1話 復讐劇
~帝歴249年12月 ローゼンブルク帝国ヴァイスフェルト侯爵領アイゼンフォイア~
この時代には歴史上で最も凶悪な邪竜と呼ばれたドラゴンがいた。
体長20メートルを超える老竜は、いくつもの街や国を滅ぼす天災のような存在であった。
最初にその姿を現したのは3年前の神聖女神教国西部辺境にある大都市キラーイであった。公都キラーイの崩壊、死傷者3万を超える大惨事に大陸中が震撼した。
次に現れたのは帝国最西端のルミヤルヴィ辺境伯領の領都リンノイトゥス。賢者ヴィルヘルムと帝国最精鋭の騎士団が崩壊した事で、人類の守護者を自称する帝国が火竜王を天災指定と認定する事態になった。
天災と認めた帝国であったが、生き残った帝国民は災害と認めない者もいた。一人の少年は、数々の都市と街を焼きつくしてきた火竜王をただ殺すだけに追い続けた。
その執念はついに今日結実する。
今、火竜王は帝国北西部ヴァイスフェルト領アイゼンフォイアにて罠にかかり、4人の冒険者と戦闘を強いられていた。
「はああああああああっ!」
冒険者の一人、巨漢の戦士は、己の体より巨大な剣で、さらに巨大な頭を叩き飛ばす。
だが、火竜王は頭をふらつかせても、さほど気にした様子もなく近くでウロチョロする小さな存在を払おうと前脚を振る。
それだけで暴風が吹き荒れる。だが、巨漢の戦士は地面に着地すると、同時に暴風から回避するように飛び退る。
その暴風の中を掻い潜るようにもう一人の冒険者、美麗の剣士が飛び込む。
「おらあああああああああっ」
二つの長剣から鋭い斬撃が鱗を切り裂き火竜王の血が飛び散る。
巨体に対しては小さい傷であるが、火竜王の体はあちこちに傷がついており、体力が削がれているのが分かる。
巨大な翼の根元に刻まれた傷は、空を飛んで逃げられない程度のダメージには蓄積されていた。
火竜王は煩わしいと言わんばかりに周りに飛び回る人間へ怒りをぶつけるように広範囲ブレスを撒き散らかす。
「全員、私の後ろに!旋風壁!」
緑の髪に長い耳を持つ若いエルフが前に出て魔法を使う。
かつて邪神戦争で人類軍の参謀として活躍した偉大なるエルフの英雄が魔法で炎を留める。だが、邪神にも届きうる老竜の炎の威力はそれさえも押し込もうとする。
「師匠!僕が!」
「さすがはエルダードラゴンよ。一人ではこらえきれぬか」
無骨なロングソードを持った銀髪の少年が剣を地面に突き立てて右手を前に掲げる。
「聖光壁!」
銀髪の少年は神聖魔法でも最上級クラスの防御魔法を使う。白銀の光が炎の熱をシャットアウトする。
巨漢の戦士と美麗の剣士は各々で剣を構え、火竜王のブレスが終わるのを待つ。
「ちぃ、このクソトカゲが!おい、フレデリク!まだなのか!」
美麗の剣士は顔とは似合わぬ悪態を吐きながら叫ぶ。
「この半日で魔力は溜まった。でも、魔法を打つ為の溜める時間が欲しい」
銀髪の少年は長い髪をボリボリと搔き毟りながら火竜王の寿命を口にする。絶世の美少女と見まがう顔立ちながら、まるでドラゴンを殺す機械のような無表情で淡々話をする。
戦い開始から三日が過ぎる。この三日三晩、ほぼ戦い詰めである。
一時的な仮眠を遠方で取っても、精々1~2時間位だ。全員、割とクマが出来ている位だったりする。
それは火竜王の死へ誘う刻限だった。
「まさか、今の魔法障壁で魔力蓄積までやり直しとかじゃないだろうな」
「それは無い筈だ」
美麗の剣士が半眼で少年を見るが、巨漢の戦士が否定する。
