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十四丁目 ボランティアとは何か

体が痛い…。いやもう冗談じゃなくて…


「おあいこだろや」


「いちち…俺はお前のように高速治癒能力なんか持ってねぇんだよ…」


腰を抑えながら階段を上る、一般のお客さんももちろんいるので、人の多いエスカレーターやエレベーターを使うわけにはいかない。障害物はまだ四つあるんだ、今から焦ってもあとで潰れてしまう


「おーい、次の障害物らしいよー」


神海が階段のうえから手を振った。


「次はできれば頭を使う方の障害物であって欲しいな…」


「まったくだ」


ひいひい言いながら階段を上ると、やっとこさ二階にたどり着いた、確か二階は紳士服売り場のはずだ。店の売上としてもスーツは汚したくないはず、よって激しい障害物は無い……と思ったのは浅はかだった



「マジかよ…」


目の前に広がる惨状を目の当たりにし、疲れがどっと込み上げてくる


『障害物2、ゴミ拾い』


エレベーターの前に、無機質なワープロで書かれたような文字で紙が貼られていた


「確かにボランティアだ…が…やりすぎだ…」


二階のフロアはありとあらゆるゴミで埋め尽くされていた。その中で、衛治高等学校のみなさんが籠をかついで掃除に勤しんでいる


「お前らー!汗を流すのは最高だなー!!!」


「うっす!」


真面目な彼等は、指示通りゴミ拾いをしていた。表情を見ると、とても気持ちがよさそうだ


「なんか…アレだな…久々にやった部屋の掃除みたいな感覚に似てるな」


「なんとなく言いたいことはわかるぞ三丁目」


天草が腕を組んで同意した


久々に部屋の掃除をすると、なんだか気持ちが良くなってついついやらなくてよいところまで手を掛けてしまう。そんな感じだ。それを狙っているのかはわからないが、少なくとも彼等は見事に術中にはまっている


「ねぇ、ここってやる必要あるの?判断基準わからないし…」


「確かに…、この量じゃ永遠に、少なくとも今日中には無理だろうな…」


「上に、上がろうか…」


誰も一宮の提案に反対しなかったので、一行は衛治チームに心の中で声援を送りながら階段を上っていった



――――――


―――



上った先の光景にはさらに度肝を抜かれた。二階の障害物で驚いたときと同じ部類の驚きだ


「募金お願いしまーす」


募金活動…



『障害物3、赤い羽根募金』



「ねぇ…、帰ろうか」


「…そうもいかんだろ」


そもそも考えてみればボランティア活動というものは地味なのだ。悪口を言うわけではない。ただ目立つことをすることがボランティア活動では無くて、人間としての徳、と言うべきか。そういうのを養ったり、無償の心で活動することが大事なのである。


「募金オ願イシマース!ホラアナタタチ!シッカリト声ヲ出シナサイ!」


「はい月日お姉様!」


従順な三人だったが、君達の目は節穴なのか?仮にそうだとしたら、なんでもいいからその穴に詰め込んであなた方のリーダーを見てくれ。


「ママー貞◯ー」


「こら!見ちゃいけません!」


これでは募金もへったくれも無い、かわいそうなのだが


「どうするんだ?三丁目」


「これもまあノルマはあるんだろうが…不毛すぎからなぁ…」


「…ごめんな三丁目、ドロップキックしたりして…」


「ああ…俺の方こそすまん…足掛けしたりして…」


なんだかテンションを上げておばあさんから激しく逃げ回っていたのが恥ずかしくなった。再三に渡り言うが、ボランティア活動に罪はない。ただただテンションは下がりに下がる


今度は全員無言で階段を上がった…


――――――


―――




「ふ…ようやく来たようだね…」


四階に上がると、待ち受けていたのは…


「あ、兄貴!?」


そう、浅岡幹人、その人である。上はTシャツに下はジーンズというラフな出で立ちだ


「なんで兄貴がここに……ああ、なるほど…」


皆まで言う前に気付いた。兄貴の白いTシャツに『We Love Volunteer』と書かれている


「はっはっは!いやぁ懐かしいなァ!四年前のキングオブボランティア!思い出すよ…、見事我が近衛高校チームが栄冠を手にしたときのことを…」


…司会のお姉さんが言っていたことがわかった。こいつが何かやらかしたのだ。それもそうだ。こいつを絡ませればたとえゲートボール大会のようなほのぼのしたものでも、たちまち全米オープン並に様変わりすることだろうからな


