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5話 フレデリクの謀略・中

 フレデリクはジルフィアと一緒に皇城へと走っていた。

「ところでフレデリク。どうやって紅鳳騎士団が火竜王討伐していない事を証明するんだ?」

「神眼の鏡が城にある筈、だよね。」

「ああ。あるな。陛下が絶つ場所には必ずある。不審者や偽物などを近付けさせないためだ」


 神眼の鏡とは初代勇者と初代ヴァイスフェルトが作ったと言われる、真の勇者の持つ『神眼』の視覚を鏡を通して映し出す機能を持った鏡である。

 神眼とは相手の名前、性別、職業、ステータス、スキルや家族構成、神から与えられる称号さえも見えるもので、神眼の鏡はそれを可能にする鏡だった。


「そこにイザーク殿を映して欲しいと頼めばいい。人類に牙を向けたエルダードラゴンは討伐対象扱いになる。討伐称号が付くはずだ。これは、エルフの英雄ミロンが言っていた事実だ。イザーク卿にその称号が無ければ勅命を避けられる筈だろう」

「だが、相手も馬鹿じゃない。上手い良い訳で逃げられたらどうする?」

「そうなったら力技でひっくり返す」

「おい、ルミヤルヴィに迷惑を…」

「掛けるつもりはないけども、アルノルトさんが言った感じだとどうも僕は素性を知られると拙いらしい。そしてマルヤーナ様は迂闊に口にしかねない。力技が不必要なら良いんだ。だが必要になった時に僕が警戒されるのは避けたい」

「警戒されることがあるのか?帝国の重鎮だぞ?」

「さあ、僕もついさっき教わったばかりだからそれがどういう意味なのかよく理解してない。でも、僕の父親はどうやら帝都の英雄だったらしく、力技でひっくり返そうとした時に最初から警戒されてしまっては拙いと考えた」

「帝都の英雄の息子だと?」

 ジルフィアは驚いた顔でフレデリクをまじまじと見る。

 フレデリクは見られても気にすることなく淡々と歩き続ける。

「帝国一の美女と謳われたザシャ様の息子と考えれば確かに……。あの悪名高い男の子供には見えんが……」

「悪名高いの!?」

「私が幼い頃に見た彼は騎士の見本のような方だったが、周りはとんでもない暴れ者だと言っていたな。貴族だからだろう。平民からすれば英雄だ。彼の者は地位も権力も歴史も無視して暴力で事を成した。貴族はそれを誰も求めていなかっただろう」

「それは違うよ」

「は?」

「かつて民を導いた帝国貴族が、貴族間の戦に民を巻き込み無慈悲に殺したのだから、無慈悲に殺されても文句を言える立場じゃないでしょ。己の家や歴史を誇るなら、誇れる行動を取り正しく民を導く姿を見せるべきだ。僕はヴィルヘルム様からそう教わった。幼い頃、僕の心を救ってくださったアレクサンドラ様は少なくとも、僕の尊敬する領主様の正しい振る舞いを出来る人だった」

「………耳が痛いな。そうだった。アレクサンドラは……誇り高い古き時代の我らが先祖のような子だった。だからこそ、アレクサンドラだけは下らぬ政治に巻き込ませたくはない」

 ジルフィアは自嘲するように口にする。

 フレデリクはジルフィアがアレクサンドラの厄介な部分を見たのだろうと感じる。きっとジルフィアは真っ当な令嬢なのだと分かる。そこらの貴族なら馬鹿な奴だと笑って終わりだ。敬意なんて持つはずもない。友達になんてなる筈もない。

