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十二丁目 キングオブボランティアの道

忘れていたわけではない。当たり前だ。そんな失礼なこと、断じて有り得ないのだ。ただ少しいろいろあり過ぎて頭の片隅に追いやられていただけなのだ。もう一度言おう、忘れていたわけでは、ない……


――――――


『キングオブボランティアの道』


―――




「えー、おはよう野郎ども」


「おはようございます間山先生」


今時小学生でもしないような挨拶をする近衛高校2―6、理由は…言わずもがなだ


「オラァ浅岡三丁目ェ、朝から俺のありがたい話を無視か?いい度胸してるじゃねぇか」



男ではない、性別の欄には一応♀と記される


「そうだな、お前昼休み職員室来い」


「そ、そこまで!?」


「安心しろ、んなことで怒るほど俺は短気じゃねぇ、用があんだよ」


「用、ですか…?」


「ああ、っと鐘も鳴ったことだし解散ー!」


なんとなく釈然としないまま、クラスは一時間目の授業の準備やらなにやらでざわつきはじめた



――――――



「お前何かと間山さんに目、つけられんなぁ」


前の席の一宮が、体をこちらに向け、心から、とまではいかないが同情する


「なんでだろうな、てかお前体は大丈夫なのか?」


確かアニマの電気ショックをもろに浴びたはずだ


「なんのことだ?あ、そうそう、なんか俺おとといの記憶があいまいなんだよ、お前と一緒に学校でたところまでは覚えているんだが…」


顎に手を当て、うんうん唸る一宮、深く思い出そうとすると頭が痛くなるらしい


「………いや、きっと疲れてたんだな、いかんぞ、ゲームばかりやっていたら」


何も言うまい、言わぬが仏ということわざが…。あれ…なんか違くねぇか?


「言わぬが花、知らぬが仏でしょー…」


眠たそうな顔で正論を言ってくるのは神海杏奈、その人である。おのれついに読心術もマスターしたか


「間山さんも言ってたけど、あんた本当にすぐ顔に出るわね…」


ため息を漏らす神海


「マジで?そんなにか?」


一宮に真意を尋ねる


「いや、俺にはなんのことだか」


ああ、良かった、こいつらがおかしいんだ


「だれがおかしいのよー…ふわぁふ…」


覇気が無い、自慢のオーラも今日に限って30%オフだ


「どうしたお前?」


「どうしたもこうしたも無いわよ!昨日ボロボロになって帰って来たお義姉ちゃんとアニマにどんだけ手をやかされたと思ってんの!?」



「…ああ、なるほどな…だがありゃ母さんの仕業だ、俺に非は無い、そんなに怒鳴るな」


「そりゃそうだけどね…」


口ごもる神海、目の下に大きなクマができている、さすがに同情を禁じ得ない


「おい、サンチョ」


なんとなくおいてけぼりだった一宮が俺の肩をたたく


「サンチョ言うな」


「いいのか?」


「あ?何がだよ」


すっ、と三丁目の後方を指差す一宮


「うぉッ!やばッ!」


時刻は昼休み終了5分前、職員室に急がねば!


「死ぬなよ〜」


「あとで何話したか教えなさいよ〜」


のんきに手を振る二人を無視し、三丁目は一階にある科学準備室に急いだ


――――――


―――




「すいません遅れましたー!」


昼休み終了の鐘が鳴った。完全に忘れていた


「ああ、別にすぐ終わるからいい」


な、なんだと…?あの鬼の間山が…


「さては貴様間山裕子じゃねーなァ!大方千軒堂の差し金だろう!」


度重なる珍事で、三丁目は少し人間不信に陥っていた


「っとに失礼なやつだなお前は…」


怒りを通り越して間山先生は小さくため息を漏らした


「すいません、最近いろいろあり過ぎて…」


「まあいい、とりあえずほれ」


「なんですかコレ」


間山先生から渡されたものは一枚の紙切れだった。見ると、地図らしきものが書かれている。その中の建物に赤く◯がつけられているのを見つけた


「放課後、そこへ行け」


「ってコレ、マルノヒ百貨店じゃないですか、地図無くてもわかりますよ」


そうか、とコーヒーを手に取りすする、どことなく挙動不審な間山先生、一体何事だろうか


「なんでまたマルノヒ百貨店なんですか?」


「いや、行けばわかる…、それと一人では行くな、一宮と神海、それに天草も連れていけ」


「?」


「まさか…あいつが……だとは…な…」


「はい?」


「いや、なんでもない、気をつけて行け」


………


…イヤな予感が…


――――――


―――



マルノヒ百貨店は千軒町から駅二つ離れたところにある大型ショッピングセンターだ。と、いっても俺達千軒町住民は、大抵の用を近くにあるミスターパワフルで済ましてしまうので、休日や、特に専門的な物品を求めるとき以外に利用しないのだが


タタン…タタン…


俺達四人は今、千軒町から離れ、電車にゆられている


「悪いな、つきあってもらって」


「ふ…いいってことよ、親友だろ?」


ビシッと強く親指を立てる一宮


一宮…お前ってやつは…涙で前が霞むぞこのやろう!