「僕も分からないけど、どうやら父さんの魔剣は神聖魔法の魔力を肩代わりしてくれるらしいからね」
「……そろそろ、奴も限界だろう。息も続くまい。次のチャンスで終わりだ」
銀髪の少年の言葉にエルフの青年が頷く。
「いや、それ、何回目だよ」
「何度でも何十度でも何百度でもやるんだよ。それでチェックメイトだ」
「過去に2人の弟子を持ったが、3人目は一番ヤバい奴だったな」
「うるさいですよ、師匠。あのクソトカゲはぶち殺します」
銀髪の少年は汚い言葉で火竜王を見る。怒りに染まっていたその瞳は、魔法に集中するや否や、一切の感情を感じさせない凪いだ瞳になって、火竜王を他だの目標物として見据える。
この城塞を作る予定だったこの地に、魔法によってガワだけを作って、人間が集まっているように音を立てて、近隣に来ている火竜王を呼び寄せた。
そこに罠を張って4人による奇襲で足止めをしてから三日間、戦い続けた。この戦略も、仲間を集めたのも全て銀髪の少年の、火竜王討伐の為の策略だった。
「礼儀正しい口調だったのに、どこかのアホ勇者のせいで口汚くなってしまった」
「うるせえよ、おっさん」
巨漢の戦士が嘆くようにぼやき、美麗の剣士が顔に似合わない荒い口調で文句を垂れる。
何度となく死にかけるギリギリを体験する彼らである。火竜王との戦いは常に綱渡りだった。
莫大な体力を持つ老竜を討ち果たすには、相応の魔法が必要であった。女神の加護を超えた先にある魔法だ。
だが、女神の加護を使わない魔法は決して自分を守ってはくれない。それほど危険なのだ。
さすがの火竜王も三日三晩戦い続けて、体力を消耗している様子を見せる。
数多の手段を用いて弱点を探る事から始めた結果だ。既にエルフの青年の女神の加護を超えた先にある魔法を試し済みで最初の段階で様々な手を試していた。結果、銀髪の少年が身に着けた雷魔法が大きいダメージを負わせて、最大レベルの魔法であれば殺せると算段が付いた。
故に当初の役割を変えて、銀髪の少年はサポート役からトドメ役に切り替えたのは1日半前の事だった。
火竜王は更に周りに炎を吐きつける。周りに飛び回る人間を蹴散らそうとするが、アルノルトもレオンも素早く飛び退くので攻撃は当たらない。
再び拡散ブレスを吐き出し辺り一帯を炎の海へと変える。多少距離を取らないと息が出来なくなるほどの劫火だった。
エルフの青年が氷魔法で道を作り、己の魔法で作った氷の槍を四方から叩き込み火竜王の気を散らせる。
さらにカウンターとばかりの巨漢の戦士が作られた氷の道を走って火竜王へと斬撃を叩きこむ。
連続した攻撃が出来なければ火竜王を休ませてしまい体力を回復されてしまう。飛んで逃がす訳にはいかないからだ。傷付いていた鱗が徐々に治っていくのが見て分かる程だ。
体力も回復力も火竜王の方が人間より遥かに高い。
それを突破してダメージや体力を削るような連続攻撃をする必要があった。
火竜王もストレスがたまり無茶苦茶な方向へブレスを拡散させる。子供のダダのようにも見えるような論理的でないブレスが想定を超えて広範囲に放たれる。
「そっちにもブレスがいくぞ!」
美麗の剣士が銀髪の少年に叫ぶ。最後尾に下がっていた銀髪の少年へと注意喚起する。
少年もまた理解していたので魔法を使わず身体能力だけで大きくジャンプして攻撃を避ける。
「…ちっ、<氷雪城壁>!」
エルフの青年は叫びながら、氷の巨大な障壁を作って前線に残る巨漢の戦士を守る。莫大な熱量を持つ炎のブレスを受け止める。
