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三十一丁目 レッツ里帰り

あの騒動から約2週間。夏も近づく八十八夜とはよく言うが、浅岡三丁目には死期の方が近づいていた




――――――


『レッツ里帰り』


―――







時刻は深夜2時


草木も眠る丑三つ時だが、ここ浅岡家では、一通りの応急処置を終えたリビングルームで、家族−1会議が催されていた




「さて、来たる明日、わたしの実家に里帰りします」


議長は小春、テーブルの上で肘をつき、神妙な顔で他三人を見回す


「して、今回の作戦は?」


幹人、珍しくまともな顔で母を見る


「今回は正功法でいこうと思うの、前回は眠ったまま連れていこうとしたら飛行機墜ちかけたでしょ?」


幹人に向き直り平然と言ってのける小春


4人は天井を見た。二階では三丁目が何も知らずに眠っている


「雨ちゃん」


「は、はい!」


背筋をピンと伸ばし、母からの指令を待つ


「あなたが今作戦の要よ、これができるのは雨ちゃんしかいないわ」


「え、っと何をすれば…」


小春は一旦瞳を閉じ、そして再びパッと見開いた


「さんちゃんを起こしてちょうだい、できるだけ笑顔で」



「う、うん、がんばる…」



次に小春は夫、幹春を見た


「幹春さんは…いいわね?」


「愚問だね小春ちゃん、ぬかりは無いさ」


不敵に微笑む幹春



「さて、他の人達にもさんちゃんにはバレぬよう事の次第を伝えてあります、各自、気を引き締めてかかってください」


『了解!』


薄暗いリビングのテーブルを囲み、三丁目以外の家族は団結した…






――――――


―――







チュン…チュン…



「お兄…ん…」


…む…朝…か……?



「…なんだよ雨…夏休み初日くらいゆっくり寝かせてくれ…」


布団に潜り、うずくまる


おや?



いつもならここで毛布が剥ぎ取られ、しぶしぶと起きるんだが……


「サ、サンお兄ちゃ〜ん、起きないとダメだよ〜」


毛布を少しだけ下げて様子を伺う。かなり引き釣った笑顔の雨、口元がひくひくと痙攣しているのがわかる


「お前……どうした?」


またポーシ◯ンか?


「ど、どどどどうもしないにょ?」


「どうかしてるぞ…」


およよ、と視線を反らす雨、この2週間、やけに静かだなと思ったら反動がきたのかもしれない


「正直に言え雨、何を隠している」


「な!か、隠してるなんて!ひ、ひどいなぁ〜あはははは…」


「………」


「あはははは…はは…」


じとっ、と見ていると、いたたまれなくなったのか、ついに白状した


「黙っててごめんなさい!今日莉梨華お祖母ちゃんのとこに行くの!!!」


ぶん、と頭を下げ、全力で謝る雨


…………




静まる部屋、小鳥のさえずり、笑顔のまま硬直する二人、時計の秒針の音が妙に大きく聞こえた



バッ!


何をするかと思えば三丁目、まるで何か強い力で引っ張られたかのように跳ね起き、顔面を庇うために両腕を目の前で交差させると、激しい硝子の破壊音とともに窓から身を踊らせた


「幹人お兄ちゃん!」


遅れることゼロコンマ1秒、雨がベランダから大声で叫ぶ


「あっはっはっ!マイブラザー!僕の胸へ飛び込んでおいで!!!」


バッ、と庭で両腕を広げる幹人


三丁目は宙で2、3度体をひねり、兄の顔面に片足で鮮やかに着地、そして兄が鼻血を噴いて倒れる前に、顔面の上で勢いをつけ、根心の力で蹴り上げた。さらなる反動で三丁目は空を舞い、かけられていた物干し竿に着地成功すると、トランポリンの要領でトンボ返りをこなし、紫雲寺邸のコンクリート塀をオリンピック選手も真っ青な体勢で飛び越えた



ずさっ、と紫雲寺邸のよく整備された芝生に忍者のごとく着地、脇目もふらずに走り出す



流れる景色の中、一階のテラスで、紫雲寺孝太郎氏と紫雲寺一家がティータイムと洒落こんでいるのが見えた、が、今はそんなことを気にしている暇はない。なぜなら目の前に



『ギギギギギギ!!!』


完全復活を果たしたトーリュが待ち受けているからだ。


今の三丁目はアドレナリンが通常の人間の10倍、いや20倍は分泌されている。一瞬で母の息がかかったものだと理解した


『ギギギギギギ!!!』


朝露できらめく触手を体中から繰り出し、三丁目目掛け、すさまじいスピードで、投げつけられたモリの如く襲いかかる!