 自分の居ない場所でアレクサンドラは立派に生きていたのだと感じ、フレデリクは後悔する。何故、彼女が生きていると信じなかったのか。

 だが、反省は後だ。


「全て片付けなければ、僕はヴィルヘルム様に顔向けできなくなる」

「だが、素性を隠したいのだろう?どうする?」

「ヴァイスフェルト嬢の護衛のように振舞い、顔を俯けていれば分からないと思うけど。他人の従者までジロジロと見る人間もいないでしょ」

「いや、男は良い女を見れば従者だろうがジロジロと見るぞ」

「え?」

「………私は気付いたが、普通にお前を男と思う人間はいないと思うが?」

「皇帝の前だし、護衛ならばうつむいたままで問題ないと思うけど」

「それもそうか。まあ、私が上手く称号を見せるという形で引き出せばいい話だしな」

 上手く逃げるだろうことは想像つく。

 見せられない、というのであれば真偽もあやふやな話を皇帝に勅命として出させるのかと突っ込みたい所だが、それでも逃げようと思えば抜け道くらいはあるだろう。フレデリクは口先だけで仕事をしている連中が権力ごり押しの馬鹿だとは思って無かった。

 自分が虚言の逃げ道を考え付くのに、彼らが考え付かない道理が無いと思っていた。必要なのは彼らの知らないカードを自分が持っていると言う事実を知られない事だ。


「ところで、帝国会議って言うのを僕は知らないけど他の貴族はどんな人が出てるの?」

「方伯や辺境伯は基本的に参加しいない。一番下位にいるからこそ、余計な命令を受けることがあるからな。マルヤーナ様はサーシャの件で皇帝から指名されたから出てきたと聞いている。まあ、ヘレントル高等学園は卒業式をヘレントルと帝都の二か所でやるから私たちはこっちに来ていただけなんだが」

 リヒトホーフェン北方伯とヴェルザー西方伯はいないとなると、皇妃の出ているザルム公、軍閥トップのリューネブルク公、帝国始祖三大侯爵家のヴァイスフェルト、グロスクロイツ、バイマールの三家がある。

「参加してる5つの貴族はどんな人?」

「バイマールとグロスクロイツはどちらもルミヤルヴィに反旗を翻そうとする領地貴族を支援してるとマルヤーナ様から聞いている。ヴァイスフェルトは他家に媚びを売る無能、ザルムは直に権力でものを言わせて何の努力もしない男、リューネブルクは他人の功績を奪う泥棒だな」

「そんな態々、貶めるような事を言わなくてもというか……実家の悪口になってるよ」

「事実として、父はヴァイスフェルトの血が入ってないが、婿としてヴァイスフェルト家に入り、母が死ぬや愛人とその子供を家に入れた男だ。私を第二皇子の婚約者に押し込んで、ヴァイスフェルトを乗っ取る気だからな。下っ派だから他の貴族に媚びを売って上手く地位を得ようとしている。侯爵領の人間を馬車馬のように働かせて貢ぐ金を懐に収めているような男だ」

