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十丁目 浅岡家の訪問者

二部構成です。

「37.8分、風邪だね…」


「はっはっは!体をもっと鍛えたまえ!マイブラザー!!!」


「やかましい、頭に響くんだよ、とっとと出てけ」


今朝からどうも体がダルいと思ったら、風邪を引いてしまったらしい。気温の上下が激しいのもあるだろうが、連日の疲れが出たんだと思う。サバゲー…夫婦喧嘩…奇跡のロボット……一週間弱で普通の人間が一生経験できなさそうなことを経験したのだから…


「安心したまえ!帰りに蘭氏からアクア・ウイタエをもらってこよう!!きっともう風邪など引くことの無い最強の肉体を手に入れることができるッ!!」



「うるせぇ…はよ大学いけ…ごほっごほっ!!」


「だ、大丈夫!?」


「あ、ああ…」




雨に背中を摩ってもらい、多少気分が落ち着いた


「やっぱり私、学校休もうか?」


ちなみに親父は会社で母さんは実家に帰っている。念のために言うが、喧嘩したわけではない


「アホ、馬鹿なこと言ってないで行け、遅刻するだろ…」


「でも…」


空元気を出しては見たものの、やっぱりつらい。それを見抜いてか、雨は心配そうに俺を見ている


「はっはっは!大丈夫さマイシスター、今日は僕の帰りが早いからね、二時くらいには家に帰るさ!」


兄貴の気遣いに、ほんの少しだけ感謝し…さらに押しを加えた


「そういうことだ、俺のことは気にすんな…」


「う、うん…でも何かあったらメールしてね、すぐ帰ってくるから」


「では僕もなるべく帰ってくるとしよう」


バタン…


部屋から出る二人にひらひらと手を振り、扉が閉められたのを確認すると、三丁目はそのまま枕に頭を埋めた。頭痛から解放されようと、体はすぐに眠りに落ちていった…


――――――


『浅岡家の訪問者』


―――






………


どれくらい眠っていたのだろうか、喉の渇きで目を覚ました。霞がかった頭で、平日の我が家はこんなに静かなのか、などと考える



「ピーンポーン」


ん?誰だろ…


時計を見ると、11時。こんな時間に訪ねてくるのは…



「ああ、こんにちわ桃江さん」


「こんにちわ三丁目さん、具合いはいかがですか?」


表情は伺いにくいが、たぶん心配してくれているのであろう、ありがたいことだ


「ええまあ、大分良くなりました」


嘘ではない、少し寝たので、頭も徐々にすっきりしてくる


「そうですか、私達が看病できれば良いのですが」


心なしか残念そうな声の桃江さん。大丈夫です、新鮮なものを聞けただけで大分ラッキーですから


「何かあったんですか?」ズズッと鼻をすすりながら尋ねる


「はい、姉さまが逃走しまして」


「また青山さんですか…」


「困ったものです」


ため息こそつかないものの、桃江さんはお疲れのようすである


「何やったんです?」


「私のジョナサンとジョセフによからぬことを…」


ジョナサンとジョセフがなんであるかは差し置いて、どうも個人的な理由らしい。


『きみの手っで〜♪』


桃江さんの携帯が懐かしい曲を奏でた


「失礼します」


「あ、はい」


ピッ


「…どうしました?はい…はい…そうですか…まさかインドシナの方にだとは…そちらは盲点でした…」


どこまで逃げてんだよ!


「わかりました。私も早急にそちらに向かいます、渋谷さん、あなたはメコン川中流域からラオスへ入り、赤坂さんと四谷さんには大使館へ向かうよう伝達してください。抵抗するようならば発砲も許可します。ゆめゆめ油断なさらぬよう」


ピッ


マシンガンのように無機質で物騒な会話が終わった


「……」


「すみません、私はここで失礼します、お騒がせいたしました」


ぺこりと頭を下げる中目黒桃江さん


「…いえ」


……バババババ!!!