『ギ、ギギギギギ!!!』


だがどうしたことか、当たらない、かすりもしない、繰り出す触手、その数やゆうに30は超える。縦横無尽のしなやかかつ強靭な鞭は、踊るようにステップを踏む三丁目にことごとくかわされてしまった


『ギギギギギギ…』


デビルバットゴーストさながら、体を半回転させ、トーリュを抜いた三丁目は巨大な門から紫雲寺邸を後にした。勢いで壁に激突しそうになるも、壁を蹴って弾丸よりも速く、真っ直ぐ続く道を走り抜ける


「ここまでよ!」


『三丁目、おとなしく捕まるがよい!』


蘭さんとアニマ


こちらも完全に復活したようだ。


「ふっふっふ…ついに本性を現したわね三丁目くん!!!私はそれを待ってたのよ!!!」


『蘭!!!来るぞ!!!』


「オーケー!!!」




人様の屋根の上で、バズーカを構える蘭さんと、グレネードランチャーを肩から照射するアニマ


「悪く思わないで、ね!!!」


『さらばじゃ三丁目!!』


冗談なのか本気なのか、狙いを定めた蘭さんとアニマは、それぞれお互いの武器を暴力的な爆音とともにぶっ放した


「ちィッ!」


小さく舌打ちし、三丁目は叫んだ


「早良さん!!!この前の貸し!なんでも言うこと聞きます!!」


爆発


ガッツポーズをとる蘭さんとアニマ、しかし



「な、なんですって!?」


『ふふふ…』


爆煙の中から響く笑い声…


『これ早良!!!貴様わらわ達の味方のはずじゃろう!!!』


早良さんが爆撃を、よくわからないが巫力で止めていた


『残念ね…私は恋の味方よ!!!』


無い胸を張る早良


『な!どこが無い胸よ!!!』


あらぬ方向へ向かって叫ぶ早良さんだったが


『ッ!』


かろうじてかわしたものの、早良さんの隣で爆発が起き、爆風が巻き起こった


「早良ちゃん約束覚えてるぅ?」


にっこりと満面の笑みを浮かべて、屋根の上に仁王立ちする蘭さん、肩に背負ったバズーカからもくもくと煙がたち、とても危険だ。だが風になびくスカートの中身も見えそうで、いろんな意味でハラハラする


『…約束?』


ふわふわと浮きながら、早良さんが聞き返した


「ふふふ…三丁目くんと同じくらい!あなたの体にも興味があるのよ!!!」


どこから出したのか、ジャキッとあらゆる科学メカを早良さんに向ける


『ふっ、やれるものならやってみなさい!伊達にあの世は見てないのよ!!!』


とうとう当初の目的も忘れ、ドンパチやり出す二人、いつのまに集まったのか、まだ早朝だと言うのに千軒町民がやんややんやと騒ぎ立て、揚句賭け事にまで興じ出した


『……空が青いの…』


空を見上げ一息つくと、肩から出したレーザーキヤノンで、二人に狙いを定めるアニマだった…




――――――


―――






さて、一方渦中の人物である三丁目は……



「うぉッ!」


目の前に雷が落ちた。反射的に空を見上げる、気持ちいいくらいの快晴だ


「神よ…私事のためにあなたの御力をお借りすることをお赦しください…」


ロザリオを胸の前でぎゅっと握り絞め、拭罪を乞うシスター


「アリシャさんあんたなにやってんすか!!」


息を切らせながら叫ぶ、さすがにここまで走りっぱなしだ。そろそろ体も参ってきている


「…迷える仔羊よ…」


「迷ってんのはあんただ!!!」


「神の御名の下に、赦しを乞いなさい!」


聞いてない、聞く気がない!