 ジルフィアは反吐が出ると言わんばかりに語り、フレデリクは引きつる。

 帝国貴族は腐っているとは周りから聞いていたが、当事者である娘に敵視されている侯爵がいるのかと、どこか寒々と真実を聞く羽目になるのだった。


 フレデリクはジルフィアと共に城に入る。控室に通され、そこで着替えをする。無造作に伸びた長髪を紐で結い、冒険者の服を脱いで護衛魔導師みたいな雰囲気の服に着替える。

 顔を隠す為、魔導師っぽい服を選びフードを目深にして被る。手袋をつけて冒険者証を掛けて、服装に不備が無いかチェックしていると、

「って、おい。どこにそんな服があった!?」

 ジルフィアは姫騎士とでも言われそうな鎧を脱いで簡素なワンピースドレス姿で部屋に入ってくる。

「ん?時空魔法LV2<異空間収納(アイテムボックス)>の魔法だよ」

「なっ………」

「色々入ってるんだよ」

 フレデリクは寝袋やら非常食やら、じゃらじゃらとした勲章など、どこに入っていたのかと聞きたいほど物が出て来る。

「とはいえ、この剣は弾かれて入らないから腰に下げるか」

「部屋には持ち込めないから入り口にいる使用人に渡す事になるが?」

「まいったな。まあ、鞘に入っているから大丈夫か」

 フレデリクは剣を腰に吊り下げてジルフィアと共に帝国会議へと向かう。




***




 皇城の大会議室にて、皇帝と8人の大貴族代表者がやって来ていた。

 中央の最も奥にいるのが銀髪碧眼の皇帝フリードリヒ。40にして若く美しい容貌の男だった。

 その横に座っているのがでっぷりと横に肥えた男でザルム公爵。

 左側にいるのが小柄な禿頭の皴だらけの妖怪然とした老人バイマール候爵、周りをきょろきょろしてこびへつらうような顔をしている金髪碧眼の男ヴァイスフェルト侯爵、背の高い何を考えているか分からない顔で立つライトブラウンの髪をして老人グロスクロイツ侯爵の三者が順に並ぶ。彼らの背後には3~5人程度の従者がいて記録を取る様に万年筆と紙の束を置いて座っていた。

 逆に右側にいるのが金髪碧眼で部門を統括する為か鎧を着こんでこの場にいるリューネブルク公爵、リヒトホーフェン北方伯から代理できている茶髪のどこにでもいそうな若い青年、ヴェルザー西方伯からは代行としてまだ20歳前後の若い黒髪の優男ロイエンタール伯爵がやって来ていて、一番下座に座るのがルミヤルヴィ辺境伯代行で辺境伯本人の姉マルヤーナであった。

