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6話 ルミヤルヴィの戦争⑤

 フレデリクは東の山から戦況を確認し、エルッキにベルトハイムからルミヤルヴィに対して宣戦布告が出た事を知る。

 休みながら細かい事情を聞いて理解する。

「それじゃあ、これから殲滅するか」

「だが、どうするんだ?帝国騎士団に攻撃なんて……。俺らが訴えられるぞ。俺とて奴らの数人位なら勝てる自信はあるけどよ、帝国騎士に刃を向けたら……」

「帝国騎士団が正義だとでも?少なくとも、勝手にベルトハイムがヴェルザー西方伯を無視して宣戦布告を出してそれに便乗している時点で大儀なんて無い。思う存分、騎士を殺して構わないという事だ」

「マジか!?」

「恐らく傭兵扱いの筈。帝国のお偉い貴族の子息が死んだと文句を言われても、勝手に騎士の仕事をサボって不法に他領に攻め込んだ人間だ。文句を言って来たらむしろ鴨だよ。こっちはお前のガキに被害があったから慰謝料を払えと言ってやれば良い。ルミヤルヴィ辺境伯であるアレクサンドラ様からね。まあ、そこらの実務はマルヤーナ様かな?」

「な、なるほど」

「皇領のアホ貴族共はどうも権力を握って自分が偉いと勘違いしているから、陪臣貴族であるエル達は迂闊に動けないんだろ?貴族の役目とそれを縛る法律を見れば、奴らの不法なんてあっさりわかる。帝国は腐っているが、元々はルミヤルヴィと同様に大陸の守護者を自認していたんだ。法律はしっかりしている。へらず口と法務官への賄賂があるだけで、大貴族の力を借りればさほどの話じゃない」

「つー事は……」

「まあ、僕は戦争を終わらせたら即座にアレクサンドラ様の元へ駆けつける。今日中に蹴りを付けるからエルはシルッカ様を守ってね。ラーナスト伯もまだ子供であるイスト様は奥の守りに入れているだろうけど、シルッカ様は多分戦場に出ている筈だ。あの人も普段は僕に女装させようとする悪の勢力だけど、ルミヤルヴィの人間だからね」

「それ言いだすとお前の周りの女性の大半が悪の勢力だろうが」

 エルッキは呆れた様子でフレデリクを見る。


 フレデリクの母ザシャ、ルミヤルヴィ夫人ヘンドリカと長女マルヤーナ、エルッキの母親ミーナと妹ニナ、ラーナスト夫人ヴェッラと長女シルッカ、トビアスの母ヘンニとそうそうたるメンバーでフレデリクのドレスはどれが可愛いかと本気で悩んでいたりする。

 フレデリクは必然的に加わってないアレクサンドラや神聖魔法を学びに来ていたハトコのヒルデガルトに懐いていたのはその辺があった。

 実際、女装をしたフレデリクは迂闊にもエルッキの初恋の相手でもあった。誰だろうとドキドキした相手からうんざりした様な聞き覚えのある友人の声が返って来てあっさり終わったときめきである。誰にも言えないエルッキの心の中に封じた黒歴史となった。

 そしてそれ程までの美貌を誇ってしまう幼馴染が普段からあえて髪はボサボサにして綺麗に整えないのは女に見せないための対策でもあった。

 昔、坊主にしても通りすがりの冒険者にお嬢さんと呼ばれた日には絶望的な顔をしていたのをエルッキは覚えていた。


「それじゃあ、さっさとこの誰の為にもならない戦争を終わらせますか。勝てば自分の首が閉まると分かってないクズ貴族にはご退場願うよ」

 フレデリクはアキレス腱を伸ばし肩回りを動かしながら、行動の準備をする。

「やるって言ってもあの人数だぞ」

「ああ、僕は火竜王討伐の為に剣より魔法を勉強してきたからね。僕の剣では父さんみたいな事は出来ない。領主様みたいに選別して敵だけを倒すような奇蹟は使えなくても、効果範囲一点に絞って大規模殺戮魔法位なら使えるし、火竜王にはそう言う魔法で充分だったからさ」

「……そんなにたくさん使えるものでもないだろ」

「この地形ならさほどの魔力が無くても十分だよ。はい、じゃあ、エルは僕の手を取ってね。飛んでいくから。<飛翔(エアフライト)>」

 フレデリクはフワリと体を空へと浮かせる。

「風魔法で空を飛べるとか羨ましい」

「自在にとはいかないし、動きが直線的だから文句は言わないでね。ほい」

「お、おおう」

 フレデリクの手を取るとエルッキは一緒に体が持ち上がる。


 そして1日がかりで降りる予定の山から物凄い速度で空を飛びながらカイヴォスへと向かう。


「さむっ」

「寒いのは一瞬だから。エル、北の城壁方向を見ろ。北側から結構な人間が入り込んで東側の城壁の裏手に回ろうとしてる。東側もかなり攻め込まれてるな。挟み撃ちをされる前にしろの方へ逃げている集団が……あれか、シルッカ様は!」