突如現れた豪音とともに、凄まじい爆風が浅岡家を襲撃した。三丁目は飛ばされないよう門柱にしがみつきながら頭上を確認すると、ヘリコプターが浅岡家上空に滞空していた


「お体―気を――て―」


桃江さんがヘリから降ろされた縄ばしごにつかまりながらなにか言っている、が、よく聞き取れない、わけもわからないままただ呆然と手を振った。


バババババ……


ヘリが遠ざかり、植木鉢やら洗濯物が散乱する浅岡家の前に、三丁目だけが取り残される


………



「……仕事しろよ」


かろうじて三丁目の口から出た言葉は、悲しくなるくらい的を得すぎていた……


――――――


―――






「腹…減ったな…」


さっきのことで頭痛はほとんど吹っ飛んだ。そりゃそうだ、下手すりゃ俺も吹っ飛ぶところだったからな


三丁目は汗でびっしょりのシャツを脱ぎ捨て、軽く体を拭くと、テーブルの上にふとメモを見つけた


『お兄ちゃんへ

食欲が出たら冷蔵庫にあるオムライスを温めて食べてください』



「……理想の妹だなこりゃ…。ん?」


『ピーンポーン』


今度は誰だろ



「はーい、今出ますよー」


ガチャ


「こんにちわ〜出張千軒堂で〜す」


ニコニコした蘭蘭さんが手をふりふり振っている


「……」


しばらく見つめ合う三丁目と蘭さん


……


「オラァッ!!!」


三丁目が思い切り扉を閉める


「なんのっ!!!」


負けじとお姉さんもそれを押し返した。扉をはさんだデスマッチである


「あらあら〜。こんなに美人のお姉さんが看病に来てくれて、それは無いんじゃな、あ、いッ!」


ギリギリと歯を食いしばりつつ、引き釣った笑顔で扉を押すお姉さん


「あいにくと五右衛門風呂は趣味じゃない、ん、で、ねッ!」


三丁目も病人の体力ながら精一杯扉を押す。病人といっても相手は引きこもりのモヤシマッドサイエンティストである


「だれがモヤシだッ!」


あらぬ方向に向かってツッコむお姉さん。


「どこ見て言ってんだか!おててがお留守だぜ!お姉さん!」


バタン!


勢い良く扉が閉まる


「ふぅ…」


三丁目は鍵をかけ、扉に寄り掛かる形でその場にへたりこんだ。ったく、そう何度も実験材料になってたまるか!


ビュッ


ん?


どこかで聞いた擬音だな…


三丁目はふと上を見上げた


「……冗談だろ?」


扉の上半分が消失していた。くり抜かれたように、鮮やかに


『はじめからこうしておけば良かったのじゃ』


アニマである。肩に取り付けられたレーザー銃が熱で湯気を発している



「あんた何てもん取り付けてやがんだッ!!!」


「いやぁ、メンテナンスしてたら面白くなっちゃって、面目ない面目ない、にゃははは」


とりあえず反省はしていないようだ


「あーあ、どうすんだよコレ」


失くなった部分を手のひらで摩る。あの吸血鬼でもここまで綺麗に暗黒空間にもっていけないだろう


「うーん、このレーザーその気になりゃ10万度は出るからねぇ…、破片は蒸発しちゃったでしょう」


「……照準が5度ずれてたらどうする気だったんだ」


今になって震えがきた


『安心せい、無駄に生物を殺生するほどわらわは落ちぶれておらぬ、さきほどの攻撃も出力の30%ほどしか出してはいないからのぅ』


「30%……」


妖怪になってしまった人間の30%でもこれほどじゃ無かった気がする


「まあこれは責任もってあたしが直すから。それに今日は純粋に看病に来たのよ?この前のおわびにね」


蘭さんが屈託の無い顔でにっこり笑う。怪しい…


「作為を感じるんだが…」


『三丁目、小さきことばかり気にしていては立派な人間になれぬぞ?わらわがわざわざそちに治療を施してやろうというのじゃ、身に余る光栄であろう?ホホホホ』


確かに文字通り全ての痛みから解放されそうだ。楽になる、とはそういうことだろう。


「ロボットに道を諭されてもなぁ…」


「というわけでおじゃましまーっす!ほらアニマ、おじゃまします、は?」


『ふん、下々の民家に赴くのになにゆえわらわが礼を尽くさねばならぬ』


「こらッ!」


『うるさい』


「ふぎゃぁ!!」



…こいつら、単に暇なだけだろ…


三丁目は名残惜しそうに扉をなぞり、母さんが帰って来たときの言い訳をしばらく考えていた

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