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二十四丁目 温泉へ行こう!

ちょっと短めですが、続きます

三丁目は歓喜に震えていた。



三枚の挑戦権を支払い、六角形の夢の詰まった箱をガラガラと回す。願を込めて受け皿に落ちたのは、金色の玉だった。



「お、おおあたぁ〜りぃ〜!!!」



ミスターパワフル店長横井三哲の鳴らす鐘の音は、いつまでも三丁目の胸に鳴り響いた


そうか




今までの不幸はこの前触れだったんだ


そう思うと涙があふれてくる。自分を多いに褒めてやりたい


「特賞木野沢温泉旅行券が当たりましたぁーッ!」


カランカラン、ベルの音が三丁目を今、楽園へ誘おうとしている


「温泉旅行一泊二日!10名様ご招待!」


「あ、あの!これ俺一人でもいいですか!?」


「10名様ごあんな〜い!」


「……あの、俺一人でも…」


「10名様ごあんな〜い!」


「あの…」


「10名様ごあんな〜い!」


「おい」



――――――


『温泉へ行こう!』


―――







「と、言う訳だ、アホどもには言うなよ」


「サ、サンお兄ちゃんすごーい!」


「しっ!声がでかい!」


「ご、ごめんなさい…」


二人は三丁目の部屋でキラキラと光る夢のチケットを眺めていた


「なんか10人じゃないとダメらしい、お前連れて行きたい人いるか?」




「えっとお母さんとお父さんと幹人お兄ちゃんは……」




「馬鹿、あの変態どもに知れてみろ、疲れを癒すどころかたまるわッ」


「ふーん、じゃあ私たちは置いてけぼり?」


「ああもちろん!普段あれだけ暴れてるんだ、やつらにストレスなんか無いだろ!」


「おお!酷いじゃないかマイブラザー!」


「どこがだ!俺が普段どんな思いでいると思ってる!」


「三丁目、ダディはお前の味方だからな」


「それが一番困るんだ……ってなんでいるんだお前ら!」




三丁目の部屋には家族がいつのまにか集合していた。三丁目もノリツッコミにしてはノリ過ぎだと思われるが……


「疲れが、なんだったかしら?」


「いやいや疲れが吹き飛ぶと」


「そう、じゃあ大丈夫ね?」




何が大丈夫なのかわからないが、にっこりと笑う母、我が家の恐怖政治だ


「……雨、あと『5人』、連れて行きたい人はいるか?」


「……うん」




――――――


―――




来たる週末、選ばれしメンバーが勢揃いした



「いやー晴れてよかったわねー」


『湯治か…悪くないのう…』


「ワ、ワタシ日本の温泉は初めテデス!」


『私は…おそらく数には入っていないのでしょうね…』


「炎泪さん日本刀だからねー、トーリュは人数に入ってるのかな?」


『ギギギ?』


「入ってないんじゃない?あたしが呼ばれてるわけだし」


「杏奈お姉ちゃんは蘭さんの妹さん?」




「そーよ、よろしくね?きららちゃん?」


「こちらこそー!」



さて、会話の内容だけで誰が誰だか把握できるだろうか


「ずいぶんと大所帯になっちゃったわね、予想してたことだけど」



家の前で迎えのバスを待ちながら、小春がふぅ、と息を吐く


「まあいいじゃないか母さん!旅は多人数の方が楽しいものさ!」


最近出番があまり無いせいか、無駄にはりきる親父


「ん?どうしたんだいマイブラザー」


「いや…」


「具合いでも悪いのサンお兄ちゃん?」




そうではない、ただ…



「ボケとツッコミのパワーバランスが……」


がっくりと肩を落とす。なんでだ?俺は疲れを癒そうと……


「あ!来ましたよみなさん!」


そんな俺の気持ちもつゆ知らず、ミスターパワフル店長、横井三哲氏が太った体を揺すらせて大きく手を振る


「はぁ…、まあ温泉はしっかり堪能しよう…」


三丁目はため息をつきながらバスに乗り込んだ。


……運転手がこの一行を見て、言葉を失ったのは言うまでも無い…



――――――


―――







「着いたーーッ!ッんーーーー!空気おいしーッ!」




