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6話 ルミヤルヴィの戦争⑥

 フレデリクはカイヴォスから北へと走り続けてベルトハイム伯を探すが、行軍する部隊はこれ以上いなかった。ベルトハイム伯領領都シュヴェルトシュタットに辿り着く。辿り着いてしまった。


「まさか命令してそのまま家で遊んでいるのか?」

 半ば信じられない気持ちでフレデリクは剣を抜き正門からまっすぐ進む。


 帝国最大の城門とも呼ばれ、見上げるほど巨大な城門は200年前にあった西部迷宮のスタンピードの襲撃にも堪えたシュベルトシュタットの名物でもあった。

 街に入ろうとしている人間が小さな横門から列を作っている中で、フレデリクは列に並ばず、締められている巨大な正門の前で剣を抜く。


「おい、貴様、何をしている!」

「街に入りたいなら列に並べ!」

「今は戦時中だ。余計なことをしたらしょっ引くぞ!」

 門番の男たちがフレデリクに声をかけて来る。


 フレデリクは溜息を吐く。宣戦布告をしながら平和な連中だと心の中で嘲笑う。


「我が名は雷華の騎士フレデリク・ズワールト!元白狼騎士団長ヴォルフが子フレデリクである!ベルトハイム伯の宣戦布告を聞き、ルミヤルヴィの戦士として参戦する!これより、領都シュヴェルトシュタットはルミヤルヴィの名の下で制圧する!」

 フレデリクは高々と名乗り上げて、剣を構えて魔力を集中する。そして一閃。


 剣を振ると、轟音を響かせて巨大な城門が斜めに切り落とされて倒れていく。


 流石に誰もが悲鳴を上げてその場から逃げ出す。フレデリクは開いた城門を堂々と真っ直ぐに進む。ルミヤルヴィのエンブレムを肩に掲げて真っ直ぐ城へと向かうのだった。

 フレデリクの本気の一撃であれば確かに火竜王にダメージを与えられるだろう。だが、ここまで魔力を溜めて上手く攻撃を与えられるような甘い相手ではなかった。何度となく戦った中で試しても当てられないし溜める時間ももらえない。魔法ならば近づかずに溜められるし練れるのでどうにかなるから魔法を選択せざるを得なかった。

 そして全力で溜めてやればアルノルトやレオンの一撃に届く威力を繰り出すレベルはある。継続性が無いから中後衛になっただけだ。決して雑兵に劣る剣を持ってはいない。


 ベルトハイムの街中では警鐘が鳴り響き、衛兵たちが城門へと集まって来る。フレデリクはそれらを無視して、正面から進み他人事の顔で進むのだった。一部始終を見ていた兵士達も本人の前であの人ですなんて言えるほど余裕が無いため、集まった衛兵が誰によって行われたかも理解せずあちこちを駆け回る羽目になる。

 気付いた衛兵のほとんどがフレデリクに睨まれるだけで足が止まる。フレデリクの漂わせる殺気だけで常人は邪魔にさえなれなかった。




 フレデリクは歩きながらシュヴェルトシュタットの中にあるシュヴェルト城の城門も同様に切り落とし、門を蹴り倒して真正面から城へと乗り込む。

 兵士たちは走って向かい討とうとするがフレデリクは殺気を込めて睨みだけで半数の足を止め、迫る敵は剣ではなく素手で叩き潰して先へと進む。素手で叩き潰す方が割と加減が効くからだ。

 勝手に戦争を始めたベルトハイム伯の部下には、同情もしているので手加減をして、できるだけ殺さないようにはしたかった。既に戦場に立った者には容赦はしないが、攻め込まれると思ってもいない衛兵まで相手をする予定はない。

 城内を闊歩し兵士の一人を脅してベルトハイム伯の場所まで吐かせる。

 怯えた兵士はあっさりとベルトハイム伯の場所を吐く。矜持も忠誠心も足りない兵士などその程度のものだ。

 フレデリクはとある一室に辿り着くとそこには肥え太った男が多くの女を囲いつつも、兵士たちに守られている状況にあった。

「だ、誰だ!貴様!」

「ルミヤルヴィの兵士として参戦した、雷華の騎士フレデリク・ズワールト。戦争で負けたという人間がいないのでここまで来たのだが、ベルトハイム伯の首を取れば良いだろうか?」

