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二丁目 近衛高校サバイバルゲーム前日

コアな知識が出てきます。やっぱり平にご容赦を…です

皆さんはブルーマンデー症候群という言葉を知っているだろうか、巷では、日曜日の夜に放送される超有名アニメの名をとり、サ◯エさん症候群とも言うらしい。

軽快なリズムと共に終わりを告げるそのアニメのエンディングを見ると、誰だってなんとも言えない焦燥感に陥るはずだ。

無論我が浅岡家も、というか俺も例外では無い。昨日帰宅後、中学生の妹の勉強を見てやり、今度はナポレオンになった親父の機嫌をとりながら、不満げに帰ってきた母と、満ち足りた表情でガッ◯ャマンのテーマを歌う兄の相手をしていた俺、浅岡三丁目は、その日に起こった出来事を振り返り、深く反省した。


こんなんでいいのか!俺!


流されて流されて、揚句の果てには浅岡家専属ツッコミ係などまっぴら御免である。ああ…17年間何度同じことを考えただろうか…。だが今回は本気だ。俺は戦う。心の平穏を守るために…!


――――――


―――


「…ちゃん…お…ちゃん…」


体がゆさゆさと揺さ振られ、重たいまぶたを嫌々ながら開く


「…ふわぁ…雨…か」


誤解を招かないように言っておこう。天気のことではない


「お兄ちゃん…遅刻しちゃうよ?」


「…遅刻って…まだ6時じゃん…」


「何事も早めにやりなさいってお母さんがいつも言ってるじゃない」


制服の上にエプロンを着用し、おたまを肩でぽんぽん叩きながら我が妹、浅岡雨は頬を膨らませた


「母さんのは『早めに殺りなさい』だがな…」


「またそんなこと言って」


ベッドの中で丸くなる俺に呆れかえり、はふぅ、とため息を漏らす


「てかなんでお前が母さんのエプロン着てんだよ」


「お母さん起きないんだもん、寝言で『次こそは』とか『ジェノサイド』とか言ってたからキララちゃんのおじいちゃんのことまだ根に持ってるんだと思う…」


あのアホめ…、寝ている間だけなら天使みたいな顔してやがるくせに、ついに寝言までに本性が出たか


ドンッ!


『ひぃッ!』


一階から聞こえた衝撃音に二人は身をすくませた。冗談でなく、本当に妖怪かもしれない


「お、起きるか」


「う、うん」


ぎこちない仕草で二人は行動を起こし始めた。雨は一階に降りて朝食の準備、俺はいつものようにパジャマのまま廊下に出て、洗面所に向かう。


「ん?」


顔を洗うために蛇口を捻ろうとした瞬間、妙な音楽が流れてきた


「……兄貴?」


そう、洗面所の近くにある部屋は浅岡家が逆の意味で誇る知的変人、浅岡幹人の部屋だ。


「…くっ…ひっく…」


な、泣いてる…?



何があったんだろう……体の後悔予知警報が鳴り響くのを理性で抑え、そ〜っとわずかに開かれた隙間から中を覗く



「ちくしょう…ユ◯ナぁ……」



……


…ああなるほど、確かに名作だ。涙するのも頷ける。だが、今更じゃないか…?


「なんで…なんでテュ◯ーンが出てこないんだよぉ…」


そこかよ!しかもあれってそんな有名なやつだったか?



と、心の中で言ってしまってからやっぱり後悔した。しっかりツッコんでんじゃん俺!ダメだ朝からこんなんじゃ学校が思いやられる…


「はぁ…」


憂鬱な気分で顔を洗い、歯を磨く、歯は朝食食べたあと磨けばよかったな…などと、どうでもいいことを考えながら俺は一階に降りた。



「おはようございます閣下」


「うむ、よきにはからえ」


意味わかってんのかこの親父。

今朝の親父はどこかの国家元首だった。

しかも最近のではない。

第一次世界対戦とか、そのくらいの時期だろう。まあ俺も詳しくはない。昨日の夜に見た映画で、親父はナポレオンから今のスタイルに移行したのだ。まったくどこから持って来たのか、深い緑のそれっぽい軍服に、ベレー帽を被っている。なに?病院へ連れてけって?残念ながら既にやれることはやったさ…


