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6話 ルミヤルヴィの戦争⑦

 フレデリクは一日かけて走り、ボーデンフェルト市に辿り着く。

 ここには戦争しに来たわけでも無いので大人しく冒険者入り口から冒険者証を見せて中に入る。移民、商人、冒険者、通行者などでそれぞれ入り方が異なる。冒険者は出入りだけで陽が暮れてしまっては仕事にならない為、犯罪者じゃない限りは簡単に出入りできるようになっている。そして、帝国は通行税を基本的にとってはいけない法律があるので、素性チェックだけされているだけという仕組みだった。

 中に入るとかなり栄えた街だった。


「ボーデンフェルトまで来たは良いが、どうしたものかなぁ」

 会う予約を取って面会待ち状態になるのは避けたいが、そんな暇はない。ルミヤルヴィの使者だと言って通れるかも怪しい。

 考えているとそこに小柄な女の子が護衛を連れて歩いていた。良い所のお嬢様なのだろうなとか思考をよぎらせ、ボーデンフェルト伯の家へと向かおうとする。

「もしかして雷華の騎士様?」

「ん?」

 フレデリクは足を止める。自分をその名で呼ぶ人間はあまりいない。顔と異名を両方知る人が少ないからだ。

「先日、馬車で友人と移動している所を助けて貰った者です」

「ああ、あの時の」

 通し縋りに傭兵に絡まれていた少女達の小柄な少女の方だった。

 あまり表情に出ないタイプなのか、そこら辺が幼馴染に似ていた。冒険者のような恰好をしていたが、今はお嬢様然としている辺り、もしかしたら商家の令嬢かもしれない。

「ミュラー商会長の一人娘、レーア・ミュラーと言います。是非、お礼をしたく、我が家に来てはいただけないでしょうか?」

 レーアと名乗る少女は家に招くが、フレデリクはそんな事に付き合ってる暇はなかった。さっさとヴェルザー西方伯に会わなければ………と断ろうと考えていたが、ふと頭に過ぎる。

 ヴィルヘルムに教えられた話の一つで、ルミヤルヴィと大取引をしているミュラー商会であるがそこにはボーデンフェルトの末娘が嫁いでいるという。有能な後継者がおらず平民に爵位を売り渡してボーデンフェルトを継がせようと考えているとか。ヴェルザー西方伯は現ボーデンフェルト伯が兼任している。


「ミュラー商会?だったら、丁度良い!感謝しているなら、今すぐ貴殿の祖父、ヴェルザー西方伯に会いたいんだ。頼めないだろうか?」


 フレデリクがそう言うとレーアについていた護衛の二人が武器を構えて前に出る。フレデリクはそこで失敗に気付く。ミュラー商会に嫁いだ娘は駆け落ち気味に出て行った為、公にされていないという事実を。

 護衛からすれば何故冒険者如きが知っているのかと怪訝に思う事だった。

 そしてフレデリクにはこの護衛の二人がかなり強いのが分かる。恐らく黄玉級冒険者あたりだろう。倒すのは難しく無いが、殺さずに倒すとなると、少し面倒だと考える。

「お祖父ちゃんに用事?」

 フレデリクは騎士の礼を取り、レーアの前で跪き、鞘に収めてある剣を前に置く。どこかの騎士だと思うほどの所作を見て警戒していた護衛の二人も構えを解く。

「ベルトハイムとの戦争についてお話があるとお伝え願いたいのです」




***




 一方、マルヤーナはボーデンフェルト領に辿り着いてボーデンフェルト伯への面会を求めてやって来ていた。ベルトハイムが宣戦布告をして戦争を始めた件についてを訴えれば直に通される事になる。


「おお、マルヤーナ様。久しい。ヴィルヘルム様の葬儀以来か」

「お久し振りです、ヴェルザー西方伯」

「ベルトハイムの事で来たのだろう。座ってくれ。ヴァイスフェルト嬢に……アルノルトか」

 アルノルトは貴族らしい振る舞いを見せる。ただの冒険者と思っていたジルフィアはちょっと驚いてアルノルトを見る。

「おや、ヴァイスフェルト嬢は知らないか?アルノルトはこう見えても、若い頃は生粋の貴族でな。ヴォルフに負けて父親にも見放されて腕を磨くために冒険者として放浪した男だからな。普段は見せないが、知り合いの貴族の前ではそれなりにふるまうぞ?」