「は?」

「カイヴォスの敵軍を全滅させたせいで、将軍らしき人間が死んでしまっているんだ。ベルトハイム伯はそこの豚で良いか?」

 フレデリクは肥えた男に剣を向けて訊ねる。

「貴様、伯爵に対して無礼であろ」

 フレデリクの前に出て来た兵士の一人は全て喋る前に、フレデリクが剣を一閃させて首を落とす。

「僕の前で無礼であろう?」

 首だけになった男の髪を掴み、死体に問う。あまりの早業に、誰もが二の足を踏んだ。

「その豚が閣下で間違いなさそうだ。ならばよかった」

 フレデリクはどんどんと前に進む。女たちが慌てて逃げようと肥えた男の座るベッドから慌てて逃げる。

「皆の者!侵入者だ!殺せ!その無礼者をころ」

 やはり、全てを言い切る前に、フレデリクは剣を一閃し遠距離斬撃で肥えた男の首を飛ばす。大量の血が首から噴き出て、彼の傍にいた女達はあまりの事に悲鳴を上げる。

「な、何て事を!」

「貴様!伯爵閣下に手を出してただで済むと…」

 兵士たちは慌てて剣を抜くが最早手遅れだった。

 とっくにチェックメイトしているのに、敗着を認めないような行為だった。愚鈍な連中にフレデリクは呆れたように溜息吐く。


「何?自殺志願者ならはっきり言ってくれ。僕は宣戦布告をしたベルトハイム伯の元へ、ルミヤルヴィの戦士として堂々と城門から入って来て攻め込んできた。ちょっと軍勢と呼ぶには少ない少数だけどね。つまり、ベルトハイム軍は今この時を持ってルミヤルヴィに負けた訳だけど…」

「だ、だからとて伯爵様を……殺すだなんて」

「カイヴォスで殺されかけていたラーナストを救ってからここに来たんだけど、まさか喧嘩を吹っ掛けて、ラーナスト伯を殺そうとしておいて、殺される覚悟が無いとは……何と愚かな兵士か。それとも……まだ続けたいなら相手になるが?」


 フレデリクはベルトハイムの首を拾いつつ、呆れた声でぐちぐちと文句を言う兵士の一人を睨みつける。

 平和に暮らしているからか、戦争がどういうものかさえも理解できていないようだ。一方的に敵を叩くだけだと思っていたとは盛大な勘違いである。


 ミロンの口にした平和ボケという指摘は確かだった。帝国は常に勝者であり攻め込まれた事もなく反乱を起こす民を鎮圧するだけの国だった。

 ヴェルザーは特に景気が良く平和なので、平和ボケする人間が多いのは仕方ないのかもしれない。常に帝国騎士団が駐留しており、自分達が攻められるなんて夢にも思って無かったのだろう。


 フレデリクはベルトハイム伯の髪を掴みぶらぶらと血まみれの首をどこかにしまわないと持ち運べないと感じ、適当な大きさの壺を探す。壺に入れて塩漬けにすれば腐らないだろうくらいの感覚だった。あと、ヴェルザー西方伯を訊ねるにしても流石に生首を持ちながら血をまき散らしてボーデンフェルト領まで走るのはも良くない位の常識は持っている。


「壺と塩はある?」

「ひいいいいいいいいっ!」

 聞かれても答えられず走って逃げる女たち。

 フレデリクは幼い頃の自分が自分におびえていた頃を思い出してしまう。確かにこんな化物がいたら怯えるよな、と人を殺しても何も思えない自分が恐ろしがられるのは仕方ないと溜息を吐く。


「こ、こんな事、許されると……」

 兵士の一人は槍を持ちながら小さくつぶやく。

「さっきから何?大きい声で言ってくれない?ああ、ベルトハイムは終わってない!まだまだ戦争は続く!ベルトハイム伯の一族が引き継ぎ采配を振って戦うぞと?流石名門ヴェルザー西方伯の兵士だ!ならばこの町を焼いてベルトハイム一族すべてを殺すまで戦い続けようではないか!君たちの心意気に僕は非常に感動したよ!戦争は継続したいんだね?兵士は一兵になっても戦い続ける気満々って事で良いんだね?」

 フレデリクは勝手に相手のぶつくさいう文句を理解したように口で訊ねつつ、剣を抜いて魔力を集中させる。

 フレデリクが剣を一閃させると壁を切り裂きベルトハイム城が切りつけられて壁より先が崩落していく。

 この程度の斬撃、アルノルトやレオンなら溜める事無く放てるし、父に至っては溜めることなくこれ以上の攻撃が可能だから化物なのだ。これほどの破壊を見せながらも自分はまだまだだなあなどと見当違いな事を考えながら聖剣を鞘に納める。


「さあ、戦争を継続しようじゃないか!兵士諸君!」

 フレデリクは周りの兵士に訊ねると首から頭がねじ切れるんじゃないかと思うほど必死に首を横に振る。文句はあろうと勝てない相手に喧嘩を売る程頭の悪い男達でもなかったようだ。


「戦意が無くてよかったよ。僕は平和主義だから、犠牲は最小限で抑えたいんだ」


 城の上部が崩落し、帝国最大と謳われる二つの巨大な城門が真っ二つに切り落とされて、領主が失われたが、まるで何事もなかったかのようにベルトハイム治めるシュヴァルトシュタットの街がただただ残される。

 フレデリクは首の入った壺を片手に、街を後にするのだった。

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