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十五丁目 悲劇の男、一宮金次郎

さて、五階にたどり着いた俺達近衛チームだったが、みな一様に首をひねっていた。ここは五階、レストランが連なるフロアだ。



――――――




「なぁ…、こりゃどういうことだ?」


「さあな、俺に聞くな」


「キングオブボランティアとやらは倒したのよね?じゃあアレは誰?」


「………」


四人の視線が集まる場所に、なんというか……忍者がいた。テレビや漫画で見るようなやつ、そのままの


『………』


喋らない、男か女かはわからないが、よく見ると大分華奢だ。それこそそこらへんの中学生に負けそうである


「あの〜、もしかして五つ目の障害物ですか〜」


一宮がおろおろと問い掛ける



『………』




反応ナシ…




「どうする?とりあえず倒しておくか?」



なべつかみをはめ直しながら天草が目を光らせる。物騒なこと言うな


「あの、特に用がないなら俺達行きますよ〜…」


『……』



「なんだ、つまんないの」


「バカ、気を抜くな」


「え?」


完全に油断していた神海をたしなめる


「お約束の法則を知っているか?」


「お約束の法則?」


「ああ」


お約束の法則…、ドリフにタライしかり、バナナに転倒しかり、この世には人間が抗うことのできぬ物理法則を超えた何かがある…。

今のこの状況は限りなくそれに近い、この場合、無言であの忍者をやりすごし、油断した俺達は安堵のため息をつきながらお互い微笑みを交わし合うだろう、そして気付くのだ、一人いるはずの人間がそこにいないことに…。犠牲となった人間は大抵が敵の初太刀を浴び、無残な姿でぞんざいに扱われること間違いない。そう、敵の強さをはかる、いわゆる試金石的役割となるのだ。人はそれを噛ませ犬とも言うが、今回そんなヤ◯チャに選ばれるのは……



「一宮、お前だ」



神妙な顔付きで一宮を指す三丁目、なんだか今日はいつもよりノリが良い



「な、なんだと!?」



大いに取り乱した一宮は、額に汗を浮かばせながら、あわただしく残りの三人を順に指差した


「じゃ、じゃあなんでお前らは大丈夫なんだよ!」


三丁目は思う所があったのか、静かに目をつむり、再び開く、その落ち着いた瞳は真っ直ぐと一宮の目を見つめていて、休日のデパートの空気を張り詰めさせた。合間、子連れの家族に汚いものを見るような目で見られたような気もするが、気にするはずも無い


「……まず神海と天草が法則の餌食になる確率は限りなくゼロに近い、理由は単純、今までの歴史を振り返る限り、女性の噛ませ犬は男のそれに比べてはるかに少ないからだ。いいとこF◯7のスカー◯ットが限界だろう」


淡々と語り告げる三丁目の妙な迫力に、一宮は今一歩あとじさった。両手が震えていることに気付き、あせって手の甲を噛む




「た、確かにそうだが、ならお前はどうなるんだ三丁目ェッ!」



三丁目はため息を漏らす。それは諦めでも、同情でも、はたまた希望でもない。ただ一宮の目の前に立ちはだかる現実に、彼の成す術もないちっぽけさから出た絶望にほかならなかった…




「主人公……だから…さ…」


「…!」


歯を食いしばり、視線を落とす。悔しい…悔しいさ…!でも…これが現実なんだ!!!



「そ…んな…馬鹿…な…」



一宮は三丁目の口から出た言葉が信じられないのか、口を抑え、一歩…また一歩と吹き抜けの踊り場にあとずさる、見えない何かに怯え、見えてしまった現実に絶望し、全存在を否定された彼は、踊り場から身を踊らせようとした…


「馬鹿野郎ッ!」


すかさず三丁目が自分を失くした一宮に飛び付く


「ほ、ほっといてくれよッ!………ああそうさッ!!!薄々感づいていたさッ!!俺はこの世界において何の引き立て役にもならないお荷物だってなァッ!!!」



「……ッ!こンのッ根性無しがァッ!!!」


「ゲフッ!!!」


三丁目の強烈なアッパーカットが一宮の顎に炸裂し、一宮は本当に踊り場から飛び出そうになった。あわてて手摺りを掴み体勢を立て直す、生存本能は強力だ



「脇役?それがどうしたッ!男なら…一宮金次郎なら…!んな小せぇ壁に撲ち当たったくらいで諦めてんじゃねェッ!!!」


「サ、サンチョ…」


胸倉をつかまれて無理矢理起こされた一宮は、度重なるショックのあまり何も言い返せなかった


「…見ろよ…」


三丁目の視線の先には何故か夕日がある。はて?ここは屋内では?