 リヒトホーフェン、ヴェルザーなどは完全に記録だけを取りにやって来ていて、会議に参加する気もなくただ紙束に万年筆を走らせていた。


 会議の決定事項とも言わんばかりにザルム公爵が命令を下す。

「それではルミヤルヴィはザルム公領に支援物資として5万トンを無償で送る様に」

 帝国会議に出席したマルヤーナはいきなり無理難題を押し付けられる。


「待ってください。そのような事受け入れることはできません!」

 マルヤーナは唐突な展開にストップをかける。

「ザルム公の領地では飢饉が起きている。早急に食料を送るべきだ」

 そう言うのはバイマール候であった。背が低く禿頭の老人は最年長の大貴族であった。元宮廷魔導士であり、妖怪爺や帝国の狸と影で呼ばれる帝国の裏側の支配者の一人である。

「帝国貴族として恥ずかしいとは思わないのか?」

「持っている貴殿の領地が出さねば誰が出すという」

 それに乗るのは40代ほどで整った容姿をした金髪碧眼の大貴族リューネブルク公と、同じく金髪碧眼の気弱そうな優男であるヴァイスフェルト候だった。

「そんな量を出せるはずがないでしょう!我が領地の3分の1の収穫量を全て買い上げるでもなくただで奪うというのが帝国のやり方というのですか!?」

 マルヤーナは立ち上がって抗議する。緑の瞳で周りを見渡すが、まるで最初から決まっているかのように大貴族達は淡々と話を進める。

「帝国貴族としての義務だ。そうであろう、グロスクロイツ候」

「うむ、当然だ」

 帝国の狐とも呼ばれる背の高いやせ細ったライトブラウンの髪をした老人はバイマール候に同意を示す。

「ル、ルミヤルヴィは新参ですからね。分かっていないのでしょう。流石はグロスクロイツ候やバイマール候は志が高くいらっしゃる」

 ヴァイスフェルト候は揉み手で両侯爵を持ち上げる。

「ルミヤルヴィは新参故分かっていないのだ。大貴族とは国に尽くす存在だ」

 援助を受ける側のザルムが偉そうに笑う。

 温厚で笑顔の絶えないマルヤーナも(こいつら殴り殺しても罪にならないかしら)などと物騒な事を考えながら我慢の時を過ごす。

「ただでさえ領内に内乱の兆しがあるというのに、また無理な事をおっしゃられては困ります!」

「領内が不穏なのは貴殿の力不足故であろう」

「全くだ」

 マルヤーナの訴えにバイマール候とグロスクロイツ候が鼻で笑う。

 彼らの支援でもって内乱が引き起こされつつある事実を知っているが、証拠がない以上文句も言えなかった。無能と言われればそれまでである。

「そう言った状況でこんなところに引き留められても困るのですが。支援しろと言われても私の権限が亡くなっているかもしれないのに如何しろと?」

「そんなもの、自分で考えればいい、辺境伯代行よ。お前達下々は我らの要望を応える義務がある。嫌がるようであれば陛下に勅命を出させるのみよ」

 でっぷりと横に肥えた老人が命令するようにマルヤーナを責める。

 現在、帝国を牛耳っているのはこのザルム公である。ザルム公の妹が皇妃であるが故に、言葉の節々にその増長が窺える。まるで皇帝が自分の言いなりであるとも言わんばかりだった。


「それでは次の議題に入らせていただこう。ルミヤルヴィは忙しいようだからな。次の議題で貴殿らの話が終われば帰っても構わん。イザーク」

 リューネブルク公爵が話を進めさせて背後に立っていた息子に声をかけると、イザークと呼ばれた父によく似た金髪碧眼の若い男が前に出て来る。

「此度、我が紅鳳騎士団は火竜王を討伐いたしました。つきまして、陛下に恩賞を願いたくこの場に馳せ参じました」

「ほほう」

「それは素晴らしいですな」

 白々しく拍手をする大貴族達であるが、心の底では上手く立ち回ったものだと彼の虚言を理解している。

 だが、それを誰かが指摘する事は無い。嘘だという証拠がないからだ。冒険者の言葉などこの場の誰も信用しない。だからこそ分かるのだ。


「恩賞か。貴様は何を求める?」

「ルミヤルヴィの領地を」

「辺境伯領を乗っ取るとは穏やかではないな」

「良いのではないですか?所詮は新参の辺境伯領ですからな」

 ヴァイスフェルトは何の気もなしに進言する。

「良いのか?いくら家が古いと言えど、侯爵家は辺境伯と家格が同格と定められている。イザークよ。ルミヤルヴィで良いのか?ヴァイスフェルト候は良いと言っている。彼の言質によればヴァイスフェルトであろうとバイマールであろうと思いのままだといっているのだが?」

「うぇ!?」

 自分の迂闊な発言にも気づかず皇帝に指摘されて変な声を上げ、グロスクロイツ候とバイマール候はヴァイスフェルトを鋭く睨みつける。


「辺境伯領を手に入れられるなどとは思ってもいません。ルミヤルヴィは後継を埋めるのはアレクサンドラ嬢のみであれば私は彼女との婚姻を望みます」

「貴殿には確か3人程妻がいたと思ったが?」

「第4夫人に迎えましょう。アレの子供を我が手にしたいだけの事ですから」

 イザークは簡単に受け流す。

「現役辺境伯を第4夫人に求めるか」

「確かに勅命でもなければ望めまい」

 厳しい顔でイザークを睨む皇帝であったが、リューネブルク公が指摘する。

 その言葉の意味を考える。婚姻するつもりはなく自分の子供を産ませてルミヤルヴィの後継者にする。だが、それは実質的にルミヤルヴィをリューネブルクの植民地にすることを意味する。

 リューネブルクはただでさえ大都市を多く持ち権限の強い家だが、帝国を握る程の力を得てしまう事になる。

 だが、火竜王討伐への褒章としてのつり合いが取れていないわけでも無い。ルミヤルヴィが後継者不在な状況が大きい点もある。

 それ以前に紅鳳騎士団が火竜王討伐したというには無理がある。そんな力を彼らが持っていたなら、そもそも火竜王を災害指定なんかしなかっただろう。竜王陛下に使者を送ったが話にもならなかった。