ふふ…だがこの程度でツッコミを期待されては困る、かつて逆立ちで椅子につく父を見てもツッコまなかったという実績が俺にはある



「いや〜、最近物騒だな」


なんちゃって軍曹が咳払いをしながら新聞をめくり、コーヒーをすする。


あんたの恰好が一番物騒だよ、とは言わない



「ふぅ…ごちそうさま!」


皿をキッチンまで運び、妹の洗いものを手伝うと、自分の部屋まで戻って制服に着替えた。


「いってきます!」


「あ、待ってよお兄ちゃん!」


許せ妹よ、この家から早く出ないと俺のレーダーがボケを探知してしまう


「待ってよお兄ちゃ〜ん」


「うるさいキモいよるな」


腰にすがりつく兄を足蹴にして、半ば駆け足で学校に向かう。


(あー今日はなんかいい日になりそうだ!)


大きく伸びをしながら通学路を歩いた、ちょっと出るのが早かったか、ぽつぽつとしか学生がいない


「おーいサンチョ〜!」


「ん?」


振り返ると、クラスメイトの一宮金次郎が走ってきた。苗字にあと一足せば言わずと知れた勤勉家になれたものを…実に惜しい男だ


「人をどっかの付き人みたく言うな」


「だってよ〜、三丁目じゃん、気楽に呼べねぇよ」


「んじゃ苗字でいいだろが」


勤勉家−1は目を閉じ、人指し指を立てて俺の目の前で、チッチッチッとやった


「俺はな、フレンドリィな関係を望むんだよ…そう、たとえそれが女子だって!!先生だって!!!」


後者に熱が篭ったあたり、やっぱりこいつは我が近衛高校きっての美人教師、営宮涼子を狙っているらしい、俺の兄貴の高校時代にやってきたらしいが、物腰穏やかで、男子生徒のみならず、女子生徒からも人気がある


「…まあ確かに美人だよな……」


「おいおい、浮気か?」


一宮がにんまりといやらしい笑みを浮かべる


「はぁ?どういう意味…」


後ろを振り向くと全てを理解した。


「お兄ちゃーん」


「はぁ…はぁ…ちょっと待って…雨ちゃん…」


雨とキララちゃんがひいひい言いながら走ってきた


「なんだよ、どうした?」


膝に手をついて息を荒くする妹に尋ねる


「はぁ…はぁ…はい!」


しまった


差し出された弁当箱を見て、思わずそうつぶやいた。


「待ってって言っても…いっちゃうんだもん…」


「すまん」


素直に謝る。


「もう、じゃあ私達こっちだから」


妹はキララちゃんを連れ、脇道にそれた。


「いい妹だなぁ」


となりで一宮がぼそりと呟く


「やってもいいが、変態どもと同じ家系に入りたくなかったらやめとけ」


さりげに釘をさしながら、二人は通学路を再び歩み始めた


――――――


―――


「はい、おはよう野郎ども」


「おはよーございまーす」


ドスの効いた声で教卓から教室を一望する担任、間山裕子、まともな名前は久しぶりな気がする


「今日はてめぇら生徒に連絡がある」


これから殺し合いをしてもらいますと言わんばかりにメンチをきる化学教師、インテリというよりは実力行使派だ


「明日から学校行事、校内サバイバルゲームがはじまるが、父兄参加もオーケーだそうだ」


この学校は大丈夫なのだろうか…兄貴のときも自由奔放だったらしいが、今の校長になってさらにエスカレートした。普通球技大会とかじゃないか?