「キモ…まあ間山さんの頼みだからあたし達も行くけど…、なんなのかしら?」


天草も同じ感想と疑問を抱いたのか、複雑な表情をしている


「さあな、行きゃわかるってよ」


自分で言ってみておかしいのはわかる。だが、わかんなかったら普通に買物しよう、そっちの目的の方が大きかった三丁目であった


「あー、雨になんか買ってっおいてやるかな…」


のんきにそんなとこを考えながら、小刻みに揺れる電車にゆられていった…



――――――




わかったよ間山先生。わけわからんが行けばわかるというのはわかった…


三丁目の悲痛な叫びはファンファーレの音でかきけされた


『さぁ!始まりました!マルノヒ百貨店主催、名付けてバトルボランティア!!!バトルオリンピアではありません!!!悪しからずッ!!!』


青山さん…じゃないな、普通の人だ。


吹き抜けになっている一階のフロアで、壇上に登り、一人の女性がマイク片手に熱弁していた


『えー、このバトルボランティアは荒神谷町、箸墓町、稲荷山町の三つの町から選抜されたえり選りの高校、それぞれ、御深平高等学校、崎守高等学校、衛治高等学校から選ばれた四人の生徒が……え、千軒町の近衛高等学校を忘れてる?ご心配無く!近衛高等学校は今年事情により不参加でーーっす!』


なんで嬉しそうなんだ…


ふと見れば、集まった観客(相当な数だ)も、みなそれぞれのリアクションをとっている。胸をなで降ろす人もいれば、残念そうにため息を漏らす人もいた。過去になにかあったんだろうか…。てか近衛高校に入って一年経つが、こんなイベントがあったなんて初めて聞いた


『それでは恒例のルールの説明を……え、なに?』


ん?なんだ?


(ちょっと、何よ!は?近衛高校が来てる!?う、嘘でしょッ!?あそこには招待状を送っていないはずなのに…)


……


(馬鹿ッ!そういうことは先に言いなさい!あんな変態高校が来たら4年前の二の舞になるじゃない!)


…よく聞こえなかった、ということにしておいてくれ


『い、今し方入った情報によると、近衛高等学校も参加…するそうです…』


観客から多種多様な歓声がこだます、おそらく中傷なのだろうが、観喜の悲鳴の方が圧倒的に多かった。みな刺激を求めているらしい



「……」


絶句だ。なんと言えばいいかわからない。


「なぁ三丁目、さっきの言葉、撤回していいか?」


そろそろと逃げようとする一宮を押さえ付ける

気持ちは痛いほどわかるが、させるか


「面白そうじゃない」


「そうだな」


神海と天草だ。もうこいつらはどうだっていい


『…それでは…近衛高校のみなさん……壇上へどうぞ…』


明らかに声に力が無くなった司会の女性に促され、俺達四人は無理矢理壇上に上がらされた


「やれやれ、近衛高校も参加するのですか、いや良かった良かった。今年は張り合いがありそうです」


同じく壇上に上がっている黒淵眼鏡の学ランがイヤミたっぷり眼鏡を上げる


「コノエコウコウ…!四年前之雪辱…許サナイワ……!」


学ラン眼鏡の隣に並んだ◯子みたいな女が、これまた貞◯のようなやたら長い髪を揺らし、背筋に悪寒の走る声でぶつぶつ呟く。てか四年前ってあんた高校いないだろ


「よろしく近衛高校!正々堂々と戦おう!!!」


今度は明らかに体育会系の男である。真っ黒に日焼けした肌から覗かせる真っ白な歯が眩しい。春先でまだ寒い季節だと言うのにタンクトップ一枚だ


それぞれキャラがこすぎる三人の後ろには、これまたそれぞれ同じオーラを持った三人が控えている。俺達近衛高校よりよっぽど個性豊かだろう…


『えー、気を取り直してルールの説明をしたいと思います!このバトルボランティアは、青少年にボランティア精神を養ってもらうために開かれ、またそれぞれの町の活性化をはかるという目的で毎年行われています!ルールは簡単!われわれ、ボランティアプロデューサーは、このマルノヒ百貨店各階に、五つの障害物を設置しました!その障害物を全てクリアし、屋上にいる社長の元までたどり着けた高校がキングオブボランティアの栄光を掴むことができるのです!!!』


嬉しいんだか嬉しくないんだか、もらったところでいかんともし難いものがある。どうやらボランティアよりも活性化に重点を置いていると見える


『さぁそれでは作戦タ〜イム!!!他チームをどうやって蹴落とすか考えちゃってくださいッ!!!』


ボランティアってそんなバイオレンスだったか?


「ともあれ、こりゃもう逃げられないな…」


「そ、そんな…」


ガックリと肩を落とす一宮、悲惨な最後を遂げるのが目に見えている分、不憫でならない


「とりあえず優勝よ!」


「優勝優勝」


男より男らしい女二人は仲良く拳を上げて、鋭気を養っている


「わかった…俺もこの状況にだいぶ慣れてきた。優勝するにも作戦はどうするんだ?」


「んなもん強行突破よ!強行突破!」


……


「……天草は?」


「『ガンガン行こうぜ』」


おい、なんだその誇らしげな顔は


『は〜い!作戦タイム終了です!それではいいですか〜!レディー……ファイトッ!!!』


クラッカーの音とともに戦いの火ブタが切って落とされた。それぞれのチームが四散する


「みなさんいいですか!『いろいろやろうぜ』ですよ!」


「はい!古宮先輩!」


………


「アナタタチ、『命を大事に』デスヨ」


「任せてください月日お姉様!」


…………


「お前らー!いいか、『おれにまかせろ』だァァァァッ!」


「押忍!豪川さん!」


……………


「い、行くぞ〜『ガンガン行こうぜ』だぁ〜……」


「………おー」


もうどうにでもなれ…

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