 フレデリクは遠くを見ながら激動する戦況を眺めていた。

「おい、フレデリク、早くそっちへ連れていけ」

「その前に…・…東側の敵を殲滅するか。あいにく城壁の上で戦ってるからまだ誰も城壁の外に言ってないみたいだし、チャンスだな」

「何をする気だ?」

「えーと、自然を利用した魔法?<大地制御(アースコントロール)>」

 フレデリクはエルッキを左手でぶら下げながら右手を自分たちがいた雪山の方に手を向ける。

 ゴオンと小さく響いた瞬間雪山の雪が一斉に雪崩を起こし、凄まじい雪の大波が東の城門に襲いかかる。

 突然の雪崩に城門を崩そうとしていた連中の必死さは戦いのそれでは無いが、カイヴォスの兵たちは必死に守る。

 カイヴォスに攻め込んでいた騎士や傭兵たちは雪崩から逃げようと走るが、次々と雪崩に飲まれて消えていく。雪崩は勢いをつけて城門にぶつかって止まる。

 だが、東門を攻めていた軍勢は完全に全滅していた。後衛も何もかも雪崩の中に飲まれてしまったのだから。


「魔力量の多い魔法なんて使わなくても、状況を作る魔法で原因を起こしてやれば小さい魔力で大きい事が為せるという訳だ」

「雪国ルミヤルヴィで雪崩を使って敵を殲滅とかお前は鬼畜か!?」

 フレデリクは空を飛びながらエルッキに講釈を垂れる。

 エルッキはそう言えばフレデリクは昔から蘊蓄を垂れ流す、脳筋と思われる行動をしながらもかなり緻密に計算している事を思い出す。

「結果的に世界を滅ぼしかねない事をやろうとする連中に手を貸す馬鹿は殲滅されて当然だろ。大儀のない命令で民を殺さざるを得なくなって任務放棄したルトガーさんが今の元白狼騎士団を纏めているんだぞ?白狼の気持ちがルミヤルヴィから離れたら西部迷宮の攻撃は世界に向かうぞ」

「!?」

「火薬庫で火遊びしているようなモノなんだよ、今の状況はね。魔物が湧き出る場所を守る人間に刃を向ける馬鹿然り、雪山で大声出して戦う馬鹿然り、人工的に作り出されて雪崩だろうと、自分達が原因で作られた雪崩だろうと同じだろ」

「まあ、確かに……人工的でなくても起こりかねないけどな、まあ、よほど偶然が重ならなければ、あんな大規模な雪崩がここまでくる事はねえよ」

「運悪く雪崩に巻き込まれようが、運悪く僕に襲われようがどっちでも同じだろ」

「違いねえ」

 エルッキはフレデリクの言葉に苦笑する。そもそも帝国が自然災害と同列に扱った火竜王を殺してきた男だ。自然災害と同列の人間の目に留まった以上、自然災害で死のうが彼に殺されようが同じだ。


「多分、ラーナスト伯は分かっている。娘か息子を差し出せば被害なく話し合いで終わる宣戦布告に対して、徹底抗戦しているのは、彼がルミヤルヴィの大義を理解しているからだ」

「そ、そこまでの大ごとか」

「そ。だから、ちゃんとシルッカ様を守るんだぞって。じゃね」

 フレデリクは空を飛びながら丁度逃げている少女が騎士と接敵してしまった場所に着いたので、エルッキと手を放して地面へと落とす。

「え?あ、ちょ、っていきなり手を離すな。心の準備が……ってあああああああああああああああああっ、テメ、覚えてろよ!」

 フレデリクは文句を言いながらも慌てた様子でシルッカと接敵した男の真上に落ちて上手く着地する。ぐしゃりと騎士が潰れるが仕方ない。

 エルッキは剣を抜いて迫りくる敵からあっさりとシルッカを守ったようだ。


 3年前と比べてかなり強くなったようだ。それも当然か、既に成人した15歳の大人だ。フリッツを失い現役のレフトラ子爵になった筈。

 フレデリクは、そう言えば男爵相手に敬語を使って無かったな、と自分のうっかりに気付くが、幼い頃から一緒に男同士の悪さをやって来た友人同士でもある。今更敬語を使い難いというのも事実だった。

 それを見送ると北へと向かう。攻め込まれてかなり厳しい戦況になっていた。

 ラーナスト伯爵も剣を持って将軍の一人と共に防衛に必死になっていた。門を開けたら一気になだれ込んでくる。それは避ける為で、中央で指示を出しながら自らも戦い、中に入り込んだ軍勢と外から攻城塔で攻め込む軍勢との挟み撃ちをどうにかしのごうと戦っていた。