「よしてくれ。ヴォルフには勝ち逃げされたし、今更年老いた親父に勝っても自慢にならない。まあ、あの剣聖に勝てるかも怪しいけどな」

「フェルディナント殿は生涯現役を謳っているからなぁ。帝国十剣を退かれてもヴォルフと並び立つ最強であることは間違いないだろう」

「帝国十剣など偉い貴族が自分の権威を示すだけの政治ごっこだろ。雑魚がゴロゴロ転がり過ぎだ」

「それは否定できんな」

 旧知の仲なのだと笑い合い二人を見てジルフィアは予想以上に、ヴェルザー西方伯の顔の広さに驚く。商人か貴族かも分からない男であるからこそ、貴賤に関係なくふるまえるし、上級貴族としての貫禄もある。

 ヴィルヘルムと旧知だと言えばあり得ない話ではない。大陸中に販路を持つ商会経営者でもあるヴェルザー西方伯が、大陸中を渡り歩いた冒険者のヴィルヘルムと仲良くやっていてもおかしくはない。

 ジルフィアはこの時そのように思ったのだった。


「この数年見かけなかったが何をしてた?活躍は耳にしていたがな。双刃の勇者、エルフの英雄、現役最年少の紅玉級・雷華の騎士と4人で火竜王を殺したらしい話は耳にしていた」

「さすがにザムエルの爺さんは耳が良いな」

「ほう、ではヴォルフの敵討ちか。お前らしくないな」

「俺だけなら思いつきもしなかったがな。雷華の騎士って聞いていただろ?」

「ああ。何でもミロン殿の弟子でヴィルヘルム殿と同じ雷華を使えるとか」

「奴に誘われて……」

 アルノルトが説明をしようとしていると、コンコンとノックが響く。

「何だ?今は面会中だと……」

 楽し気に話していたのに、途端に機嫌を悪そうにヴェルザー西方伯はノックの相手に苦言を呈する。

「ですが………その、お嬢様の恩人が、急ぎでヴェルザー西方伯に会いたいと。何でもベルトハイム伯との戦争の事だそうです」

「……その話を第三者に話した所でなぁ」

 マルヤーナはハッと気付く。

「もしかしてとんでもない銀髪の美少女みたいな男の子ですか?」

「え、あ、はい」

 入って来た次女は思い出すように頷く。

「私の連れです。通してください」

 マルヤーナは慌てて通すように願い出る。マルヤーナはフレデリクが女に悪さをする男に厳しく接するのを知っている。昔、男に襲われたトラウマを持つからこそ、そういう人間を見ると許せないという性質だったからだ。


 入って来たのはヴェルザー西方伯にとって可愛い孫娘であるレーア・ミュラーと、銀髪の美少女にしか見えない一人の剣士フレデリクだった。フレデリクは貢物なのか、大きいツボを持ってやってくる。

「あ、ジルフィ。いらっしゃい」

「卒業式以来だな、レーア」

「サーシャは大丈夫?」

「その為に動いていたのだがな」

 ジルフィアは苦笑する。本人が領都に戻って籠城中である事だけはヘレントルに辿り着いたときにルミヤルヴィ邸で情報が入って来ていた。

「お祖父ちゃん、こちらがその前、私を助けてくれた冒険者の人」

「雷華の騎士フレデリク・ズワールトと申します。帝都の英雄ヴォルフの息子の方が分かりやすいかもしれませんが……」

 フレデリクが恭しく頭を下げて礼を取る。

 驚いた様子でヴェルザー西方伯は目を瞠り、ザシャそっくりな容姿に雷華の騎士という通り名を聞いて、アルノルトへ視線を移す。

 アルノルトは首を縦に振る。

「成程、ヴォルフの子か。して、ベルトハイム伯が戦争をした件だが、俺は何もできないぞ。伯爵領で西方伯になる為の政治活動だと言い切っている以上な」

「そこをどうにか出来ないのでしょうか?」

 マルヤーナは西方伯を見る。

「紫鷲騎士団まで使って戦争を始めているが、休職しての傭兵活動と言われれば文句も言えん。ロイエンタールが滅んで新しい当主が切れ者でな。やる気が無いけど能力が高いから俺も次のヴェルザーを押し付ける気満々だ。だからこそベルトハイムの連中はルミヤルヴィを切り取って勢力を手に入れようと考えているんだろう。俺にも責任はあるがヴェルザー西方伯として手が出せないのは事実だ」