 竜王に傷を付けられたら話を聞いてやろうと言われ、帝国の精鋭を送り込み傷一つ付けられず返り討ちにあう始末。致し方なく火竜王を倒す事をあきらめざる得なくなったのだ。

 今回の事は皇帝が既にアルノルトから聞いていた。当の竜王と謁見して、火竜王討伐に対して文句は言わせないと約束してきたという。であればアルノルトらは竜王に傷をつけたものがいるという事。

 そして、アルノルトの仲間が火竜王討伐プランを練って、ヴァイスフェルトのアイゼンフォイア砦予定地にガワだけの砦を魔法で建てて、人間がたくさんいるように音を立ててそこで火竜王を呼び寄せて袋叩きにするという話だった。真偽を確認する為、居合わせたイザークが紅鳳騎士団を連れて確認するという話だったが、ふたを開けてみれば倒したのは紅鳳騎士団だったという話である。

 あからさまに嘘であるのは皇帝も分かっていた。だが、世間では既に嘘が本当のように語られ、覆す術もない。


「失礼します」

 皇帝がどうするか悩んでいると、そこにジルフィアがフードを目深にかぶったフレデリクを連れて部屋へとやってくる。

「!?………ジルフィア!何故貴様がここに来た!貴様なぞ呼んではいないぞ!」

 ジルフィアの登場に血相を変えて怒鳴りつけるのはヴァイスフェルト候だった。

「ヴァイスフェルト候、黙れ」

 うるさく騒ぐ侯爵を皇帝が一喝し黙らせる。

「侯爵閣下が何を取り乱しているのか存じ上げませんが、私はマルヤーナ様側に立つことを許されているだけの事。今は何の話をしている途中かマルヤーナ様に確認を取りに来ただけですが?」

「それなら私が答えよう。リューネブルク公家のイザークが火竜王討伐の褒章に辺境伯アレクサンドラ本人を娶りたいという求めに対してどうするかという所だ」

 皇帝はヴァイスフェルト候を無視してジルフィアの話を優先する。

「それは良かった。であればリューネブルク公爵令息に見せて頂きたいのです」

「見せる?何をだ」

 イザークはジロリと半眼でジルフィアを睨む。

「そこに備え付けられている神眼の鏡に立ってくだされば早い事。実は市井へ調査に赴いた際、エルフの英雄ミロン様にお会いしたのです」

「ほう?かの英雄が帝都に?」

「来ていただければ持て成したというのに」

「何故引き止めなかった、使えぬクズが」

 会議の面々もよく知る英雄の名に反応を示す。最後の言葉はジルフィアの父であるがジルフィアは無視して話を続ける。

「引き止める?長く生きるミロン様はかつて轡を並べた仲間の家名を持つ者であっても、理念を受け継がぬ、まして血さえも繋がらぬかも知れぬただの赤の他人の如きに話を聞く価値などないでしょうに。まして帝国如きにエルフの方々が相手をする価値など無いでしょう?」


 ジルフィアは自分の父に対してチクリと釘をさす。しかも帝国を如きと口にするのだが……実際にエルフから見ると人類は子供である。彼らの年長者は高度魔導文明を生きて、その文明を未だに持つ存在であり、人間は原始人にも等しい存在だ。

 フレデリクはジルフィアが正しく知識を持っていた事に、背後で話を聞きながら感心していた。

 ミロンは原始人相手でも人を人として認め対等に話すからこそ英雄となっているが、邪魔をするなら容赦なく切り捨てるので、言っている事は間違っていない。今の帝国には関わりたくないような事も言っていた。