「ああ…そうだな…」


一宮は目をつむる、様々な思い出が頭をかけ巡った。みんな…みんな…掛け替えの無い大切なものだ……




「俺達は………」


…………



………



――――――




「…この世界で…むにゃむにゃ…」



幸せそうな顔をして寝言を呟く一宮を、三人がうえから見下ろしていた


「……やっぱり打ち所が悪かったのか?」


「もともとでしょ?」


「まさか階段から滑って落ちるとはな…」


ため息を漏らす三丁目、不憫すぎて目も当てられない、最初の予感はズバリ的中してしまった


「…来るぞ」


天草は一宮そっちのけですでに臨戦体勢に入っている。三丁目と神海も一宮から目を離し、向こう側に立つ忍者…ではない、近衛高校の制服を着た女の子を軽く睨みつけた


「……五階の障害物はあなたなのね………穂村さんッ!」



「……ええ」



そう…マルノヒ百貨店五階にて、待ち伏せていたのは、サバゲー以来姿を見せなかった2―6委員長、穂村歩であった。うつむき加減のままズレてもいない眼鏡の位置を直す


「なんで穂村さんが…」


三丁目のセリフを聞き、さきほどまでなんの表情も浮かべなかった穂村さんの顔が初めて歪んだ


「なんで…ですって…?」


水をうったような緊張感が周囲を包む、そこだけ明らかにデパートの雰囲気から逸脱していた


「…んもの……」


「え?」


うつむきながら肩を震わせる穂村さんに、思わず聞き返してしまう、相当な感情があるのだろう…でなければこれほどまでに空気は震えない




「誰もお見舞いに来てくれないんだものッ!!!」


「は?」


今度は三人が同時に聞き返した、お見舞い…確かにしばらくぶりの登場だが…


「いや、でもそれは忘れてたってわけじゃ…」


「そんなことはわかってるわ!」


言い終えぬうちに尋常じゃない剣幕で遮られたので、三丁目はそれ以上なにも言えない


「新キャラでしかも脇役の生存確率が何割か知ってる!?約二割よ(当社比)二割(当社比)!そんな中私の出番と来たら最初と話で出るくらいじゃないッ!」


……すまん穂村さん…俺には何を言っているのかよくわからない、それに関わるのは非常にまずい気がする


「まあそれはいいわ…こうして出番がもらえたことだしね…」


「うん…良かったね…」


「じゃあ行くわよッ!五階の障害物は私を倒すことッ!私はレギュラーに返り咲くわッ!!!」


『ピンポンパンポーン』


ずてっ


「な、なに?」


勢いあまって床に這いつくばりながらも、穂村さんは顔を上げた。



『えー、ただ今入った情報によると、屋上に御深平高等学校チームが到着したそうでーす。トロフィーが贈呈されるのでみなさん屋上にお集まりくださーい』


あのインテリメガネ軍団…リタイアしたんじゃなかったのか…、てか障害物の意味あったのか?


「どうしてこんな役回りなのよーーーッ!」


目に涙を浮かべながら床を叩く穂村さん。不幸レベルなら一宮といい勝負かもしれない



「でもなんで穂村さんがここにいるんだ?」


「ああ、それなら簡単だ。歩はマルノヒ百貨店社長、穂村正彦の娘だからな」


腕を組みながらぬけぬけと言い放つ天草、最初からこいつは知っていたらしい、間山さんでもいままで知らなかったっぽいのに…


「天草……お前何者だ?」


「ふ…、安心しろ…敵ではない……今は、な…」


なにやら意味深なことをほのめかす天草を無視し、三丁目は思った、ずいぶんとぐだぐだな締めかただな…、と


そして人知れず、ため息を漏らすのであった…

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