「おらぁ!うるせぇガキども!」


間山先生は教卓の前の古賀の机の上にハイヒールを叩きつけ、その膝に片腕を置くと、ギロリと爬虫類をほうふつさせる眼光でクラスを黙らせた


「いいか?今回は俺達教師陣も出るからなァ、せいぜい楽しませてくれよ?はーはっはっ!!!」


どうしてこの人は教師になれたんだろうか、だが教え方は上手いし、悩みの相談にも乗ってくれるらしい。人間中身とはよく言ったものだ


ホームルームが終わり、一時間目がはじまった


「きょーつけー、れー」


やる気の感じられない声で号令係が号令をかける


「ねぇねぇ」


隣の席の、神海杏奈に声をかけられ、顔を向ける


「さっき間山さんが言ってたけど、あんたの家族連れてきなさいよ」


「……本気か?」


「どういう意味よ?」


「…いや」


杏奈は構わず喋り続けた


「あんたの家族すごい有名よ?ほら、この前の授業参観…」


「ああ…」


思い出すのも忌々しい。ほかの親は二人か一人なのに、何故かうちだけ家族総出だった。さすがに雨は来ないだろうと思ったが、そこは浅岡家、母、小春がぐったりとした雨をしっかりと抱えていた。ちなみに兄が来たのは言うまでもない。外見だけは良いので、女子生徒の注目の的となり、授業にならなかったことを覚えている


「ああ…楽しみだわ」


こいつも大分アレだ。母と気が合うかもしれない


「なによ?文句ある?」


鍛えれば読心術もマスターできそうである。母とこいつを合わせてはいけない、直感でそう感じた


「いやー、それにしてもあんたの名前すごいよねー」


「ほっとけ」


杏奈が笑いを噛み殺すのを無視し、とりあえず昼までゆっくり眠ることに決めた


――――――


―――


「…君…浅岡君!」


「は、はひっ!」


「きゃっ!」


目を覚ますと、教室には誰もいなくなっていた。まさか一日終了!?んなはずない、時計はまだ午前を指していた


「次移動教室だよ、浅岡くん」


「う、ああそうだっけ」


そういえば音楽あったな、それにしても薄情なやつらだ。一言声をかけてくれればいいものを


「ありがとう穂村さん」


「ううん、どういたしまして」


眼鏡にみつあみという校則を守りに守った容姿のクラス委員が、にっこりと笑った。


「穂村さんは素晴らしい人だ」


「は?」


いきなりの発言に、さすがの秀才も目を丸くする。


「だって、常識を忠実に守っているんだもの」


普段の非常識な生活にたいするつかれもあったが、三丁目は少し寝ぼけていた


「あ、あはは…」


とりあえず笑っとく穂村さん。


「……グゥ」


そのままパタリと眠ってしまったので、穂村さんはおろおろしながらブレザーを背中にかけ、音楽室へひとりで急いだ


「常識…か」


事もなげにそう呟く


時間はあと一分、間に合わないと判断して諦めて歩く、と思いきや、ピタリと立ち止まり、何をするでもなく眼鏡を取った。その瞬間、穂村さんは一瞬にしてその場から消えてしまった


――――――


―――


「…ただいま…ってなにやってんだ」


なにやら家族総出でいろいろと物騒なものを整備していた。


「だって明日はサバイバルゲームでしょ?」


ゴーグルをかけた母がウキウキしながらさも当然のように答えた。


「はっはっは!家族に知らせないなんて酷いじゃないか!」


兄が高笑いする。おそらく情報を仕入れてきたのはこいつだ


そういえば親父はどうしたんだ?


リビングを見回す、……いた。何故か知らんが壁に包丁ではりつけにされている。また母の逆鱗に触れることでもしたんだろう



「あ、こんにちは、三丁目のお兄さん」


「あ、いらっしゃいキララちゃん」


キララちゃんもてつだわされていた。ついでにあそこにいるのは……


「青山さん?」


紛れもなく家政婦長の青山緑さんである。何故か泣きそうな顔でこちらを見ている


「…何かあったんですか?」


「ひっく…昨日の第462次ジハード覚えてますよね…ひっく…」


また回次が違う気がするがまあいいや


「それで…後半にだんだん私のテンションも上がってきちゃって…」


ああ、もうだいたいわかった


「ひっく…ものの弾みで孝太郎様を思い切り殴っちゃったくらいでこのしうち…あんまりですよぅ…」


「いや、クビになったっておかしくありませんよ青山さん」


「うぅ…」


青山さんはさらに縮こまり、メイド服に顔を埋めた。母と同様、この人も年齢不詳である


「てか、しうちってなんなんですか?見たとこ何もやってないみたいですけど」


「…孝太郎様に…偵察に行けって言われたん……はっ!」


母である。


「緑さん、ちょっといいかしら♪」


「ひっ!いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


夜の我が家に、甲高い悲鳴が響き渡った

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