「し、師匠!何故ここに?」


一宮はまだ状況を飲み込めていないらしい。師匠と仰ぐのはサバゲーで意気投合したからだろうか、何にせよ迷惑な話だ


「で、これはなんの障害物なんですか?」


「薄々予想はつくがな」


神海と天草のテンションはこの上なく低かった。これでもしドブさらいとでも言おうものなら本気で帰るだろう


「ふふふ…言うまでもない…」


兄貴はそう言ってヒーローが変身するポーズをとる。おもちゃ売り場なので恥ずかしさ倍増だ、もちろん俺の


「僕を倒すことさッ!キングオブボランティア史上最強のボランティアラー、浅岡幹人をねッ!!!」


ボランティア関係ね〜…


「ふむ、本当なら僕の相方も来るはずだったんだがね、所用で今日は欠席だ」


どうでもいいわ



「三丁目、どの程度やっていいんだ」


天草がどこから取り出したのか、なべつかみをはめている。まさか盗んだわけではあるまい


「ああ、もうある程度呼吸ができるくらいならいくらでも」


「わかった」


「お兄さん、ちょっと暴れさせてもらいますよ〜」


ストレス発散と言わんばかりに腕をぶんぶん振り回す神海


「くっ…何故師匠と戦わねばならんのだ…ッ!」


「迷うなマイピューピル、そう教えたはずだ…」


「し、師匠ぉ…」


感涙するな、気色悪い


「さぁ…かかってきたまえッ!」



兄貴、天草、神海、が同時に地面を蹴る。兄貴は天草と神海の攻撃を紙一重でかわす、それだけ見ていると奇妙な踊りのように見えるが、なんともはや攻撃が当たらない、業を煮やした神海は、攻撃のスタイルを変えた


「劣化小春流……行雲流水!」


「むッ!それは母さんの技!サバゲーでコピーしたのかッ!だがまだまだ発展途上ォッ!」


「キャァッ!」


「ふはは!貧弱貧弱ゥ!」


おおよそ行雲流水の本来の意味に似つかわしくない神海の必殺技を、兄貴は近くにあったおもちゃを手辺り次第に投げて回避した。ボランティアってなんなんだろう…


「お兄さん、よそ見は禁物ですよ」


「な、なんだとぉぉ!」


「ロードローラーだッ!」


「うぐぅ…」


「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!」


ああ…わからない人は気にしないでくれ、ロードローラーを相手の頭上に持って来てその上から掛け声に合わせて叩きまくる、という技だ。もっとも天草が持って来たのはこども広場の遊具だが


「オラァァ!」


「くぁ!私のロードローラー(遊具)が…!」


どうやら兄貴には通用しなかったらしい…




「なぁ三丁目」


「なんだ一宮金次郎」


「俺達は見てるだけだがいいのか?」


確かにさっきから俺達は解説に徹している


「ああ、これはあの二人にストレス発散させるためにやってるようなもんだからな、倒そうと思えばいつでも倒せる」


「マジでか!」


「何年一緒に暮らしてると思ってるんだ、と、そろそろいいかな…」


あいつらも存分にすっきりしたろ、さて…


「兄貴!神海と二人きりで話がしたい!」


幹人の動きがピタリと止まる


「…三分だけ待ってやる!」


ピストルなど持っていないのに、装填するふりをする兄貴


ほら、アホだ


「何よ話って」


息を切らして神海と天草が戻って来た


「いいからほら」


「な、何よ」


三丁目に手を差し出されて若干戸惑う神海、顔を赤らめながら手をとった


「ははは!決まったかね?どうする!そのバズーカで私と戦うか!」


バズーカなんて持ってねぇ、まあいいや…


「せーのっ、バルス!」


「ああああ!目が〜〜目が〜〜!」


バカが目を押さえている内に三丁目は地面を蹴り、根心のボディブローをいれた


ドスッ


「ぐはぅ…み、見事だマイブラザー」


兄貴は腹を抱えたまま、その場にどさりと倒れた


「ったく17年も一緒に暮らしてりゃ、弱点まるわかりだっつの」


「……」


「どうしたー?先行くぞー」


階段を上っていく三丁目を後ろから見ながら三人は思った



浅岡家で最強なのは実はこいつなんじゃないか、と…

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