔法が『魅了』で……」



「男を意のままに操れると」



「そ、その言い方はちょっと……、私だって好きでこの力を選んだわけじゃないんです…生まれたときに勝手に決まって…」



泣きそうになり、ぺたんと膝をつく朝日香。その回りにぽわ〜んと花柄のオーラが…



「だぁぁぁッ!発動してる!発動してるよ朝日香さん!!!」



「ふぇ…」



三丁目が朝日香の肩をゆすり、無理矢理泣きやませた。危ないところである。これでぽろぽろと泣き出された日にはそれこそ理性はぶっ飛んでしまうだろう



「ま、それはよくないけどいいとして、なんで俺が?」



肩を持ったまま朝日香に尋ねると、朝日香ははたと真剣な顔になる



「私の国をあなたに救って欲しいのです」



「………何だコレ、ファンタジーにジャンルを変えた方がいいんじゃないか?」



「何言ってんのよ」



神海が呆れた顔で、なぜか空を見上げる三丁目にツッコむ



「いや、てか俺、普通の人間、羽根も無ければミサイルも出ないし、妖しい機械も発明しなければ霊力も使わない」



だから無理、と目の前で手を振る三丁目



「普通の人間……?あなたは『魔王』たる力をお持ちでは無いのですか?」



魔王……



「神海」



「……聞こえないわ」



首を後ろにやれば、神海は耳を塞いでそっぽを向いていた



「魔王ってアレ薬で…」



たしか四谷さんに貰ったやつだ。記憶は無いが、散々暴れ回ったと蘭さんが言っていた



「それでもいいんです!お願いします!私の大事な人を…村を…世界を救ってください!!」



ぱっちりと開いた両の瞳に涙を溜めて、ぎゅっと指サンドをされた三丁目は…



「まかせてください!きっとあなたの世界を救ってごらんにいれましょう!!!」



ビシッと親指を胸に当て、淀みない真っ直ぐな瞳でこんなことを口走っていた。



「ま、いいわ、あたしも行くから」



「えっとそれは…」



断りにくそうにまごまごと指をつっつく朝日香



「なに?あたしはダメ?二人きりになりたいと?」



腰に手を当て半笑いでずいずいと迫る神海に耐えきれなくなったのか



「わ、わかりました…」



びくびくしながら承諾した



「んでどうやって行くの?」



「あ、それは…」



朝日香はすくっ、と立ち上がり。大きく深呼吸した。そして腕を交差させ、上半身を前に倒す



「すみません…驚かないでくださいね」



「?」



首を傾げて朝日香の妙な行動を見守っていた二人は、次の瞬間腰を抜かすことになる



「やぁっ!」



「どわぁっ!」



ばさっ!と音をたて、朝日香の背中から翼が広がった。全長3メートルはあろう巨大な純白の翼だ。



「まさか飛んで…?」



「いいえ」



朝日香はふるふると首を振り、翼を静かにたたむ、そうすると、ちょうど絵本で見た天使ほどのサイズに納まるのであった


「すみません、一本取っていただけませんか?自分じゃちょっとできないんで…」



「羽根を取ればいいのね?」



神海は頷くと、つかつかと歩み寄り、ぶちっと一本。遠慮なしにいった



「んぁっ……」



瞳を閉じ、頬をほんのりと上気させたまま、艶めかしく吐息を漏らす朝日香




「…あんた本当にその能力不本意なの?」



「えぇ!?」



疑わしく朝日香をじとっと睨む神海、はっ、として横を見れば、三丁目が魔法にかかりかけてたので、股間を思いきり蹴り上げた



「あ…う……ぐぅ…」



顔を真っ青にして三丁目が果てる



「いやらしいわね!」



それだけでは飽きたらず、げしげしと三丁目をふみ潰した。三丁目に罪は無い



「はぁはぁ…で、この羽根どうすんの!」



「えっと…ぽーんと空に放ってください。ぽーんと」



朝日香が手を上げて実演してみせる。そこで地に臥した三丁目が一言


「ぐ……キ◯ラのつばさかよ…」



もはや条件反射の域でツッコむ三丁目であった




「こう?」


『こうみはキメラの◯ばさをつかった!