 全ての状況をヴェルザー西方伯は口にする。

「ダメなのでしょうか?ランジランタはスタンピードラッシュとハッキライネン軍の反乱で籠城して動けません。ラーナストが落ちるのは時間の問題です」

 マルヤーナは困った顔でヴェルザー西方伯に言うが、ヴェルザー西方伯は苦々しく顔を歪める。

「スタンピードラッシュを利用しただと?火薬庫で火遊びする馬鹿か、あの阿呆は!」

 頭を抱えるヴェルザー西方伯はベルトハイムをののしる。

 フレデリクはヴェルザー西方伯に正しい認識があったと理解する。

「あの、マルヤーナ様、ヴェルザー西方伯。その話はもう良いんで僕の話をさせて貰って良いですか?」

「どの話だ?」

「一昨日、カイヴォスに行ってベルトハイム伯爵軍と紫鷲騎士団を、雪崩を利用して全員雪の中に埋めてきました」

「は?」

「戦場にベルトハイム伯がいなかったので、そこから走って昨日シュヴェルトシュタットを襲撃し、ベルトハイム伯の首を落としてこの通り」

 フレデリクは手土産のツボをどんと全員の前に置く。

「閣下にお願いしたいのは戦後処理です。戦争はルミヤルヴィの勝利で終わりました。彼らの軍は存在しない。休職中に紫鷲騎士団が全滅したのは不幸な事故ですね。まあ、雪にうもれても生き残れた人がいるかもしれませんがそれは知りません。ベルトハイム伯の首を持って戦争は終わりました。後継ぎがその責任を取って爵位でも資産でも切り売りしてどうにかさせるだけなので、閣下にとっては面倒というほどじゃないと思います。紫鷲騎士団の遺族も文句があるなら、マルヤーナ様が不法に戦を仕掛けたのだからむしろ慰謝料をむしり取ってやればよいかと」

 フレデリクはペラペラと最初から決められた事のように説明する。

「え、も、もう、カイヴォスに行って戦争を終えて、……シュヴェルトシュタットを?」

 マルヤーナはこっちに着いてヴェルザー西方伯と話をしてどうにか止めて貰うように話を付ける予定だった。

 フレデリクは先に走って行って、まさか既に戦争を終わらせて戻ってきたなどと言うとは思って無かった。

 話についていけなくなるのも仕方ない事だった。たった数日でベルトハイムの宣戦布告に始まった問題を解決して来たというのだから。


「ツボの中身はこちらで確認しよう」

 ヴェルザー西方伯はツボを受け取り使用人に渡して奥に持っていくように言う。

「コイツは親父よりヤバいぞ。物事の道理が分かっているから、やっていい相手なら躊躇がない。ヴォルフは貴族の理を知らないからまず殺さないように手加減するのが基本だったからな。その所為で一般人から見たら、手加減したヴォルフと本気のコイツでは実力がこいつの方が上にさえ見える始末だ」

「ヴィルヘルム様が真の意味で自分の後継だと言っていたが、まさかここまでとはな……雷華の騎士か」

「雷華……か。流砂王との戦いで<天地雷華(ライトニングフラワー)>を使ったせいかなぁ。通りが良いから使ってるけど、ヴィルヘルム様と比べると弱いから恥ずかしくはあるんだけど」

「流砂王のダンジョンに雷の花が咲いたからな。奴の実態を多くの人間が目撃した。フレデリクは逃げきれたというが、向こうもあの場にいた騎士達全員との総力戦は勘弁だという判断だったように思う」

「ダンジョンにこもっているのは龍の炎を恐れているというけど天から降る雷系にも弱そうだったね。だから籠っているのかも」

「奴ら頭が良いから次回も上手く行くとは思えないしな」

「でも、火竜王がこちら側なら、心強い味方だったろうに、師匠としても奴の行動に腹を立てたのは当然だ。ヴィルヘルム様と父さんが組めば、火竜王も樹竜王も倒せたろう。大義を考えるならリンノイトゥスの滅びを対価に火竜王を殺し、父さんが樹竜王を倒せばチャラだと思ったけど……父さんは僕を見殺せと言っても見殺してくれなかった。僕一人見殺すだけで、後に起こした十万を超える人的被害が無かったはずなんだけどね」

