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悪役令嬢の誤算

悪役令嬢は、聖女を泣かせたい

作者: おかゆ
掲載日:2026/07/16

悪役令嬢の誤算シリーズ3

「ベル」


「はい、お嬢様!」



午後のティータイム。

セレスティアは優雅に紅茶を一口飲み、静かに言った。



「聖女ソフィアを、泣かせてきなさい」



ベルは勢いよく立ち上がる。



「ついに涙を! では、玉ねぎを刻みます!」


「却下です」


「激辛料理をご馳走します!」


「却下。嫌がらせがセコすぎます」


「怖いお化けを放ちます!」


「……どうやって?」



ベルはガクッと肩を落とした。



「泣かせるって難しいですねぇ……」


「あなたは涙というものを軽く考えすぎです」



セレスティアは静かにティーカップを置く。



「明日は収穫祭。聖女は子どもたちと一緒に、収穫した野菜で大鍋スープを作る役を任されているそうです。もし、その食材が台無しになったら?」



ベルはハッと目を丸くする。



「子どもたちが悲しみます……!」


「ええ。聖女は善人。子どもたちを悲しませたとなれば、自責の念に耐えられず涙を流すでしょう」


「さすがお嬢様! 悪魔の所業です!」



その時だった。



「お役に立てそうですね!」



白い翼を揺らしながら、ルミエルがひょこっと現れる。



「……聞いていましたか」


「はい! 今度こそ、分かっています! 任せてください、とびきりの涙を流させてみせます!」



無駄に自信に満ちた宣言をして、ルミエルは嵐のように飛び去っていく。

ベルが長いため息をついた。



「お嬢様」


「ええ」


「嫌な予感しかしません」


「……」




**




翌日。王都の収穫祭。

広場では、大鍋いっぱいの野菜スープがグツグツと煮込まれていた。

子どもたちは笑顔で野菜を運び、ソフィアもエプロン姿で鍋をかき混ぜている。



「皆さん、熱いので気をつけてくださいね!」



その様子を上空から見ていたルミエルは、嬉しそうに手を合わせた。



(食材を台無しにする……。つまり、スープを作る『食材』が無くなってしまえば良いのですよね! 全部美味しくお料理して食べちゃえば、食材は無くなります!)



ふわり、と柔らかな光が舞った。

その途端、「今日のスープは神がかった美味さだ!」と噂が広がったように、収穫祭は大盛況となった。



「おいしい!」


「今年のスープ、おかわりが止まらないぞ!」



またたく間に大鍋はきれいに空になった。

「ごちそうさまでした!」と子どもたちの元気な声が響き、ソフィアはほっと胸を撫で下ろした。



「皆さん、お腹いっぱいになりましたか?」



その時、一人の男の子の口元に、小さな人参がくっついているのが目に入る。



「あら、食べ残しですよ。最後まで食べないと、せっかくの美味しい料理が()()()ですよ」



ソフィアが優しく微笑み、人参を指でつまんで男の子の口へ運ぶ。

男の子が「えへへ」と照れくさそうに笑うと、今度は近くにいた女の子が目を丸くした。



「聖女さま、聖女さまも」


「え?」


「ここ、ついてる!」



女の子が自分の口元を指差す。ソフィアも慌てて自分の口元へ手を伸ばした。



「ここですか?」


「ちがうー! もっと右!」


「もっと上上!」


「そこじゃないよ!」



子どもたちが一斉に指を差し、口々に騒ぎ立てる。

ようやく口元についた小さなじゃがいもを指先で見つけたソフィアは、「あ……」と一瞬だけ固まった。



「あははは! 聖女さまも食べ残ししてるー!」


「人のこと言えないね!」



ソフィアは顔を真っ赤にしながら、「っふふ」と思わず吹き出した。



「本当ですね。私も最後まで食べないと」



お姉さん顔で注意したソフィアのその締まらない姿に、子どもたちはさらに笑い転げる。

ソフィアもお腹を抱え、目尻に涙を浮かべながら「あははっ……!」と笑い出した。



広場は今日も、これ以上ない温かな笑いに包まれていた。




**




少し離れた物陰。

ルミエルは満足そうに頷いた。



「大成功です!」


「……何がです」



セレスティアの冷徹な声が響く。



「食材を完全になくしました! 聖女も泣いています!」



視線の先では、ソフィアが笑い涙を拭きながら、子どもたちと楽しそうに話している。

セレスティアはゆっくりと目を閉じた。



「……確かに。泣いていましたね」


「ですよね!」


「ですが」



セレスティアは冷たく言い放つ。



「私が望んだ涙とは、成分が180度違いますわ」



ルミエルは本気で不思議そうに首をかしげた。



「でも、皆さん楽しそうですよ?」


「それが一番、私のプライドに障るのです」




**




その夜。公爵家の自室。

セレスティアは机に向かい、一冊の革張りの手帳を慎重に開いた。



表紙には金文字で『聖女××計画帳』と刻まれている。



羽ペンを手に取り、今日の記録を書き込む。



――作戦3

結果:失敗。

敗因:天使。



ぱたん、と手帳を閉じる。



「……次こそは。次こそは絶対に……!」



その決意とは裏腹に。

廊下の向こうから、ルミエルの楽しそうな鼻歌が聞こえてくる。



『明日もお役に立てるよう頑張ります!』



セレスティアは静かに額へ手を当てた。



「……だから、それが一番困るのですわ。」





【登場人物】

セレスティア:公爵令嬢。完璧主義で、今日も華麗な計画を立てる。

ベル:セレスティア専属メイド。お嬢様を慕う、元気なメイド。

ルミエル:ひょんなことからセレスティアへの恩返しに奮闘する押しかけ天使。

ソフィア:庶民出身の聖女。


※ルミエルは、基本的に関係のない人たちには見えていません。

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