二十一丁目 オルタネェム
二十一話目にしてようやくタイトルぽい話が書けました
「今度は喋るトランクケースか……」
「サンお兄ちゃん……ごめんね……大丈夫…?」
まだ少し肌寒い季節なので、穴だらけの家にいては風邪をひいてしまう。そんなわけで、浅岡家一行は、お隣りの紫雲寺邸へお邪魔している。
「あー、悪いねきららちゃん…いて!雨、ちょっとそこきつい」
「あ、ごめん」
妹に包帯を巻いてもらいながら、家主に頭を下げる。ふと窓の外に目をやると透き通った触手が見えた。トーリュが水やりでもしているんだろう
「いいんですよぉ、賑やかでみんな喜んでますし」
かわいらしく笑いながら手をひらひらさせるきららちゃん。容姿、性格からして、中学校ではさぞやおモテになるだろう
「おっひさ〜浅岡家のみっなさ〜ん!」
「遠慮なさらずに寛いでくださいね」
青山さんと桃恵さんだ。飲物とお茶請けを持ってきてくれたらしい。この人達がマトモにメイドの仕事をするのを見るのはこれがはじめてかもしれない
「いやすみませんね廉介さん」
「いえいえ、娘も申していた通り賑やかで、こちらが御礼を言いたいところですよ」
相変わらず優しそうな瞳をした廉介さんが親父と雑談に興じている。屈指の変態親父でも礼節は弁えるものか。そんなことを思っていたが、それはものの2秒でかき消えた
「なにをしに来よったこの年増妖怪め!」
「あらぁ孝太郎さん、まだお亡くなりになられてなかったのぉ?」
ソファでなまめかしく足を組み替え、小馬鹿にした口調で孝太郎さんを眺める母
「ふん!貴様こそよくも退魔されずに現世に留まれたものじゃな!」
対して孝太郎さんの頭はすでに沸騰しているようだ
「ふふ、少なくともあなたよりは長生きするわ、なんならここで決着つけましょうか?」
「面白い…!表へ出ろ!」
二人はつかつかと広い居間を出て、庭へと出ていった。
「こうしちゃいられないわ!」
青山さんも勢いよく後に続く、この人は職を改めた方が良いのでは無いだろうか
「………」
「止めに行ってきます」
「お願いします、桃恵さん…」
桃恵さんが仕込んだ暗器を確認し、居間から出ていくのを見届けたあと、残ったメンバーはようやく本題に入ることができた
「それで喋るトランクケースの件だけど……」
「ア、アのッ!」
シャウルが三丁目の言葉を遮り、震える声で口をはさむ
「なに?シャウル」
「エと、アの、炎泪さんハ…」
『シャウル、私が説明します…』
今度はトランクケースが口をはさむ。歌手のように澄んだ声なのでそれにも驚かされる
『私はトランクケースではありません、姿をお見せいたしましょう……』
その瞬間、なんとトランクケースが独りでに開いた、中から出て来たのは……
「……に、日本刀?」
日本刀だった。鞘に入ったまま空中にぷかぷか浮いている。
「日本刀、だねぇ…」
あまり驚いているようには見えないが、廉介さんも感心やらなにやらの表情をしていた。
「そ、そ、そ…」
「兄貴?」
隣に座る兄を見れば、硬着した状態で日本刀にみせられていた。そして何を言い出すかと思いきや……
「ソー◯ィアン!?いやモ◯ギフ!?はたまたデルフげぼぇあ!……」
「もう少しわかりやすいボケをしろ、アホ」
即座に裏拳を入れ、兄貴を黙らせる
「あ、わたし真ん中の知ってる」
「きららちゃん、いいんだよ?相手にしなくて……」
なにやら雨ときららちゃんが会話のやりとりをしているが、それよりも
『そろそろいいですか…?』
「あ、すいません」
『いえ…』
恐縮しながら日本刀…もとい炎泪さんの話を待つ
『私がシャウルと出逢ったのは日本海よりも中国よりの、とある孤島です』
「エと、私一回ダケ泳いデ日本まデ行こうとシテ……」
照れながら頭を掻くシャウル、天然…なんだろうな…たぶん……
『たまたま流れ着いたのがその島で、私が封印されていたのもその島でした』
「封印?」
『いえ、それはまた後ほど』
まだ話は続くそうなので、黙って聞くことにした
『シャウルの身の上の話を聞いたあと、私は形式的な師匠としてシャウルに力を貸すことに決めました。そのついで、と言ってはなんですが、私はシャウルにあることをお願いしたのです……』
「あること?」
『はい、それは私の作り主を探してもらうことだったのですが、私は旅の途中で見つかったら、といった程度で良かったのです。ですがシャウルは…』
「私は炎泪サンの作り主を探しマス!炎泪サンは私の恩人ですかラ!恩には恩で返ス、これ母様からノ遺言!」
『シャウル…あなたのお母様はまだ亡くなっていないでしょう……』
ため息をついた、ように見える炎泪さん
「そ、そうでしタ、日本語は難しイデス……」
天然だなこりゃ…
『というわけで私はシャウルのお父上を、シャウルには私の作り主を探してもらう、というわけなのですが、聞くところによれば公明氏はお亡くなりになられているようですね……』
「みたいですね、なあ親父」
今日はドラマや映画は見ていない、親父は通常の親父だ
「あっはっはァなんだい!ジョニー?」
待て、親父?
廉介さんとともにアメリカンホームドラマを見ていた。廉介さんは切り替えが早い、というか話を聞いてなかったんですか?