「その天秤に自分の命を簡単に乗せるから、あのレオンにさえお前は頭おかしいって言われてんだよ」

「失礼な」

 フレデリクとアルノルトのやり取りを見て、クッとジルフィアが笑ってしまう。

「?」

「いや、サーシャの幼馴染と聞いていたがな。なるほどと思っただけだ。サーシャも相当ぶっ飛んでいるが、アレに対等に付き合える男がどんなものかと思えば、力と頭があって目的の為なら自分の命も天秤にかけるだなんて相当だぞ。サーシャが絶大な信頼を置くはずだ」

「サーシャもかなり凄いもんねぇ」

 くすくすと笑い合うジルフィアとレーアの二人だった。

「ミュラー嬢もアレクサンドラ様の知り合い?」

「同じクラスの女子達にはサーシャは一目を置かれている。何だったら男よりモテるな。ルミヤルヴィの生き方を地でやっているんだ。クラスの成績も私がトップ、サーシャが2位で、レーアが3位だ」

「勉強だけなら私の方がちょっと上だけど、サーシャは魔法の実技が圧倒的だから」

「あれだけは私も勝てん」

「ジルフィは学力が更に圧倒的だから。流石はヴァイスフェルトの直系」

 ヴァイスフェルトと言えば帝国初期においても、勇者のアイデアを形にしたり、多くの策を生み出した勇者たちの中における賢者の役割をしていた天才である。故に天才の血筋と言われていた。


「まあ、僕も領地にいた頃は実技の魔法だけは全く勝てなかったな。今なら勝てる自信があるけどその代わり勉強がおざなりだったから。師匠から色々教わったけども……むしろ人類の知らない知識が入って、誤った人類の知識を是とする今の時代だとそぐわないものもあるし」

「まあ、サーシャが不幸になら無さそうで安心したのは本当だ。望まぬ婚約者を押し付けられる身としてはな。フレデリクが返ってきた以上サーシャの心配は必要なさそうだしな」

「そうなの?」

 首を傾げるレーアだった。フレデリクはまだ終わったわけじゃないんだけどな、とも思う。

 すると、ヴェルザー西方伯が奥から戻ってくる侍女に耳打ちを受けて頷く。

「準備が出来たのだが、婦女子に頼むのも申し訳ないが、立ち合いを願えないだろうかヴァイスフェルト嬢」

「…分かりました」

 ジルフィアは最初から分かっていたように、直に立ち上がるのだった。

「助かるよ。アレは一応ヴェルザー西方伯関係者になってしまう。本来であれば死亡確認に他の貴族を呼ぶのに時間が掛かると思ったが目の前に一度見た相手の顔は忘れない特技を持つ貴殿がいて助かる」

「サーシャの為にも早く終わらせましょう」

「それにしても……まさかフレデリクにウチの3伯の2人を殺されるとはな。奴らの傲慢さが、仇となったか、縁が無かったんだろうな」

 苦笑して去っていくヴェルザー方伯についていくジルフィアだった。

 ギョッと驚く周りの人間達。

「え、どういう事?」

 マルヤーナは知らない事実を言われて驚きの声を上げる。

「あ、あー。……そうか、ヴィルヘルム様にとってヴェルザー方伯は内々の人だったのか」

 フレデリクはそれに気づいて面倒臭そうにがりがりと頭を搔く。

「リッ君?」

 ジトリとした目でフレデリクに問う。

「昔さ、僕が引きこもった事があったでしょ?あの時の事件、父さんが殺したって言ったけど、本当は僕が殺したんだ」

「え。ちょっと待って。帝国十剣まで引き連れていたベルトハイム伯を…よね?」

 恐れる様にマルヤーナが問うとフレデリクは頷く。

「僕はただ作業をするように皆殺しにしてしまった。アレクサンドラ様の目の前で。僕は恐怖したよ。優しい両親の子供なのにとんでもない化物が生まれたと自分で自分が怖くなった。母さんや父さんにそういう目で見られるのが怖くて家で閉じこもって誰の眼も見れなかった。僕を外に連れ出したのがアレクサンドラ様だった。一緒にいた場所で起こった出来事で、僕は自分を助けてくれた騎士だから何も変じゃないと、もしも罪があるなら全部領主の子である自分の罪だから背負うのは自分だと。変な目で見られるならうちの子になれば良いって僕の手を取ってくれたんだ。人殺しの僕の手をだ」

「そういう事だったのね」

 マルヤーナは同時に気付く。フレデリクは自分が襲われたというが、恐らくアレクサンドラも襲われたのだろう。それをすべて隠すには事が起こる前に帝都の英雄が息子を襲った愚か者を殺したとした方が都合がよかった。