ぐゆーんぐゆーん!』




「なにコレ?」



「な、なんでしょう…?」



二人して首を傾げたが、すぐさま襲う眠気に耐えられなくなり、神海はパタリと地面に倒れてしまった……






――――――


―――




草の匂いが鼻腔をくすぐる…


ぱちっと目を開けると、抜けるような青空が広がっていた。雲ひとつ無く。ぴぃぴぃと2、3羽の小鳥がさえずりあっている



「ん…うぅん……」



くぁぁ、と背筋を伸ばすと、パキポキと骨が鳴った。次いで首を回すと、また同じようにパキポキとなる



「…着いたの?」



「はい、大丈夫ですか?」



「ふわぁぁ……ねむ…」



返事の代わりに大きくあくびをする神海、そういえば最近は姉の研究がうるさくてよく眠れなかった。今となって思えば、心地良い睡眠である



「ん?あいつは?」



「はい、三丁目さん、起きてください…」



優しく傍で眠る三丁目の体をゆすると、やはり眠たそうに目を覚ました。ぐしぐしと目をこする



「あー、おやすみ」



三丁目はパタリと草のベッドに横たわった。低血圧気味なのか、寝起きは悪い三丁目であった



「起きてください〜」



朝日香がゆさゆさと三丁目の体を揺するが、三丁目はむにゃむにゃと起きる気配が無い



「どいて朝日香、こいつはね…」



「へ?」



すると神海、ごそごそとジャージのポケットを探り、ボイスレコーダーのようなものを三丁目の耳に押し当てた



『はっはっはっ!おはようマイブラザー!!!』



「だぁぁぁうるせぇクソ兄貴!!!毎度毎度勝手に部屋に入ってくんじゃねぇぇぇッ!!!」



がばっ!と起き上がり怒声を上げる三丁目



「ね?」



「すごいです…」



肩をすくめる神海



「あ…部屋じゃない。って神海!なんでんなもん携帯してんだ!しかもジャージで!!!」



「先輩が引退だから記念にみんなで写真と声入れたの、あんたのお兄さんのはお姉ちゃんが勝手に入れたのよ、いつか使えるかもしれないって」



神海はため息をつきながら説明した



「あのモヤシ科学者め…いらんことを…」



イライラする三丁目の頭の中で蘭さんがしてやったりなVサインをしたので、三丁目はぶんぶん頭を振ってそれを消した



「ねぇ朝日香」



「あ、はい…」



「二つ質問があるんだけどいい?」



「どうぞ?」



神海は人指し指を唇にあて、ん〜、と頭の中を整理した



「まず一つ目ね、ここに来たらあたしたちも魔法?だっけ、使えるの?」



「あ、はいおそらく…」


「おそらく?」



朝日香はしどろもどろ答えた



「この世界『バードラウト』で生まれた『鳥人』は『魔法使い』として生まれてきます。だからといって『旅人』あ、これは『異世界』から来た人のことを言うんですが、この『魔大陸』、すなわち『結界』の圏内にいれば魔法は使えると思います……ってどうかしましたか三丁目さん?」



「……いやぁ…ファンタジー用語がいっぱい…」


複雑な表情の三丁目、朝日香は小首を傾げながらも、話を続けた



「でも、旅人がバードラウトに来る事は極めて稀なので……実際にはどうか……神海さん、三丁目さん、なにか…自分の中でコレだ!って思うような感覚がしませんか?」



三丁目と神海は顔を見合わせた



「いや、とくに…」



三丁目が答える




「そうですか……、もしかしたら時間がかかるかもしれないです…」



しょぼんと肩を落とす朝日香



「んじゃ二つ目ね、救うって実際に何すりゃいいの?」



「あ、それは村に着いてから説明したいと思います。ですからとりあえずは……」




「オーケー、わかったわ、それじゃ行きましょ?」



神海が足首まで伸びた草を蹴り、我先にと息巻く



「はい、案内します…あの、三丁目さん?」



「え〜と…ひとついいですか?」



「なんでしょう?」



そろそろと手を上げる三丁目、神海の方は勢いを削がれたのが気に食わないらしく明らかに不機嫌だった。というかお前は部活はいいのか、と問いたい



「来といてなんですけど…ちょっと呼びたい人がいて…大丈夫ですかね?」



朝日香はしばし、う〜ん、と唸っていたが、三丁目さんのお願いなら、とにこやかに微笑み、承諾してくれた。誰かさんの視線が突き刺さるような気もしたが、あえて無視だ



「ではどこに飛びたいか頭の中に思い浮かべてくださいね……」



「あ、朝日香さん!?」


朝日香が三丁目の額に自分の額をあてた。近い…吐息がかかるほどの距離、頭がおかしくなりそうになる。



「三丁目さん?」



「は、はい!」



「ちゃんと思い浮かべてくださいな?」



「え、え〜と…大丈夫です」



三丁目が返事をすると、朝日香は翼を広げた



「では用が済んだらこれを」


「あ、ども」



一枚の羽根を受け取り…



「それっ!」



三丁目の意識がゆっくりと無意識の世界へと落ちてゆく、できればこれで目が覚めたら部屋のベッドだったらいいなぁ、と限りなく皆無に近い可能性を提示しながら、三丁目はある場所へと旅だった




――――――


―――







―30分後




「ぶはっ!着いた!」



何も無いはずの草原の一空間に三丁目の姿が突然現れる



「おそ〜い!」



神海が草原にねっころがり、ぶーたれていた



「しょうがねぇだろ、と、大丈夫ですか?」



「けほっ、けほっ、信じ難い話ですが…三丁目さんの言うことなら……」



果たして、三丁目のあとに現れたのは、紫雲寺メイド、赤坂藍華である



「あれ?お姉ちゃんとかじゃないの?」



神海が尋ねる



「あの人はダメだ、暴走したら手に負えん」



丁重に理由を述べる三丁目



「本当は四谷さんに来て、薬調合してもらうつもりだったんだけど……どうも耳が…」

「わー!わー!なんでもないんですよ!?なんでも!あはは…!」



赤坂さんが顔を真っ赤にして三丁目の口を塞ぐ。

なるほどな、と神海が納得した。直接の交流は無いが、夏休み前の新聞と、三丁目の話により、赤坂さんの゛特性゛は知っている。実際に聞いてみないとわからないが




「紫苑の代わりに私がお手伝いさせていただきます、よろしくお願いしますね、えっと…神海杏奈さん、鞠野朝日香さん」



「あ、杏奈でいいですよ」



神海が手をひらひらとやった。女性陣がそんなことをしてる中、チームの白一点、浅岡三丁目はぶつぶつと独りごちていた


「まあ一応゛魔王゛は貰って来たし……」



やっぱりドクロマークの小瓶をゆすってみる。紫色の液体がたぷたぷと音をたてて揺れる。



……水で十倍くらいに薄めりゃ大丈夫だよな…



三丁目はそう折り合いをつけ、小瓶をポケットに仕舞った



「じゃあレッツゴー!」


すっかり仲良くなった三人。神海がリーダー格となり三丁目たちを引っ張る。


明日が土曜で良かった…いや良くないか…



そんなことをぐるぐる巡らせているうちに、独り取り残されてしまう。


三丁目は、ああもう、とため息をついたあと、靴下のまま走り出した。




鳥人、メイド、女子高生を追い掛けて……

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