「はぁ…なんて呼びゃいいんだ…?」
「う〜ん、内容からすればジョージじゃないかい?」
「…わかった、ジョージ!」
「んぁぁあ!わかってる、わかってるともさジェシー!」
「……雨、頼む」
「…うん」
ここから雨の新技が披露されるが、割愛させていだだく
「なんだい三丁目」
ぼろぼろになった親父がやっとこさ質問に答える気配を見せる
「ああ、公明じいさんのことなんだけど…」
「ん?父さんのことかい?父さんは根っからのトレジャーハンターでね、世界のあちこちを飛び回っていたよ、それがどうかしたかい?」
「やっぱ中国とかも行ったのか?」
「ああそりゃもう、ある日向こうで子供ができたとか聞いたときには驚いたなぁ…まあそのあと母さんにしこたまのされてね、それが間接的な原因になって死んだんだが…」
うわ、笑い事じゃねぇ…
「父さん…ジョセ◯でも独りだけだったのに、公明お爺様は12人も作ったのかい?」
最もな話だ。一体何を思っていたのだろう…
「イエ、私以外はミナ孤児院からデス、だカラ直接な子供は私ダケ、ということ二……」
ん?待てよ?
「シャウル今何歳?」
「12歳ですケド?」
「あれ?公明じいさん76で死んで…そのとき親父は確か39…あれ…?」
計算が…
「深いことを気にしたら負けだぞ、マイブラザー、大丈夫だ、作者もよくわかってない」
「よくわからないがありがとう……」
『まあこれで公明様がシャウルの実父ということはわかりましたし……』
どこか寂しげな炎泪さん。それもそうだ、当てが無くなってしまったのだから
「と、そういえば炎泪さんはどうして作り主を探しているんです?それに封印がどうとか…」
『ああそれはちょっとしたいわくがありまして…』
「いわく…ですか…」
なんだろう、いつもながら嫌な予感がする…
「炎泪さんは人の願いを叶える力があるんデス」
なんだと?
『はい、願いを叶える力はあまりに強力で、誰にも使われぬよう封印されていたのですが、今までに二人、偶然にも島に流れ着き、願いを叶えた人間がいました。一人は
【ああ、小次郎に勝ちてぇなぁ〜でもあいつ妖刀持ってるしなぁ……ああクソ!決闘なんか申し込むんじゃなかった!】
と言っていた若者、二人目は
【天下統一かぁ……ちょっと言い過ぎたな…、でも後には引けねーし…】
と言っていた猿顔でしたね』
「マジすか…?」
『マジです』
なんかやだな…はともかく
「願いは今も叶えられるんですか?」
これが大事だ
『はい、あと一個、迷惑をかけたお詫びに、あなたたちの誰かに使ってさし上げようと思うのですが…』
…………
「さて、話し合いで決める?みなさん」
「やだなぁマイブラザーそんなこと」
「決まってるじゃないか、なぁ雨」
「うん!」
微笑みあう、三丁目、幹人、幹春、雨、きらら、それに廉介さん…はいつも通りか……
――――――
『俺が!』
『私が!』
『使いますッ!』
同時に飛び出す腕、シャウルが怯えているのがよくわかる、だが理解して欲しい。俺は今日ここで……名前を!
「雨!」
「うん!」
『たぁぁぁりゃッ!!!』
『オグァァァッ!!!』
俺と雨のボディブローがほぼ同時に親父と兄貴に炸裂する。男二人は悶絶して地に臥した
「雨…お前とだけは闘いたくなかったよ…」
「ごめんねサンお兄ちゃん……」
向き合う二人、悲しき闘いが今……!
「すまん!雨!」
これだけはやりたくなかった!だが俺だって願いを叶えたい!
「だぁぁぁ!」
三丁目は紙きれをばらまいた!部屋中に広がる紙きれ、意外!それは写真!
「なにこ……キャァァァァ!!!な、なんでこんなもの!!!」
「うっわー!雨ちゃんカワイー!!!」
きららちゃんが写真を見ながら腹を抱えてケタケタ笑っている
「さっき兄貴から押収したのが偶然役に立ったな」
写真には以前よりバージョンが二つも三つも上がった雨の猫耳モードだった
「や、やめてきららちゃん!見ないで!」
「あはははは!カワイーよ雨ちゃん!」
写真を掻き集めながらきららちゃんを追い回しているうちに、俺は炎泪さんの柄をとった
『……決まりましたか?』
「はい!」
『ではここからは何も言わないでくださいね?願いを叶えるのは私から少し独立した力ですから…』
よくわからないがわかった、ということにしておこう。
そうだ、ついに名前を変えるときが来たのだ…。
いじめられていた記憶しかない悲しき名を……
『それではどうぞ』
三丁目は頷いた。迷いなど、無かった
「俺は……」
「あーもう、なんで実況中に壊れるのよー!新しいマイク欲しー!」
え?
「自業自得です、あんなに握り締めるから」
はい?
『わかりました、その願い、叶えましょう……』
「うそ!ちょっ!待っ!」
まばゆい光が部屋を包み、現れたのは……!
「あれ、マイク落ちてる」
「あるじゃないですか」
「まあいいや!ラッキー!」
偶然廊下を歩いていた青山さんと桃恵さんは、そのまま母屋に引き返していった。
「ふふふ…決着はまた今度ということに…」
「はぁ…はぁ…望む所じゃ!」
「あらあら息をきらしちゃって、寄る年波には勝てませんか?」
「黙れようか、……ん?なんじゃこれは?」
散々暴れ回った二人が見たもの、それは散らばる写真の中に転がる二人の男と、何故か浮いている日本刀、駆け回る女の子二人、お茶を飲みながらテレビを見ているその女の子の父親、さらには呆然と立ち尽くすチャイニーズ
そして……
灰になる『三丁目』だった…
シャウルの話はまた後ほど