だが巨大な氷の壁さえも蒸気を上げて氷は一瞬で水蒸気へと変わって行く。氷壁の前の地面がマグマになろうと、透明な氷の壁がドラゴンのブレスから二人を守る。
とはいえ、辛うじて薄氷一枚の防御だったのは否めない。ブレスが終わると同時に溶けて崩れ落ちた。
バサバサと翼を動かす火竜王に全員が目を細める。
「翼が回復してきている。このままじゃ逃げられるぞ!」
巨漢の戦士が叫び、美麗の剣士がエルフの青年の使った風魔法に乗って空を舞う。
「逃がすかよ!大人しくしやがれ!」
美麗の剣士は鋭利な刃を高々と掲げてから一気に振り下ろす、翼の根元に斬り裂く。
「グギャアアアアッ!」
強烈な一撃が見事に入り、火竜王の持つ巨大な左翼の根元に傷が入り、血が飛び散る。飛ぼうとしていた火竜王が再び地面へと落ちる。
地震のように激しく大地を揺るがす。
「足を止めたぞ!」
「さすがは勇者様か」
美麗の剣士がにやりと笑い、称賛するのはミロンだった。
「こっちは準備OKだ!全員退け!」
銀髪の少年は周りに叫びつつ、右手の皮の手袋を引いてしっかりと手に馴染ませ、武骨なロングソードを握りこむ。
「退け!俺たちの仕事は終わりだ!」
巨漢の戦士も同様に叫び火竜王から距離を取る。
「<重力>!」
最後にエルフの青年が魔法を放つ。足止め用の重力制御魔法を放って走って逃げる。
動けなくなった火竜王は憎々し気に4人を睨みブレスを吐こうと息を吸ってブレスを吐く準備に入ろうとしていた。
「そんな目で見るなよ。最初に僕に喧嘩を売ったのはお前だろう?テメエが父さんを、母さんを、皆を殺さなければ、ここまでしようなんて思いもしなかったさ」
全員が射程外に離れたのを確認し、銀髪の少年は右手に持った剣を空へと掲げ、全魔力を開放する。剣より放たれた魔力の帯が空に届くと同時に青い空が一瞬で暗転する。
陽の光を通さぬ分厚い黒雲に覆われた空は激しい雷が鳴り響かせる。
「来い、<雷龍牙>!」
魔法の言葉を唱えると、銀髪の少年の持つ剣から巨大な魔法陣が構築されて魔法が発動する。
空に現れた雷雲から無数の雷が降り注ぎ、剣の中へと吸い込まれて行く。同時に暗くなった空は雲がゆっくりと散っていく。
空の雷をすべて少年の手中にある剣へと収められた。
フレデリクは右手に持つ剣を火竜王へ向ける。
創世神話に謳われる雷の精霊王・雷龍を模した巨大な雷が、雄叫びの如く轟音を響かせて顕現する。
火竜王はその巨大な雷の塊に恐怖を初めて感じた。
竜の牙は神をも殺すと言われるが、まさか自分の持つ牙と同様の力を人間が生み出せるとは思わなかっただろう。
「くたばれ」
フレデリクは全魔力と共に雷龍の群れを解き放つ。体長100メートルはあろうかという巨大な蛇のような雷が次から次へと顕現して火竜王に襲い掛かる。
「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
火竜王の断末魔をかき消すように、終わりなき雷龍の群れが轟音を響かせてて、ただただ火竜王を食い散らかすだけだった。
それは世界の終りのような光景だった。
「や、やべーな、アレ。さすがに打たれたら最後だな」
遠方まで逃れた美麗の剣士は半眼で地獄の釜を開けたような光景を眺めて引きつっていた。
「当たり前だ。魔神対策に編み出した我が女王陛下の魔法だ。雷属性の弱い私ではああは魔力を変質できぬ。この3年、フレデリクは火竜王を殺すために身に着けたかつての我が弟子ヴィルヘルムの最高位階の大魔法だ。魔神や老竜でなければ、過剰な魔法だ」