蘭さんがバスから飛び下り大きく伸びをする、長時間座っていたとは思えないほど元気だ


「だ、大丈夫デスか?炎泪サン……」


『う……バス酔いとはあまり気持ちのいいものではありませんね…吐き気がします……』


……ここでツッコんだら負けだ


カタカタと震える日本刀の背中(峰)をさすりながらシャウルが下りてくる


「ときにシャウル」


「なんですカ?」


「お前のお袋さんは大丈夫なのか?」


「あア!『脱皮』したら具合いが良クなったそうデス!見聞ヲ広めテこいと言われまシタ!」


「………」




脱皮……


「あアそう言えバ母様のコト詳しクお話してマセンでシタね!脱皮というのハ……」


「いや、言わなくていい」


片方の手で額を抑え、も片方でシャウルを制す


「え、でモ…」


「いいから」


これ以上新しい世界を知るのはごめんだ


「トーリュ、あんまりはしゃいじゃダメだよ、昨日おじいちゃんに直してもらったばっかりなんだから」


『ギギギ』


「でもあんなに粉々になってどうしたの?」


『ギギ?ギギギギ…!』


必死で何かを訴えようとするトーリュ、だが悲しいことに以心伝心とまではいかないらしい、ただただ首を傾げるきららちゃん。俺は人間の脳のメカニズムに感謝した


「で、その旅館ってどこにあるの?」


「ん?ああ、なんかバスじゃ入れない狭い道通って行くらしい」


メカニズムといえば雨もそうだ。昨日のことを聞いたら何も覚えてないらしい、同様に首を傾げていた


「スゴイとこね……ウグイス鳴いてる…」


「だから良いんだろ?温泉にゃ最適じゃん」


「…そんなもんかしら、ところで、ねぇ、さっきからなんか誰かに見られてる気しない?」


怪訝そうな顔で辺りを見回す神海


「はは、お前、この後に及んで……」


……ありうるな


だがこの軍勢だ、妖怪だとか、猿人だとか、宇宙人程度なら負ける気はしない



「んじゃ行きますか」


鞄を背負い、勇んだその瞬間、背筋に冷たいものが……


「……大丈夫…だよ…な……」


無い無い、と笑いながら先頭をきる三丁目、疲れを癒すはずの温泉はもはや緊張しか持てなくなっている……




――――――


―――




「『麗遊』にようこそ…」


『ようこそいらっしゃいました!』


女将さんがしずしずと礼をし、従業員もそれに習う


「ほぇ〜、ずいぶん大きいトコね〜」


口をぽかんと開けて旅館を眺める蘭さん


確かに広い、一泊二日とは思えないほどの豪勢さだ、なんらかの作為さえ感じてしまう


「これも一重にさんちゃんの……」


ふふ…、そうだろうそうだろう、一重にも二重にもこの俺の……


「産みの親である私のおかげねッ!」


「あんたのかよッ!!」


一体どこまで恩を遡らせる気だこの妖怪は



「さんちゃん、年々どのくらいの人がお風呂場の事故で亡くなってるか知ってる?」


「産んでくれてありがとう母さん!」


「うんうん、良い心掛けよ」


すばらしい教育理念だと思う。なぜならこの人の教育方針で俺はかけがえのないものを手に入れたからだ




大事なものをいっぱい捨てて




「皆様、こちらへどうぞ…」


女将さんが上品に袖をたくし上げ、奥の廊下を指し示す、俺達は荷物を預け、案内されるままについていった…


――――――


―――




玄関の大広間に数人の従業員が残される。食事の用意をしたり、お湯を張ったり、従業員としてすることは山ほどあるだろうが、彼等彼女たちがしていることは違った



……まるで鍛えられた軍隊のように、きっちりと一様に三丁目達が去った方向を見て、うっすらと気味の悪い笑みを浮かべている…






「お客さんだよ…」


「お客さんだね…」






「10人いたね……」


「10人いたよ……」













「何人生きて出られるかな……」










―ふふふ……


―あははは……


先程までそこにいたはずの従業員は…




煙のように、跡形も無く消えていた…

コメディーですよ

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