 流石はルミヤルヴィ家の血を引く伯爵家である。

 フレデリクは剣を抜き風魔法を解いて空から舞い降りる。

 ついでにラーナスト伯と戦ってい騎士を背後から切り捨てる。更に周りの敵を剣の衝撃波によって吹き飛ばす。

「ど、どなたかは知らぬが助けられ……え」

 ラーナスト伯も感謝を伝えようとしたフレデリクを見て驚愕に目を瞠る。

 フレデリクはラーナスト伯の前で膝を突き

「お久し振りです、ラーナスト伯爵様。ルミヤルヴィの危機と聞いて駆け付けた所存、私は元白狼騎士団団長ヴォルフが息子・フレデリクです」

「生きて…生きてくださったのか」

「火竜王退治にかまけてルミヤルヴィを放置した私を許して欲しいとは言いません。ですが、今は戦地故、この場で戦う事を許していただきたい。そして……こちらの窮地救う許可を」

「救えるというのか!?」

「城門の外にラーナストの軍はいますか?」

「攻め込まれてむしろこっち側に敵軍が多くいる程で、外に出れる余裕さえない」

「じゃあ、丁度良かった」

 フレデリクはニヤリと笑う。

「な、何を?」

「<大地制御(アースコントロール)>!」

 西にそびえる鉱山の表面の大地を動かすと、街をも飲み込むような巨大な雪崩が発生する。

「ま、まさか人工的に雪崩を!?まずい!カイヴォスごと…」

「思ったより大きいな」

 フレデリクは街の西側を飲み込みそうな雪崩を見上げて予想以上の効果を発揮していることに気付く。東側は山から遠いが、西側は山に添うように街があるので、雪崩は危険なのだ。その為の対策を打っている街ではあるが人工的に無理やり起こしている以上被害は起こるだろう。

 フレデリクは剣を地面に突き立てて次の魔法を行使する。

「<聖光結界(セイクリッドシールド)>!」

 巨大な白銀の光が街の外を覆い、雪崩の侵攻が全て城壁前へと誘導される。結果前代未聞の大雪崩が敵軍を飲み込み、物理的に外開きの城門が雪に埋まるのだった。完全に敵軍を飲み込み間違いなく全滅である。

「街の中に入った敵を制圧せよ!ヴェルザー西方伯の指示が無い事は確認している。紫鷲騎士団の不法な独断である以上、殺そうが捕虜にしようが大儀は我らにある!カイヴォスを守る為に戦え!勇敢なるルミヤルヴィの同胞よ!」

 雪崩で唖然とした双方の陣営の兵士であったが、フレデリクは大きい声で鼓舞することで敵側の士気をへし折り兵士たちは一気に士気を高める。

 ラーナスト伯はヴィルヘルムが自身の後継者として不足無しと言わせた美少女にも見まがう少年を見る。

「さすがはヴィルヘルム様が自身の後継に望み、フレデリク様が辺境伯になるというなら我が家はそれに従うように説得為された方だ」

「そんな話が?」

「娘はルミヤルヴィらしい子に育ちましたが、本当はそんな危険な身になってほしくはないのです」

 どこか困った様子で心情を吐露する伯爵の気持ちはフレデリクにも分かるものだった。

 アレクサンドラやマルヤーナもルミヤルヴィの子供として不足ない心を持って育ったが、それに必要な力は持っていない。トビアスはその負担を全て背負う積りで彼女の夫になろうとしていたし、フレデリクはアレクサンドラの害意をすべてを切り捨てる刃となると誓ったのだ。

 フレデリクは自分に継承権が無いから後継に臨んだことは一切ない。だが、その代わりに戦う覚悟は幼い頃から持っていた。

「僕には継承権なんて関係ないと思っていたので正直心の準備が全くないので勘弁してもらいたいですが……。今はまずこの戦争を終わらせます」

「どうするつもりかい?」

 戦争終わらせるというが、これで終わる筈だが、着地点が見えてない。というよりも雪崩で敵側の将も消えた。恐らく判断を下せる人間もいないだろうとラーナスト伯は気付く。


「攻め込みます。ベルトハイム伯が外から見ても見当たらなかったので、街道を逆走してベルトハイム伯が見つかり次第狩り、その首を持ってヴェルザー西方伯に戦争終結を求めます」

 ラーナスト伯はフレデリクの言葉に気付く。戦勝によってベルトハイムに責任を取らせて勝敗を決するではなく、ベルトハイムを殺してヴェルザーに貸しを作る形で終わらせるのだ。最悪ベルトハイムは排除されるだろう。だから、フレデリクはベルトハイムがいないのを確認して負けを判断できる将ごと雪に埋めたのだ。

 そして単独で敵地に行って総大将の首を取るなど、それこそ帝都の英雄の様なやり口である。そこでラーナスト伯は気付く。目の前の少年が帝都の英雄の息子である事実に。

「まるで………。くくく。白狼の子は白狼だな。その発想を出す頭とそれが実行可能な力を持つ男を私はヴォルフ殿以外知らない」

 ラーナスト伯は思わず笑ってしまう。

「であれば父の子に相応しい戦果を挙げてきましょう。それでは御前失礼いたします」

 フレデリクは畏まり膝を突いて再び礼を取る。

 そして、そのまま城門から北側の雪に埋まった地面の上を走りながら街道を走って去るのだった。

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