 ヴェルザー伯もヴィルヘルムも同意見で通したのだろう。ヴェルザー伯はマルヤーナも知っていると思って口を滑らした可能性が高い。中身をぼやかせばだれも追及する場では無いからだ。

「なるほど、ヴォルフがウチの息子は天才だと言っていたが、そういう事か。確かに対魔獣対策を考えれば力不足だが、対人戦闘においては俺やレオンと同格で戦える。アイツはお前に西部迷宮攻略後の帝国との折衝を任せる気だったんだろう」

「僕に?」

「ヴォルフは対人戦闘力があるが頭が付いてこない。ザシャ様は血筋があっても身を守る力が無い。ヴィルヘルム様は知略があっても帝国が認める権威が低い。ヴォルフの対人スキル、ザシャ様の血筋、ヴィルヘルム様の知略は引き継いだお前は間違いなく対帝国を考えた存在だ。何でも選べるようにしたい、その何でもの中には帝国と道をたがえる可能性もあったんじゃないか?」

 アルノルトの問いにフレデリクは少し考える。

 ルミヤルヴィの成り立ちを考えればないとは言い切れない。

 帝国の始祖達は確かに魔神との戦いで活躍したがその後はそこまで表に出てきてない。大陸北部の鬼神王と鬼人領による魔族の反逆が歴史の主役だ。そして彼らは大陸西部の邪神に支配された王国を滅ぼし人類の旗手となり、更に自領に近い迷宮を攻略した英雄の中の英雄だ。

 始祖以来、帝国は魔神の侵攻に対してほぼ無力だ。ヘレントルに冒険者を集め冒険者学校を作って地獄迷宮を封じ込めたフェルディナントと、西部迷宮の攻略に手を掛けたヴィルヘルムとヴォルフの方がよほど英雄であるが、倒してはいない。倒せば新しい権威の誕生だ。だが、ヴィルヘルムは高齢だし、彼らと戦うには娘達が命取りになる。

 フレデリクが立つならどうか?と自分を当てはめる。

 若く、戦闘力も血筋も権威も、知略も帝都の貴族に振り回される程愚かではない。ルミヤルヴィにとって必要な存在だ。


「無いとは言えない。西部迷宮を滅ぼせば始祖の英雄たちに匹敵する権威を立てられる。母さんの血を引く僕がルミヤルヴィの王となれば帝国は文句が言えなくなるだろう。まさか…でも、そこまで……いや、むしろ……その為にヴィルヘルム様は……」

 フレデリクは顔色を変えて恐ろしい策略を、それこそ自分が生まれる前から練られていた事実に気付く。


 母が命を懸けて自分を守った意味。母は帝国民の為なら父の命を天秤にかけられても帝国民を取るとさえ言う生粋の帝国の為に生きた人だった。その母が自分を守る為に命を張るのはおかしいか?おかしくはないが、母が生きた方が遥かに人命は救われるだろう。

 そして死の間際に自分に伝えた父の言葉。


 守るべきキングを俺達はお前にずっと隠してきたんだ。


 その言葉が何を意味しているのか。


 父も母も隠してきたフレデリクの血筋。


 両親にとってフレデリク・ズワールトこそが真のキングになるべき存在として育てていたのだと、フレデリクは気付いてしまう。

 恐らく、帝国と対峙するほどの存在になり、彼の国を正せという思いもあったのだろうと、フレデリクの知識は導き出してしまうのだった。


 そうであれば隠していた意味も異なってくる。子供にとんでもない重荷を背負わせたくないからこそ隠していたのだ。それを背負っても引き受けられる程度に、あの頃のフレデリクはアレクサンドラ様に捧げていたし、ルミヤルヴィに無茶難題を言う帝国に対し嫌悪の情を持っていた。アレクサンドラ様が帝国を正そうと言えば、本気で最初からそれに取り組んだだろう。学園に通う意味も異なってくる。帝国を知り、味方と敵をそこで選別できてしまう。


 何の気もなく口にしたアルノルトの言葉によって、ヴィルヘルムと両親の真の策略を知ってしまうのだった。


「皆で僕の血筋を隠す筈だよな。これは重過ぎるお役目だ」

 フレデリクは空を見上げて全てのピースが当てはまった事で何もかも捨てて逃げたい思いが過ぎる。

 だが、自分の手を取ってくれたアレクサンドラ様への恩義を返す為にもここで引き返す事は出来ないと知っていた。

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