 でなければアルノルトに皇帝への謁見を任したりはしなかった。

 情報だけで当人と話さなくてもそうなるだろう事を推測して、嘘を真実のように語る様に、フレデリクはジルフィアの能力に感心していた。


「何と無礼な!」

「無礼?いつからエルフのふるまいを無礼と咎められるほど帝国が偉大になったのかな?」


 憤るヴァイスフェルト侯爵に、皇帝は深々と溜息を吐く。

 エルフの女王にさえも認められた偉大な賢者ヴァイスフェルトの末裔の代表が、ここまで程度が低くては舐められても当然だろうと、口にせずただただ呆れていた。

 そして彼女の嫌味にさえ気づいていないヴァイスフェルト候に周りの貴族達は鼻で笑う。自分の領地の為には都合のいい後継者だからそこに立たせているのであって、いらなくなればいつでも消せると侮られているのだ。

 グロスクロイツ候もバイマール候もヴァイスフェルト候を見ていない。ジルフィアを警戒して視線を向けていた。

 フレデリクはこのお姫様は貴族達に一目を置かれるだけの能力があるのだろうと理解する。


「リューネブルク公爵令息にお願いがあります。そこの神眼の鏡の前に立って見せて頂きたいのです。ミロン様曰く、火竜王程成長し人類に刃を向けたドラゴンを倒せば、それは偉業になると。称号に間違いなく残るだろうと」

「!?」

「私も幼い頃にヴィルヘルム様に賢者や迷宮攻略者のような称号を刻まれていたのを見て感動いたしました。現代の人間が神によって称号を与えられる栄誉を頂けるなど夢のよう。是非、見せて頂きたいのです。その称号を!」

 ジルフィアはしかも怪しむでもなく、持ち上げながら称号を見せて欲しいと憧れるように口にする。

 マルヤーナはジルフィアが見事な策を立ててくれたと感心する。


 ヴェルザー西方伯代行の若きロイエンタール伯は背後の護衛と思しき男に何かを訊ね、護衛の男はふとイザークを見ると、首を横に振る。

 するとロイエンタール伯もそれに乗っかって来る。

「称号ですか。確かに見てみたいものですね。そのような偉大な方であれば、西方ダンジョンを抱えるルミヤルヴィの守護を任せられるというもの。我がヴェルザー西方伯領も安泰というもの。」

 と進言する。

 バイマール候やグロスクロイツ候も同様だった。どこか楽しむように口にしていた。

 当然、そんな称号を持っている筈もないイザークは如何やって逃げるか頭を捻らせる。

「それは辞めた方が良いでしょうね」

 リューネブルク公爵はその流れを切り落とす。

「辞めよとは?」

「陛下。帝国が倒した、それでよいのです。息子如きが倒したとお思いで?私も戦場を見ていないし報告のみですからよくは知りませんが、騎士団で倒したのでしょう?どのような手段を使ったかなど知りませんが、火竜王を倒すにはそれなりの策をめぐらせたはず。例えば結果的に火竜王が死んだだけで、誰かが倒したわけでも無く自滅させたような場合、誰に称号が付きましょうか?アルノルトが進言したが奴は自分が倒したなどと報告は上がりましたか?」

「どうかな?今の状況でアルノルトが何か言うとは思えんな」

 皇帝の知るアルノルトは、リューネブルクが火竜王を倒したと騒いでいる都内で否を唱えるような男ではない。というか、奴もヴォルフと同じで面倒臭いの一言で渋々勲章を貰い、さっさと帰るタイプだ。

 彼らは名声よりも実利を取るタイプだった。


「であれば、一々、立たせる必要もありますまい。そういう事だ、ヴァイスフェルト嬢。帝国の為にもそのような事を見せる訳にはいかんのだ。良いな」

 帝国の為に黙れ、帝国の為に友達を売れ、ジルフィアは言葉をつぐみ俯く。


「ありがとう。ここまでで結構」

 フレデリクはジルフィアの肩に手を置いてから、手袋を外す。

 フレデリクの言葉を思い出し、ジルフィアは何をする気かと慌てて振り向くと、既にフレデリクは手袋を投げつけてピシャリとイザークの顔面に叩きつけられていた。


「貴殿のアレクサンドラ様を求める言葉、決闘により取り下げて頂く」

 フレデリクはイザークを指差して決闘の宣言を突きつける。

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