「はぁぁぁぁぁッ!!!」


ゴロゴロ…


途端に雷雲が立ち込め…


ピシャァァァァァ!!!


「うぎゃぁっ!」


かすった!寝巻の肩が焦げる!


「何故避けるのです!?」


「無茶言うな!!!」


悲しそうに懇願するシスター、ふざけてる様子は、ない


「ってうぉッ!」


動物的直感で抜けた腰を立たせ、背後から襲いくる縦一線の斬撃をかわした


「な…ななな…」


コンクリートに減り込んでいる。なにって、日本刀が


『おはようございます三丁目さん』


ナチュラルな挨拶だ



「おはようございます、単刀直入に言います、やめてください」


日本刀に嘆願する三丁目、それを持っているのは、他でもない、シャウルだ。ぶらんぶらんと頭を揺らし、意識のありかは定かでない


『昨晩迷子になっているとこを保護しました。今はちょっと体を借りてます』


「……そうですか」


シャウルは尋常じゃないくらい揺れている、ひょっとしたら力吸い取ってんじゃねーだろな、この日本刀


『すみません…やはり当面のお食事券は捨て難いのです…』


「……お食事券……まさかアリシャさんも…?ねぇアリシャさ……おい、目を反らすな」


三丁目から目を反らし、突然黙りこくるシスター


「あなた仮にも神のしもべでしょうに……食欲に負けるんですか?」


「か、神も腹が減っては戦は出来ぬと申しています!」


シスターアリシャは真っ赤になって反論する、あなたは何教なんですか、と聞きたい


『私怨はありませんが捕まってくれませんか?最初に捕まえた者に贈呈すると小春様が言っていたので』


やはりあの妖怪の差し金か…


「お断りします」



『仕方ありませんね…』


「神の裁きを受けていただきましょう…」



この状況で裁きが下るのは間違いなくあなたたちだが、このシスターの敬愛する神はおそらく俺を裁くのだろう、お互い獲物(ロザリオとシャウル)を構え、いざ襲いかからんと妖しい笑みを浮かべながらにじりよってきた。



「くッ!離脱!」


反転し、もときた道を戻ろうとすると……



ダダッダダダン…ダダッダダダン…


チャラララ〜ラ〜ララ〜


一番聞きたくない音が聞こえてきた


「I'll be back…」



革ジャンを羽織り、グラサンをかけ、ショットガンを担いでいる。某国カリフォルニア州知事のアレだ



「地獄に落ちなベイビー」


「てめぇ仮にも息子だぞ」


銃刀法違反で捕まってしまえ


「問題ない」


「お前が問題あるんだよ変態親父」



挟み打ちだ。無論、木野沢温泉のときよりやばいのは言うまでもない


「観念していただけましたか?」


『さあ三丁目さん…おとなしく…』




ふっ…甘いなあんたら…


「わかりました……仕方ありません……」



ようやく諦めてくれたか、肩を落とす三丁目を見て安堵に顔を崩す三人



だが次の三丁目の言葉は空気を再び張り詰めさせた




「でもどなたがお食事券もらうんですか?」







………………




『あなたに恨みはありません…が』


「ふっ、正々堂々と闘いましょう…」


「問題ない」



三人はいがみ合い、次いで思い思いの攻撃をはじめた。


シスターの雷が飛び


炎泪さんの、というかシャウルの剣撃


そして親父がショットガンを乱射する、大丈夫、もちろん豆鉄砲だ。まあたとえリアルなショットガンでもこの二人なら平気で避けそうだが…



「よし、とりあえず一宮の家にでも……う…」


「動いちゃダメよ♪」


前の三人に気を取られている隙に、背後にひんやりとした殺気が俺を襲った。俺より背が低いくせに、首筋にナイフでも突き付けられるような威圧感を感じる


「……無念…だ…」


首筋をしなやかに叩かれ、三丁目の意識は朦朧となる。




その瞬間……争っていた三人が、いつの間にかこちらに向き直り、悪魔のような笑みを浮かべているのが見えた




「くそ……お前ら…グルか…よ…」


「おやすみなさい…これで5時間後にはお祖母ちゃん家よ♪」


小春の少女のような声を最後に、三丁目の意識は完全に途切れた…

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