「んな物騒な魔法をガキに教えるなよ」
「それがフレデリクとの契約だ。復讐に手を貸す代わり、我らが魔神の眷属と戦う時が来たら手を貸せというな。魔神と戦うならばこのレベルに達して初めて必要とされる戦力だ。老竜は実質、魔神の眷属と同じだけの格がある。魔神の眷属がダンジョンに潜ってるのは竜王を恐れているからだしな」
エルフの青年は弟子の努力と才能を手放しに賛辞を贈る。かつての弟子、ヴィルヘルムと似た資質を持つ才児の実力と今に至る過程を。
やがて、雷光と轟音が消えていきと雷の落ちた後には黒炭となったドラゴンの遺体だけが残っていた。
そして、その遺体は灰となって崩れ落ちるのだった。かくして世界の守護者とも呼ばれた帝国をも震撼させ、天災指定させた埒外の化物は遂に終わりを迎えるのだった。
すると、戦いの地より離れて見ていた千を超える騎士達は、大きく湧き上がる。
そんな歓声を聞きながら、銀髪の少年は魔力が全て失い膝をつきながら大きく息を吐く。灰となって崩れ落ちる火竜王を見てから、目をつぶる。
「やっと終わったよ。父さん、母さん。仇はちゃんと討ったから」
少年は空を仰いで3年ぶりに涙を流す。復讐につぎ込んだ2年と10か月の旅路は終わった。
少年はすべてが終わったと思っていた。
しかし、これがただの始まりだったのだと気付いたのは随分後のことだった。
ピヨッ!
あとがき担当のヒヨコだぞ!ピヨちゃんと呼んでくれ!
初めましての人は初めまして。二度目以上の人はごきげんよう。ヒヨコ界のロサ・キネンシス・アンブゥトンとはヒヨコの事だ!
本物語はヒヨコシリーズに分類されているが、ヒヨコは一切出てこないらしい。故に、ヒヨコがあとがきでピヨピヨッと解説をする許可をもらったのだ!つまりこういう事だ。真の主役は後(書き)からやってくる、という事だな。
………ピヨピヨ、ヒヨコが悪かったから今の台詞は忘れてくれ。これを認めたら、ヒヨコ本編のあとがき担当がドヤ顔で主役面しかねぬ。それだけは認められぬ。
さて、支配帝は帝歴250年頃に活躍したハーレム帝だとか支配帝だとか呼ばれた第21代皇帝フレデリクのお話らしいぞ。
ヒヨコ本編を知らなくても読めるお話だから安心してくれ。
え?主人公の名前はまだ出ていないのだが、だと??おおっ、ネタバレ厳禁だ。何度もすまんが、今のヒヨコの台詞も忘れてくれ。だが、本編を読まなくても楽しめるのは本当だぞ?
拙い文章で楽しめない?それは駄目作者に言ってくれ。ヒヨコには関わりない事だからな!
本物語では、ヒヨコの前世が大活躍するらしいぞ。
ヒヨコの前世がどんな活躍をするか、ヒヨコも知らない事だからワックワクのドッキドキだ。
作者曰く、ヒヨコシリーズ本編キャラ達やそのご先祖が出てくるらしい。さりげなく出したり、露骨に出したり、或いは本編でチラリと出た話がメインで語られたりするらしい。まあ、ヒヨコの時代の帝国民の始祖であるならば、ある意味大半の本編キャラが、この物語に出て来るキャラたちの子孫だからな。実際、本編の山賊皇帝さんとか腹黒公爵さんとか血縁を遡れば大体支配帝に辿り着くと言われている。
早速1名程、ヒヨコ伝説にちょろっと出てきていたエルフの男が出ているがもしやあのお兄さんって……。
それじゃあ、次回予告だ!
次回、ヒヨコ伝説は『ヒヨコの下克上~鳥になるためには手段を選んでいられません~』でお送りするぞ!みんな読んでくれよな!
※次回予告はヒヨコの出鱈目です。本作品とは一切関係ありません。




