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四十三丁目 いざ行かん、憎しみや争いの無い世界へ!

短めですが

ヒグラシが鳴いている。真っ赤な夕日は未だ保健室を紅に彩り、それに負けないくらい三丁目の顔も真っ赤だった



「大丈夫…ですか…?」


「らいひょうふれふ…」



鼻にティッシュをつめ、鼻血を止める。折れてないことが奇跡とも言える出血っぷりであった。傍ではかいがいしく朝日香が介護をしてくれて至高の喜びだったが、それに引き換えるにはあまりに代償がデカい




「ほうみ!へめ、いきはりはひふんひゃひょ!(神海!てめ、いきなりなにすんだよ!)」



ベッドに横たわったまま、なぜか怒りで震えている神海をビシッと指差す三丁目



「あんたがか弱い女の子に手ぇ出そうとしてたんでしょ!」



「ひゃから…ああもう!」


三丁目はティッシュを取った



「だからあれは事故だっつってんだろ!」



神海の眉がピクリと動く



「へぇ…事故…、保健室で!男と女で!!ベッドの上で!!!それはそれはさぞかし素敵な事故だったんでしょうねぇぇ…」




神海の口元には引き釣った笑みが浮かび。眉はひくひくと痙攣していた。腕を組み、三丁目のベッドに片足をドン!と上げる



「……もうダメだこいつ…朝日香さんこのアホに説明してやってください…」



「そんな…三丁目さん…」



ビキッ!



「なんの音だ…?」



「さ、さぁ…?」



三丁目と朝日香が顔を見合わすが、その理由はすぐわかった



「へぇぇぇぇ…そうなの…もうお名前で呼び合っちゃったりしちゃう仲なのねぇ……」



例によってゴゴゴゴゴゴ……と擬音が聞こえた。


上を見上げると、神海の短い髪がゆらゆらと逆立ち、目の辺りは影で隠れて見えなくなっている。だがしかし、眼光はギラギラと光り、闇の中に二つのヘッドライトを作り出していた



「……朝日香さん!」



「え?」



三丁目はコレ以上の言い訳は無駄だとふみ、朝日香の細い手首をはっしと掴んだ



「逃げましょう!」



「ちょっと……ちょっと待って三丁目さん!」




バッ、と窓から飛び降り……た……あれ?



「バカッ!!ここ三階よッ!!!」



神海が窓のへりから大声で叫ぶが、時すでに遅し、三丁目の体が徐徐に重力の力を受けてゆく



「う、うわぁぁぁ!!!」



「キャァァァァ!!!」


だがそれも一瞬、三丁目と朝日香は手を繋いだまま、あたかも地面に強力な磁石のように引っ張られたように吸い寄せられる。目の前を高速で景色が通り過ぎていった



「く……ッ!」



しかし三丁目、伊達に命綱無しに綱渡りをしていないのだ。ほとばしる風圧の中、朝日香を両の腕で抱きしめ、なんとかして助かろうと努力する。だがやはり無理だ。落ちる……!



三丁目はぎゅっと目をつむった




…………




永遠とも呼べる時間が過ぎた。まだかまだかと体を強張らせたが、はてさて、いっこうに地面に到着する気配がない


落ちて…な…い…?



三丁目はおそるおそる目を開けた。最初は右目から……



「うおッ!」



ひゅぅぅ…と静かに風の鳴く音がする。三丁目は広く楕円形のグラウンドを見ていた。真っ赤な空と、オレンジ色の雲が丸い空のキャンバスを彩っている



……飛んで…る…?


その瞬間、耳が風でない音をとらえた



ばさっ…ばさっ……




脇が妙に締め付けられている気がする。三丁目が頭上に目をやると…



「は、はははははは……」



「だ、大丈夫ですか…三丁目さん……」



額から汗を流し、荒い息で無理に笑う朝日香……いやそれよりも!




「羽根ぇぇぇぇぇぇッ!!!」



「あ、あ、暴れたらダメです!」



朝日香の制服、背中の部分が破け、真っ白な…光り輝いているかのようにも見える巨大な翼が突き出していた。

その翼は一定間隔ごとにばっさばっさと羽ばたき、空を…飛んでいた




「あ、あああ朝日香さん!?」



「す、すみません三丁目さん!説明はあとで!あ、あ、きゃぁぁぁ!!!」



「うぎゃぁぁ!」



重さに耐えられなくなったのか、朝日香の翼はふっ、と力を失い、三丁目もろとも落下した




ずしん、と地面に落ちる



「いたたた……」



「はぁ…はぁ…」



幸い低い位置から落ちたのであまり痛くは無かったが、朝日香は大分消耗していた。よつんばいになり激しく喘いでいる



「あ、朝日香さん……ッ!」



「はぁ…はぁ……なんでしょう…?」



三丁目は顔を真っ赤にして目を反らした。


なぜか


理由は簡単、よつんばいになった朝日香の制服は乱れに乱れ、背中も破けてなんと下着が見えている。それに加え荒い息、朱色に上気した頬、きらりと光る汗だ。男が矯正を上げて気絶してもおかしくないシチュエーションなのである。



「ま、まさかどこか怪我でも……」



息も絶え絶えに朝日香が近づいてきた。制服は肩の部分がわずかにずり落ち、色っぽい鎖骨がちらと顔を出している。よつんばいのまま這うようにして喘いでいるので、もう少しで見えてしまいそうである。何がって、もちろんアレがだ



「あ、あ、あ、朝日香さん!か、かかか隠して!」



「?」



鼻をぎゅっとおさえて手をぶんぶんと振る三丁目に対し、朝日香はきょとんと小首を傾げている。


それがまた三丁目の脳髄を直撃した。わざとなのか、それとも天が授けた自然な色気なのか……、どちらにせよ三丁目の心臓は吊り橋効果もあってか、ばくんばくんいっていた。



「隠すって何をですか?」



「いや!無理に隠さなくてもいいけど!」



三丁目がつい本音を口にした瞬間、三丁目は、はっ、と背筋を伸ばす。背後から漆黒のオーラがほとばしるのを感じた。背中をぐいぐい圧迫し、とても苦しい




「無理に…何?」



「な、なんでもないですよ?」



「隠さなくても…?」



「いえ!是非隠した方が!」



かちこちと油の切れた人形のように首を背後に向けると、そこには瞳だけが鬼のように光る魔物が立っていた。



「死んどく?」



魔物はどす黒い声を発した。聞いたものを即死においやる、悪魔のささやきだ



「死にたくないです」



「そう…」



素直に断る三丁目、すでに正座である



「じゃあ死ねッ!!!」


「死にたくないって言っがぶばはぁッ!!!」




神海の旋風脚が三丁目の顔面にクリティカルヒットし、宙を紙屑のように舞う三丁目は、憎しみや争いのない綺麗な御花畑へと旅出つのであった…

最近の打たれ強さランク。三丁目≧一宮

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